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ヒルシュスプルング病とは?原因と症状は?検査・診断・治療は?

はじめに

1886年に、デンマークの内科医であったハラルド・ヒルシュスプルング(Harald Hirschsprung)によって初めて報告された「ヒルシュスプルング病」は、腸の動きを制御する神経節細胞が生まれつき存在しないことにより、便秘を主症状とする先天性の腸閉塞症である。先天性巨大結腸症(congenital megacolon)という別名で呼ばれることもある。

ヒルシュスプルング病は、腸内の一部または全部における蠕動運動に関わる神経節細胞が生まれつき存在しない病気である。神経節細胞がない部分の腸管は食べ物をうまく通過させることができない。そのため、病変部の手前の正常な腸管で食べ物が止まってしまい、便として排出することが困難になる。

ヒルシュスプルング病の原因は、遺伝による「家族性」のものと原因不明の「孤立性」のものに大別されるらしい。遺伝的に発症する原因の一つとしてRET【レット】遺伝子の変異が指摘されている。

この病気は、神経細胞が存在しない腸を切除し、神経細胞の存在する腸を肛門につなぐことが唯一の治療法となる。特に、神経のない腸管が大腸全体、あるいはそれよりも長い範囲に及ぶ全結腸型または小腸型の場合は、水分や栄養の管理が必要となり、長期の入院や在宅での静脈栄養などの治療が必要になることもある。

したがって、ヒルシュスプルング病(全結腸型または小腸型)は、厚生労働省によって「指定難病」に認定されている。


<目次>
はじめに
ヒルシュスプルング病とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

ヒルシュスプルング病とは

ヒルシュスプルング病(Hirschsprung’s disease)は、消化管の蠕動運動を司る神経叢が先天的に欠如していることによって、新生児・乳児期より腸管拡張・腸閉塞がみられる疾患であり、先天性巨大結腸症とも呼ばれる。

ヒルシュスプルング病は、下部腸管(通常は結腸に限定される)の動きを制御する神経節細胞が生まれつき無いために腸の動きが悪く腸閉塞や重い便秘症をおこす。出生後早期に発症する場合が最も多いが、小児期または成人期まで発症しない患者もいる。

消化管の神経節細胞は胎齢5週から12 週頃にかけて、食道の口側の端に発生し肛門に向かって順々に分布していくが、この過程に何らかの異常がおこり途中で分布が止まってしまうことがこの病気の原因とされている。そのため、腸の神経節細胞が肛門から口側に向かって連続して欠如していることが特徴である。

この疾病の約80%は神経節細胞のない腸(無神経節腸管)の範囲が肛門からS状結腸くらいまでであるが、なかには大腸の全部、あるいは大腸だけでなく小腸まで及ぶこともある。疾病の範囲は生まれつき決まっているため、生後に範囲が変化することはない。

腹部の張りが非常に強く嘔吐を伴うことや生まれつき便が出にくいことがきっかけで新生児や乳児の時期に診断されることが多い。重い腸炎や穿孔を合併して危険な状態になることもある。

神経節細胞の無い腸が非常に短い時は、症状が軽いために便秘として治療され、幼児期以降に診断がつくこともある。


原因

ヒルシュスプルング病は、腸壁のマイスナーおよびアウエルバッハ神経叢が先天的に欠如すること(無神経節症)が原因で発生する。推定発生率は出生5000人当たり1例である。

通常は遠位結腸に限定されるが(全症例の75%)、結腸全体または大小腸全体が障害されることもあり(全症例の5%)、神経支配の脱落した部位は常に連続している。性差がみられない全結腸型を除くと男児の方が発症頻度は高い(男女比は4:1)。

神経堤からの神経芽細胞の遊走に問題があることが無神経節症の病因と考えられている。 ヒルシュスプルング病は遺伝的要素との関連が大きく、少なくとも12の遺伝子変異にヒルシュスプルング病との関連が認められる。家族の発病確率は患者の罹患腸管が長いほど高く、遠位結腸の場合は3~8%、全結腸の場合は最高20%である。

ヒルシュスプルング病患者の約20~25%には別の先天奇形があり、約15%には遺伝学的異常(ダウン症候群の頻度が最も高い)がみられる。

先天性中枢性肺胞低換気症候群では、約20%の患者にヒルシュスプルング病がみられ、これらが合併した状態はHaddad症候群と呼ばれている。腸管神経形成異常症(intestinal neuronal dysplasia:IND)患者では、約20%の患者にヒルシュスプルング病がみられる。


症状

症状は、便秘腹部膨隆である。 病変部では蠕動が欠如するか異常を呈し、その結果として平滑筋の持続的攣縮、腸管内容の蓄積を伴う部分的または完全な閉塞、および正常神経支配を受ける口側腸管の高度の拡張を来す。飛び石病変を認めることはほとんどない。

正常では、98%の新生児が生後24時間までに胎便を排出する。ヒルシュスプルング病の新生児の約50~90%では、生後48時間までに胎便の排出がみられない。乳児期には、他の形態で生じる肛門側腸管の閉塞と同様に、便秘、腹部膨隆、そして最終的には嘔吐を来す。Ultra-short segment aganglionosisの乳児では、ときに軽度または間欠性の便秘しかみられない(その間にはしばしば軽度の下痢が介在する)場合があり、診断の遅れにつながることがある。

乳児期後期と小児期の症候としては、食欲不振、便秘や生理的便意の欠如などがあり、また直腸指診では、直腸が空の状態で結腸上部に便が触知される、指を引き抜いた際に爆発的な排便がみられる(blast sign)といった所見がみられる。乳児は発育不全となることがある。頻度は低いが、ヒルシュスプルング腸炎を呈す乳児もいる。


検査・診断

診断は、下部消化管造影と直腸生検による。肛門内圧検査が評価に役立つ可能性があり、内肛門括約筋の弛緩欠如が認められる。

  • 下部消化管造影
  • 直腸生検
  • ときに直腸内圧検査

ヒルシュスプルング病の診断は可及的速やかに下すべきである。無治療の期間が長引くほど、劇症性かつ致死性のヒルシュスプルング 腸炎(中毒性巨大結腸症)の発症リスクを高めることになる。症例の大半が乳児期早期に診断される。

最初のアプローチは、典型的には下部消化管造影および/または直腸吸引生検である。下部消化管造影では、閉塞部より口側の正常神経支配を受ける拡張結腸部と狭小化した遠位部(正常神経支配を欠く)との間の腸管口径の変化が示される。下部消化管造影の前処置は異常部を拡張させて、診断を不可能にすることがあるため、前処置なしで行うべきである。

新生児期には特徴的所見が現れない可能性があるため、24時間後に造影剤排泄の有無を調べるX線撮影を行うべきであり、その時点でも結腸がバリウムで充満している場合は、ヒルシュスプルング病の可能性が高くなる。

直腸吸引生検では神経節細胞の欠如を明らかにすることができる。アセチルコリンエステラーゼ染色により、肥厚した神経幹を際立たせることができる。

直腸内圧検査を行える施設では、この検査によって異常な神経支配の特徴である内肛門括約筋の弛緩欠如を確認することができる。

確定診断には直腸または結腸の全層生検が必要であり、病変部の範囲を同定し、それにより外科治療を計画する。


治療

ヒルシュスプルング病の治療には、手術が必要である。基本的に無神経節腸管の切除と肛門への吻合が根治術となるとされる。

神経節細胞の無い腸を切り取り、神経節細胞のある口側の正常の腸を引き降ろして肛門とつなげることが基本ですある。腸管の神経支配が正常な部分を肛門括約筋が温存された肛門まで引き下ろすことによる外科的修復である。

新生児の場合、典型的には、まず結腸を減圧するために無神経領域より口側での人工肛門造設術を施行する二期的手術が以前には行われていた。それにより2回目の手術まで患児の成長を待ち、2回目の手術では結腸の無神経節領域全体を切除し、引き抜き法を施行する。しかしながら、現在では、short-segment型(下部直腸限局型)に対して新生児期に一期的手術を行っている施設が多くなっている。

腹腔鏡手術の成績は開腹手術の成績と同様であり、入院期間の短縮、哺乳の早期開始、および疼痛の減少が関連している。

手術により約90%は正常と遜色ない排便機能が期待できるが、手術後に少し便秘や腸炎が残ることもある。手術後に排便を行うための訓練をしたり、おしりの機能を調べたりすることもある。また、乳幼児の成長と発育が順調に進むよう長期にわたって外来での経過観察が必要である。一般的には根治的修復後の予後は良好であるが、何例かの乳児に便秘、閉塞性の問題、またはその両方を伴う慢性的な蠕動運動障害が発生しているのも事実である。

全結腸型以上にわたる症例では、無神経節腸管切除による根治術後も、栄養吸収障害や水分管理目的で埋め込み型の中心静脈カテーテルの留置が必要な場合が多いと言われている。


あとがき

ヒルシュスプルング病は、遺伝的要素が大きく関与している疾患で、特定の遺伝子変異との関連が認められている。そのため、具体的な予防策は現在のところ確立されていない。

ヒルシュスプルング病は、早期発見と適切な治療が重要となる。新生児や乳児の場合、排便の遅延や便秘、腹部膨満などの症状が見られた場合は、早急に医療機関に相談することが推奨される。また、悪臭のある下痢便や水様便が見られた場合も、腸炎の可能性があるため注意が必要であるとされる。

ヒルシュスプルング病は、適切な医療管理の下で治療が行われている状態であっても、一部の患者では継続的な治療が必要となるため、医療専門家との継続的なフォローアップが重要となる。

ヒルシュスプルング病は、日本では年間約200人が発症し、5,000の出生に1人の割合で発生すると言われている。指定難病である全結腸型または小腸型は、そのうちの一割、つまり年間20人が発症しており、50,000の出生に1人の割合となる。

日本国内の人口から考えると、ヒルシュスプルング病の患者数は全体で約1万人以上、そのうち全結腸型または小腸型は約1,000人と推定されている。

ヒルシュスプルング病の原因となる遺伝子変異は、既に10種類以上が同定されており、遺伝子異常で発症するタイプも明らかになっている。遺伝子治療は、遺伝子の異常を修復することで疾患を治療する新たな治療法であるが、その応用はまだ初期段階であり、多くの課題が残されている。

現時点では具体的な遺伝子治療が確立されているわけではない。遺伝子治療の可能性については、今後の研究の進展により明らかになることが期待される。


【参考資料】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
日本小児外科学会HP