はじめに
エクソソーム(exosome)は、生体の細胞から分泌される膜小胞体(直径30~150 nm)で、細胞間の情報伝達の役割を担っており、細胞に対し様々な働きを促す機能を持つことが知られている。
天然ナノ粒子であるエクソソームは、もともと細胞間の情報伝達や抗原提示に関与していて、本稿で述べるような特性からドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアとしての利用に高い期待が寄せられている。
バイオロジカル・キャリアとしての特性
- 生体適合性と低免疫原性
- エクソソームは、患者自身や同種の細胞から生成されるため、免疫系による排除や副作用のリスクが低く、長期の治療にも適している
- 保護機能
- 脂質二重膜に包まれているため、内部に封入された薬剤(小分子、タンパク質、RNAなど)が体内の酵素による分解や急速なクリアランスから守られ、効果的に標的部位へ届けられると期待される
標的送達と細胞間輸送機構の利用
- 天然の細胞間輸送機構の活用
- エクソソームは本来、細胞間で遺伝子情報やタンパク質などの生体分子を運ぶ役割を持ち、これを薬物や遺伝子治療のカプセル化・送達に転用できる
- 例えば、siRNA、miRNA、mRNAなどの不安定な分子を安全に運搬することが可能であるとされる
- 表面改変によるターゲット特異性の向上
- 最近では、エクソソーム表面に特定のリガンド(ペプチド、抗体、糖鎖など)を導入することで、特定の細胞や組織への送達効率を高める試みが進められている
- これにより、治療対象への選択的な薬剤放出が期待され、オフターゲット効果の低減が図られる
DDSキャリアとしての可能性と今後の課題
- 応用分野の広がり
- エクソソームは、がん治療、神経変性疾患の治療、さらには遺伝子治療(例:miRNAやsiRNAの送達)など、多様な治療領域に応用が期待されている
- 特に、血液脳関門を横断する能力や、標的細胞への自然な取り込み機構を利用できる点が、従来の合成ナノ粒子では難しい領域での応用において大きなメリットとなる
- 技術的な課題
- 実用化に向けてはいくつかの課題も残る
- エクソソームの大量かつ高純度な分離・精製、目的物質の効率的な封入、長期保存中の安定性、そして標的細胞への迅速かつ選択的な送達といった点が課題となる
- これらの課題の解決策として、プロセスの自動化、リアルタイム品質管理技術(PAT)の導入や、表面修飾技術のさらなる高度な改良によって改善が進められている
あとがき
エクソソームは、核酸やタンパク質などの内因性キャリアであることから、エクソソームを用いたDDSの開発が注目されている。
エクソソームは、その天然の細胞間通信機構や保護機能、高い生体適合性を活かし、DDSキャリアとしての利用が非常に期待される新たな治療プラットフォームである。
特に、遺伝子治療や難治性がん治療など、従来のドラッグデリバリーシステム(DDS)では対応が難しかった分野での応用可能性が注目されている。
一方で、分離・精製、薬剤封入、標的細胞への送達効率などの技術的課題を解決するための研究が、世界中で進行中である。
今後、表面修飾やターゲット特異性のさらなる向上、そしてスケールアップ生産技術の確立により、エクソソームを基盤としたDDSが臨床現場で新しい治療法として確立されることが期待されている。
エクソソームを用いたDDSの開発にはエクソソーム体内動態の制御法を開発することが必須であり、そのためにはエクソソームの体内動態に関する情報の蓄積が必要不可欠であると思う。
【参考文献】
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