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悪性腫瘍(がん) 疾病

生活習慣病化した「膵臓がん」の原因・症状・検査・診断・治療・予防

はじめに

最も治療が困難ながんは、膵臓がんであるとされる。その理由は、膵臓がんには早期症状がほとんどなく、自覚症状が現れる頃にはかなり進行してしまっているからである。つまり、膵臓がんは、早期発見が難しいがんの一つである。

また、膵臓は胃の後ろの腹腔の奥にあり、さまざまな臓器と隣接しているので、発見されたときには、転移・浸潤、あるいは周囲の血管を巻き込んでいる症例もあり、切除不能と診断される場合も多いためである。

事実、膵臓がんの5年生存率は、わずか約9.2%と低く、がんのなかでは最低の数値である。そのため膵臓がんは難治がんに数えられている。


<目次>
はじめに
膵臓がんとは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

膵臓がんとは

膵臓がん(Pancreatic cancer)は、膵臓にできるがんで、多くは膵管の細胞から発生する。膵臓には消化酵素を分泌する外分泌組織とインスリンなどのホルモンを分泌する内分泌組織があるため、膵臓がんの組織像は非常に種類が多く様々な形態をとる。

大半の膵臓がんは、膵管細胞および腺房細胞から発生する外分泌腫瘍である。膵臓がんの約90%は、膵管上皮から発生した浸潤性膵管腺がんであり、治療成績は決して良好とはいえない(難治がん)。

膵臓癌

膵臓は、消化酵素の生成ホルモンの産生という2つの主要な機能を果たす器官である。
膵臓は、消化酵素(トリプシン、キモトリプシン、アミラーゼなど)を生成し、小腸に放出する。これらの酵素によって私たちが食べた食物は炭水化物、タンパク質、脂肪に分解される。
また、膵臓は血糖値を制御するインスリンやグルカゴンなどのホルモンを産生し、血流に放出する。これらのホルモンは、私たちの体がブドウ糖を使用または貯蔵したりするのを助ける。これらの機能が正常に働かないと、各細胞に栄養が供給されず、エネルギーが産生できなくなるので健康な生活ができなくなる。

    膵臓がんは、がんが小さいうちから膵臓周辺のリンパ節や肝臓に転移しやすい特徴があり、腹膜播種していることもある。 膵臓がんは、診断時点で進行している場合が多いため,予後は不良である。

    膵がんの罹患率は加齢とともに上昇し、50歳を過ぎた頃より急増する。 日本の悪性腫瘍による死因では膵がんは第4位で、性別では男性が第5位、女性は第3位を占めている。 2012年に発表された日本膵臓学会膵がん登録によると、通常型膵がん約5,300症例の検討で5年生存率は13%、生存期間中央値は14.7ヶ月と報告されている。 米国での年間の症例数は55,440例,死亡例数は43,330例と推定されており、死亡率は約78.2%でかなり高い。

    膵臓にできる腫瘍には、膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm;IPMN)、神経内分泌腫瘍などがあるが、膵臓がんとは異なる疾患とされている。


    原因

    膵外分泌腺の腺癌は,腺房細胞由来と比較して膵管細胞由来が9倍多く、80%は膵頭部に発生する。腺癌の平均発生年齢は55歳で、男女比は男性で1.5~2倍多い。

    膵臓がんの著明な危険因子としては、喫煙慢性膵炎の既往肥満男性黒人などがある。遺伝が何らかの役割を演じているようだが明確には分かっていない。アルコールおよびカフェインの摂取は危険因子ではないようである。


    症状

    膵臓は、がんが発生しても症状が出にくく、自覚症状がほとんどないため早期の発見は簡単ではない。進行してくると、腹痛食欲不振腹部膨満感黄疸、腰や背中の痛み(腰背部痛)などが起こるので気づくことがある。その他、急な糖尿病の発症や悪化がみられることがあり、膵臓がんを見つけるきっかけになることもある。ただし、これらの症状は膵臓がん以外の理由でも起こることがあり、膵臓がんであっても起こらないことがある。

    膵体頭部がんでは黄疸(眼球や皮膚の黄染、灰白色便、褐色尿など)などの症状を認めることが多いが、膵体尾部がんでは症状を認めにくいため、手術の可能な段階で膵体尾部がんを発見するのは難しいとされている。また糖尿病を併存している患者が多く、中年以降に発生した糖尿病やもともと糖尿病患者の血糖の状態が急激に悪くなったりした場合には膵臓がんを発症している場合もある。


    検査・診断

    下記のような検査を実施し、総合して膵がんの状態を把握して、治療法を検討する。

    血液検査(血中膵酵素、腫瘍マーカーなど )
    血液検査では、肝胆道系酵素や膵酵素、腫瘍マーカー、血糖値などを調べる。 膵臓がんにより血液中の膵酵素(血清アミラーゼエラスターゼ1)が増加していないかを調べる。しかし、がんがあっても増加していないことや他の病気によって増加している場合もある。膵臓がんでは、 腫瘍マーカーとして、CA19-9SPan-1DUPAN-2CEACA50などを測定する。但し、がんがあっても腫瘍マーカーの値が上昇しないこともあるし、逆にがんがなくても上昇することもある。
    超音波(エコー)検査
    腫瘍の存在部位や形、臓器の形や状態、周辺の血流の様子などを確認する。
    超音波内視鏡検査(Endoscopic Ultrasonography; EUS)
    先端に超音波プローブをつけた内視鏡を口から入れ、病変を確認する。腫瘍の組織を調べるために、針を刺して腫瘍の細胞を採取する超音波内視鏡下穿刺吸引生検EUS-FNA)を行うこともある。
    CT検査
    腫瘍の存在部位や広がりを見たり、リンパ節や他の臓器への転移(遠隔転移)を確認したりする。膵臓がんでは腫瘍位置や形を細かく映し出すために造影剤を使用する。
    MRI検査
    腫瘍の存在部位や広がりを見たり、他の臓器への転移(遠隔転移)を確認する。MR胆管膵管撮影(Magnetic Resonance Cholangiopancreatography; MRCP)では、胆管や膵管の状態を詳しく調べることができる。内視鏡や造影剤を使わずに、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)と同様の画像を得ることができ、患者負担が少ないので、ERCPの代用として行うことが多くなっている。
    内視鏡的逆行性胆管膵管造影(Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography; ERCP
    口から内視鏡を入れ、先端を十二指腸まで進めた後、十二指腸乳頭(膵管と胆管の出口)に細い管を通して造影剤を注入し、膵管や胆管をX線撮影する。この際、膵管内の細胞を採取する膵液細胞診検査を行うこともある。他の検査で診断が確定しなかった場合に行われる重要な検査であるが、急性膵炎などの合併症を起こすことがある。
    細胞診・組織診
    腫瘍かどうか、その腫瘍の種類について確定診断するための検査である。EUSを使ったEUS-FNAERCPを使った膵液細胞診検査などで採取された細胞や組織を顕微鏡を使って診断する。
    PET検査
    進行がんでの他の臓器への転移(遠隔転移)などについて確認するための検査である。放射性フッ素を付加したブドウ糖(FDG)を注射し、がん細胞に取り込まれるブドウ糖の分布を画像にする。CT検査やMRI検査など他の検査では診断がはっきりしない場合に追加で行われる検査である。

    治療

    膵臓がんの治療には、手術、薬物療法、放射線治療がある。がんが切除できる場合は、手術のみ、もしくは手術と薬物療法、放射線治療を組み合わせた治療(集学的治療)を行う。切除できない場合は、主に薬物療法や薬物療法と放射線治療を組み合わせた治療を行う。がんの進行の状態によっては、緩和ケアのみを行う場合がある。


    病期(ステージ)

    病期は、膵臓がんでは早期から進行するにつれて0期〜Ⅳ期まである。病期は、がんの大きさ、周囲への広がり(浸潤)、リンパ節や他の臓器への転移があるかどうかによって決まる(表1及び表2参照)。膵臓がんの病期の分類には、日本では「膵癌取扱い規約(日本膵臓学会編)」(表1)または「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」(表2)が用いられ、次のTNMの3種の分類(TNM分類)の組み合わせで決められる。

    Tカテゴリー:がんの大きさや周囲への広がりの程度
    Nカテゴリー:リンパ節への転移の有無
    Mカテゴリー:他臓器などへの転移(遠隔転移)の有無

    表1 膵臓がんの病期(日本膵臓学会)の表
    表1 膵臓がんの病期(日本膵臓学会)
    日本膵臓学会編「膵癌取扱い規約 2016年7月第7版」(金原出版)より作成
    膵臓がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
    表2 膵臓がんの病期(UICC第8版)の表
    表2 膵臓がんの病期(UICC第8版)
    UICC日本委員会TNM委員会訳「TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版(2017年)」(金原出版)より作成
    膵臓がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

    膵臓がんの治療の選択

    治療方針は、がんの進行の程度に基づいた標準治療を基本として、体の状態、年齢、本人の希望なども含めて総合的に検討し、決定される。膵臓がんではまず、手術ができるかどうかについて検討し、「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」のどの状態であるかを調べる(下図参照)。手術ができる場合は、手術のみ、もしくは手術と薬物療法を組み合わせた治療を行う。がんが膵臓周辺の大きな血管を巻き込んでいたり、別の臓器に転移したりして手術ができない場合は、薬物療法や化学放射線療法を行う。

    図3 膵臓がんの治療の選択の図
    手術(外科治療)
    膵臓がんの治療では、手術でがんを切除できると考えられる「切除可能」である場合、できる限り手術をする。がんが周囲の血管を巻き込んでいるなどの理由で、手術でがんを取り切れるか判断が難しい「切除可能境界」である場合は、手術を行う前に、化学療法や化学放射線療法を行う。その結果、治癒につながる切除が可能か否かを再検討した後に、手術を行うことがある。
    放射線治療
    膵臓がんでの放射線治療には、根治を目指す化学放射線療法と症状緩和を目的とした放射線治療の2つがある。化学放射線療法は、放射線治療と化学療法(細胞障害性抗がん薬による治療)を組み合わせた治療である。明らかな遠隔転移はないものの、がんが膵臓周辺の大きな血管を巻き込んでいる場合に行われる。化学療法と組み合わせることで治療の効果を高めることが期待でき、標準治療の1つとして推奨されている。
    一方、痛みなどの症状緩和を目的とした放射線治療は、骨転移などによる痛みなどの症状を和らげる1つの方法として、実施することがある。
    薬物療法
    膵臓がんの薬物療法では、細胞障害性抗がん薬免疫チェックポイント阻害薬分子標的薬を使用する。
    免疫療法
    免疫療法は、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法である。2020年9月現在、一部の膵臓がんの治療に効果があると科学的に証明されているものは、免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブを使用する治療法のみである。その他の免疫療法で、膵臓がんに対して効果が証明されたものは残念ながら今のところない。
    合併症に対する治療
    黄疸や胆管炎に対する治療や消化管などの閉塞に対する治療を要する場合がある。
    緩和ケア/支持療法
    がんになると、体や治療のことだけではなく、仕事のことや、将来への不安などの辛さも経験する。緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげる。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときにはいつでも受けることができる。支持療法は、がんそのものによる症状やがん治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指す。がんによる痛みが強い場合には、非オピオイド鎮痛薬やオピオイド鎮痛薬が使われる。
    リハビリテーション
    治療の途中や終了後は、体を動かす機会が減り、身体機能が低下する。そこで、医師の指示のもと、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などを、リハビリテーションとして行うことが大切だと考えられている。

    薬物療法に使用される治療薬

    細胞障害性抗がん薬
    テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1)、
    ゲムシタビン(ジェムザール)単独療法、
    ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(アブラキサン)併用療法、
    FOLFIRINOX療法(5-FU+ ロイコボリン +イリノテカン+オキサリプラチン)
    分子標的薬
    エヌトレクチニブ
    がん遺伝子検査で、NTRK融合遺伝子陽性(正常なNTRK遺伝子の一部が他の遺伝子と何らかの原因で融合した異常な遺伝子)の場合にのみ使用する。
    免疫チェックポイント阻害薬
    ぺムブロリズマブ(キイトルーダ)
    がん遺伝子検査でMSI検査高度陽性(遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態)の場合にのみ使用する。

    早期膵臓がん発見の取り組み

    膵がんの多くは進行がんとして発見され、手術の適応とならないことが少なくない。いかに早期の段階で発見するかがきわめて重要であり、そのためには膵がんの初期症状を拾い上げる精度の高い検査が必要となってきている。腹部超音波、CT、MRI/MRCP検査に加え、超音波内視鏡(EUS)、内視鏡的膵胆道造影(ERCP)、さらに管腔内超音波検査(IDUS)などを組み合わせ、極めて厳密な診断ができるようになってきたので、定期的な検診を利用して積極的に小膵がんの発見に努めるべきである。

    また、膵臓がんのリスク因子として、膵臓がんの家族歴(家族性膵臓がん)、遺伝性膵臓がん症候群、糖尿病、慢性膵炎、膵嚢胞性疾患、肥満、喫煙、大量飲酒などが挙げられる。こうした膵臓がんのハイリスクの患者に対しては、定期的な採血や画像検査でフォローまたは最近では遺伝子診断をすることにより早期に病気を発見できるようになってきている。


    膵嚢胞性疾患

    浸潤性膵管がんのほか、膵臓に発生する腫瘍としては膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary-mucinous neoplasm; IPMN)や粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm; MCN)といった比較的良好な予後を特徴とし、過形成から浸潤がんまで幅広い組織像を呈する膵嚢胞性疾患と呼ばれるグループが存在する。これらの疾病に対して、症例によっては低侵襲な腹腔鏡下手術や機能温存を目指した膵中央切除などの縮小手術を行う。

    また膵内分泌腫瘍(solid-pseudopapillary tumor; SPT)や漿液性嚢胞腫瘍(serous cystic neoplasm; SCN)といった腫瘍も上記疾患と類似した検査所見を示すことがある。それぞれ悪性度が異なるため画像検査を組み合わせて詳細な鑑別診断を行い、最適な治療方針を決定する。


    膵管内乳頭粘液性腫瘍

    膵管内乳頭粘液性腫瘍IPMN)は、粘液の過剰分泌と管腔の閉塞を引き起こす腫瘍である。組織学的に良性、境界型、悪性のいずれもありうる。ほとんどの腫瘍が女性(80%)および膵尾部(66%)に発生する。 IPMNの症状には痛みおよび再発性の膵炎発作がある。IPMNの診断は,CTまたはMRIによる。

    高度異形成のIPMN患者で、浸潤癌へ進行したか、癌の発症リスクが高いことを示唆する特徴を有する場合は、外科的切除が第1選択の治療法となる。手術を施行した場合の5年生存率は、良性または境界型の症例では95%を超えるが、悪性腫瘍では50~75%である。


    嚢胞腺癌

    嚢胞腺癌は、粘液性嚢胞腺腫が悪性化して生じるまれな腺腫由来の膵癌で、上腹部痛および触知可能な腹部腫瘤として現れる。嚢胞腺癌の診断は、腹部CTまたはMRIにより、典型的には壊死組織片を含む嚢胞性腫瘤が認められる。この腫瘤は、壊死性腺癌または膵仮性嚢胞と誤解されることがある。

    膵管腺癌とは異なり、嚢胞腺癌は予後が比較的良好である。手術時に転移が認められる患者は20%に過ぎず、膵尾部切除術、膵全摘術またはWhipple手術による腫瘍の完全切除での5年生存率は65%である。


    予防

    膵臓がんの予防には次のような生活習慣の改善が有効であるとして推薦されている。尚、これらの予防策は、科学的根拠に基づいているという。

    • 禁煙
      • 喫煙は膵臓がんのリスクを高めるので、禁煙することが効果的であることは間違いない
    • 健康的な食事
      • バランスの良い食事をとり、肥満を防ぐことが大切
    • 適度な運動
      • 定期的な運動で、健康的な体重を維持し、肥満を防ぐ
    • 節酒
      • 飲酒するなら適度な量に抑えることを心がける

    あとがき

    膵臓がんの発症要因として、生活習慣(喫煙や飲酒など)や膵臓の疾病(糖尿病や慢性膵炎など)、遺伝的要因などが考えられている。これらの要素は、生活習慣病と重複するものであり、改善可能なものが多い。そのため、生活習慣の改善が膵臓がんの予防につながる可能性があると考えてよい。

    喫煙は、膵臓がんの発生に大きく影響していることが知られており、喫煙者の膵臓がんの発症リスクが非喫煙者に比べて1.68倍も高いらしい。

    一定量以上の飲酒は、膵臓がんの発病に関係していると言われている。1日あたりのアルコール摂取量が36g以上である場合、膵臓がんを発病する危険性を一気に上昇するらしい。

    肥満は、膵臓がんの確実なリスク要因であり、若い頃(20歳前後)の肥満もほぼ確実なリスク要因とされている。

    糖尿病と膵臓がんの発症には関連性があり、糖尿病患者における膵臓がんの発症のリスクは糖尿病ではない人と比較して1.94倍も高いという報告がある。慢性膵炎も膵臓がんの発生リスクを上昇させるらしい。慢性膵炎の患者が膵臓がんを発症するリスクは6.9倍であったとする報告がある。


    【参考資料】
    国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターHP
    KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
    MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版