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急性膵炎・慢性膵炎とは?原因と症状は?治療と予防

はじめに

膵臓の病気として最も気になるのは膵臓がんである。膵臓がんは日本人のがんによる死因の第4位であり、「難治がん」と言われる。その理由は、膵臓がんの初期には無症状のことが多く、早期発見が難しく、発見された時点で約8割が「進行がん」であり、手術が不可能なケースが多いからである。

一方、膵炎(急性・慢性)も怖い疾病である。それは次のような理由があるからである。

  • 強烈な痛み
  • 重篤な合併症
  • 再発のリスク
  • 膵がんへの進行

膵炎は非常に強い痛みを伴うことがある。膵炎の痛みは、尿路結石や心筋梗塞と並ぶ三大激痛の1つに数えられている。

膵炎は、膵臓だけでなく、他の臓器にまで炎症を起こす場合(重篤な合併症)も少なくない。

膵炎は再発しやすい病気で、特に胆石や高脂血症などが原因の場合には、再発を繰り返すリスク(再発のリスク)が高い。

さらに、アルコールが原因の膵炎を起こした患者が飲酒を続けると、慢性膵炎の状態になっていく。そして、慢性膵炎を放置すると、「膵臓の病気として最も気になる」膵蔵がんへと進行するリスクが10倍以上に増加すると言われている。

目次
はじめに
膵炎とは
急性膵炎
慢性膵炎
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

膵炎とは

膵臓は、みぞおちの奥、胃袋の後ろ側に横たわる消化器系の臓器のひとつである。 膵臓の大事な機能は二つある。 一つは、食物の消化に必要な消化酵素を含んだ膵液を出して食物の消化を助けることである。膵臓は、膵液を1日に1リットル以上分泌している。そしてもう一つが、血糖値を調整するインスリンなどのホルモン分泌して、糖尿病にならないように調整することである。

膵炎は、膵液を出す膵外分泌腺に様々な原因で炎症が起こる疾病である。膵炎には急激な炎症が膵臓に起こりみぞおちや背中に強い痛みを感じる急性膵炎(acute pancreatitis)と、長期間持続的な膵臓の炎症により膵臓の細胞が徐々に壊されて線維成分に置き換わり、膵臓が硬くなって機能が低下する慢性膵炎(Chronic pancreatitis)とに分けられる。


原因

急性膵炎

急性膵炎は、膵臓に急性炎症が起こる疾病である。 最も頻度が高い誘因は胆石および飲酒である。

手術・外傷後、内視鏡を使用した膵管造影検査の後、血液中の中性脂肪高値などが原因となることもある。


慢性膵炎

慢性膵炎は、膵臓の外分泌腺細胞に長期間持続的に炎症が起こることで徐々に外分泌腺細胞が壊され、その壊れた細胞が線維組織に置き換わることで膵臓が硬くなり、膵臓本来の機能が失われてしまう疾病である。

飲酒および喫煙が主な危険因子である。 発症原因としてはアルコールによるものがほとんどであり、ほかには胆石によるものや副甲状腺機能亢進による高カルシウム血症、原因不明のものがある。

急性膵炎の発作を繰り返すと、持続性の慢性炎症、膵管の損傷、そして最終的には線維化が生じ、慢性膵炎に至る可能性がある。


症状

急性膵炎

急性膵炎の重症度は、局所合併症および一過性または持続性の臓器不全の有無に基づいて、軽症、中等症、重症に区分される。

炎症は軽症例では膵臓に限局しているが、重症度が高まるにつれて重度の全身性炎症反応が出現し、臓器不全または多臓器不全に至ることがある。

食後や飲酒後、突然みぞおちや背部に強い痛みを感じる。この痛みは激烈で、通常は体をまっすぐに保つことができず上体を前屈みにしてうずくまるような姿勢になる。

また、みぞおちから左の肋骨下縁付近の皮膚がぴりぴりとして非常に過敏になることがある。

膵炎が進行して重症になると膵臓全体が腫れ、膵液を含んだ腹水が膵臓から漏れ出て腹部全体に広がり(膵周囲液貯留)、腸の動きが悪くなってガスが出なくなる腸閉塞を引き起こす。

さらに重症膵炎では、冷や汗・めまいなどの症状が出て血圧が下がり、脈が早くなってショック状態に陥り、意識が低下するなど生命に関わる症状も出てくる。

胆石が原因の膵炎では、尿の色が濃くなって茶褐色の尿が出る。これは胆石が十二指腸の乳頭部につまって胆汁が出なくなり黄疸の症状が出るためである。


慢性膵炎

慢性膵炎は、膵臓の持続性炎症で、膵線維化および膵管狭窄を伴う永続的な構造的障害に続いて膵内外分泌機能の低下(膵機能不全)をもたらす。 発作性の腹痛がみられ、続いて疾患の後期になると吸収不良の臨床像を呈する。

慢性膵炎は、みぞおちや背部の痛みで始まり、この鈍い痛みが長期間にわたり断続的に続く。慢性膵炎の初期には急性膵炎様の激しい腹痛を数ヶ月後毎に繰り返す患者が多い。

通常、約7~8年経過すると腹痛は徐々に軽くなる。これは膵臓の機能が完全に荒廃して炎症が軽減するためである。食欲低下、下痢、体重減少など膵臓の機能不全に伴う症状が認められる。

特に下痢は悪臭を伴う薄黄色クリーム状の便で、水に浮く脂肪便となる。これは膵臓の外分泌細胞が障害され、脂肪やたんぱく質の消化酵素の分泌が低下して消化吸収不良を起こしているためである。

慢性膵炎が長期にわたると、膵臓の線維化が膵外分泌細胞のみならず、インスリン分泌障害をも引き起こして血糖の調節ができなくなり糖尿病が発症する。


検査・診断

急性膵炎

診断は、臨床像血清アミラーゼ値およびリパーゼ値ならびに画像検査に基づく。

脂肪分の多い食事やお酒を飲み過ぎた後などに急激な強いみぞおちの痛みを自覚した場合、急性膵炎の可能性が考えられる。血液検査および尿検査で、アミラーゼ値が高くなっていれば急性膵炎が強く疑われる。

診断確定のために腹部CT検査などの画像検査を行う。造影剤を投与しながらCT検査を行うと膵臓の状態が良く分かる。患者に造影剤に対するアレルギーの既往がなければ 造影剤を用いたCT検査が採用される。

急性膵炎の初期には部分的あるいは全体的に膵臓が腫れているのがわかる。重症の膵炎になると腫れた膵臓の中に黒く写る部分が出てくる。これは膵臓の細胞が壊れ腐って死んでしまう壊死という状態を示す。このような状態になると、死亡率が高まる。

血液検査、腹部CT検査も含めて急性膵炎の重症度を正確に判定し、その重症度ごとに適切な治療法を選択することが重要である。


慢性膵炎

診断は、通常、臨床像、画像検査および膵機能検査に基づく。慢性膵炎は次の6つの診断項目の組み合わせによって診断する。

1CT、MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)、腹部エコー、超音波内視鏡、ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)の検査によって特徴的な画像所見が認められる
2特徴的な組織所見が認められる
3反復的な上腹部痛みが認められる
4血液または尿の膵酵素の異常が認められる
5膵外分泌障害が認められる
6アルコール摂取量1日80g以上の持続する飲酒歴を認める

治療

急性膵炎

治療は支持療法であり、輸液(急速輸液)、鎮痛薬(疼痛コントロール)、栄養サポートを行う。急性膵炎の全死亡率は低いが、重症例における罹患率および死亡率はかなり高い。

急性膵炎は、発症初期、膵臓が腫れるだけの軽症の浮腫性膵炎から始まり、膵臓に出血の起こる出血性膵炎、さらに膵臓が部分的に壊死になる壊死性膵炎のような重症膵炎まで色々な段階がある。

軽い膵炎の段階で速やかに治療を開始すれば、多くの膵炎は治るが、重症の膵炎になると治療が非常に難しく、死に至ることもめずらしくない。

急性膵炎と診断されれば、原則入院加療が必要になる。脱水にならないように点滴により十分な水分を補う。また治療早期から痛みを取り除く事が不可欠である。

非ステロイド性消炎鎮痛薬もしくは非麻薬性鎮痛剤を使うが、必要に応じてより強力なフェンタニルなどの麻薬性鎮痛剤も使用する。

原因を取り除く治療も併せて行う。例えば、胆石が膵酵素の流出路に詰まって膵炎が起きているのであれば内視鏡を使って取り除く。

仮性嚢胞および感染性膵壊死などの合併症は、同定し、適切に治療(例えば仮性嚢胞のドレナージ、ネクロセクトミー)する必要がある。


慢性膵炎

治療は、主に疼痛コントロールおよび膵機能不全などの合併症の管理などである。

慢性膵炎の経過は長期にわたる。腹痛発作を繰り返し、鈍い腹痛が持続する代償期と、膵臓細胞が壊れて膵臓の機能が失われる非代償期に分けられ、病期ごとに治療法が異なる。

代償期の治療は、腹痛に対する治療が中心になる。慢性膵炎による痛みは、膵臓の線維化により膵液の通り道である膵管が細くなり膵液の流れが悪くなることにより起こる。そのため、膵管の出口を緩める薬剤を使って膵液の流れを良くする治療法を試みる。

また痛みの治療として膵臓の炎症を抑えるために非ステロイド性消炎鎮痛薬を投与し、頑固な痛みの場合にはより強力な非麻薬性鎮痛薬を使用することもある。

非代償期になると膵臓の機能そのものが失われるため、膵臓から出る消化酵素が減少し、たんぱく質や脂肪の消化吸収不良がおこり下痢を起こす。この下痢に対する治療として、膵消化酵素剤の補充が必要になる。

膵管の中に石ができて膵液の流れが悪くなっている場合には、体の外から強力な超音波を石に当てて砕いて細かくし、膵管から排出させる体外衝撃波結石破砕療法(ESWL)という治療を行う。

膵管が細くなっている場合は、内視鏡を使って細くなった膵管にチューブを挿入して膵液の流れを良くする治療を行う。

慢性膵炎は良性疾患であるため、可能な限り薬剤や内視鏡を使った方法で治したい疾病であるが、治療が難しい場合には手術を行う場合もある。膵石がみられた場合は、膵液の通り道である膵管を切り開いて小腸とつなぎ合わせて膵液の流れを良くして痛みを取り除く手術を行う。


予防

膵炎(急性・慢性)の予防策としては、下記のような対策が知られており、推奨されている。

  • アルコール摂取の制限
    • 節酒
    • 断酒
  • 健康的な食事
    • 低脂肪食
  • 定期的な健康診断
    • 膵炎の早期発見
    • 膵炎の初期症状に注意

これらの予防策を実践すれば、膵炎の発症リスクを低減することができるはずである。ただし、これらの予防策はあくまで一般的なものであり、個々人の健康状態によって適切な対策は異なる場合がある。したがって、自分にあった予防策を構築することが肝要である。


あとがき

膵炎(急性・慢性)と生活習慣病との間には密接な関連性があると言われている。

アルコール摂取(飲酒)は肝臓だけでなく、膵臓にもダメージを与え、膵炎のリスクを高めるとされる。アルコールの過剰摂取(飲み過ぎ)は、膵炎の主な原因であり、特に慢性膵炎の発症に大きく関与しているらしい。

肥満も膵炎の発症リスクを高める可能性がある。特に、脂肪分の多い食事は膵炎のリスクを高めると考えられている。

膵炎、特に慢性膵炎は、膵臓の機能を低下させ、インスリンの分泌を減少させる可能性がある。これにより、血糖値のコントロールが不良となり、2型糖尿病の発症につながる可能性がある。

2型糖尿病は、代表的な生活習慣病であるので、膵炎と生活習慣病とは関連性があるというのは確かなようだ。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版