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非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは?原因は?症状・診断・治療・予防はどうする?

はじめに

NAFLD(ナッフルディー)という用語を耳にしたことはあるでしょうか? では、「非アルコール性脂肪性肝疾患」はどうでしょうか? いずれも日常生活では聞き慣れない用語である。

では「脂肪肝」はどうでしょうか? こちらの用語なら少しは馴染みがあるかも知れない。

私も還暦を迎えた頃に、人間ドックの腹部超音波検査において「脂肪肝」を告げられた経験がある。脂肪肝は、肝臓に脂肪が多くたまった状態を指す医学用語である。

脂肪肝には、お酒の飲み過ぎでなる「アルコール性脂肪肝」と、お酒をあまり飲まないのに肝臓に脂肪がたまってしまう「非アルコール性脂肪肝」があるという。私は、どうやら後者に該当する可能性が高い。

「非アルコール性脂肪肝」から「脂肪肝炎」や「肝硬変」に進行した状態までを含む一連の肝臓病のことを「非アルコール性脂肪性肝疾患」(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)と称し、頭文字をとってNAFLD(ナッフルディー)と呼ぶことがある。

しかしながら、脂肪肝があるからと言って、直ちにNAFLDと診断されるとは限らないようだ。

NAFLDは、アルコール以外のいろいろな原因で起こる脂肪肝の総称であり、その多くは、肥満症、糖尿病、脂質異常症、高血圧を伴っていて、メタボリックシンドロームの肝臓病と考えられている。また、NAFLDの80~90%は長い経過をみても脂肪肝のままで、病態はほとんど進行しない場合があるという。この状態をNAFLD の「病気」を意味する”Disease”のD を除いてNAFL(ナッフル)と呼ぶらしい。私の場合もNAFLである可能性が高いと言えるかも知れない。

しかし、残りの10~20%の者は徐々に悪化して、NASHや肝硬変に進行し、やがて肝臓がんを発症したりすることもあるから油断は禁物である。

また、NAFLDは生活習慣病の一つに数えられている。生活習慣を改善すれば、NAFLDの予防になるはずである。この機会に私と一緒にNAFLDについて学んでいきましょう。


<目次>
はじめに
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)とは

肝臓内に脂肪が蓄積した状態が脂肪肝であり、飲酒歴のない人又はほとんど飲酒しない人にも脂肪肝が生じる場合がある。これを非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)と呼ぶ。

この中には、肝臓内に脂肪沈着するのみの単純性脂肪肝と、線維化が進行し、肝硬変・肝がんとなる危険性のある非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)がある。NAFLD単純性脂肪肝NASHの総称である。

脂肪が肝内に沈着する単純性脂肪肝の状態に、インスリン抵抗性、酸化ストレス、炎症性サイトカインなどの何らかの刺激が加わることでNASH肝硬変へと進行すると考えられている。

NAFLD患者は人口の約3割いると推定されており、NASH患者はそのうちの約2割と推測されている。


原因

NAFLDの原因には、肥満症、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病のほかに、睡眠時無呼吸症候群、多嚢胞卵巣症候群、甲状腺機能低下症、下垂体機能低下症などの疾患、膵頭十二指腸切除術、空回腸バイパス術などの手術後の中心静脈栄養や薬剤(タモキシフェン、バルプロ酸、アミオダロンなど)がある。

単純性脂肪肝とは、肝細胞内に脂質が過度に蓄積した状態であり、組織傷害に対する肝臓の反応として最も一般的なものである。単純性脂肪肝は様々な原因で発生し、多様な生化学的機序が関与し、異なるタイプの肝傷害を引き起こす。

単純性脂肪肝から NASHへ進展する直接の原因に関しては、インスリン抵抗性、酸化ストレスなど様々な影響が報告されている。しかし、まだ定まったものはないのが現状である。


症状

単純性脂肪肝NASHの段階では特徴的な症状はなく、無症状で経過することがほとんどである。肝線維化肝硬変への進行に伴い、他の原因同様、全身倦怠感、掻痒感、黄疸などの症状がみられるようになる。


検査・診断

NAFLDの診断基準は下表のとおりである。 NASHには様々な分類があるが、肝生検で①②に加えて③または④がみられるものとされている。

(1)飲酒歴がない、またはほとんど飲酒がないこと
男性: 30g/日未満、女性: 20g/日未満
(2)肝生検による肝組織所見
①大滴性/小滴性脂肪沈着
②炎症細胞浸潤
③肝細胞の風船様腫大
④肝小葉中心部における肝細胞周囲の線維化
(3)ウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎などの他の肝疾患ではないこと

肝生検は体に負担がかかることから、非侵襲的で簡便に肝線維化を定量化できる装置としてエラストログラフィが開発されている。その一つであるフィブロスキャンでは、肝臓の線維化と脂肪沈着の両方を同時に測定可能であり、 NAFLDおよび NASHの診断に有用である。

また、身体所見や採血結果を用いて NASHが疑われる患者を選別するスコアリングシステムもいくつか報告されている。代表的なものとして、NAFICスコア(フェリチン、空腹時インスリン、4型コラーゲン7Sを用いた指標)、NAFLDフィブロシススコア(年齢、BMI、糖尿病、AST/ALT比、血小板、アルブミンを用いた指標)、FIB-4 index(年齢、AST、ALT、血小板を用いた指標)がある。


治療

NAFLD の治療として大事なことは、単純性脂肪肝の患者をNASHに移行させないこと、NASH患者は線維化の進行を抑え肝硬変肝がんへと移行させないこととなる。しかしながら、現時点では確立された治療法はない。

第一に、食事・運動療法であり、減量は非常に有効である。糖尿病や脂質異常症、高血圧などを合併している場合は、それらの治療に伴って改善する。

薬物療法として抗酸化剤であるビタミンEや、胆汁酸を刺激物質とする核内受容体であるFXR作動薬オベチコール酸が NASHの改善に有効であると報告されている。


予防

NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の予防には、下記のような生活習慣の見直しが有効であり、推奨されている。

  • 食生活の見直し
    • 糖質の過剰摂取を避ける
    • 果物に含まれる果糖は吸収がよく、中性脂肪として肝臓に貯まりやすいので摂取量に注意する
    • 不飽和脂肪酸(DHAやEPAなど)が多く含む青魚を摂取
    • 緑黄色野菜(ビタミンE・Cが多い)を積極的に摂取
  • 運動
    • 軽負荷の筋トレを行う
      • 筋肉量が増加し、基礎代謝を高める
      • 脂肪は筋肉で燃焼される
    • 有酸素運動
      • ウォーキングなど
  • 体重・腹囲の確認
    • BMI値が25未満になるよう減量
    • 腹囲を基準値未満にする
      • 男性の場合は、85cm未満
      • 女性の場合は、90cm未満
  • 定期的な検査
    • 肝臓の状態を定期的にチェックする
      • 血液検査
      • 画像検査

これらの予防策を実践すれば、NAFLDのリスクを低減できる可能性は高い。ただし、これらの予防策は一般的なものであって、万全ではない。個々人の健康状態によって適切な対策は異なる場合がある。肝臓の健康状態に不安があれば、医師に相談してみて自分に適した予防策を構築すべきであろう。


あとがき

NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)は、生活習慣病と密接に関連していると言われる。確かにNAFLDは、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病と関連して発症する肝疾患であり、近年増加傾向にある。したがって、注目すべき疾患の一つである。

NAFLDは、肥満やメタボリックシンドロームの影響が肝臓にとくに強く現れて起こる病気であると言えるかも知れない。さらに糖尿病や脂質異常症が併発していれば、NAFLDの病態の進行に拍車がかかる。

したがって、NAFLDの予防や治療の第一は、肥満やメタボリックシンドロームに該当する病態を解消することであるのは間違いなさそうだ。もし、糖尿病や脂質異常症も併発しているのなら、それらもしっかり治療することになるだろう。

このような観点からすれば、NAFLDとは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧を伴う「メタボリックシンドロームの肝臓病版」と言えるかも知れない。

また、ストレスは、食事や運動習慣に影響を及ぼすことがあり、それがNAFLDのリスクを高める可能性もある。したがって、ストレスの管理は、NAFLDの予防と管理においても重要な要素となり得る可能性がある。


【参考資料】

KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
nafld_2023.pdf (jsge.or.jp)