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アルコール性肝疾患とは?原因は?症状は?診断・治療・予防について

はじめに

酒は百薬の長」という言葉がある。確かにお酒は適量ならば緊張をほぐしたり、気分を良くしたりする効果はある。しかし、どんな良薬よりも効果があるというのは言い過ぎかも知れない。この言葉は、しばしば「酒飲み」がお酒を賛美して自己弁護に使われることが多い。私はこの言葉を「酒飲み」以外の人から聞いたことがない。

むしろ、お酒の過度な摂取には、様々な健康問題を引き起こすことが知られている。例えば、お酒の過剰摂取は肝臓に大きな負担をかけ、肝障害、肝硬変、肝臓がんなどを引き起こすリスクを高めると言われている。また、アルコールの過剰摂取は膵炎、心疾患、高血圧などの発症リスクを高めることも知られている。

さらに、アルコールの過剰摂取は、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸、乳がんなどの発症リスクを高める可能性がある他、睡眠障害やうつ病といった精神的問題を引き起こす可能性があると言われている。大量の飲酒は、認知症の危険性を高める可能性があるとの報告もある。そして、大量のアルコールを一度に摂取すると、意識レベルが低下し、嘔吐、呼吸状態が悪化するなど危険な状態(急性アルコール中毒)に陥る可能性がある。

このように飲酒は多くの健康問題を引き起こす可能性がある。お酒の危険性だけをみれば、「飲酒に一利なし」の様相を示して、悲しくなる。これらのお酒の危険性は、あくまでもアルコールの過剰摂取によるもので、適量の飲酒と適切な飲酒習慣であれば勿論、問題はない。但し、具体的な飲酒量や飲酒の適否は、個々人の健康状態や生活習慣により異なるため一般化することは難しいと言わざるを得ない。

本稿では、アルコールの過剰摂取(飲酒)によって引き起こされる「アルコール性肝疾患」について学んでいきたい。


<目次>
はじめに
アルコール性肝疾患とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

アルコール性肝疾患とは

ウイスキーや日本酒、ワインやビールなどのアルコールは、嗜好品として私達の生活を豊かにしてくれるが、過剰な飲酒を長期に渡って続けると様々な臓器に障害を来たす。その中でも肝疾患は高頻度で起こり、しばしば重篤となる。

過剰な飲酒によって発症する肝疾患として、アルコール性肝疾患脂肪肝肝炎肝硬変)が知られている。

アルコール性肝疾患Alcoholic Liver Disease;ALD)は、アルコールの過剰な摂取が原因で引き起こされる一連の肝臓の病気を指す総称の病名である。代表的な疾患には、アルコール性脂肪肝、アルコール性肝線維症、アルコール性肝炎、アルコール性肝硬変、肝臓がんが含まれる。

例えば、アルコール性肝炎は、長期にわたる大量の飲酒が原因で肝臓に炎症を起こす病気で、飲酒量増加をきっかけとして発症する。病変が進行すればアルコール性肝硬変になる。

さらに病変が進行し、肝細胞がん肝不全となる人は世界では毎年300万人以上と推定されている。国内においても毎年4万人以上が亡くなっていると言われている。


原因

過剰な飲酒の継続によって、まずアルコール性脂肪肝となり、やがてアルコール性肝炎を発症する。

エタノール換算で1日に60g以上摂取すると、ほぼ例外なく肝疾患を来たす。エタノール60gは、ビールでは中ビン3本、日本酒では3合弱、25度焼酎では300mlに相当する。しかしながら、遺伝的にアルコールの代謝効率が悪い人や女性では、その約2/3程度の飲酒量でも肝障害を来たすと言われている。

別の報告では、男性におけるアルコール性肝疾患のリスクは、1日のアルコール摂取量が10年以上にわたり40gを超えると著明に増大し、特に80g(例えば、ビール2~8缶、蒸留酒3~6ショット、またはワイン3~6グラス)を超えると大幅に増大すると言われている。

女性における肝疾患のリスクは、男性の半量で著明に増大するとされている。女性のリスクが高いのは、胃粘膜に存在するアルコール脱水素酵素が少ないために、より多くのアルコールが分解されないまま肝臓に到達するためと考えられている。


症状

アルコール性脂肪肝アルコール性肝炎は、自覚症状がなく、職場や地域の健康診断で初めてみつかることがほとんどである。

アルコール性脂肪肝(肝脂肪変性)
過度の飲酒で最初にみられる最も頻度が高い病態。大滴性脂肪がトリグリセリドの大きな液滴として蓄積し、肝細胞の核を圧排するが、これは細静脈周辺の肝細胞で最も顕著にみられる。脂肪肝は、無症状のことが多い。3分の1の患者では、肝臓が腫大し、表面が滑らかになるが、圧痛は通常みられない。
アルコール性肝炎(脂肪肝炎)
脂肪肝、びまん性の肝炎症および肝壊死(しばしば巣状)が複合的に発生する病態で、いずれも様々な重症度を呈する。傷害された肝細胞は、顆粒性細胞質を伴って腫大するか(バルーン変性)、細胞質に線維性タンパク質(マロリー小体またはアルコール性のヒアリン小体)がみられる。重度に傷害された肝細胞は壊死に至る。類洞および中心静脈は狭小化する。アルコール性肝炎は、軽度で可逆的なものから、生命を脅かすものまで幅がある。中等症では、大半の患者が低栄養で、疲労、発熱、黄疸、右上腹部痛、圧痛を伴う肝腫大を呈し、ときに肝臓の血管雑音が聴取される。
アルコール性肝硬変
正常な肝構築を崩壊させる広範な線維化を特徴とする、進行した肝疾患である。肝再生時に弱い代償反応が生じることで、比較的小さな結節が生じる(小結節性肝硬変)。そのため、通常は肝臓が萎縮する。やがては、たとえ禁酒したとしても、線維化が幅の広い帯状になり、肝組織を複数の大きな結節に分割する。肝硬変でも代償性であれば、無症状のことがある。肝臓は通常小さく、腫大している場合は脂肪肝または肝細胞がんを疑うべきである。症状は、アルコール性肝炎のものから門脈圧亢進症(しばしば食道静脈瘤、上部消化管出血、脾腫、腹水、門脈大循環性脳症などを伴う)などの肝疾患末期の合併症まで様々である。

検査・診断

血液検査で、 肝胆道系酵素(AST、ALTやγ-GTP)が上昇していないかを確認する。 血清トランスアミナーゼでASTがALTよりも圧倒的に高い値を示す場合およびγ-GTP、ALPの上昇がある場合にはアルコール性脂肪肝及び/又はアルコール性肝炎が疑われる。

他のタイプの肝疾患に比べて、特にγ-GTPは発症早期に他の肝胆道系酵素に先駆けて上昇することが多い。 但し、飲酒の継続や禁酒によって変動しやすいため、病勢を示す指標として用いられている。


治療

アルコール性肝炎の治療において不可欠なのは節酒、断酒であり、肝障害が軽度である段階で治療を開始することで改善していく。しかし、一部の症例では節酒、断酒したにもかかわらず肝障害が重篤化することもあり、稀に死亡することもあるため節酒、断酒しながら定期的な受診を継続し、血液検査などで肝臓の状態をチェックすることが必要である。

節酒、断酒を困難にしているのがアルコールに対する依存性である。アルコール依存症は、かつて慢性アルコール中毒と称され、個人の意志の弱さや道徳性の欠如によるものと言われていたが、近年では医療介入を要する疾患として考えられている。アルコール依存状態ではなかなか自分の意志で断酒することは難しくなるため、専門とする医療スタッフによるカウンセリングや抗酒剤の使用など積極的な医療介入が必要となる。

アルコール性肝炎患者の中には常習飲酒家もしくはアルコール依存状態である場合があり、自力で節酒、断酒することが難しく、何らかの医療介入がなければそのまま肝硬変にまで至ってしまうことがある。アルコールは誰にとっても身近な存在であるため、誰でもアルコール性肝障害やアルコール依存症になるリスクがある。


予防

アルコール性肝疾患(ALD)の予防策としては、下記のような対策が有効であり、推奨されている。

  • アルコール摂取の制限
    • 節酒
    • 断酒
  • 健康的な食事
    • 栄養価の高い食事
      • 必要な栄養素を適切なバランスで摂取できる
        • ヨーグルト、卵、豆腐、ロースハム
        • 魚の加工品(魚の缶詰、魚肉ソーセージ)
        • 納豆、麦ごはん、etc.
  • 定期的な検査
    • 肝臓の状態をチェックする
      • 血液検査
      • 画像検査
  • アルコール依存症の治療精神科
    • 自分の意志で節酒・断酒ができない場合
    • アルコール依存症が疑われる場合

これらの予防策を実践するば、アルコール性肝疾患(ALD)の発症リスクを低減することができるはずである。ただし、これらの予防策はあくまで一般的なものである。したがって、個々人の健康状態によって適切な対策は異なる場合があることも理解し、自分にあった予防策を構築することが重要となる。


あとがき

アルコール性肝疾患(ALD)は、アルコールの過剰摂取によって発症する肝臓の病気であり、生活習慣病と密接に関連していると言われている。

過剰な飲酒(アルコールの過剰摂取)は、脂質異常症や2型糖尿病を引き起こす原因でもあるため、アルコール性肝疾患の患者はこれらの生活習慣病にもかかるリスクが高くなる。過度な飲酒を続けると、これらの症状がさらに悪化する危険性もある。

アルコール性肝疾患(ALC)の患者は、肥満症やメタボリックシンドロームに該当することがあり、両者を併発していると肝臓により強い負担がかかるとされている。

したがって、アルコール性肝疾患(ALC)の予防と治療おいては、第一に飲酒(アルコールの摂取)を控えるのは当然である。

また、ストレスは、飲酒(アルコール摂取)行動に影響を及ぼす可能性があり、これがアルコール性肝疾患のリスクを高める可能性も指摘されている。したがって、ストレス管理もアルコール性肝疾患(ALC)の予防と治療に組み入れる必要があるかも知れない。


【参考資料】

KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
アルコールによる健康障害 | Alcohols | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)