はじめに
乾癬は、皮膚に小さく、赤く、うろこ状の斑点が現れる皮膚疾患の一種である。皮膚の角化・肥厚とともに炎症が生じる病気で、患部が赤く盛り上がると同時に、角質が厚く硬くなって表面にポロポロと銀白色のフケのような垢(鱗屑)がつくことがあるという。
乾癬の原因は、免疫機能の異常が関わっており、免疫に異常をきたしやすい体質の人(遺伝的素因)に、環境ストレス(ストレス、食生活、肥満など)などの刺激が加わることで乾癬を発症すると考えられている。
日本における乾癬の有病率は、約0.3~0.4%と推計されている。この有病率から、日本には約40~60万人の患者がいると推定されている。日本の有病率は、欧米の有病率(2~3%)に比べると低いが、生活習慣の変化などさまざまな要因から、日本でも乾癬の患者数が増加傾向にあると報告されている。
乾癬は、遺伝する疾患とは考えられていないが、乾癬になりやすい体質は遺伝する可能性が高いらしい。親が乾癬で子どもが乾癬を発症する率は、日本では4~5%といわれおり、全体の有病率に比べると10倍以上の高率となる。乾癬を発症しやすい何らかの遺伝的素因があることまでは分かってきてはいるが、その遺伝的素因を特定し、メカニズムを解明するまでには至っていない。
乾癬とは
乾癬(psoriasis)は、古くから知られている皮膚の炎症性疾患であり、表皮および真皮の炎症を伴う表皮角化細胞の過剰増殖である。乾癬は、尋常性乾癬、滴状乾癬、膿疱性乾癬、関節症性乾癬および乾癬性紅皮症に分類されている。
世界の人口の約1~5%が罹患し、発症リスクは皮膚の色が薄い人々の方が高く、黒人は比較的低いと言われている。発症年齢には緩やかな二峰性がみられ、16~22歳と57~60歳で最も多くなるが、この疾患はあらゆる年齢で発生する可能性がある。
原因
現在でも明確な原因は分かっていないが、免疫反応の異常に伴って皮膚の表皮細胞が過剰に増殖することによって起こるとする説が今のところ最も有力である。
表皮角化細胞の免疫刺激が関与しており、T細胞が中心的な役割を果たすようである。家族歴がよくみられ、特定の遺伝子およびHLA抗原(Cw6、B13、B17)に乾癬との関連が認められている。
全ゲノム連鎖解析により、乾癬への感受性を規定する多数の遺伝子座が同定されており、なかでも染色体6p21にあるPSORS1が患者の乾癬に対する感受性を規定する上で最も大きな役割を果たしている。環境因子としての誘因(外傷、感染、特定の薬剤など)によって、炎症反応とそれに続く角化細胞の過剰増殖が惹起されると考えられている。
乾癬では、TNFαやインターロイキン17、インターロイキン23といった物質が症状を悪化させていることが明らかになっている。これらを抑える抗体医薬品が治療薬として開発されたり、あるいは臨床試験の段階にある。
症状
病変は無症状の場合とそう痒(かゆみ)を伴う場合がある。頭皮、肘関節および膝関節伸側、仙骨部、殿部(殿裂に多い)、ならびに性器に好発する。
爪、眉毛、腋窩、臍部、および肛門周囲も侵されることがある。病変が広範となり、これらの皮膚領域の間で進展して融合することもある。病変は病型によって外観が異なる。
尋常性乾癬 |
患者数が最も多い(約90%)。銀白色の厚い皮(鱗屑)が付着した紅い皮疹(紅斑)が様々な大きさで全身に見られる。頭皮や肘、膝などのこすれる部分にしばしば見られ、爪や手のひら、足の裏にも症状が見られることがある。かゆみなどの自覚症状は、ある人もない人もいる。病変は徐々に出現し、自然にあるいは誘因の出現と消退に伴って、寛解と再発を繰り返す。 |
滴状乾癬 |
尋常性乾癬に比べて、小さい紅斑が全身に見られる乾癬の1型。小児が風邪を引いた時に急に発症することが多い。風邪が良くなると症状も改善する。時に、尋常性乾癬に移行することがある。 |
膿疱性乾癬 |
発熱を伴って、全身に膿疱(白色~黄色の水疱)がたくさん見られる乾癬の1型。乾癬の中で最も重症。皮膚の膿疱には菌がいるわけでなく、感染することはない。原因は分かっていないが、喉などへの感染症がきっかけとなり、急に症状が出ることが知られている。症状が重いため、入院して治療することが必要。難治性疾患(特定疾患) |
関節症性乾癬 |
関節痛を伴う乾癬の1型( 5~30%の患者で関節炎が発生)。乾癬の皮膚症状があり、血液検査にて「リウマチ因子」が通常、陰性。多くは手の指や足の指の関節炎がみられ、症状は関節リウマチに非常に似ており、生活に支障を来すことがある。最終的に関節破壊を来すこともある。 |
乾癬性紅皮症 |
上記乾癬が、全身に広がり、正常の皮膚がほとんど見えなくなった状態を指す。しばしば発熱を伴い、入院して治療することが必要。 |
乾癬が生命を脅かすことはまれであるが、患者のセルフイメージに影響を及ぼす。患者の外見の他にも、広範な皮膚または頭皮の病変を治療したり、衣類や寝具を良好な状態に保つのにかなりの時間を要するためQOLに悪影響を及ぼす。
検査・診断
乾癬の診断の大半は、病変の臨床的な外観および分布に基づく。尋常性乾癬の皮疹は特徴的であることが多いので、診察のみで診断がつく場合もあるが、きちんと診断をするためには、皮膚生検(皮疹の部分を一部切除して顕微鏡で詳しく観察/検査すること)が必要である。
特に、頭皮や爪のみの皮疹の場合は、似た病気もあるため、生検すべきである。また関節症性乾癬では、リウマチに似た関節の痛みがあり、リウマチと区別するために、採血や関節のX線撮影を行う。
治療
乾癬は治りにくい疾病であり、特に尋常性乾癬や関節症性乾癬、膿疱性乾癬は治療が長期にわたることが多い。症状や発疹の面積に合わせた適切な治療を行う必要がある。
外用療法 |
皮疹の範囲が少ない患者や、場所が限局している場合には、外用薬として副腎皮質ホルモン含有軟膏(コルチコステロイド軟膏)と活性型ビタミンD3含有軟膏(ビタミンD軟膏;カルシポトリオール[カルシポトリエン]又はカルシトリオール)を使用するのが一般的である。 ステロイド軟膏は炎症をとる作用が強く、かゆみなどの症状に対しても非常に有効である。ビタミンD軟膏には、乾癬の皮膚の過剰な増殖を抑える作用がある。ステロイド軟膏と比べて効果が出るまでに時間がかかる場合があるが、ステロイド軟膏で効果のなかった皮疹にも効く場合がある。 カルシニューリン阻害薬(タクロリムス又はピメクロリムス)も外用薬として使用でき、コルチコステロイドほど効果的ではないが、顔面および間擦部に生じた乾癬の治療においてコルチコステロイドの合併症を回避することができる。 |
光線療法 |
紫外線療法は、典型的には病変が広範囲に及んだ(中等症または重症の) 乾癬患者や外用療法では効果が不十分な場合 に使用される。治療に用いられる紫外線(UV)は、近紫外線といい、A波(UVA)、B波(UVB)、C波(UVC)の3つの波長に分けられる。UVCは有害であるため治療には用いない。 |
PUVA療法 |
UVAをそのまま浴びても効果はないが、ソラレン(Psoralen)という物質を飲むか塗った後でUVAを浴びると、乾癬の皮疹に対して効果がある(PUVA療法)。光感受性物質であるmethoxypsoralenを内服させた後、波長の長い(330~360nm)UVAを照射すると、表皮細胞の増殖抑制効果があり、さらに角化細胞の分化を正常化するのにも役立つ。 |
Narrow band UVB療法 |
ナローバンドUVB(311~312nm)療法は、PUVA療法と同程度の有効性を示す。 作用機序は不明であるが、UVBはDNA合成を減少させ、全身性に軽度の免疫抑制を誘導する可能性がある。UVBの波長の中でも、311nm前後の波長が最も乾癬に効果があることが分かり、近年よく用いられるようになった治療法である。利点は、PUVA療法のような内服薬や外用薬が不要で、外来での通院で行うことができる点である。 |
全身療法 |
皮疹が広範囲であったり、関節症状を伴う場合などに全身療法(内服もしくは注射)を行う。 乾癬性関節炎については,関節破壊を予防するために全身療法で治療することが重要であり、メトトレキサートまたはTNF-α阻害薬の投与が効果的である。 |
治療薬(経口剤)
シクロスポリン(ネオーラル) |
免疫抑制剤。免疫を担当するリンパ球の1つである、T細胞の働きを抑える作用。乾癬の原因として免疫異常があり、乾癬ではT細胞が出す様々なサイトカインにより、表皮の細胞が過剰増殖していると考えられている。シクロスポリンはそのT細胞の働きを抑えるため、表皮の増殖が抑えられ、皮疹が良くなる。高い効果が期待できる反面、免疫を抑えることによって感染症にかかりやすくなったり、腎臓に負担がかかったりなどの副作用がある。そのため、感染に対する予防や採血検査が必要。 また、光線療法とは同時に治療を受けることはできない。シクロスポリンは重症乾癬に使用することができるが、その使用は数カ月間に限定し、他の治療法と交代で使用すべきである。 |
エトレチナート(チガソン) |
ビタミンA誘導体の1種。表皮が厚くなるのを抑える作用。厚い皮疹に対して有効な治療であるが、正常な皮膚も薄くしてしまうため、唇や手のひらが剥けてしまうことがある。また、ビタミンAは胎児に対して影響があり、妊娠する可能性がある場合は使用できない。光線療法と同時に治療を受けることが可能で、相乗効果を期待できる。 |
アプレミラスト(オテズラ) |
PDE4阻害剤。免疫を調整する作用。光線療法との併用可能。 副作用:下痢や胃の不快感などの消化器症状 |
治療薬(注射剤)
インフリキシマブ(レミケード) |
TNFαを抑える抗体製剤。 8週間に一回、点滴投与 |
アダリムマブ(ヒュミラ) |
TNFαを抑える抗体製剤。 2週間に一回、皮下注射。 自己注射を行うことも可能 |
ウステキヌマブ(ステラーラ) |
インターロイキン12/23を抑える抗体製剤。 12週間に一回、皮下注射 |
グセルクマブ(トレムフィア) |
インターロイキン23を抑える抗体製剤。 8週間に一回、皮下注射 |
リサンキズマブ(スキリージ) |
インターロイキン23を抑える抗体製剤。 12週間に一回、皮下注射 |
チルドラキズマブ(イルミア) |
インターロイキン23を抑える抗体製剤。 12週間に一回、皮下注射 |
セクキヌマブ(コセンティクス) |
インターロイキン17Aを抑える抗体製剤。 4週間に一回、皮下注射。 自己注射も可能 |
ビメキズマブ(ビンゼレックス) |
インターロイキン17A/17Fを抑える抗体製剤。 8週間に一回、皮下注射。 自己注射も可能 |
イキセキズマブ(トルツ) |
インターロイキン17Aを抑える抗体製剤。 4週間に一回、皮下注射。 自己注射も可能 |
ブロダルマブ(ルミセフ) |
インターロイキン17を抑える抗体製剤。 2週間に一回、皮下注射。 自己注射も可能 |
セルトリズマブ(シムジア) |
ペグ化TNFαを抑える抗体製剤。 2週間に一回、皮下注射。または4週間に一回、皮下注射。 自己注射も可能 |
スペソリマブ(スペビゴ) |
インターロイキン36を抑える抗体製剤。 一回の点滴投与 |
予防
乾癬の予防策としては、下記のような対策が知られている。
- バランスの良い食事
- 肥満やメタボリックシンドロームとの関連あり
- カロリーの高い肉類や脂肪は避ける
- 野菜を増やす
- 栄養バランスの良い食事を心がける
- 衣服の選択
- 皮膚に直接触れるものは綿素材にする
- 化学繊維やウール製品は避ける
- 身体をしめつけないゆったりとしたものを選択する
- 禁煙
- タバコに含まれる物質が、乾癬を悪化させる
- 感染症の予防
- 風邪や扁桃腺炎などの感染症を予防
- 感染症は乾癬の症状を悪化させる
- 手洗い・うがいを行い、感染予防を心がける
- 風邪や扁桃腺炎などの感染症を予防
あとがき
膿疱性乾癬は、乾癬の中でも重症のため、入院で厳重な治療を要することが多い。頻度としては非常にまれで、「指定難病」に認定されている疾患である。
膿疱性乾癬は、皮膚が赤くなり、その上にたくさんの膿疱(膿が入った水ぶくれのようなもの)が現れる乾癬の一種で、膿疱性乾癬は、急な発熱や体のだるさとともに発症し、皮膚上に多発する無菌性膿疱が特徴である。
膿疱性乾癬は、体全体に広く分布する「汎発型」と、体の一部に限局する「限局型」に分けられる。特に汎発型では、全身に生じた膿疱が破れることで皮膚のバリア機能が低下し、発熱や脱水などの全身疾患につながるリスクが高くなる。
膿疱性乾癬の原因は、遺伝子的・体質的な素因が関わっているとされている。特に、炎症を適切に制御する役割を担うIL36RN遺伝子と関連性が深いことが知られている。このIL36RN遺伝子に異常が生じると、うまく炎症を抑制することができなくなり、膿疱性乾癬の発症につながると推定されている。
2022年11月16日に、ヒト化抗ヒト IL-36 レセプターモノクローナル抗体製剤(スペビゴ点滴静注450mg)が日本でも発売になった。適応症が「膿疱性乾癬における急性症状の改善」であるから、膿疱性乾癬が外来で治療できるようになったことを意味する。これは、膿疱性乾癬患者にとっては福音ではなかろうか。
【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |
スペビゴ点滴静注450mg (pmda.go.jp) |