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HIV感染症(AIDS)とは?原因?症状は?診断と治療は?予防は?

はじめに

エイズを題材にした映画やドラマはいくつか存在する。エイズという重いテーマを扱いながらも、人間の生きる力や希望、愛情などを描いており、視聴者に深い感銘を与えた。

日本の作品にも「私を抱いてそしてキスして」(1992年)という東映が製作・配給した映画(監督:佐藤純彌氏)がある。主演は南野陽子さんで、日本映画で初めてエイズ問題を正面から描いた作品であり、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した家田荘子の同名ノンフィクションを原作としたものである。

私が、エイズについて知るきっかけになったのが、この映画を観たことであったと思う。かなり昔の映画なので、今では内容もよく覚えていないが、世間ではエイズへの偏見と差別が満ち溢れていた時代の映画として、エイズについての正しい知識を啓蒙するような役割を果たしたと思っている。少なくとも私にはそのように思える映画であった。


<目次>
はじめに
HIV感染症(AIDS)とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

HIV感染症(AIDS)とは

AIDSは、Acquired Immunodeficiency Syndrome(後天性免疫不全症候群)の略称であり、HIVヒト免疫不全ウイルス)の感染によって起こる疾病である。

血液や体液(精液、膣分泌液や母乳など)に含まれるHIVが粘膜や傷口から体内に入り、さらにCD4と呼ばれる構造をもつリンパ球(CD4陽性リンパ球)に感染し、細胞性免疫および液性免疫を阻害する。

HIVヒト免疫不全ウイルス)は、ヒトの免疫細胞に感染し、これを破壊し、最終的に後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症させるウイルスである。HIVは、血液や体液を介して感染する。主な感染経路には、性行為、注射器の使い回し、母子感染、非加熱製剤による感染が知られている。

リンパ球の中で増えたHIVはリンパ球の外へ出て行き、新たなリンパ球に感染し増殖を続ける。その結果、リンパ球が次々と破壊され免疫能が次第に低下していく。一般的に感染してから数年で様々な日和見感染症(免疫力があれば問題にならない病原微生物による感染症)や悪性腫瘍を発症し、 AIDS となる。

現在、我が国では毎年1,000人以上の新規HIV感染者が報告されている。その多くは、異性間または同性間の性的接触によるものと推測されている。自分が知らないうちに、相手が不特定多数と接触している場合もあり、感染予防(コンドームの着用)や早期発見(抗体検査の受診)などの啓発が必要である。

治療をしなければ一命にかかわる疾病であるが、薬物療法もめざましく進歩している。ウイルスを体から完全に除くことは不可能であるが、定期的に薬を飲み続けることにより、免疫健常者と変わらない日常生活を送ることが可能となっている。


原因

HIVは、主に性的接触、注射を介した汚染血液への曝露、ならびに出産前および周産期の母子感染により広がる。

免疫系の損傷に加え、頻発するウイルスの変異により、HIV感染を排除する身体の能力が有意に障害される。 種々の日和見感染症および悪性腫瘍が発生する可能性があり、無治療の患者では通常これらが死因となる。


症状

急性期(感染初期:感染後2週間~3ヶ月)
発熱、のどの痛み、だるさ、筋肉痛などの風邪やインフルエンザのような症状が出る場合がある。これらの症状は数週間でなくなり、次の無症候期へ移行する。
無症状期(感染後数年~10数年)
感染初期には免疫機能が正常に働くため、いったんはウイルスが減少する。そのため感染初期の症状はなくなり、症状のない期間が、約5~10年続く。この無症状の期間は人によって差がある。しかし、HIVはリンパ球を破壊しながら増え続ける。その結果リンパ球が次第に減少し、免疫力が低下していく。患者によっては経過中に帯状疱疹や口の中のカンジダ症がみられることもある。
AIDS発症期
免疫力がさらに低下すると、下痢や寝汗、急激な体重減少などがみられることがある。そのうちに、正常な免疫力があればかからないカビ、原虫(寄生虫)、細菌、ウイルスなどによる日和見感染症や悪性腫瘍、神経障害など様々な症状が出てくる。HIV感染者が指標疾患に罹患していることが確認されるとAIDSと診断される。抗ウイルス療法を受けなかった場合、感染後の最初の数年間は毎年1~2%、その後は毎年およそ5%がAIDSを発症する。HIVに感染してから10年経つまでに半数がAIDSを発症し、最終的にはほぼ全例がAIDSになる。

検査・診断

抗体検査により診断し、ウイルス量およびCD4陽性細胞数の測定によりモニタリングする。

血液中のHIVに対する抗体を調べる(スクリーニング法)が、感染初期に風邪のような症状で受診した場合に、実際にはHIVに感染しているのに抗体検査が陰性になることがある(ウィンドウ期間)。そのため抗体検査が陰性でもHIV感染が疑われる場合にはしばらく時間をおいて再検査を行う必要がある。

また抗体検査では約0.2~0.3%が偽陽性(HIVに感染していないのに検査で陽性と判定される)となるので、陽性と判定された場合には精密な検査(確認検査)を行う。


治療

治療は、HIVに対する治療と、日和見感染症に対する予防および治療がある。

抗レトロウイルス薬(抗HIV薬)の多剤併用により治療し、一貫して薬剤が服用されれば、ほとんどの患者で免疫機能をほぼ正常に回復させることが可能である。

HIV感染者には、安全な性行為、定期的な運動および健康的な食事の重要性、並びにストレス管理について定期的に助言を行う。

適応があれば、抗レトロウイルス薬による曝露後および曝露前予防を行う。CD4陽性細胞数に基づき、日和見感染症に対する一次予防を施行する。

無症状期にHIV感染が発見された場合
ウイルス量やリンパ球数を定期的に測定する。抗HIV薬の投与を開始する。
AIDS発症で診断された場合
AIDS指標疾患の種類によっては、抗HIV療法よりも指標疾患に対する治療を先に行う場合がある。日本で多くみられる指標疾患は、結核、ニューモシスチス肺炎、クリプトコッカス髄膜炎、サイトメガロウイルス感染症などである。これらの感染症の病状が安定し、適切な時期にHIVの治療を開始する。

予防

HIV感染症(AIDS)の感染予防対策としては、次のような対策が知られている。

  • 性行為
    • 性行為は、最も多い感染経路である
    • 不特定多数の人との性行為は避ける
    • 性的接触の際は必ずコンドームを使用する
    • オーラルセックスでも口腔粘膜から感染する
  • コンドームの正しい使用
    • コンドームを正しく使用する
    • 爪などでコンドームに傷をつけない
    • 最初から装着すること
    • 潤滑剤は水溶性のものを使用する
    • 油性オイルではコンドームが破れることがある
  • 医療機関における対策
    • 血液や髄液、髄液などの体液を介しての感染に要注意
    • 入院患者間の通常の接触では感染リスクはない

あとがき

1980年代に血友病患者に対し、加熱処理をせずウイルスの不活性化を行わなかった血液凝固因子製剤(非加熱製剤)を治療に使用したことにより、多数のHIV感染者およびエイズ患者を生み出した事件は「薬害エイズ事件」として知られている。

血液凝固因子製剤(非加熱製剤)は、血液を原料として製造され、その過程でHIVに感染している血液が混ざると、製剤自体もウイルス感染してしまう。非加熱製剤は、ウイルスの不活性化を行わないまま流通し、治療に使用された結果、日本国内の血友病患者約5000人のうち、約2000人がHIVに感染し、多くがエイズを発症して死亡するに至った。まさの「薬害」であった。

この事件は、安全な血液製剤の供給が十分可能になった後も、日本政府による「未使用非加熱製剤の回収措置」が即座に講じられなかったことが、被害拡大の主因であると指摘されている。この薬害事件を受けて、現在では血液製剤の安全性がより厳しく管理されるようになっている。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版