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潰瘍性大腸炎とは?原因と症状?検査・診断と治療法は?予防は?

はじめに

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜(最も内側の層)に炎症や潰瘍ができる病気である。この病気は、免疫の異常により大腸の粘膜に炎症が起こり、下痢や血便を引き起こす原因不明の病気である。

10代から30代で発病し長年続くことが多く、大腸がんなどの原因となることがあると言われている。重症になると、発熱、体重減少、貧血などの全身の症状が起こるとされる。また、腸管以外の合併症として、皮膚の症状、関節や眼の症状が出現することもあると言われている。

日本での潰瘍性大腸炎の患者数は、1991年に実施された全国調査では人口10万人あたり18.12人であったが、2013年には約100人となり、2014年には134.4人にまで増加している。

日本で潰瘍性大腸炎の患者数が増加している理由は、完全には解明されていないが、可能性のある理由の一つとして、食生活の欧米化が挙げられている。食生活が欧米化するにつれて、動物性の蛋白質や脂肪の摂取量が増えている。これらの食事成分の変化は潰瘍性大腸炎だけでなく、大腸がんの患者数の増加とも一致しているという。

また、食生活の欧米化により、腸内細菌叢と腸管免疫機序に乱れ(腸内細菌叢の変動)が生じ、発症・増悪に向かいやすい腸内環境になっているとも推測されている。これらの要素は複雑に絡み合っており、それぞれの要素がどの程度影響しているのかは不明である。個々の患者によっても異なっていることだろう。


<目次>
はじめに
潰瘍性大腸炎とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)は、大腸の粘膜を侵す炎症性かつ潰瘍性の慢性疾患で、ほとんどの場合に血性下痢を特徴とする。

潰瘍などを生じることにより、粘液便、血便、下痢、腹痛などの腹部の症状をきたす。寛解維持できれば、日々の生活にあたっては大きな制限を受けることなく、一般と同じようなライフスタイルを送ることができるが、結腸癌の長期リスクが非罹患者と比較して高くなる。

日本における潰瘍性大腸炎の患者数は年々増加していると報告されいる。国内推定患者数は、現在約15万人以上とされている。患者数に男女差はなく、20~40歳代に多く発症する。


原因

潰瘍性大腸炎は、通常、直腸から始まる。直腸に限局することもあれば(潰瘍性直腸炎)、ときに結腸全体を侵すこともある。潰瘍性大腸炎による炎症は、粘膜および粘膜下層を侵し、正常組織と罹患組織の間に明瞭な境界がみられる。筋層は重症例でのみ侵される。

疾患の初期では、粘膜は紅斑性、微細顆粒状でもろく、正常な血管パターンを欠き、しばしば出血部が散在している。重症例は、粘膜の大きな潰瘍およびそれに伴う大量の化膿性滲出液を特徴とする。

明確な原因は不明であるが、遺伝的な要因や食事や腸内細菌などの環境的な要因に免疫機能の過剰・異常が生じ、発症して持続するものと考えられている。遺伝的な要因といっても実際に両親が潰瘍性大腸炎であっても、多くの場合その子供は潰瘍性大腸炎にはならない。


症状

症状としては、下痢、下血、血便、粘液便などの排便異常が主体で、必ずしも腹痛は伴わない。重症になると、貧血や全身倦怠感、頻脈、高熱などの全身状態の低下を伴ってきる。

貧血や発熱、頻脈は、重症度を決めるのに重要な指標になる。また口内炎、関節炎、皮膚症状(結節性紅班、壊疽性膿皮症)、眼症状(虹彩炎)などの腸管以外の臓器に合併症(腸管外合併症)を生じることもある。

潰瘍性大腸炎は、 次の3つの型に大別できる。

初回発作型
発症時のみでその後再び悪化することがない
再燃寛解型
症状の悪化と寛解を繰り返す
慢性持続型
症状が持続する

検査・診断

診断は大腸内視鏡検査による。

問診
上記の潰瘍性大腸炎の症状(粘血便や下痢)が持続、反復することが診断基準の1つに挙げられている。潰瘍性大腸炎と間違えやすい疾病として感染性腸炎があるが、多くの場合1週間以内に症状が改善、消失する点、便培養検査、内視鏡検査などで区別する。診察では1日の便回数、血液や粘液が混じっているか、便の性状(軟便、泥状便、水様便)、腹痛の有無などが問診される。
大腸内視鏡検査
大腸粘膜の炎症範囲、程度を判断したり、よく似た症状をきたす他の疾病と区別するのに必要な検査。必要に応じて生検を行うこともある。粘膜の性状や生検による組織検査は診断基準の1つに挙げられているので、発症した際には大腸内視鏡は必要な検査である。
血液検査
疾病の重症度や病勢を把握するのに重要な検査。血液検査では1)炎症の程度を把握(CRP、赤血球沈降速度(赤沈、血沈)、白血球数)、2)貧血の程度を把握(ヘモグロビン値、赤血球数)、3)栄養状態(総タンパク、アルブミン値)を把握することができる。ただし潰瘍性大腸炎では炎症が軽症~中等症ではCRPが上昇しないことも多く、他の検査や症状などを合わせて総合的に判断する。
便潜血検査
見た目に正常な便であっても、少量の血液が混じっていることがあるため、便検査を行うことがある。もともとは大腸がんの発見に使用されている検査法であるが、便潜血検査の結果はある程度内視鏡の重症度と関連があるとされており、炎症の程度を把握するために体の負担が少ない点で注目されている。

治療

治療は、5-アミノサリチル酸(5ASA)製剤 、コルチコステロイド、免疫調節薬、生物製剤および抗菌薬の薬物療法のほか、ときに手術が必要である。

軽症から中等症例
第1選択薬として、5ASA製剤(メサラジン、サラゾピリン、ペンタサ、アサコールなど)が投与される。直腸炎型や左側大腸炎型では、サラゾピリン坐薬やペンタサ注腸薬が選択あるいは併用される場合もある。改善が得られない場合には、ステロイド(経口プレドニン)が考慮される。中等症ではステロイドとの併用または単独で、血球成分吸着・除去療法を選択することもある。
重症例
強い腹痛や高熱、全身的な消耗が激しく重症に分類されるような症例は、入院での治療が適応となる。絶食の上ステロイドを点滴で使用する。ステロイドの効果が現れない例や、内視鏡にて潰瘍が非常に深い例や粘膜の脱落が著しい例では経口プログラフ、レミケードの点滴静注、ヒュミラの皮下注射を考慮する。
手術療法
潰瘍性大腸炎は大腸のみを侵す疾病であるので、手術で大腸を全部取ってしまえば基本的には根治できる。しかし、大腸は水分を吸収し、便を形作る働きを担っているので、手術後の便の回数は少なくても5~10回のことが多い。穿孔、生命にかかわる大出血、薬物療法に反応しない重篤な症例、がん化症例は手術が必要であるが、中等症以下であってもQOLを損なう症状が持続するものやステロイド依存症例などの難治例も対象となる。可能な限り腹腔鏡を用いた手術を行う。

予防

潰瘍性大腸炎は、原因がまだ完全に解明されていない病気であるため、確立された予防方法は存在しない。しかしながら、一部の研究では、食生活や生活リズムの乱れ、ストレスの蓄積などが発症に関わっていると考えられている。

潰瘍性大腸炎の予防に役立つ可能性があると考えられる一般的な生活習慣の改善点は下記のようなものである。

  • 健康的な食生活
    • 栄養バランスの良い食事を心がける
    • 特に肉中心の食事をとっている者は要注意
    • 肉よりも魚を多くとるように意識する
    • 野菜も多く食べるようにする
  • 生活リズムの整備
    • 規則正しい生活リズムを保つ
    • 十分な睡眠をとることが推奨される
  • ストレスの管理
    • ストレスや睡眠不足は避ける
    • 自律神経の乱れは潰瘍性大腸炎を悪化させる
    • ストレスを適切に管理する
    • 必要な休息をとる

あとがき

潰瘍性大腸炎は、免疫系の異常や遺伝的要因、腸内細菌叢の変化などが関与していると考えられている。しかしながら、生活習慣の乱れが潰瘍性大腸炎の症状に悪影響を及ぼすとの指摘もある。例えば、ストレスや睡眠不足、食生活の乱れなどは、病状の悪化を引き起こす可能性が高いらしい。

特に、潰瘍性大腸炎の特徴である結腸の炎症の増加は、免疫系や消化器系へのストレスの影響から生じる可能性があり、ストレスによって症状が悪化する可能性が高いとされている。その理由として下記のようなことが挙げられている。

  • 自律神経の乱れ
    • ストレスや睡眠不足などにより自律神経が乱れる
    • 自律神経が乱れると、潰瘍性大腸炎が悪化する
  • 腸内環境の悪化
    • 過剰なストレスは腸内環境を悪化させる
    • ストレスは免疫力の低下につながる
    • 免疫力の低下は潰瘍性大腸炎の発症に影響する
  • 症状の再燃
    • ストレスは潰瘍性大腸炎の直接的な原因ではない
    • 患者においては、症状の再燃にストレスが関与する

腸は、「第二の脳」と言われる臓器である。腸には約1億の神経細胞が存在し、脳に次いで2番目に多いと言われている。腸は腸管神経系と呼ばれる独自の神経系を持っており、これによって脳からの指令がなくても独立して機能できる。さらに、腸は脳と約2000本の神経線維でつながっており、緊密に連携している。これらのことから、大腸も含む腸はストレスの影響を受けやすいということかも知れない。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版