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胃食道逆流症とは?原因は?症状?検査・診断と治療の方法?予防は?

はじめに

私は、頻繁に起きる「逆流」で悩まされたことがあるので、胃食道逆流症(GERD)を疑い、検査してもらったことがある。

その際の経験から、単なる「逆流」と胃食道逆流症(GERD)の違いは、その症状と影響範囲にあることを理解した。

単なる「逆流」は、胃の内容物が食道に逆流する一時的な現象を指し、必ずしも病状を示すものではない。しかし、逆流が頻繁に起こるようであれば、胃食道逆流症の可能性が高いと言える。

一方、胃食道逆流症(GERD)は、胃の内容物が食道に逆流し、食道を刺激することによって引き起こされる疾患である。

この病態は、食道に炎症が起こっている場合は「逆流性食道炎」と呼ぶ。そして、炎症が起きていないけれど、似たような症状のある場合には「非びらん性胃食道症」と呼ぶ。さらに食道に胃壁の組織が出来てしまう場合を「バレット食道」と称する。胃食道逆流症(GERD)とは、これらすべてを合わせた疾患名である。

胃食道逆流症(GERD)をそのままで放置すると、食道の炎症や潰瘍が生じ、さらに進行すれば食道の細胞に異常が生じて悪性化する可能性がある。特に、食道の扁平上皮粘膜が脱落し、酸に強い円柱上皮粘膜に置き換わってしまうことがある。この円柱上皮粘膜がさらに広がるとバレット食道と呼ばれる状態になり、食道がんの発生率が約10倍程度高くなると言われている。したがって、胃食道逆流症は、早めに適切な治療を受けた方が良い。


<目次>
はじめに
胃食道逆流症とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

胃食道逆流症とは

胃食道逆流症GastroEsophageal Reflux Disease;GERD)は、下部食道括約筋の機能不全によって胃酸や胃内容物が食道逆流し(ときに喉頭や肺にも逆流し)、灼熱痛が起こる疾病である。

胸焼け食道粘膜障害(食道炎、消化性狭窄)などの煩わしい症状のいずれかもしくは両方が起きる。内視鏡で食道粘膜障害を認める胃食道逆流症は、逆流性食道炎びらん性胃食道逆流症と呼ばれる。


原因

胃食道逆流症の原因は、簡単にいうと次の3つに集約される。これらは、単なる「逆流」が起こる原因をほぼ同じである

  1. 食道と胃の締まりが悪くなった
  2. 胃に圧がかかる
  3. 胃酸が多く出る

逆流があるということは、食道と胃の境に位置する噴門にある下部食道括約筋というバルブのような働きをする筋肉の機能不全を示唆している。この機能不全は内因性括約筋緊張の全般的消失または再発性の不適切な一過性弛緩に起因することがある。 

下部食道括約筋の一過性弛緩は、胃拡張または閾値以下の咽頭刺激によって引き起こされる。

食道胃接合部が機能を果たす能力に寄与する因子として、噴門食道接合部の角度、横隔膜の動き、重力(立位)がある。

逆流をもたらす可能性がある因子としては、体重増加、脂肪食、カフェイン含有飲料、炭酸飲料、アルコール、喫煙、薬物などが指摘されている。


症状

代表的な症状は、胸やけ胸の痛み胸にものがこみ上げてくる感じなどである。 口腔中への胃内容物の逆流を伴う場合と伴わない場合がある。

胸やけは、みぞおちの辺りから胸にかけて、焼けつく、あるいは、熱くなるような不快感のことをいう。時にはのどまで胃酸が上がってくる感じ(呑酸)があり、痛みをともなう場合もある。

逆流が持続することで、合併症である食道炎消化性狭窄が引き起こされることがある。食道炎は嚥下痛、場合によっては食道出血を引き起こすことがある。消化性狭窄により、固形物の嚥下困難が徐々に進行する。

消化性食道潰瘍は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍と同様の疼痛を引き起こすが、疼痛は通常剣状突起または高位の胸骨下領域に限局する。消化性食道潰瘍は、治癒が遅く、再発しやすく、通常は治癒後に狭窄を残す。

のどまであがってきた胃酸によって、喉の違和感や気管支喘息、中耳炎をおこす患者もいる。肩こりや耳の痛み、背部痛、口の苦味、寝汗などを自覚する患者もいる。

以上のように患者によって、さまざまな症状が報告されているが、一般的には、胸焼け喉の痛み吐き気などに集約される。したがって、これらの症状が持続して感じられる場合は、医師に相談した方が良い。


検査・診断

胃食道逆流症の診断は、問診内視鏡検査などで行われる。内視鏡検査では、食道の粘膜に炎症が起きているかを確認する。

また、さらに病名を特定するための検査としては、24時間pHインピーダンスモニタリング検査と呼ばれる食道表面のpH値を24時間にわたってモニターする検査もある。

問診
患者の自覚症状を確認した上で、食道炎の診断を下すために 内視鏡検査を行う。
内視鏡検査
逆流性食道炎の診断のためには内視鏡検査で食道の炎症の程度を調べる。食道裂孔ヘルニアを合併していないかも確認する。胃の一部分がこ 横隔膜より上にずれている状態を食道裂孔ヘルニアという。
Grade所 見
N内視鏡的に変化を認めないもの
M色調が変化しているもの
A長径が5mmを越えない粘膜障害で粘膜ひだに限局されるもの
B少なくとも1ヵ所の粘膜障害が5mm以上あり、それぞれ別の粘膜ひだ上に存在する粘膜障害が互いに連続していないもの
C少なくとも1ヵ所の粘膜障害が2条以上のひだに連続して広がっているが、全周性でないもの
D全周性の粘膜障害
内視鏡検査による逆流性食道炎の分類
改訂ロサンゼルス分類に従い、食道炎の程度は6段階に分類されている

治療

胃食道逆流症の治療は、主として薬物療法(内服薬の使用)であるが、合わせて生活習慣の改善も重要となる。

薬物療法では、胃酸を抑える治療が主体になる。胃酸を抑える治療は、中断すると同じ症状が出てくることが多く、治療が長引くことがある。したがって、なるべく食道の中に胃酸や食事内容が逆流しないように生活習慣をととのえることが主眼になる。

実際の治療は、薬物療法生活習慣の改善で取り組む。症状がなかなか改善しない場合には手術療法を行うこともある。

薬物療法
胃酸を抑える内服薬にはヒスタミン受容体拮抗薬プロトンポンプ阻害薬の二種類がある。プロトンポンプ阻害薬 (Proton Pump Inhibitor; PPI)の方が胃酸を抑える力が強く、患者の多くが内服しており、ほとんどの患者の症状は改善する。

8週間、通常量のPPIを投与しても食道粘膜障害と胸焼けなどの煩わしい症状のいずれかもしくは双方が改善しない場合はPPI抵抗性胃食道逆流症と考えられる。

胃の手術の影響のため腸液や胆汁といった消化液が食道に流れ込むことで食道炎を起こす場合には消化液の力を弱める蛋白分解酵素阻害薬の内服が有効である。
生活習慣の改善
寝る直前に食事を取らないことがとても重要である。なるべく胃の中に物が入っていない状態で寝る。また、左を下にして寝ると胃袋が食道よりも下になるため、逆流を防げる。しかしながら、 横になると、胃袋は食道と同じ高さになり、胃の内容物が食道に流入してしまうので、暴飲暴食を控えることが重要である。油ものは症状を悪くすることが多い。また、朝の胸やけが強い患者は起床時に水などを一杯飲むだけでも症状が楽になる。メタボリックな体型の患者は、胃袋にかかる圧力が強く、胃の中に入った食事が食道に戻りやすくなることが知られている。減量することで症状が消えることもある。
手術療法、内視鏡治療
症状が強く、内服薬を長い期間継続しないと症状が抑えられない場合、患者の希望によっては手術療法をおこなうこともある。

予防

胃食道逆流症の予防には下記のようなことが推奨されている。いずれも健康的なライフスタイルを目指すための生活習慣の改善に関するものばかりである。

  • バランスの取れた食事の維持
  • 適切なタイミングでの食事
  • 少量で頻繁な食事の試み
  • 食べ過ぎ・飲み過ぎは厳禁!
  • 十分な水分補給
  • 食事の直後に横にならない
  • 睡眠中に頭を支えたままにする
  • 辛い食べ物(刺激性の高い食材、香辛料)を避ける

あとがき

私は、経験する「逆流」は一時的な現象であり、胃食道逆流症(GERD)ではないことが、検査してもらった結果、判明した。

私が、朝、歯ブラシを口に入れたときに吐き気や逆流を感じる原因は、「嘔吐反射」と呼ばれる反射的な反応が関与している可能性が高いということだ。嘔吐反射とは、舌や喉に何かが触れると自動的に起こる反射で、これが強いと私のように歯ブラシを口に入れただけでも吐き気を感じることがあるらしい。

さて、胃食道逆流症(GERD)であるが、この疾患の症状や状態は、個々の病状により異なるが、一般的には下記のような状況では深刻に捉えた方が良さそうだ。

  • 逆流性食道炎
    食道に炎症が生じている状態。症状が重症化し、日常生活が妨げられる場合がある。
  • 食道潰瘍
    食道の粘膜がただれて破れたもので、飲み込むときに痛みが生じることがある。
  • 食道狭窄
    逆流によって食道が狭くなると、固形の食べ物が次第に飲み込みにくくなる。
  • バレット食道
    食道の細胞が変化し、前がん状態になることがある。この状態は食道がんに進行する可能性がある。

胃食道逆流症(GERD)自体が直接的に食道がんを引き起こすわけではないが、GERDが長期間放置されると、食道の細胞が変化し、前がん状態である「バレット食道」を引き起こす可能性があるということだ。バレット食道は、食道がん(特にバレット腺がん)に進行するリスクが高まる状態であるので、この状態になるのは何とか避けたい。

したがって、GERDは、放置せずに医師に相談し、早めに治療した方が良いと思う。心当たりのある方は、参考にして下さい。


【参考資料】

KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版