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インフルエンザとは? 原因は何? 症状は?診断と治療は?予防は?

はじめに

インフルエンザには季節性の流行があり、日本では、例年12月から3月が流行シーズンと言われており、2月頃に流行のピークを迎えることが多い。インフルエンザウイルスは、湿度が20%以下の乾燥した空気と、気温が20度以下という条件が重なった環境下で活発になる性質がある。そのため、気温が下がり空気が乾燥する12月から3月頃に特に流行しやすいとされている。

つまり、寒くて乾燥した季節である冬季にインフルエンザが流行する。そのため、北半球では10月から翌年3月、南半球では4月から9月に発生すると言われている。国際化した現代社会では、地球上のどこかではいつもインフルエンザが流行しているようなものである。

インフルエンザは、高齢者で重症化しやすいとされている。特に基礎疾患のある者や高齢者では、38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が急に現れ、肺炎を伴うなど重症化する可能性が高い。インフルエンザワクチンの最も大きな効果は、この重症化を予防することである。

ワクチン接種を受けた高齢者は、死亡リスクが5分の1に、入院リスクがおよそ3分の1から2分の1まで減少することが期待できるらしい。高齢者にインフルエンザの予防接種が推奨される理由は、この「重症化対策」であることを理解したい。


<目次>
はじめに
インフルエンザとは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

インフルエンザとは

インフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルス(Influenza virus)の感染により急性症状(発熱、鼻感冒、咳嗽、頭痛、および倦怠感)を引き起こすウイルス性呼吸器感染症である。

季節的な流行(日本では毎年12月下旬から3月上旬にかけて流行)の際には特に高リスク患者(低年齢児と高齢者、心肺機能不全患者、妊娠後期の妊婦など)の間で死亡も起こりうる。

インフルエンザウイルスが毎年秋から冬にかけて活発なるのは、低温で乾燥した状態に適応でき、冷たい乾燥した空気は気道粘膜の抵抗力を弱めることなどが関係していると考えられている。

インフルエンザウイルスの潜伏期間は短く、感染力が強いため、いったん流行が始まると、免疫のない乳幼児や免疫力の低下している高齢者まで多くの人に感染する。 パンデミックの間は、健康な若年患者でさえ死に至る可能性がある。


原因

インフルエンザの原因は、インフルエンザウイルスによる呼吸器感染である。

インフルエンザウイルスは、構造の違いによりA型・B型・C型の3種に分かれる。このうち主にA型とB型がヒトに感染し、発病させるので重要である。

季節性の流行はA型およびB型インフルエンザウイルスの両者によって引き起こされる。1968年以来、季節性インフルエンザの大部分がH3N2(A型インフルエンザウイルス)によって引き起こされている。B型インフルエンザウイルスは、より軽度な疾患を起こすが、そのシーズンの優勢なウイルスとして、あるいはA型インフルエンザとの共感染により、中等症または重症疾患の流行を引き起こすことがしばしばある。

A型ウイルスは、構造の違いにより多数に分かれ、鳥や多くの動物に感染する。従来は、A/H1N1(ソ連)型ウイルスとA/H3N2(香港)型ウイルス、及びB型ウイルスの3種類が毎年少しずつ型を変えながら流行していたが、A型には数十年ごとに大きく構造が異なるウイルスが出現し、新型インフルエンザとして地球規模の大流行(パンデミック)を起こし、スペイン風邪や香港風邪などのように多数の死者を出してきたケースもある。

流行年 インフルエンザウイルス感染によるパンデミック変遷
1889ロシアインフルエンザ(H2N2)
1900旧香港インフルエンザ(H3N8)
1918スペインインフルエンザ(H1N1)
1957アジアインフルエンザ(H2N2)
1968香港インフルエンザ(H3N2)
2009豚インフルエンザ (インフルエンザA[H1N1]pdm09型)
米国、メキシコでヒトからヒトに感染するようになり、新型インフルエンザとして世界中に拡大し、ほとんど全てこのウイルスの流行になった。

中国大陸を中心にA/H7N9型という比較的病原性の高いウイルスの局地的流行が報告されるようになった。

高病原性鳥インフルエンザであるA/H5N1型は、動物間の感染が主体で、動物からヒトへの感染は非常に濃厚な接触例に限られるとされている。しかし、変異型が出現した場合、ヒトからヒトへ感染し大流行を起こす可能性も示唆されている。


インフルエンザウイルスの感染拡大は、空気中の飛沫による拡散が最も重要な機序と考えられている。 感染防止には、マスクの着用や十分な手洗いが必要である。

空中の飛沫(飛沫感染
ヒトとヒトの接触
汚染された物体との接触

インフルエンザ抗原

ヘマグルチニンH)は、インフルエンザウイルスの表面上に発現している糖タンパク質で、ウイルスはHを介して細胞のシアル酸に結合し、宿主の細胞膜と融合する。

別の表面糖タンパク質であるノイラミニダーゼNA)は、酵素作用によってシアル酸を取り除き、感染した宿主細胞からのウイルスの放出を促進する。

18種H型11種NA型があり、したがって198種の組合せが可能であるが、そのうちヒトの病原体となるのは数種のみである。

抗原連続変異(antigenic drift)とは、既存のHおよびNA抗原の組合せに比較的小さな進行性突然変異が発生する現象であり、その結果として新種のウイルス株が頻出する。それらの新種株に対しては以前の株に対して産生された抗体による保護効果が低下するため、それらの新種株が季節的流行を引き起こすことがある。

抗原不連続変異(antigenic shift)とは、Hおよび/またはNA抗原の新しい組合せが発生する比較的まれな現象であり、これはウイルスゲノムのサブユニットが再集合することに起因する。他の株に対する抗体(予防接種または自然感染によるもの)は、新種株に対してほとんどないので全く保護作用を示さない。そのために抗原不連続変異パンデミックを引き起こすことがある。


症状

インフルエンザウイルスは、鼻咽頭、のど、気管支などの細胞に感染し、1~4日間の潜伏期間(平均は約48時間 )を経て、悪寒、頭痛、背中や四肢の筋肉痛、関節痛、強い全身倦怠感などを伴って突然38~40度の高熱を出す。発熱は3~7日間持続する。

軽症例では、感冒に類似する症状が多い(咽頭痛や鼻漏など)。軽度の結膜炎も起こりうる。成人における典型的な症状は、突然発症する悪寒、発熱、極度の疲労、咳嗽、ならびに全身の疼痛(特に背部および下肢)を特徴とする。

頭痛が顕著で、しばしば羞明および眼球後部の疼きを伴う。呼吸器症状は最初軽度で、ヒリヒリする咽頭痛、胸骨下の胸やけ、乾性咳嗽、およびときに鼻感冒を伴うことがある。その後は下気道疾患が優勢になっていき、咳嗽が続き、かすれてきて痰を伴うようになる。

小児では顕著な悪心、嘔吐、または腹痛がみられることがあり、乳児は敗血症様症候群を呈しうる。

2~3日経過すると急性症状は急速に治まるが、発熱は5日間程持続することがある。咳嗽、筋力低下、発汗、および疲労が数日間、ときに数週間持続することがある。

ライノウイルスやコロナウイルスにより起こる普通の風邪でも同様の鼻咽頭やのど、気管支などの局所症状や熱や頭痛などの全身症状が出現するが、インフルエンエンザの方がよりその程度が強いとされている。

インフルエンザは健康な成人では1週間ほどで治るが、肺炎や心臓の筋肉の炎症、乳幼児では中耳炎や熱性けいれんなどを合併することがある。肺炎は、悪化する咳嗽、血痰、呼吸困難により示唆される。初期疾患が治癒したかのように見えた後に発熱および咳嗽が持続または再発する場合は、二次性の細菌性肺炎が示唆される。

小児ではアスピリンを使うとライ症候群と呼ばれる脳症状を起こすことがある。

また高齢者や乳幼児、妊産婦、肺気腫などの呼吸器疾患、慢性心不全などの循環器疾患、糖尿病、腎不全(血液透析)、免疫不全(薬による免疫低下も含む)などの患者ではインフルエンザにかかるとこれらの症状が悪化したり、インフルエンザ罹患後の重篤な細菌による肺炎や脱水症を起こして命にかかわることもある。


検査・診断

診断は通常、臨床的に、また地域の疫学的パターンに基づいて行う。インフルエンザワクチンは禁忌のない6カ月以上の全ての人に毎年接種すべきである。抗ウイルス治療は罹病期間をおよそ1日短縮することから、高リスクの患者には特に考慮すべきである。

特徴的な症状や経過を示すため、流行期なら典型例の診断は難しくなく、インフルエンザ様の症状があり、他に強く疑われる疾患がなければ、臨床的にインフルエンザと診断する。より正確に診断するためにはインフルエンザウイルスに感染しているかどうかを検査する。

血液検査でインフルエンザに対する抗体を調べたり、ウイルスを見つければ確実に診断できるが、すぐに結果が出ないので、のどや鼻の奥にいるA型およびB型のウイルスを迅速に見つける検査が普及している。

一般的には鼻から綿棒をのどの奥まで進め、のどをぬぐってきて、それでインフルエンザウイルスの有無を検査する。この検査の欠点は、インフルエンザの患者を見落として陰性と判定する可能性があることである。特に発病初期にはまだウイルスの量が少ないため陰性に出やすいこともあり、検査が陰性だからといってインフルエンザを否定することはできないことは理解しておく必要がある。 一方、インフルエンザでない患者で誤って陽性と判定する可能性は低い。


治療

一般療法
安静、休養、特に睡眠、水分を十分に摂ることが重要。 免疫健常者では抗インフルエンザ薬を使用しなくても、自然に治癒する。
対症療法
全身倦怠感を軽くしたり、熱を下げる薬を使うこともあるが、インフルエンザウイルスの感染による脳障害を起こしやすくする解熱剤があるので、15歳未満の患者にはアセトアミノフェンを使う。大人のインフルエンザでは小児のような制限はないが、解熱薬は医師の判断により使用する。
薬物療法
主な治療薬として、 オセルタミビル(タミフル/経口剤)、ザナミビル(リレンザ/吸入剤)、ラニラミビル(イナビル/吸入剤)、ペラミビル(ラピアクタ/注射剤)がある。 これらの薬剤には、細胞内で増えた インフルエンザ ウイルスが細胞の外へ飛び出して行く時に必要なノイラミニダーゼの働きを抑える効果がある。バロキサビル(ゾフルーザ/経口剤)には、インフルエンザ ウイルスが細胞の中で増えるのを抑制する機序 がある。治療効果には薬剤間で大きな差はないようである。 投薬が必要なのは、重症患者や、乳幼児、高齢者、妊産婦、持病のある患者などである。

薬剤の基本的な効果は、発症から48時間以内に使い始めると発熱期間が1~2日間短くなるというものであり、インフルエンザをただちに完治させるものではない。熱が下がっても感染性があるので、他者への感染防止に努めなければならない。

開始時期が発症から48時間以上遅れると治療効果はないので投薬の意義がなくなる。尚、抗菌剤はインフルエンザウイルスには効果はない。

インフルエンザ治療薬

発症後1~2日以内に抗ウイルス薬を投与すると、発熱期間、症状の重症度、および正常の活動に戻るまでの時間が減少する。

抗ウイルス薬による治療は、インフルエンザ様症状を発症している高リスク患者(全ての入院患者を含む)に推奨される。これは早期治療がこれらの患者の合併症を予防しうることを示唆するデータに基づいて推奨されている。

ノイラミニダーゼ阻害薬は、感染細胞からのインフルエンザウイルスの放出を妨げることにより、ウイルスの拡散を阻害する。

一方、エンドヌクレアーゼ阻害薬は、ウイルスRNAの転写を阻害することにより、ウイルスの複製を妨げる。


オセルタミビル(ノイラミニダーゼ阻害薬)
12歳以上の患者には75mgを1日2回経口投与するが、1歳前後の小児には減量して投与してもよい。オセルタミビルは、ときに悪心および嘔吐を引き起こす。
ザナミビル(ノイラミニダーゼ阻害薬)
吸入器を用いて2パフ(10mg)を 1日2回投与するが、成人と7歳以上の小児に使用できる。ザナミビルはときに気管支攣縮を引き起こすため、反応性気道疾患のある患者に使用すべきではなく、また、吸入器を使用できない患者もいる。
ペラミビル(ノイラミニダーゼ阻害薬)
静注で単回投与する薬剤であり,経口薬や吸入薬に耐えられない2歳以上の患者に使用できる。B型インフルエンザに対するこの薬剤の使用を検討した研究は少ない。
ラニラミビル (ノイラミニダーゼ阻害薬)
プロドラッグであり、吸入投与後、ラニナミビル(活性代謝物)に変換され、ウイルスの増殖部位である呼吸器に長時間にわたり貯留し、作用を示す。1日1回投与で、小児から成人までのA 型又はB 型インフルエンザウイルス感染症患者に対して有効性が確認されている。
バロキサビル(エンドヌクレアーゼ阻害薬)
12歳以上の体重40~80kgの患者には40mgを経口で単回投与し,体重80kg以上の患者には80mgを経口で単回投与する。発症後48時間以内で,他の点では健康であり,かつ高リスクではない12歳以上の合併症のないインフルエンザ患者に使用することができる。

予防

インフルエンザの感染予防対策としては、下記のような方法が知られている。これらの予防策を日常生活に取り入れることで、インフルエンザの感染リスクを減らすことができるとして、実践することが推奨されている。

  • 手洗いと咳エチケット
    • 外出先から帰宅時や調理の前後、食事前に手洗いを実施
    • 咳やくしゃみが出るときはマスクを着用
  • マスクの着用
    • 外出時のマスク着用を推奨
    • 高齢者等重症化リスクの高い方への感染を防ぐため
    • 医療機関を受診する時
    • 医療機関や高齢者施設などで高齢者と面会時など
  • 予防接種
    • インフルエンザワクチンの予防接種
      • 発症をある程度抑える効果
      • 重症化を予防する効果
      • 齢者や基礎疾患のある方には特に推奨される
      • 罹患すると重症化する可能性が高い方には効果が高い
  • 適度な湿度の保持
    • 空気が乾燥すると、のどの粘膜の防御機能が低下
    • 乾燥しやすい室内では加湿器などを使用
    • 適切な湿度(50%RHから60%RH)を保つ
  • 人混みや繁華街への外出を控える
    • インフルエンザ流行時は不要不急以外は外出を避ける
    • 人混みや繁華街への外出を控える

あとがき

日本では、例年12月から3月がインフルエンザの流行シーズンと言われており、2月頃に流行のピークを迎えることが多かった。

ところが、不思議なことに、基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)を対象としたインフルエンザ入院サーベイランスにおける統計データによると、シーズン別の入院患者総数は次のようなものであった。

  • 2018/19シーズン:20,719人
  • 2019/20シーズン:13,011人
  • 2020/21シーズン:約14,000人
  • 2021/22シーズン:2021年9月以降(2021/22シーズン)、両半球とも陽性数が増加し、約1年半ぶりにインフルエンザの流行が確認されました。

このように「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」が日本国内で蔓延していた年にはインフルエンザが流行していない。

インフルエンザの流行が抑制された主な理由として、下記のような説明がなされている。一時期、「ウイルス干渉」(特定のウイルスが流行すると他のウイルスの感染/増殖が抑制される現象)が話題になったが、そうではなかったようである。

  • 感染対策の徹底
    • 新型コロナウイルス感染症の感染予防対策がインフルエンザの感染予防にも有効であった
    • 手洗い、マスクの着用、社会的距離の確保など徹底した予防対策がインフルエンザウイルスの感染経路を遮断した
  • 人々の行動変化
    • テレワークの導入、学校の休校、外出自粛など、人々の生活様式や行動が大きく変化したことにより、人々が密接に接触する機会が減少し、インフルエンザウイルスの感染機会が抑制された
  • 免疫力の低下
    • インフルエンザの流行が2シーズン連続で低調となり、人々のインフルエンザに対する免疫力が低下した結果、インフルエンザウイルスが流行しにくい状況が生じた

私たちは、新型コロナウイルス感染症の予防対策として、マスク着用や社会的距離の確保などを徹底した結果、新型コロナウイルス感染症の予防だけでなく、インフルエンザの流行を抑えることができた。

しかし、新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、マスク着用や社会的距離の確保などが強制ではなく、個人の判断で行われるようになった昨今では、再び感染症も大流行する兆しを見せている。新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行も可能性としてあり得るので、流行時の不要不急以外の外出は避けようと思う。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
令和5年度今シーズンのインフルエンザ総合対策について|厚生労働省