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慢性腎臓病(CKD)とは? 原因? 症状は?診断と治療は?予防は?

はじめに

腎臓は、血液の中の老廃物を除去し、尿を生成する臓器である。私たちの体が正常に機能するために非常に重要な役割を果たしている臓器で、その主な役割とは以下のようなものである。

  1. 老廃物の排出:
    腎臓は、血液をろ過し、老廃物や余分な塩分を尿として体外に排出するが、体に必要なものは再吸収し、体内に留める。
    腎臓の働きが低下し、体内の老廃物が排出されずに蓄積すると、尿毒症になる。
  2. 血圧の調整:
    腎臓は、塩分と水分の排出量をコントロールすることで血圧を調整している。血圧が高いときは、塩分と水分の排出量を増やし、血圧が低いときは、その排出量を減らす。
  3. 血液の生成:
    腎臓は、赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)を分泌する。腎臓の働きが悪くなると、このホルモンが分泌されず、赤血球が十分に作られないので貧血になる。
  4. 体液量・イオンバランスの調整:
    腎臓は、体内の体液量やイオンバランスを調節し、体に必要なミネラルを体内に取り込む役割も担っている。
  5. 強い骨の生成:
    腎臓は、カルシウムを体内に吸収させるのに必要な活性型ビタミンDを作り出す。腎臓の働きが悪くなると活性型ビタミンDが低下し、カルシウムが吸収されなくなり、骨が弱くなる。

これらの役割から分かるように、腎臓は私たちの体が健康に機能するために不可欠な臓器となっている。腎臓の健康を維持することは、全身の健康を維持するためにも重要である。

腎臓において、尿を生成する最初のステップは、血液を濾過することであるが、その濾過装置の1個1個を糸球体と呼ぶ。 糸球体は、小さな穴が多数あいた微細な血管でできた球状の腎組織で、それらの穴を通して血液が濾過される。人体には腎臓が2つあり、1つの腎臓にこの糸球体が約100万個、2つの腎臓で計200万個の糸球体があると言われている。

この糸球体をはじめ腎臓の機能に支障が生じると私たちは健康に暮らしていけない。したがって、腎臓病の罹患リスクには細心の注意を向けておきたい。

急性腎臓障害(AKI)慢性腎臓病CKD)は、その進行の速度と持続期間によって主に区別される。CKDは、腎臓障害または腎機能低下が3ヶ月以上続いている状態を指す。CKDは徐々に進行し、自覚症状がないまま腎機能が悪化することが多いので、気付いたときには手遅れになる場合もある怖い病気である。

CKDの治療は、通院治療により、現状維持や悪化を防ぐことを目指すことになる、完治が困難な病でもある。だからこそ可能ならば罹患したくない病でもある。


<目次>
はじめに
慢性腎臓病(CKD)とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

慢性腎臓病(CKD)とは

慢性腎臓病CKDChronic Kidney Disease)は、腎機能が慢性的に低下したり、尿にたんぱくが混ざるといった症状が3ヶ月以上持続した状態を指す病名である。この病名は、腎臓の病気が自覚症状がないまま進行することが多いため、早期発見・早期治療開始を実現するために提唱された。

CKDは、数か月~数年かけて徐々に腎臓の機能が低下させ、最終的には腎臓が機能しなくなる。

慢性腎臓病(CKD)の分類は、原因(Cause:C)、腎機能(GFR:G)、タンパク尿(アルブミン尿:A)によるCGA分類で評価される。具体的には下記のようになる:

  • G1(ステージ1): GFRが90以上
    腎臓機能は正常または高値と推定。
  • G2(ステージ2): GFRが60~89
    腎臓機能は正常または軽度に低下していると推定。
  • G3a: GFRが45~59
    腎臓機能の低下が軽度~中等度。
  • G3b: GFRが30~44
    腎臓機能の低下が中等度~高度。
  • G4(ステージ4): GFRが15~29
    腎臓機能は高度に低下していると推定。
  • G5(ステージ5): GFRが15未満
    末期腎不全の状態であると推定。

原因

CKDの原因には、次のような様々な要因が挙げられている。

  • 加齢
  • 糖尿病
  • 慢性腎炎症候群
  • 高血圧・動脈硬化
  • ネフローゼ症候群
  • 多発性嚢胞腎
  • 結石などの泌尿器科の疾患
  • 膠原病などの自己免疫疾患
  • 薬の副作用

これらの疾患は腎臓の機能を低下させ、CKDを引き起こす可能性がある。

長期にわたって腎臓に障害を与える疾病が原因となる。原因となる疾病で最も多く発症するのは糖尿病による腎症であり、次いで慢性糸球体腎炎腎硬化症などがある。

糖尿病性腎症は、糖尿病の合併症で、腎臓の血管が破壊され、腎臓の機能が低下する病である。

慢性腎炎症候群に含まれる慢性糸球体腎炎の多くは、IgA腎症膜性増殖性糸球体腎炎など、急性糸球体腎炎の原因である一部の病態から発生すると考えられている。ときには、急性糸球体腎炎が治癒しないまま、長期化(慢性化)する場合もある。慢性糸球体腎炎はまた、遺伝性の病気である遺伝性腎炎が原因で引き起こされることもある。しかし多くの場合、慢性糸球体腎炎の原因は特定できていない

糸球体腎炎は発症の主体の違いによって原発性続発性に分けられる。疾病の主体が腎臓にあると考えられる場合を原発性糸球体腎炎という。一方、 続発性糸球体腎炎は、元となる全身疾患が存在し、それによって引き起こされる二次性の糸球体腎炎のことをいう。

原発性糸球体腎炎の場合は、病因が特定できないことが少なくないが、何らかの免疫異常が原因の場合が多いとされている。この免疫反応は、通常は生体を細菌やウイルスから防御するために働くものであるが、免疫反応異常により糸球体腎炎が生じる可能性がある。

一方、続発性糸球体腎炎の場合は、膠原病、血管炎、炎症性腸疾患、悪性腫瘍など、元となる全身疾患が存在し、それによって引き起こされる。したがって、続発性糸球体腎炎の場合は、まずは元の全身性の疾患の診断と治療を行うのが基本である。

腎硬化症は、高血圧などにより腎臓の血管が硬化し、腎臓の機能が低下する病である。

痛風腎は、痛風の合併症で、尿酸の結晶が腎臓に蓄積し、腎臓の機能が低下する病である。

多発性嚢胞腎は、遺伝的な要素により腎臓に多数の嚢胞が形成され、腎臓の機能が低下する病である。

尿細管間質性疾患は、尿細管および周囲の構造に影響を与える病である。


症状

CKDの初期には自覚症状がほとんどないが、病気が進行する次のような症状が現れてくる。

  • 夜間尿
  • 貧血
  • 倦怠感
  • むくみ(浮腫)
  • 息切れ

数か月~数年をかけて徐々に腎臓の機能が低下し、腎不全の末期段階では尿が作られなくなる。老廃物が体内に蓄積すると、疲労感食欲不振吐き気などが現れる。また、貧血骨がもろくなる重篤な不整脈を起こすなどのさまざまな症状が見られる。

貧血が起きるのは、赤血球を作るホルモンが分泌されなくなるためである。骨がもろくなるのは、ビタミンDが活性化されないためである。重篤な不整脈を起こすのは、カリウムが排泄されずに貯留するからである。

慢性糸球体腎炎ネフローゼ症候群の症状を下表に示した。

慢性糸球体腎炎
特に症状がないことが多いのが特徴。健康診断で尿の異常(尿に蛋白・血液が検出される蛋白尿・血尿)を指摘されて初めて気付く人もいる。 浮腫がみられることがあり、高血圧はよくみられる。腎不全に進行することがあり、その場合はかゆみ、食欲不振、吐き気、嘔吐、疲労、呼吸困難などが生じる。 異常が慢性的に持続する場合は慢性糸球体腎炎の可能性が疑われる。
ネフローゼ症候群
糸球体腎炎の中で、特に蛋白尿が高度(1日に3.5g以上)の場合をネフローゼ症候群という。症状は、手足のむくみ、体重増加(むくみの原因である体内の水分増加による)、だるさなどである。

検査・診断

CKDの診断は、採血検査や尿検査によって行われ、必要に応じて超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査などの画像検査が追加される。

尿検査、血液検査、腎臓の画像検査、腎生検の組み合わせにより診断を進める。

尿検査
糸球体腎炎の基本検査。尿検査で蛋白尿または血尿がみられることが糸球体腎炎の特徴である。蛋白尿を定量化するために、24時間の尿を貯めて、その一部を検査する24時間蓄尿検査を行う場合がある。
血液検査
糸球体腎炎の原因となる免疫異常の有無、腎臓の機能の指標となる血清クレアチニン値、ネフローゼの有無を知るために必要な血清蛋白やアルブミンの測定などを行う。
画像検査
画像検査で一番多く用いられるのが腹部超音波検査(エコー検査)CT検査である。糸球体腎炎以外の検索、腎臓の構造に大きな変化がないかを知るために有用である。
腎生検
糸球体腎炎の状態を最も正確に知る方法。尿・血液検査、画像検査で、糸球体腎炎の診断や進行度を推定するが、確実な最終診断をするために行うのがこの腎生検である。腎生検では、超音波検査またはCT検査の画像を見ながら、片方の腎臓に針を刺して、腎臓の組織を少量だけ採取する。腎生検は体に負担をかける(侵襲性の高い)検査であり、ときに合併症が発生する可能性があるが、通常は安全な検査法である。より安全に検査を行うためには、5日程度の入院をする必要がある。

治療

CKDの治療としては、次のような治療法があり、そのときの病状に応じて治療法が選択される。

  • 一般療法
  • 食事療法
  • 薬物療法
  • 透析療法
  • 血漿交換療法

CKDの治療では、高血圧や貧血など、さまざまな症状に対しての薬物治療が行われる。腎不全の末期になると対症的な治療のみでは対応できず、人工透析腎移植が必要となる。

治療法は、糸球体腎炎の種類(組織分類)によって異なる。

急性糸球体腎炎
疾病そのものに対する特別な治療法はない。可能であれば、糸球体腎炎を引き起こしている疾病を治療する。腎機能が回復するまで、タンパク質とナトリウムを制限した食事療法が必要になる。また腎臓で過剰なナトリウムと水分が排泄されるようにするため、利尿薬が処方されることもある。高血圧がみられる場合は治療が必要である。
急性糸球体腎炎の原因として細菌の感染が疑われる場合、腎炎は感染の1~6週間後(平均2週間後)に発症し、それまでに感染症は治癒していることが多いため、抗菌薬は通常効果がない。ただし、急性糸球体腎炎と診断がついた時点でまだ細菌感染症の症状が持続している場合は、抗菌薬療法が行う。原因がマラリアである場合は、抗マラリア薬の使用が有益である。糸球体腎炎を引き起こす自己免疫疾患の一部は、コルチコステロイド、免疫抑制薬、またはこれらの薬剤の併用により治療する。
急速進行性糸球体腎炎
速やかに免疫抑制薬の投与が開始される。通常は高用量でのコルチコステロイドの静脈内投与を約1週間継続した後、内服薬に切り替える。免疫抑制薬のシクロホスファミドを投与する場合もある。さらに、血液中の抗体を取り除くために血漿交換が行われる場合もある。治療を早く開始するほど、腎不全に進行する可能性や透析の必要性は少なくなる。腎不全を伴う慢性腎臓病に移行した人には、ときに腎移植が検討されるが、移植された腎臓で急速進行性糸球体腎炎が再発する場合もある。
慢性糸球体腎炎
抗高血圧症薬であるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のどちらかを服用することで、しばしば慢性糸球体腎炎の進行を遅らせることができ、血圧が低下して尿中へのタンパクの排泄量が減少する傾向がみられる。血圧を下げることとナトリウムの摂取量を減らすことも有益であると考えられている。またタンパク質の摂取量を制限することが、腎機能の低下を遅らせるためにある程度有用である。末期腎不全は、透析か腎移植で治療する。

各種の糸球体腎炎に共通した一般的な治療法と、糸球体腎炎の種類によって異なる薬物療法には次のようなものがある。


一般的な治療法

糸球体腎炎では、原則として塩分摂取を控える、過労を避ける、などの基本的な治療を行う。軽症の糸球体腎炎の場合は、特に薬物療法を行わずに、尿検査や血液検査を定期的に行い、その経過を外来で観察する。

薬物療法

抗高血圧症薬
高血圧は腎臓に負担をかける原因となるで、血圧が高ければそれを下げる降圧薬を使用する。降圧薬の中でもアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬アンジオテンシン受容体拮抗薬ARB)といった種類のものは蛋白尿の改善にも有効であることが示されている。
ステロイド薬
重症の糸球体腎炎、例えばネフローゼ症候群の場合は、糸球体の炎症を緩和するステロイド薬を使用する。ネフローゼ症候群を引き起こす糸球体腎炎の中でも、細かい分類が微小変化群の場合はステロイド薬で、少なくとも一時的に治る(寛解)ことがある。他の種類のネフローゼ症候群、さらに急速進行性糸球体腎炎でもほとんどの場合はステロイドを使用する。
また、腎生検結果の分類がIgA腎症の場合は、ネフローゼ症候群でなくても、腎機能の保持のためにステロイド薬を点滴で投与するパルス療法を行う場合がある。このように、ステロイド薬は特定の糸球体腎炎に対して最も効果がある薬であるが、その反面、様々な副作用があるので使用に際しては注意が必要である。
免疫抑制薬
ステロイドの効果が不十分の場合、あるいはその効果を補助するために、免疫機能を抑える薬を使う場合がある。
血小板凝集抑制薬
蛋白尿を減らす目的で使用する場合がある。

予防

慢性腎臓病(CKD)の予防には下記のような対策がある:

  1. 定期的な健康診断
    CKDの初期にはほとんど自覚症状がない。そのため定期的に尿検査や血液検査を受け、血清クレアチニン値を参考に自分のGFR(糸球体ろ過率)を計算することが推奨される。
  2. 生活習慣の改善
    肥満、運動不足、飲酒、喫煙、ストレスなどの生活習慣は、CKDの発症に大きく関与している。肥満の是正や減塩を心がけ、規則正しい食事、腎機能が低下した場合には低たんぱく食を摂ることが重要。また禁煙は必須。
  3. 既存の疾患の管理
    高血圧や糖尿病などの生活習慣病患者は、医療機関できちんと治療をしておく。
  4. 血圧の管理と尿検査
    CKDの予防には血圧の管理と尿検査が重要。家庭血圧計や尿試験紙も市販されているので、普段から、家庭でも血圧をチェックし、定期的に尿検査をすることが推奨される。

生活習慣病に数えられるCKDの予防策としては、次のようなことにも心がけると良いかも知れない。

  • 適度な運動
  • 適度に水分補給
  • トイレは我慢をしないこと
  • ストレスを避けること
  • 十分な睡眠をとって過労は避けること

あとがき

慢性腎疾患(CKD)は、罹患した初期には症状が全く現れないので私たちはそれに気付くことはできない。自覚症状のない疾病を早期に発見するには、定期的な健康診断だけになってしまう。

CKDは、数か月~数年かけて徐々に腎臓の機能を低下させ、最終的には腎臓が機能しなくなる怖い病である。その認識がとても大切なことだと思う。

腎臓は、私たちが健康に生活するために重要な働きをしている臓器であり、その腎臓の機能が損なわれる、直ちに私たちの健康に支障が生じてしまう。

CKDの発症原因に「加齢」が入っている。これはシニア世代には如何ともしがたい発症リスクである。こればかりは、努力ではどうにもならない。

しかしながら、CKDは生活習慣病に数えられている。生活習慣病であるならば、私たちは生活習慣を改善し、CKDに罹患しないよう努力すべきであろう。人工透析などを必要とせず、QOL(生活の質)に支障のない健康的な生活を少しでも長く続けられるように。


【参考資料】
エビデンスに基ずくCKD診療ガイドライン2018 (日本腎臓学会)
慢性腎臓病の診療ガイドライン(新田 孝作;日内会誌 98 : 1744~1752,2009〕
急性腎障害と慢性腎臓病-一般社団法人 日本腎臓学会