カテゴリー
はたらく細胞

血小板の形態と役割・機能

概要

血小板(platelet/thrombocyte)の役割は止血である。血液の凝固力を高めるために血小板がある。血小板は、骨髄において巨核球(幹細胞から分化した細胞)の一部がちぎれてできる。 血小板の主な働きは、血小板凝集による止血作用である。

血液凝固反応は、傷ついた血小板や組織からトロンボプラスチンの放出、コラーゲン表面に血液凝固因子が結合することによって始まる。血液凝固因子のほとんどは肝臓で産生される。血液凝固因子(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)が肝臓で合成されるには、ビタミンKが必要である。 血液凝固反応の過程にはCa2+が必要である。

血液には、凝固した血液を溶解する線溶系という機構がある。これは、プラスミンというタンパク分解酵素がフィブリンを溶解することによる。

血管が損傷を受けなくても生体内で血栓を生じ血管を閉塞することがある。これを血栓症という。ワーファリンなどのクマリン誘導体は、ビタミンKに拮抗することで作用を発揮する。


血小板の形態

血小板は直径約3μmの最も小さい血球で、核をもたない。血液1μL中には約20~40万個あり、5万/μL以下になると止血障害が起こる。寿命は約10日である。血小板は密顆粒(濃染顆粒)、α顆粒、密小管系、開放小管系をもつ(下図参照)。

血小板の構造

血小板の構造
(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.240、文光堂、2003より改変)
密顆粒は、血小板凝集促進物質(ATP、ADP、Ca2+、セロトニン)を含む。密小管系はCa2+貯蔵庫である。
開放小管系は、血小板が刺激を受け、活性化されるとCa2+の流入と顆粒内容物放出の通路となる。
血小板の働き-血小板凝集|血液と生体防御 | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)

血小板の働き-止血作用

血管が傷つき出血した場合、血液は血管の傷口に接触することによって、次の3つの機構が働き、血管損傷部位に血栓が形成され止血される。 この止血機構は生体防御の重要な機構である。止血機構の最初に働くのが血小板である。

① 損傷血管の収縮
② 損傷部位への血小板凝集による血栓形成(一次血栓形成または血小板血栓)
③ 血液凝固(二次血栓形成または永久血栓形成)

血小板のコラーゲンへの粘着・ 血小板の活性化

血管が傷つき、血管内皮細胞が損傷するとコラーゲンが露出する。血小板はコラーゲンに接触すると活性化され、血小板凝集機構が開始される。(下図参照)

血小板凝集による止血過程

血小板凝集による止血過程
A:健常血管、血管内腔は1層の内皮細胞で覆われている。内皮細胞は血小板の凝集反応や過剰な血管収縮反応を抑制するよう働く。B:血管損傷等により内皮細胞が剥がれ、コラーゲンが露出した状態。C:露出したコラーゲン部位に血小板が接触し、活性化が始まる。血小板顆粒内容物の放出、TXA2の産生放出によりますます凝集反応が促進する。血小板のコラーゲン部位への粘着、血小板同士の凝集により血栓が形成される(一次血栓または血小板血栓)。PAF:血小板活性因子、PGI2:プロスタサイクリン、TXA2:トロンボキサンA2
血小板の働き-血小板凝集|血液と生体防御 | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)

顆粒内容物の放出

血小板が活性化されると密顆粒内容物(ATP、ADP、Ca2+、セロトニン)が放出される。放出されたATP、ADP、Ca2+やセロトニンは血小板凝集を促進する。またα顆粒に含まれる内容物も血漿中に放出され、これらも血小板凝集を促進する。


トロンボキサンA2の産生

細胞膜を構成するリン脂質にはアラキドン酸という炭素数20個の不飽和脂肪酸がエステル結合している。血小板膜も例外ではなく、血小板膜が活性化され、血小板内のCa2+濃度が高まるとホスホリパーゼA2  phospholipase A2 (PLA2)が活性化される。そうすると、加水分解酵素であるPLA2はリン脂質に結合しているアラキドン酸を放出する。アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼトロンボキサン合成酵素が働くと、 thromboxane A2 (TXA2)が産生され、血小板外に放出される。(下図参照)

アラキドン酸代謝経路

アラキドン酸代謝経路
アラキドン酸は膜の構成成分であるリン脂質に結合している。細胞内のCa2+濃度が高まると、PLA2が活性化され、これがアラキドン酸を遊離させる。遊離したアラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(酵素)が作用するとPGG2、PGH2、が生成され、これにトロンボキサン合成酵素が働くとTXA2が、PGI2(プロスタサイクリン)合成酵素が働くとPGI2が、PGE2合成酵素が働くとPGE2が生成される。一方、アラキドン酸にリポキシゲナーゼが作用するとロイコトリエン(LT)が生成される。アラキドン酸代謝産物はさまざまな生理機能、病態生理機能を発揮する。R : 受容体、G : G タンパク質、PG : プロスタグランジン、TXA2 : トロンボキサンA2
LT : ロイコトリ エン、PLA2 : ホスホリパーゼ A2、PLC : ホスホリパーゼC
血小板の働き-血小板凝集|血液と生体防御 | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)

TXA2は、強力な血小板凝集作用を惹起し、また強力な血管収縮作用をもつ。すなわち、TXA2は損傷を受けた部位の血栓形成を促進すると同時に、血管平滑筋を強力に収縮させることによって、出血を速やかに止めるように働く。


血小板の粘着

血小板は露出したコラーゲンに粘着する。また、血小板同士の粘着が起こる。このようにして血小板血栓を形成し、傷ついた血管をふさぐ。しかし、血栓による止血は強固なものではなく、剥がれやすい。止血をより強固にするのが、血液凝固反応である。


血液凝固

血管が傷つき出血した場合、傷口が小さければ、血液は間もなくゼリー状に固まり(血餅・けっぺい)、傷口をふさぐ。この現象を血液凝固という。血液凝固は永久血栓ともよばれるように、血小板凝集による剥がれやすい血栓をより強固なものにする、止血作用のなかで最も重要な過程である。


血液凝固機序

血漿中に溶けているフィブリノゲン(線維素原)が、トロンビンの作用を受けてフィブリンに変わると、繊維状のフィブリンが血球を取り囲み血餅をつくり、強固な血栓をつくり傷口をふさぐ(凝固血栓)。血液凝固反応は連鎖的に進む。(下図参照)

血液凝固と線維素溶解反応(線溶系)

血液凝 固と線維素溶解反応(線溶系)
A:血液凝固反応系。血液凝固は、血小板や傷ついた組織からトロンボプラスチン(TPL)が放出されることにより始まる系(外因系)とコラーゲン表面に凝固因子が結合することにより始まる系(内因系)の2つの系により連鎖的に反応が進む。TPL:トロンボプラスチン、PL:ホスホリピッド、各凝固因子にaがついているのは、活性化された因子を示す。B:線溶系。プラスミノーゲンがウロキナーゼやトロンビン、カリクレインなどで活性化されるとプラスミンになる。プラスミンはフィブリンを溶解する。
血液凝固(1)|血液と生体防御 | 看護roo![カンゴルー] (kango-roo.com)

血液凝固反応には次の2つの系(内因系と外因系)がある。1つは、血管のコラーゲン表面に凝固因子が結合することにより始まる系(内因系)で、もう1つは、血小板や傷ついた組織からトロンボプラスチンが放出されることにより始まる系(外因系)で、トロンボプラスチンが血漿中の凝固因子やCa2+と作用し、血漿中のプロトロンビンをトロンビンに変える。このトロンビンが、フィブリノゲンをフィブリンに変え、血餅をつくることによって血液凝固は完成する。

血餅は、数時間経つと収縮して小さくなる。収縮して血餅の隙間から滲み出てくる黄色の液体が血清である。血清にはフィブリノーゲンが含まれないので、もはや凝固しない。


血液凝固因子

血液凝固に関係する因子には数十種類あり、そのほとんどは肝臓で産生される血漿タンパク質である。凝固系は、凝固因子の複雑な化学反応によって行われる。Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ凝固因子が肝臓で合成される際には、ビタミンKを必要とする。ビタミンKが不足した場合も凝固能力は低下する。また、凝固過程にはCa2+が必要である。


線維素溶解(線溶)

凝固した血液を数日間放置すると、再び液体になる。凝固した血液が液体化すると二度と凝固することはない。この現象を線維素溶解現象線溶)という。これも生体に備わっている生理機構である。凝固と線溶は一連の流れである。

出血した部位を圧迫すると早く止血するのは、血管切口を圧迫することになり、凝固がしやすくなるためである。


血液凝固抑制剤(抗凝固剤)

血液凝固を阻止する作用をもつ物質を、血液凝固抑制剤または抗凝固剤という。抗凝固剤には、作用機序から大きく3種類に分類できる。

クエン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)
血液凝固に必須なCa2+を除去することによって凝固を阻止する。Ca2+除去であるので、静脈内投与してはいけない。
ヘパリン
生体内では、ヒスタミンと結合して肥満細胞中に存在するムコ多糖類である。ヘパリンはさまざまな段階で凝固因子の働きを抑制することにより、血液凝固を抑制する。ヘパリンは、生体内投与でも生体外投与(採血など)でも凝固阻止作用を発揮するが、肝臓で破壊されるため、経口投与(内服)しても無効である。
クマリン誘導体(ジクマロール、ワーファリン)
凝固因子が肝臓で合成される際には、ビタミンKを必要とする。クマリン誘導体は構造上ビタミンKと似ているため、肝臓のビタミンK利用に際し、拮抗薬として作用する。このため、この薬剤を服用すると、これらの凝固因子が合成されず、血液凝固が抑制される。ヘパリンと異なり経口投与できるという利点があるが、作用発現が遅いこと、試験管内では凝固抑制作用をもたないという欠点がある。
ワーファリン服用中、ビタミンKを多く含む食品(納豆など)の摂取は、ワーファリンの作用を減弱させるので避けるべきである。

血液凝固試験

出血時間
指先または耳たぶを鋭利なメスなどで出血させ、止血までの時間を測定する。
基準値は3~6分である。
血液凝固時間
採血した血液をガラス管にとり、30秒ごとにガラス管を上下逆さまにして凝固までの時間を測定する。基準値は5~8分である。
プロトロンビン時間
採血した血液に血液凝固抑制剤(シュウ酸ナトリウム等)を加え、プロトロンビンのトロンビンへの変換を防止する。そのうえで大量のCa2+と組織トロンボプラスチンを加え、凝固までの時間を測定する。基準値は12秒である。

赤血球沈降速度(赤沈、血沈)

血沈は、基準が15mm/時間以下で、血沈値が高くなることを血沈亢進という。疾患があると血沈は亢進する。簡単に行える検査なので、かつて結核の診断などでよく使われていたが、現在はあまり行われなくなった。


血栓症と塞栓症

血管が損傷を受けていなくても、何らかの原因により生体内で血栓を生じて血管を閉塞することがある。これを血栓症という。血栓は血液の流れを止めるため、その下流の組織が死んでしまったのが梗塞である。脳で起これば脳血栓脳梗塞、冠血管で起これば心筋梗塞をもたらす。血栓が剥がれて流れ、血管を詰まらせることがある。これを塞栓という。


【参考資料】

看護roo! HP