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パーソナリティ障害とは?原因・症状・診断・治療?

はじめに

パーソナリティとは、個々の人間が持つ心理的特性の総体を指す用語である。これは、思考、感情、行動パターンなど個々の人間が独自に持つ特性を包括的に表現した用語であり、その人の個性を指す用語であると言ってよい。

パーソナリティは、個々の人間の能力、性格および気質の観点から表現される。

能力(ability、facult)とは、動作や作業を行う力で知性・感情・意志など身心の諸活動の力を指す用語である。一方、性格(character)とは、その人の行動や考え方の特徴的な型のことであり、その人が環境に働きかけながらも自らの欲求を満たすときにとる行動の統一的な型と定義されている。そして、性格と混同されがちな気質(temperament)は、感情や情緒の特徴的な型のことを指し、その人が明るく社交的であるか、物静かで落ちついているかなど、その人が生まれながら備わっている感情や性質として定義されている。

これらのパーソナリティの要素に対しては、遺伝的な素質や環境に加え、対人関係や姿勢、行動の積み重ねが大きく影響するらしい。そして、パーソナリティは時間的一貫性を持ち、時間を経過しても、その人の行動に一貫性をもたせ、他の人の行動と違いを表す安定した要因と定義されている。

このような本来、多様性が許容されるパーソナリティにおいて、障害があるということはどういうことであろうか。つまり、私が気にしているのは「パーソナリティ障害」と称される医学用語に対してである。「障害」とは、心身の機能の障害を持ち、その障害や社会との関わり方によって日常生活や社会生活に制限を受けている状態を指す用語である。

確かに、パーソナリティ障害は、個人のパーソナリティ特性が顕著で、融通がきかず、不適応であるために、仕事や学業、人づきあいに問題が生じている場合に認められる「障害」を指してはいる。しかし、それは「個性」としては許容できない限度を超えたものであるはずだ。私は「障害」という用語に拘る理由は、障害は治療対象になる用語であるからである。

パーソナリティ障害は、個人の長期的な行動パターンと経験の仕方を特徴づけるもので、これらのパターンは、多くの場面で固定的で、時間とともに一貫していると定義されている。

例えば、パーソナリティ障害の一部として、次のような疾患名が付けられたパーソナリティ障害が実際に存在する。

境界性パーソナリティ障害(BPD)は、人間関係、自己像、気分、行動の不安定性、そして拒絶されたり、見捨てられたりする可能性に対する過敏性を特徴とするパーソナリティ障害である。

一方、自己愛性パーソナリティ障害(NPD)は、自己愛、賞賛への欲求、共感性の欠如、他罰性、無自覚を特徴とするパーソナリティ障害であるとされる。

さらに反社会性パーソナリティ障害は、他人の権利を無視して、社会的規範に反する行動を繰り返す傾向があるパーソナリティ障害であるとされる。

確かにこのようなパーソナリティでは、現代社会では生きていく上で本人は勿論、苦労しているだろうし、周囲の人たちも迷惑であるかも知れない。よい治療法があるなら、治療を希望するのも当然であろう。

つまりは、パーソナリティ障害とは、「個性」としては許容できない限度を超えたものであり、そのために治療が必要となる場合を指すというふうに理解したい。


<目次>
はじめに
パーソナリティ障害とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

パーソナリティ障害とは

パーソナリティー障害 (personality disorder)は、生物学的素因と環境とにより形成され、思春期以降に次第に明らかになってくる人格傾向のうち、本人あるいは周囲がその人格傾向により社会生活上の著しい困難(支障)を来してしまう精神疾患で、かつては人格障害と呼ばれていたことがある。

著しい性格の偏りにより、物事の受け取り方・対人関係のとりかたや感情・衝動性のコントロールがうまくできないため、 周囲の人々 や本人自身にも苦痛や困難をもたらす。


原因

発達期の養育環境などと関連があると考えられているが、パーソナリティー障害の原因はまだ解明されていない。

一方で、パーソナリティ障害は遺伝子と環境の相互作用によって起こると考えられ、一部の人はパーソナリティ障害になりやすい遺伝的な傾向を生まれつきもっていて、その傾向が環境的な要因によって抑えられたり、強められたりするらしい。

一般に、遺伝子と環境はパーソナリティ障害の発症にほぼ同じくらい寄与しているようだ。しかしながら、どの遺伝子が パーソナリティー 障害の原因になっているかは分かっていない。


症状

周囲の多くの人とは異なる、正常範囲から逸脱した偏った性格傾向や持続的で反復する行動様式を示し、そのために本人は苦痛を感じ、周囲に迷惑やときに危害を及ぼすこともあって、社会生活能力が損なわれる。

周囲の環境に適応できないことから、対人関係を柔軟に保てずトラブルを生じやすい。情緒の不安定さから衝動的な行動をコントロールできない場合が多いとか、あるいは強迫観念から引きこもるなどが典型的な症状である。


境界性パーソナリティー障害

境界性パーソナリティー障害(borderline personality disorder)は、 パーソナリティー障害のなかで最も多く、米国では精神科入院患者の10%程度を占める。日本でも、精神科入院患者の5~10%を占めると言われている。

衝動性や情緒不安定性が高いため、救急外来では自傷行為や過量服薬で受診することが多い。これらの行為の多くは、患者が自殺を直接の目的としていなくて、何とか精神的苦痛から逃れようとして行っている自己防衛的な行動である側面があると考えられている。

症状の特徴は、親しい者から見捨てられることを避けようとして行う衝動的行動と、対人関係での不安定から発する衝動的な言動である。


自己愛性パーソナリティ障害

自己愛性パーソナリティ障害 (narcissistic personality disorder)は、傲慢な態度、自分に関する限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛といった空想、誇大的自己像、他人を不当に利用する、他人への共感性の欠如、自己像を傷つけられる体験に対する憤怒(自己愛憤怒)などを症状として示す。国内の精神科ではあまり診断されないという。


反社会性パーソナリティ障害

反社会性パーソナリティ障害 (antisocial personality disorder)は、社会規範に反する行動を良心の呵責なく行う患者に診断される。犯罪者の研究から導き出されたこの障害は、過去にはサイコパス(精神病質)と呼ばれていたことがある。

男性に多く、知的な印象を受ける場合も少なくないが、社会規範や道徳には顧慮はなく、自己の利益や都合といったことを追求する。このため、自分からこの障害のために医療機関を受診することはなく、多くは犯罪が犯されてから、その原因を検討されるなかで明らかになってくることが多い。


回避性パーソナリティ障害

回避性パーソナリティ障害 (avoidant personality disorder)は、極端に低い自己評価を背景にして、対人場面で傷つくことを過度に恐れる傾向があり、社会において活躍することを避ける行動となって現れる。 本来は賞賛されたり、受け入れられたいと望んでいながら、それが達成されないことへの不安が高いために、他人からの評価を受ける場面を避けようとする行動も含まれるかも知れない。

日本人のように謙譲が美徳とされ、賞賛を避けることもひとつの選択とされる文化圏では、必ずしも障害といえないかもしれないが、欧米では有名な賞を受賞しながらその受け取りを避けたり、受賞の知らせを聞いただけで行方をくらます人のなかには、このような 回避性パーソナリティ障害の問題を抱えている人も含まれているのではないかと考えられている。


検査・診断

DSM 精神障害の診断と統計の手引き(米国精神医学会 )では、パーソナリティ障害は次の3群10類型に分類されている。

分類  障害の種類      症状の特徴
A群認知に偏りがあり、奇妙で風変わりな行動を伴う
(統合失調症の周辺領域の病態で風変わりにみえる 人達)
(1)妄想性他人の言動や行為に対して極度な不信感猜疑心を示す
(2)統合失調質他者に対する無関心
(3)統合失調型非現実的で奇異な考えや言動がみられ、他人とのかかわりも少なく妄想癖あるいは被害妄想の傾向を示す
B群感情や対人関係が不安定で、演技的で移り気な行動を伴う
(衝動や情緒の表現の問題をもち風変わりにみえる人達)
(1)境界性孤独に対する耐性の低さおよび感情の調節不全。 対人関係のトラブルが多く、感情のコントロールがきかず衝動的あるいは攻撃的な行為を示し、見捨てられることに対する不安や孤独感が強い
(2)自己愛性基礎にある脆弱な自尊心および明白な誇大性の調節不全。 自分は優れた特別な存在だという自己意識にとらわれ、他人を無視して尊大な態度を示し、かつ自己評価にこだわる
(3)反社会性社会的無責任,他者の軽視,欺瞞,自分の利益を得るための 他者の操作。 他者の 社会的規範を守る意識に乏しく、衝動的な行動を示し、うそをついて平気で人をだます
(4)演技性人の注意を惹きたいという欲求 。他者からの注目を集めようとして演技的な行動を示し、外見にも極端にこだわる
C群内向的で不安や恐怖を伴う
(対人関係や社会などの外界に強い不安や恐怖を感じており、人間が本来もっている性質の一部が極端に強調された形式で常に表出される人達)
(1)依存性服従および面倒をみてもらう必要性。 他者に対する依存性が高く、自分で決断することが難しく、他者の意見に反論もできず、放っておかれる孤独に耐えられない
(2)強迫性完璧主義,柔軟性のなさ,頑固さが特徴 。一定の秩序や流儀を保つことへのこだわりが強いために、融通のきかない完璧主義がかえって生活に支障をきたす
(3)回避性拒絶に敏感なことによる対人接触の回避。 不安や緊張および恐怖を感じ、人間関係を回避する
パーソナリティ障害の種類とその症状の特徴

ICD-10 (WHO)「 精神と行動の障害の分類」では、「F6.成人のパーソナリティおよび行動の障害」における「F60.特定のパーソナリティ障害」は下記のように分類されている。

分類記号パーソナリティ障害の種類
F60.0妄想性パーソナリティ障害
F60.1統合失調質パーソナリティ障害
F60.2非社会性パーソナリティ障害
F60.3情緒不安定性パーソナリティ障害
F60.30 衝動型、F60.31 境界型
F60.4演技性パーソナリティ障害
F60.5強迫性パーソナリティ障害
F60.6回避性パーソナリティ障害
F60.7依存性パーソナリティ障害
F60.8他の特定のパーソナリティ障害
F60.9パーソナリティ障害、特定不能のもの

治療

治療法は、パーソナリティ障害の種類によって異なるが、治療目標は次のようになる。

  • 苦痛を緩和する
  • 起きている問題の原因が自分にあることを患者が理解できるよう支援する
  • 社会的に好ましくない不適応な行動を減らす
  • 困難の原因になっているパーソナリティ特性を是正する

問題のあるパーソナリティ特性(依存性、不信感、傲慢、操作的態度など)を修正するには、通常、長い時間(通常1年以上)がかかる。

パーソナリティ障害の治療は、精神療法(心理療法 )により行われ、治療は本人が治療を求め、変わりたいという意欲がある場合に効果的となる可能性が高まる。パーソナリティ障害の治療は困難であるため、精神療法家の中でも経験豊富かつ中立的で、患者の自己像、心の繊細な部分、普段の対処方法を理解できる専門家を選ぶことが重要になる。

抗精神病薬などの治療薬が、抑うつや不安などの苦痛の症状を和らげ、攻撃性などの一定のパーソナリティ特性をコントロールするのに役立つことがあるが、治療薬でパーソナリティ障害を治癒することはできない。


予防

パーソナリティ障害の原因が完全には解明されておらず、遺伝的要素と環境的要素の相互作用が関与していると考えられている状況である。そのため、残念ながら効果的な予防法は確立されていないようだ。

しかしながら、発達障害の傾向がある子どもに対しては、本人の特性を周囲が理解し、その個性を伸ばせるポジティブな社会経験を積ませることで、パーソナリティ障害になることを防ぐことができるとされている。

また、パーソナリティ障害の児童に対しては、日常生活における観察ポイント、接し方や導き方といった具体策、学級やチームなどで組織的なフォローアップ体制が構築されているケースもあるようだ。

しかしながら、パーソナリティ障害の大人に対しては、このようなフォローアップ体制が構築されているケースはまれである。そのため無用な離職の回避や職場ストレスの軽減につなげることに至っていないのが現状ではないだろうか。


あとがき

パーソナリティ障害のある人との付き合い方で重要なのは、その人の特性を理解し、適切な対応をすることだと言われている。参考となるのは、下記のような基本的なアプローチだとされる。

  • 誠実な対応と厳しさ
  • プライドを傷つけない
  • 聞き上手に徹する
  • 適切な距離を保つ

パーソナリティ障害のある人は、援助者に依存する傾向がある。そのため、相手との境界線を明確にし、相手の気持ちを受け止めつつも、冷静に思い込みを見極めることが重要であるとされる。それに対する私たちが実践すべき行動が「誠実な対応と厳しさ」と表現されている。

自己愛性パーソナリティ障害のある人は、一度嫌われると、陰湿ないじめやパワハラ・モラハラにつながる可能性がある。そのため、相手のプライドを傷つけないように注意することが重要であるとされる。これは自己防御のためにも私たちが実践すべき行動であると言えよう。

また、相手の話をよく聞き、なるべく刺激的なことは言わない(聞き上手に徹する)ことが推奨されている。

さらには、パーソナリティ障害のある人との関係では、近すぎず遠すぎず、適度な距離を保つことがポイントであるとされる。

パーソナリティ障害のある人とうまく付き合おうと試みるか、避けて通ろうとするかは、私たちのパーソナリティ次第である。


【参考資料】
世界保健機関 ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン
DSM 精神障害の診断と統計の手引き(米国精神医学会 )
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
パーソナリティ障害の人とうまく付き合う方法 | 境界性パーソナリティ障害