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肥満症とは? 原因と症状は何?診断・治療法と予防策

はじめに

肥満が疾患として認識されるようになったのは、2000年頃からと言われているから、それほど古い昔の話ではない。日本肥満学会はこの年に「肥満症」の概念を提唱し、医療を必要とする肥満、つまり「肥満症」の診断基準を策定し、それ以降は、この概念に基づいた診療が推奨されてきた。そして、2022年には6年ぶりにガイドラインも改訂され、肥満症診療ガイドライン2022として発表されたところである。

肥満が健康に対する重大な影響を及ぼす可能性があることが認識され、肥満症としての治療が必要とされるようになったわけであるが、肥満のどこがいけないと言うのであろうか?

肥満症とは、体脂肪が過剰に蓄積され、健康障害を引き起こす状態を指す。つまり肥満症は単に太っているという状態を表すだけではなく、健康に対するリスクを増大させることを含んだ状態を指している。この点が「肥満」と「肥満症」の違いである。

肥満症は、単純性肥満症(原発性肥満症)と症候性肥満症(二次性肥満症)に分類される。単純性肥満症(原発性肥満症)は、エネルギーの摂取過多(食べ過ぎ)または消費不足(運動不足)によって起こる肥満を指す。一方、症候性肥満症(二次性肥満症)は他の病気(例えば、クッシング症候群や甲状腺機能低下症など)の症状として引き起こされた肥満症を指す。本稿では単純性肥満症を採りあげる。

肥満症治療の基本は、減量であり、余分な内臓脂肪を減らして肥満による健康障害のリスクを低減させることである。単にBMI値を25以下にすることではない。

一方、メタボリックシンドローム(通称、メタボ)という用語も耳にするが、これは内臓肥満(内臓脂肪の過多)に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指す。

これらの病態は、いずれも食事療法や運動療法などのライフスタイルの改善療法によって改善および予防することが可能とされている。しかしながら、これらの治療には長期的な改善の努力が必要であり、一人ひとりの背景や環境に合った食事療法と運動療法を行うことが重要であるとされている。

このように一旦、肥満症になってしまうと元に戻すのに苦労することになる。私たちが目指すべきは、肥満症にならない努力をすることではないかと思う。その方がずっと合理的であると思う。

目次
はじめに
肥満症とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

肥満症とは

肥満(obesity)は、体重の過剰であり、BMI値30以上であることと定義される。 BMIが35以上の人での若年死が報告されている。

米国における肥満の有病率は全ての年齢層で高く、2015~2016年の調査では39.6%を超える成人が肥満であったと報告されている。米国では、肥満およびその合併症が毎年30万人もの若年死を引き起こしており、予防しうる死亡の原因としては喫煙に次いで第2位であるという。

合併症として、心血管疾患、糖尿病、特定のがん、胆石症、脂肪肝、肝硬変、変形性関節症、男女の生殖障害、精神障害などがある。


原因

肥満の原因はおそらく多因子的であり、遺伝的素因が含まれる。肥満は究極的には、エネルギー摂取とエネルギー消費の長期にわたる不均衡に起因する。

しかし、その他にも内分泌撹乱物質(例:ビスフェノールA[BPA])、腸内細菌叢、睡眠/覚醒のサイクル、環境因子など、多数の因子によって肥満になりやすい傾向が強まると考えられる。


症状

肥満の合併症としては下記のものが知られている。

高血圧(メタボリックシンドローム
糖尿病
心血管疾患
肝疾患(NASH
胆嚢疾患
胃食道逆流
閉塞性睡眠時無呼吸症候群
生殖器系疾患
多くのがん(特に結腸癌および乳癌)
変形性関節症
腱および筋膜障害
皮膚疾患
(厚い皮膚のヒダに閉じ込められる汗と皮膚の分泌物が増えて真菌および細菌の増殖を助長し、間擦部の感染の頻度が特に高くなる )
その他、社会的、経済的、および心理的な問題
( 肥満により、偏見、差別、不良な身体像、および低い自尊心の結果として、社会的、経済的、および心理的な問題が生じる。例えば、不完全雇用や失業中であるなどである )

検査・診断

診断はBMIに基づく。 BMI は、成人では、 体重(kg)を身長の2乗(m2)で割った値と定義され、過体重または肥満のスクリーニングに用いる。

  • 過体重 = 25~29.9 kg/m2
  • 肥満 = 30 kg/m2以上

しかし、BMIは大まかなスクリーニングツールであり、多くの亜集団で限界がある。一部の専門家は、BMIのカットオフ値は民族、性別、および年齢に基づいて変えるべきであると考えている。例えば、特定の非白人集団では、白人よりも大幅に低いBMIで肥満の合併症が発生する。

アジア人および多数の先住民族では、過体重のカットオフ値が低い(23 kg/m2)。さらに、BMIは過剰な体脂肪がない筋肉質のアスリートで高くなることがあり、以前に過体重であり筋肉量が減少した人では正常または低いことがある。

代謝性および心血管系の合併症のリスクを予測するためには、 ウエスト周囲長(腹囲)およびメタボリックシンドロームの有無を調べた方が BMIよりも良いとされている。


治療

治療法としては、生活習慣の改善(食事管理身体活動行動療法)や、特定の患者に対する薬物療法または肥満(減量)外科手術などがある。

食事管理

体重の減量と維持にはバランスのとれた食事が重要である。 5~10%の減量でさえ全体的な健康の改善につながり、心血管系合併症が発生するリスクの軽減およびそれらの合併症の重症度の軽減に役立つ。また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、脂肪肝、不妊症、うつ病など、他の合併症および併存症の重症度の軽減にも役立つ。

少量の食事を摂り、間食は避けるまたは注意して選ぶ
精製炭水化物と加工食品の代わりに、新鮮な果物および野菜ならびにサラダを摂る
ソフトドリンクまたはジュースの代わりに水を摂る
アルコールの摂取を中等度レベルに制限する
無脂肪または低脂肪乳製品を摂取する
( 健康食の一部であり、十分なビタミンDを供給するのに役立つ )

食事管理の戦略

適度にカロリーを制限し(600kcal/日)、低脂肪で高タンパク質の食品を組み込んだ、低カロリーの高食物繊維食が、長期的に最善の結果をもたらすと言われている。

しかしながら、 超低カロリー食は肥満患者に適応となることがあるが、そのような食事には医師による監督が必要であり、体重が減少した後に摂取量を徐々に増やして患者の体重が再び増えるのを予防する必要がある。

食事代わりの栄養補給食の使用が体重の減量と維持に役立つことがあり、それらの製品は定期的または断続的に利用できる。


身体活動

運動は、エネルギー消費量および食事誘発性熱産生を増やす。また運動により、食欲がカロリーの必要量によりよく合うように調節される。身体活動を行うことは単に肥満解消だけでなく、下記のようなメリットを生む。

インシュリン感受性の増加
脂質異常の改善
血圧の低下
有酸素運動能の向上
心理的健康観の増進
乳癌および結腸癌のリスク低下
余命の延長

筋力強化運動などの運動は、筋肉量を増大させる。筋肉組織は安静時に脂肪組織よりも多くカロリーを燃焼するため、筋肉量が増大するとBMRが持続的に増加する。

面白く楽しい運動の方が、持続する可能性が高い。有酸素運動およびレジスタンス運動を組み合わせる方が、どちらか一方のみを行うよりもよい。

ガイドラインでは、健康上の便益には150分/週、体重の減量と維持には300~360分/週の身体活動が提唱されている。より身体活動量の多い生活習慣を作り出すことは、体重の減量と維持に役立つ。


行動療法

医師は、減量の助けになる様々な行動療法を患者に勧めることができる。

行動療法           具体例
支援グループ、友人、または家族から受けることができる。支援団体への参加は、生活習慣の改善に対するアドヒアランスの改善から、減量の促進につながる可能性がある。グループミーティングにより多く参加する患者ほど、より多くの支援,モチベーション、および監督を受けられ、責任感が増し、結果としてより大幅な減量を達成できる。
セルフモニタリング食事の記録、定期的な体重測定、行動パターンの観察および記録などが含まれる。食物を摂取した時間および場所、他の人の有無、気分などを記録する場合もある。医師は、患者がどのように食習慣を改善できるかについてのフィードバックを与えることができる。
ストレス管理ストレスの多い状況を特定すること、食べることを伴わずにストレスを管理するための戦略を作り出すこと を患者に教える。 (例:散歩に行く、瞑想、深呼吸など)
随伴性マネジメント望ましい行動に対して有形報酬を与える。報酬は、他の人が与えても、本人によるものでもよい。言葉での報酬(称賛)も有用となる。
問題解決不健康な摂食のリスクが増す状況(例:旅行、外食)または身体活動の機会が減る状況(例:ドライブ)を前もって特定し計画を立てる。
刺激統制法健康的な食事や活動的な生活習慣に対する障壁を特定して、それらを克服する戦略を考案する。より活動的な生活習慣のために、活動的な趣味を始める(例:庭仕事)、定期的なグループ活動に参加する、もっと歩く、エレベーターの代わりに階段を使う習慣をつける、および駐車場の遠い端に駐車するなどである。

インターネットの情報源やモバイル機器のアプリケーションなども、生活習慣の改善や減量に対するアドヒアランスの補助となりうる。アプリケーションは、患者が減量のゴールを設定したり、自身の進歩をモニタリングしたり、食事内容をたどったり、身体活動を記録したりするのに役立つ。


薬物療法

BMIが30以上または合併症(例:高血圧、 インスリン抵抗性)のある患者のBMIが27以上である場合、薬物療法が必要となる場合がある。 通常、薬物治療によって軽度(5~10%)の減量がみられる。減量薬は、治療開始後12週間で患者に体重減少がみられない場合は中止すべきである。

治療薬         効 能    
オルリスタット腸リパーゼを阻害し、脂肪の吸収を減らし、血糖および血中脂質を改善する。米国では一般用医薬品として入手できる。
フェンテルミン中枢作用性の食欲抑制薬 。短期間(3カ月以内)で使用する
フェンテルミン/トピラマート配合剤米国では長期使用が承認されている。この配合剤の服用によって最長で2年間の体重減少が起こる。
ロルカセリン視床下部の セロトニン2c(5-HT2c)脳内受容体を選択的に 標的にし, ここに作動して 食欲低下を生じさせる
ナルトレキソン/ブプロピオン徐放錠減量の補助として用いる。ナルトレキソンはオピオイド拮抗薬であり、脳内における満腹感を伝える経路の負のフィードバックを遮断する。ブプロピオンは、視床下部におけるアドレナリン系およびドパミン系に作用することによって、食欲低下を誘発する
リラグルチド2型糖尿病の治療に用いられるGLP-1受容体作動薬。ブドウ糖を介した膵臓からのインスリン分泌を増強し、血糖コントロールを改善する。また、満腹感を刺激し食物摂取を減らす。

手術

肥満外科手術は、極度の肥満患者にとって最も効果的な治療である。


予後

無治療では、肥満は進行する傾向がある。合併症の確率および重症度は、脂肪の絶対量、脂肪の分布、筋肉の絶対量に比例する。

減量後には、ほとんどの患者が5年以内に治療前の体重に戻ることから、他の慢性疾患と同様、肥満には生涯にわたる管理プログラムが必要となる。


予防

当り前のことであるが、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると肥満になる。摂取エネルギーは食生活でコントロールする。一方、消費エネルギーは運動や日常の活動でコントロールする。したがって、食生活と、運動習慣や日常の活動のバランスを考慮することが、肥満症の予防対策の基本となる。

栄養バランスの摂れた食事をとることで、ストレスによる食欲増加を抑制することができるらしい。そして適度な運動は、良いリフレッシュにもなり、気持ちもリラックスできる。体に酸素を取り組む有酸素運動は肥満予防に効果的でもある。

また、睡眠が十分でない場合にも、ストレスからコルチゾールが増えやすくなり、肥満リスクが高まると言われている。さらには、物事を悪い方にばかり考えてしまうとストレスが溜まり、肥満へと繋がるらしい。

したがって、肥満症の予防策としては、下記のような方法が推奨されている。

  • 食生活の見直し
    • 栄養バランスの摂れた食事をとる
    • 1日3食、規則正しく食べる
    • よく噛んで、食事にゆっくりと時間をかける
    • 夜間に食べ過ぎない(食べない方が良い)
    • アルコールは適量に(節酒)
  • 運動習慣(日常活動)の見直し
    • 日常動作の積み重ねでエネルギー消費を増やす
      • エレベーターを使わずに階段を使う
      • 短い距離は乗り物に乗らずに歩く
    • 適度の運動(有酸素運動)を継続して行う
  • ストレスの管理
    • ストレスを溜め込まない
    • 自分に合った適切な方法でストレスを発散する
    • 十分な睡眠をとる
    • 前向きな(ポジティブな)考え方をする

あとがき

ストレスは、肥満症とも密接に関連しているらしい。ストレスが増えると、体内のホルモンバランスが乱れ、コルチゾールというホルモンの分泌が増えるという。コルチゾールは血糖値を上げる働きがあり、血糖値を下げるためにインスリンが分泌される。インスリンは、糖を脂肪に変えて蓄えることで血糖値を下げようとするため、その結果として脂肪が蓄積されていくようになる。

また、ストレスが増えると食欲が増すことがあるという。この理由は、ストレスによって脳内のセロトニン(食欲を抑えるホルモン)がうまく働かなくなるためだとされる。その結果、食事量が増え、エネルギー摂取がエネルギー消費を上回ることで肥満につながる可能性が高まる。

さらに、ストレスが原因で運動不足になると、さらにストレスを感じやすくなり、この状態が続くとストレスと運動不足の悪循環に陥る可能性がある。運動不足になると、エネルギー消費が減少し、肥満のリスクが高まる。

こうしてみると、確かに肥満の予防策にはストレス管理も組み入れないといけない、非常に重要な要素であることが理解できる。


【参考資料】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
学会誌:日本肥満学会/JASSO