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注意欠如・多動性障害(ADHD)とは?原因・症状・診断・治療・予防

はじめに

注意欠如・多動性障害ADHD)は、不注意多動性衝動性など特徴的な症状が持続的に認められる発達障害の一種である。

不注意とは、簡単に気をそらされる、ケアレスミスをする、物事を忘れるなどの状態を指す。一方、多動性とは、じっと座っていることができない、絶え間なく喋り続けるなどの状態を指す。そして、衝動性とは、例えば、自分の話す順番を待つことが出来ない、思いついたことをよく考えずに即座に行動に移してしまうことなどを指す。

ADHDの有病率は、児童で5%(学齢期の児童の3~7%)、成人では2.5%であると報告されている。さらに、2010~2019年度の間にADHDの年間発生率は、0~6歳の児童で2.7倍、7~19歳で2.5倍、20歳以上で21.1倍に増大しているという。ADHDは、決して、稀な精神障害ではないということである。


<目次>
はじめに
注意欠如・多動性障害(ADHD)とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

注意欠如・多動性障害(ADHD)とは

注意欠陥・多動性障害Attention-Deficit Hyperactivity Disorder; ADHD)は、注意力が乏しいか注意の持続時間が短い状態、年齢不相応の過剰な活動性や衝動性のために機能や発達が妨げられている状態、あるいはこれら両方に該当する状態にあることをいう。

ADHDは、不注意、多動性、衝動性という症状で定義され、12歳以前から症状を認める発達障害(神経発達障害)の一つである。

様々な精神疾患を併発することも特徴の一つである。成人後も機能障害が残存する場合が少なくないことが明らかになり、成人での診断・治療にも関心が高まっている。


原因

ADHDは、脳の疾病で、先天性の場合もあれば、出生直後に発症する場合もある。ADHDには神経伝達物質の異常が関与している可能性が高いことが分かっている。

ADHDでは、多くの場合、遺伝的要因が存在する。他の危険因子として、1.5kg未満の低出生体重、頭部のけが、脳の感染症、鉄欠乏症、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、鉛中毒や、出生前にアルコール、タバコ、コカインにさらされることなどがある。

一方、食べものや環境的要因が原因でADHDは発生しないことが明らかになっている。


症状

ADHDでは主に、注意力の維持、集中力、課題の持続性(課題を終わらせる能力)に問題がみられたり、逆に過剰に活動的であったり衝動的であったりすることもある。その両方がみられる場合もある。

就学前のADHD児では、コミュニケーションに問題があり、社会的対人関係に問題があるように見える。幼児の約60%では、こうした問題はかんしゃくとして現れる。学齢期に達すると、注意力がないように見え、そわそわして落ち着きないことがある。あるいは、逆に衝動的になったり、不適切なときに話したりすることがある。

小児期の後期では、脚を落ち着きなく動かしたり、手をそわそわと動かしたり、衝動的に話し出したり、忘れっぽかったり、だらしなかったりすることがある。欲求不満を感じたときに我慢ができないが、ADHD児は通常は攻撃的ではない。

ADHD児の約20~60%に学習障害があり、ほとんどのADHD児に学力問題がある。課題をやらせると乱雑で、軽率な間違いが多く、熟慮を欠くことがある。ADHD児は、心ここにあらずといった様子で、話を聞いていないことがよくある。

多くの場合、ADHD児は、言われた通りにしたり、宿題やお手伝いなど、やるべきことをきちんとやり遂げることができない。一つのことをやりかけたままで他のことをやり始めることが、頻繁にみられる。ADHD児は、青年期までに自尊心に問題が生じたり、うつ病や不安になったり、権威に反抗したりする。


検査・診断

ADHDの診断は、症状の数、頻度、重症度に基づいて判断する。医師は、親や教師に質問票に記入してもらい、小児を観察して、診断を下す。症状が少なくとも2つの異なる状況(典型的には家庭と学校)でみられる必要がある。家庭または学校でしか症状が現れず、その他の場所では現れない場合には、ADHDとみなされない。そのような症状は特定の状況が原因で起こることもあるためである。

症状は小児の発達段階からみて顕著なものでなければならず、6カ月以上続いている必要があるが、このような判断は観察者によって異なるため、診断は容易ではない。主な症状が不注意の場合、学業成績に悪影響が出るまでADHDが気づかれない可能性もある。

身体診察のほか、ときに他の病気の可能性を否定するための様々な血液検査やその他の検査も行われるが、ADHDに対して行われる臨床検査はない。

行動および発達に関する様々な質問が書かれた質問票が、医師や心理士が診断を下す際に役立つ。学習障害が多くみられることから、ADHDの有無を明らかにするため、さらに不注意の原因や併存する問題として特定の学習障害の有無を確認するために多くの小児が心理学的検査を受けることがある。


治療

薬物療法と行動療法の両方を用いて治療する。薬を使用することで、症状の緩和の助けになり、学校や他の活動に小児が参加しやすくなる。特に、年齢の低い小児ではこの併用が有益である。就学前の小児では、行動療法だけで十分なこともある。


薬物療法

薬物療法では、精神刺激薬が最も効果的であるが、他のいくつかの薬が使用される。最も多く処方される精神刺激薬は、メチルフェニデートや他のアンフェタミン類似薬である。

このような薬の効果はどれも同じで、副作用も似ている。通常のタイプの薬だけでなく、徐放性(長時間作用型)の製剤もいくつかあり、徐放性の製剤を使用すれば1日1回の服用で済む。
また、いくつかの薬剤を併用する場合もある。

主な治療薬を下記に記す。

メチルフェニデート
【薬効分類】精神刺激薬
【作用メカニズム】 脳内ドパミン及びノルアドレナリンの再取り込みを抑え、ドパミンとノルアドレナリンの働きを強める
【効能・効果】
【製品名】 コンサータ錠
【製造販売】ヤンセンファーマ
アトモキセチン
【薬効分類】非刺激性ADHD治療薬、 非中枢刺激薬
【作用メカニズム】 ノルアドレナリンの再取り込み再取り込み阻害作用。 脳内のノルアドレナリンの働きを強める。
【効能・効果】 注意欠陥・多動性障害(ADHD)
【製品名】 ストラテラ錠
【製造販売】日本イーライリリー
グアンファシン
【薬効分類】 非中枢刺激薬
【作用メカニズム】 脳内のノルアドレナリンの受容体であるα2A受容体を刺激し、シグナル伝達を改善・増強する。α2A受容体 は前頭前皮質の錐体細胞の後シナプスに存在。ドパミンやノルアドレナリンの遊離促進作用や再取り込み阻害作用はない。
【効能・効果】 ADHDの症状を改善する
【製品名】 インチュニブ錠
【製造販売】塩野義製薬
リスデキサンフェタミン
【薬効分類】
【作用メカニズム】 体内で活性体であるd-アンフェタミンへ変換されて作用をあらわす。 d-アンフェタミン は、ノルアドレナリン及びドパミンのトランスポーター阻害作用やノルアドレナリン及びドパミンの遊離作用などにより、シグナル伝達を改善。
【効能・効果】 脳内におけるノルアドレナリン及びドパミンの働きを調節することでADHDの症状改善効果をあらわす 。
【製品名】 ビバンセ
【製造販売】塩野義製薬

行動療法

ADHDの影響を最小限にとどめるためには、多くの場合、精神刺激薬などの薬に加えて、スケジュールに基づいた生活、決められた日課を守ること、支援学級プログラム、小児に合わせた育児方法などが必要になる。行動面で重大な問題がない小児は、薬物療法だけにすると有益なことがある。

しかし、刺激薬は24時間作用するわけではないため、物事を手際よく行う能力や他の能力を補うために、適応が必要とされることもある。薬物療法と併用して、小児を専門とする心理士による行動療法を行う場合もある。


予後

ADHD児の衝動性と多動性は、成長するに従っていくぶん治まる傾向があるが、ADHD児の多くは成長後も不注意が改善しない。しかし、青年期や成人期になれば、たいていの場合、自分の不注意に適応することを学んでいく。約3分の1の患者は、刺激薬を使用し続けることが有益であると感じている。

一方、青年期や成人期に現れたり、小児期から引き続いてみられたりする問題としては、学業不振、片付けられない(遂行能力の低さ)、自尊心の低さ、不安、抑うつ、適切な社会行動の習得困難などがある。

重要なこととして、ADHD児の大多数が成人になると独創的で生産的な人間になり、ADHDがある人は学校よりも働く環境に適応しやすいことがある。しかし、小児期にADHDの治療が行われなかった場合、アルコール乱用、物質乱用、自殺のリスクが高くなることがある。


予防

注意欠如・多動性障害(ADHD)の予防策としては、下記のような対策が提案されている。これらの対策がADHDの症状を軽減するのに役立つと考えられている。しかしながら、ADHDを完全に予防するための確立された方法はまだ存在しない。

  • 健康的な生活習慣
    • 健康的な食事
    • 適度な運動
    • 十分な睡眠時間
  • 環境の調整
    • 気が散りにくいように環境を整える
    • 学習の課題を小分けにして休憩を挟む
  • 薬物療法
    • 日常生活に影響を及ぼす場合
      • 医師の指導下で薬物療法を検討する
  • 心理的支援
    • 自己肯定感を傷つけない
      • 心理的支援
      • カウンセリング

あとがき

日本でもADHDの患者数は増加傾向にあるという。それにはいくつかの理由がありそうだ。例えば、下記のような要因があるという。

  • 認知度の高まり
    • 成人用ADHD治療薬が2012年に日本で初めて承認
      • 治療薬の販売が成人のADHDの認知度増大に貢献
    • ADHDの認識が広まり、診断者数が増えた
  • 診断基準の変化
    • 診断基準や診断方法の変化
    • 以前は見逃されていた可能性のある症例も診断
  • 社会的要因
    • 社会環境の変化や教育環境の変化
      • ADHDの診断数の増加に影響

これらの要因は、日本だけでなく、諸外国でもADHDの診断数の増加に寄与しているということだ。しかしながら、これらの要因が具体的にどの程度影響を及ぼしているかについての検証結果は公表されていない。

ADHDは、一般的によく認識されている精神障害であり、子どもから大人まで、社会全体で見ると一定の割合の人々が影響を受けていると言えそうだ。


参考資料
世界保健機関 ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン
脳科学辞典(精神疾患;北村英明、染谷俊幸)
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
革新的医薬品審査のポイント(成川衛編著、日経BP社)
ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)