カテゴリー
疾病 精神疾患

双極性障害とは?原因は?症状は?検査・診断と治療法は?予防策は?

はじめに

双極性障害は、【そう】状態と【うつ】状態が交互に現れる精神疾患(精神障害)で、かつては「躁鬱病」と呼ばれていた。

躁状態では気分が高揚し、活動性が増す。一方、鬱状態では気分が落ち込み、活動性が低下する。治療の目的は、これらの極端な気分の変動を安定させ、患者が日常生活を送ることができるようにすることだとされる。

決して躁状態を長期化させ、鬱状態の期間を短くすることではないようだ。躁状態が常に良いとは限らない。何故なら躁状態は過度の自信や楽観的な言動、抑制できない感情、快楽の追求などの症状を引き起こす可能性もないわけではない。これらの言動は日常生活を妨げ、本人にとってもマイナスとなる結果を引き起こすかも知れない。

確かに双極性障害の躁状態では、エネルギーが溢れ、創造性が高まることがある。この躁状態の時期には、次々とアイデアが浮かび、自分が偉大な人間だと感じることがあるという。しかし、躁状態は病気の状態であり、必ず終わりが来て、その後には必ず鬱状態になるという。しかも躁状態が激しければ激しいほどその後の鬱状態が強いものになるらしい。希死念慮【きしねんりょ】または自殺念慮【じさつねんりょ】が強まり、実際に自殺を企てる人もいるらしい。さらに躁状態の期間に比べ、鬱状態の期間は長く、患者の苦しみはより強いものになると言われている。

したがって、双極性障害の治療は、まず躁状態を予防するか躁状態を軽く済ませることが目標となる。一般的な治療法では、薬物療法(主に気分安定薬や非定型抗精神病薬を使用)や心理社会的治療が行われる。


<目次>
はじめに
双極性障害とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

双極性障害とは

双極性障害(bipolar disorder)は、従来、躁うつ病(manic-depressive psychosis)と呼ばれていた精神疾患で、躁病うつ病の二つの極をもつ気分障害である。躁病相うつ病相周期的に現れる厄介な精神疾患である。

子どもでは、躁病うつ病の周期が数日から数週間と短いことが多く、またそれがしばしば繰り返されることが多いという特徴がある。尚、躁病相うつ病相の間の期間は症状が認められず、通常の生活機能を維持できていることが多い。

双極性障害は、未治療の場合には躁病相うつ病相合わせて生涯に10回以上の病相を繰り返すが、繰り返すにつれて病相の持続期間は長くなる一方、躁病相うつ病相の間隔は短くなる。なかには1年に4回以上病相を繰り返す場合もあり、これをラピッドサイクラーと呼ぶ。

双極性障害の症状は、躁病相うつ病相で対照的である。躁病相では、爽快気分、過剰な活動性、誇大的な考え、浪費や性的逸脱などのトラブルの発生がみられる。一方、うつ病相では憂うつな気分、意欲の減退、自責的で悲観的な考えがみられ、不眠や食欲低下なども出現する。時に躁病相とうつ病相の症状が混じり合って同時に現れることがあり、これを混合状態と呼ぶ。

双極性障害うつ病はともに気分障害と総称されることもあったが、双極性障害は遺伝的にはうつ病よりも統合失調症に近いということから、別の疾患として扱われるようになった。

うつ病相のみの単極性うつの発生率が3~5%と比較的多いのに対して、双極性障害は約0.6~0.9%と少ない。発病年齢は、単極性うつの年齢層が幅広く分布しているのに対して、双極性障害が20代にピークがある。また、単極性うつは男女比が1対2と女性が多いのに対して、双極性障害では男女比は1対1となっている。

国際地域調査によれば、双極性障害を罹患する人の割合は2~13%弱とされている。罹患率に男女差はないが、女性の方が急速交代型や抑うつ症状が多いと報告されている。急速交代型は、躁病エピソードと抑うつエピソードがめまぐるしく交代し、1年に4回以上、エピソードが認められる状態をいう。男女比は、双極性障害の場合には女性と男性の割合がほぼ同じであるのに対して、急速交代型の場合は女性が70~80%と多くなっている。

急速交代型は、心理社会的なストレスをきっかけに生じたり、甲状腺機能低下症、多発性硬化症などの神経学的疾患、精神遅滞、頭部外傷などに関連して生じたりするほか、抗うつ薬による治療によって生じることもある。急速交代型は長期にわたって続くことがあるので気分安定薬を使って辛抱強く治療を続ける必要がある。


原因

双極性障害の原因は、いまだ解明されていないが、遺伝子から環境因子まで多くの因子が複雑に絡み合って発症するといわれている。うつ病と同様、疾患脆弱性をもつ人に身体的あるいは心理的負荷がかかり、脳の機能のバランスがとれなくなると発病するとされている。

疾患脆弱性を規定する因子は複雑であるが、その一つに遺伝があり、双生児での一致率(一方が発病した場合、他方も発病する率)は8割ともいわれている。しかし、他の2割は遺伝以外の要因であり、遺伝と環境要因の両方で規定されると考えられている。


症状

双極性障害は、双極I型障害双極Ⅱ型障害気分循環性障害の三つに分けられる。このように分けられているのは、うつの症状の重症度が異なり、治療法に若干の違いがあるためである。Ⅰ型とⅡ型の差は、躁病相が中等症以上である(Ⅰ型)か、軽躁である(Ⅱ型)かにある。うつ病相はⅠ型とⅡ型で差異はない。


双極I型障害

双極I型障害は、躁症状が、入院を必要とするほど強くなる時期(躁病エピソード)が認められる疾患である。双極I型障害と診断されるのは、気分が異様に高揚し続けたり、易怒的になったりした状態のために入院が必要になったり、少なくとも1週間持続したりして、下記の躁病エピソードのうち三つ以上(気分が単に易怒的な場合は四つ)明確に存在していて、そのために生活や仕事に支障が出ている場合である。

双極I型障害(下記のような躁病エピソードが顕著に現れる)
自尊心が極端に肥大していて、明確な根拠がないのに、自分には特別な才能がある、他人より優れている、といったことを信じている。
睡眠欲求が減少する(例:3時間眠っただけでよく休めたと感じる、寝なくても大丈夫だと思う)
普段よりも多弁であったり、追い立てられるようにしゃべり続けようとしたりする。
考えが飛んだり、またはいくつもの考えがぶつかったりしていることを自覚する。
注意散漫で、ちょっとした外的刺激に注意が向いてしまう。
一気にたくさんのことをする計画をたてたり、よく知らないトピックに対して次々と企画をたてて取りかかろうとしたりする。
自動車の無謀な運転や無分別な性活動、根拠のない投資など、困ったことになる可能性が高い快楽的活動が増える。

双極I型障害の好発年齢は10代後半であるが、小児や高齢者が発症することもある。双極I型障害には、不安症や注意欠陥多動性障害、物質障害などが併存することがあり、半数以上の人がアルコールや薬物の使用障害を併発している。また、自殺リスクも高いので注意が必要である。


双極Ⅱ型障害

双極Ⅱ型障害は、少なくとも1回の軽躁病エピソードと2週間以上の抑うつエピソードとが認められる場合に診断される。軽躁病エピソードの症状は躁病エピソードと似ているが、躁病エピソードが1週間以上の症状の持続を必要とするのに対して、軽躁病エピソードの持続期間は4日間以上となっている。双極I型障害と違って躁病エピソードが認められないために、問題が多発したり入院が必要になったりすることはない。

双極Ⅱ型障害の好発年齢は、双極I型障害よりも少し遅く、10代後半から20代前半であるが、高齢になって発症することもある。一般に抑うつエピソードで始まることが多く、受診動機も抑うつエピソードであることが多いために、最初はうつ病と間違われることも多い。また、双極Ⅱ型障害には家族負因が認められることが多い。女性の場合には、出産が軽躁病エピソードのきっかけになることもある。

双極Ⅱ型障害の75%に不安症が併存し、物質使用障害や摂食障害が併存していることも多い。自殺リスクも高く、双極Ⅱ型障害の約3分の1は少なくとも一度、自殺を試みている。


気分循環性障害

気分循環性障害は、比較的軽症の双極性障害であり、軽躁病症状と抑うつ症状の気分の波を2年以上(10代の場合は1年以上)にわたって規則的に繰り返し、その半分以上の期間で症状が認められ、症状が認められない期間が2か月以上続いていない場合に、気分循環性障害と診断される。

気分循環性障害の軽躁病症状と抑うつ症状の気分の波は、軽躁病エピソードや抑うつエピソードの基準を完全には満たさないほどの程度である。ほかの人には気分屋のようにみえるが、本人の心理的苦痛は大きく、人間関係や仕事での支障があることから受診にいたる。


検査・診断

躁病相が確認されれば、双極性障害の診断はさほど困難ではない。しかし、うつ病相のみの場合は、その2~3割が経過を追うと双極性障害に転じるので注意が必要である。とくに20歳以前、あるいは20代で発病するうつ病の場合は、慎重に経過をみていく必要がある。

うつ病では念のため甲状腺ホルモンの検査をすることが一般的であるが、心理検査は症状の経過をみて適当な時期に行う。


治療

双極性障害の治療は、単極性うつ病と同様、薬物療法精神療法社会的サポートの3本柱で行われるが、薬物療法は単極性うつ病とは基本的に異なる。


薬物療法

双極性障害の6割は気分安定薬の長期使用により、新たな病相を予防することが可能なので、予防に重点を置いた治療計画が必要である。薬物療法が奏功して症状が消失することもあるが、薬物療法を中止するとふたたび症状が現れることもある。

治療薬の変更や中止は、専門医と相談しながら行う必要がある。また、双極性障害は治療可能であるが、症状が軽快した後も予防のために治療を続けることが望ましいとされている。

双極性障害の治療に用いる薬剤
気分安定薬
炭酸リチウム
バルプロ酸
カルバマゼピン
ラモトリギン
抗精神病薬
リチウム(リーマス)
カルバマゼピン(テグレトール)
バルプロ酸(デパケン)
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(抗うつ薬)
フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)
セルトラリン(ジェイゾロフト)
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(抗うつ薬)
ミルナシプラン(トレドミン)

精神療法

精神療法もまた、精神症状を和らげ、再発を防ぎ、人間関係を改善し、生活の質を高めるために重要な役割を果たしている。

双極性障害に焦点をあてた精神療法には、家族焦点化療法、対人関係・社会リズム療法による認知行動療法などがある。それらは、それぞれ違ったアプローチではあるが共通している部分も多く、それには下記のようなものがある。

  • 起床、食事、入眠時間などを中心に規則正しい生活を送る
  • バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠など健康的な生活を送る
  • 同じ精神的問題を抱えて生活している人たちと連携をする
  • 躁病や抑うつのエピソードが始まるサインに気づき、早めに主治医に相談をする

社会的サポート

双極性障害は、患者の結婚、職業、生活にしばしば深刻な影響を招く原因となる。離婚率も高く、健康な対照者の2~3倍とされている。また、自殺率も高くなっている。

うつ病相では薬物療法に加えて、学校や会社を休ませて休養をとらせる、励まさないなどの配慮も必要になる。躁病相では活動性が非常に強くなるので、外出や他人との接触を制限することが大切である。


予防

双極性障害の予防策としては、下記のような対策が考えられる。ただし、これらは完全に証明されているものではなく、あくまでも双極性障害の発症や再発のリスクの低減に寄与すると考えられているものである。

  • 継続的な治療薬の服用
    • 決して自己判断で服薬を中止したりしない
    • 医師の指示に従い、用法・用量を守って服薬を続ける
  • ストレスの管理
    • ストレスは双極性障害再発の大敵
    • 自己評価の基準を緩くする
    • 無理せず周囲に相談する習慣をつける
    • 生活や仕事への考え方を変えてみる
  • 早期対応
    • 家族や医師に早めに相談することが大切
      • 眠れない場合
      • イライラしやすいと感じた場合
      • 普段の生活との変化を感じた場合
    • 早期発見・早期治療を目指す

あとがき

統合失調症と双極性障害は「二大精神疾患」と呼ばれている。順天堂大学らの研究グループが2019年に実施した大規模オンライン調査によると、統合失調症の生涯有病率は0.59%と推定されている。

一方、日本における双極性障害の有病率は1%と言われている。つまり100人に1人の割合で発症しているという。日本では双極性障害の有病率の方が、統合失調症の有病率よりも高い。決して稀な精神障害ではないということである。

双極性障害の躁状態では本人は気分が良いので治療する気にならないことが多いという。家族や友人が気づいて早めに治療を開始するよう本人を説得することが望まれる精神障害である。


【参考資料】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
双極性障害 | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)
躁うつ病(双極性障害)の症状・原因・治療方法について