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血管性認知症とは?原因?症状・診断・治療・予防?

はじめに

血管性認知症の発症には、加齢が大きく関与しているらしい。その理由は、加齢は血管内皮機能障害の大きな要因の一つであり、血管の老化は血管性認知症の発症リスクを高めると言える。

血管性認知症の発症リスクは、中年期から老年期の血圧上昇に伴い直線的に増加しているという報告もある。このことは高血圧などの生活習慣病と脳血管障害、ひいては血管性認知症との関連性を示唆している。


<目次>
はじめに
血管性認知症とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

血管性認知症とは

血管性認知症(Vascular Dementia: VaD)は、脳梗塞、脳出血やくも膜下出血などの脳血管障害が起因で、脳内の神経組織が破壊されることが要因となって発症する認知症の総称である。アルツハイマー型認知症とは臨床症状や画像診断上区別するが、危険因子を共通とし、また病態生理学的にも重なり合うことがある。

血管性認知症の約半数は認知症を伴う脳小血管病が占める。認知症を伴う脳小血管病は、皮質に主病変が存在するアミロイド血管症と、皮質下に主病変が存在する皮質下血管性認知症に大別される。

臨床症状では、記憶、見当識、注意力、言語、視覚空間機能、行動機能、運動統御、行為などに障害が認められる。神経学的診察で、脳卒中の際にみられる局所神経症候が認められ、脳画像診断でもそれが裏付けられる。病態は、多様で不均一である。記憶力の割に人格や理解力などが保たれるまだら状認知症を呈し、階段状に進行する。

日本国内における認知症患者数は462万人と推定され、そのうち血管性認知症は約92万人(20%程度)と推定されている。アルツハイマー型認知症と比較すると、血管性認知症は男性に多いと報告されている。


原因

多くは、脳梗塞などが原因で脳の血管が詰まり、脳へ酸素が運ばれず、その結果神経細胞や神経線維が壊れることが原因である。また、脳出血の後遺症として、血管性認知症になることもある。

血管性認知症は、単なる動脈硬化ではなく、脳血管障害により急性もしくは慢性の脳虚血により脳機能が低下することで認知症を来たすという考えが主流となっている。

そのほか、海馬、視床、角回など記憶に関係する部位への血管が破綻して発症するケースもある。心停止や呼吸不全などによる脳虚血が原因となることもある。


症状

血管性認知症の症状では、日常生活に支障を来すような記憶障害や認知機能障害を認める。具体的には、次のような洋々な臨床症状が現れる。これらの症状は必ずしも血管性認知症に特徴的なものではなく、アルツハイマー型認知症でも認められる。

  • 物覚えが悪くなった
  • 今までできていたことができなくなった
  • 時間や物の名前、においや味がわからない
  • 自分で服を着ることができない
  • 自分の家に帰ることができない

血管性認知症でより特徴的な点は、突然症状が悪くなったり落ち着いたりなど、症状に変動が見られる点である。また特定の分野のことはしっかりできるのに、他のことになると全くできなくなるといったまだら認知と呼ばれる症状を示すのも血管性認知症の特徴である。

その他の症状としては、抑うつ状態になったり、その場の状況に関係ない感情(突然泣き出したり笑い出したりする)を表したりすることもある。また、加速歩行といったパーキンソン病によく似た症状も出る(脳血管性パーキンソニズムと呼ぶ)。

血管性認知症は、アルツハイマー型認知症と比較すると記憶障害(認知障害)や人格障害は軽度な傾向にあるが、遂行機能低下と抑うつ症状・感情失禁などの精神症状はより重度になる傾向があるという。

また、血管性認知症では片麻痺や構音障害などの神経症状をともなうことが多い(アルツハイマー型認知症ではこれらは末期にならないと出現しない)。同時に、早期から歩行障害や尿便失禁をきたすこともよく見受けられる。

さらに、血管性認知症では病態認識がはっきりしており、自分が病気であるという意識は末期まで保たれる。


検査・診断

診断に際して重要な点は、認知症と血管障害の間に明確な因果関係があることを確認することである。血管性病変が出現したタイミングと認知症が生じたタイミングに時間的な矛盾がないことを確認することが重要であり、血管性病変の部位と大きさが臨床症状を説明するに妥当なものである必要もある。

血管性認知症の診断はアルツハイマー型認知症と重複することが多いため、特定の検査だけでは血管性認知症と判断することは難しい。血管性認知症の臨床診断基準には、前提として次の3点を満たしている必要がある。

  • 認知症がある
  • 脳血管障害がある
  • 両者の間に因果関係(時間的関連性)がある

血管性認知症では頭部CTやMRIなどの画像検査が有用になる。認知機能や記憶に関与する部位に一致して梗塞が存在することを確認し、梗塞巣の位置が症状の出現と妥当であるかどうかを確認する。その他、MRAにて血管の評価をすることもある。

生活習慣病の評価のためには、一般的な血液検査や心電図検査、骨密度など幅広い検査も併用される。


治療

血管性認知症で障害を受けた脳の神経細胞を回復させることはできない。したがって、治療の基本は、脳卒中の再発予防と認知機能に応じた対症療法が中心になる。

脳卒中再発予防には、生活習慣病に対するアプローチが必要になる。動脈硬化を進行させうる糖尿病や高血圧などに対する治療は重要である。脳卒中予防を目的として抗血小板薬や抗凝固薬などの薬物療法も有効である。

時に、アルツハイマー型認知症の治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬NMDA受容体拮抗薬などが処方されることもある。

また、認知症症状に対してのリハビリテーションも重要である。もし興奮や妄想、抑うつなどの症状が強い場合には、症状に対処するための内服薬(例えば、クエチアピンやオランザピン、ニセルゴリンなど)の使用を検討することもある。


予防

血管性認知症の予防策としては、下記のような対策が知られている。これらの対策は、血管性認知症の発症を完全に防ぐものではなく、発症リスクを減らすためのものとして推奨されている。

  • 食生活の見直し
    • 生活習慣病は脳血管障害の原因となる
      • 高血圧
      • 糖尿病
      • 脂質異常症
    • 塩分や脂肪の摂取を控える
    • バランスの良い食事を心がける
  • 適度な運動
    • 適度な運動は血流を改善し、脳血管障害を予防
  • 禁煙
    • 喫煙は血管を収縮させ、血流を悪化させる
  • 節酒
    • 過度の飲酒も血圧を上昇させる原因となる

あとがき

血管性認知症は、生活習慣病と密接に関連しているらしい。血管性認知症は、脳の血管が詰まったり、破れたりすることで発生するが、その原因となる脳血管障害は、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病によって引き起こされることが多い。

したがって、乱れた生活習慣を改善し、健康的な生活習慣を維持することは、血管性認知症の予防にも非常に役立つはずである。


【参考資料】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
【認知症のキホン】血管性認知症とは?発症の原因や主な症状、治療法を解説|ベネッセスタイルケア (benesse-style-care.co.jp)