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循環器系疾患 疾病

心不全とは?原因は何?症状は?検査・診断と治療の方法?予防策は?

はじめに

心不全は深刻な疾患であり、適切な治療を受けないと生命に影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、現代医療の進歩により、心不全の診断と治療は大きく進歩しており、適切な治療と生活習慣の改善によって、多くの心不全患者は長期間、良好なQOL(生活の質)を維持することができるようになっている。

また、心不全は予防可能な疾患であることも明らかになってきたことは朗報でもある。健康的な食事、適度な運動、喫煙や過度な飲酒の避けるなどの生活習慣の改善が心不全の予防に役立つとされる。

そうは言っても「心不全」は私たちの一番大事な臓器である、心臓の機能不全である。確かに私も含め、多くの人が不安になる疾病である。できることなら誰もが罹患したくないはずである。

私たちは、心不全について学び、自分の頭で理解を深めることによってのみ、その不安を軽減することができると思う。


<目次>
はじめに
心不全とは?
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

心不全とは?

心不全は、一般的に「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって生命を縮める病気」と定義されている。

医学的には「心腔内に血液を充満させ、それを駆出するという心臓の主機能になんらかの障害が生じた結果出現するため、心外膜や心筋、心内膜疾患、弁膜症、冠動脈疾患、大動脈疾患、不整脈、内分泌異常など、さまざまな要因により引き起こされるもの」であるとされる。

要するに、心不全とは、心臓が十分な血液を全身へ送り届けることができなくなった状態(心臓の機能不全)を指す。

そのような状態が急に発症、あるいは悪化した病態を急性心不全と称し、慢性的・継続的に日常生活において支障をきたしている病態を慢性心不全として分類してきた。

しかし、明らかな症状や兆候が出る以前からの早期治療介入の有用性が確認されている現在では、この急性・慢性を区別することの重要性が薄れている。

その急性・慢性の分類に代わって、収縮不全拡張不全の2種類に分類するようになっている。「収縮不全」とは、心臓のポンプ機能が弱くなり、十分な血液を全身に送り出せない場合を指す。一方、「拡張不全」とは、心臓が硬くなって正常に拡張できず、十分な血液を心臓に取り込めない場合を指す。

いずれの場合も症状が出現するようになると、息切れや疲労感、呼吸困難感、足を中心としたむくみなどが目立つようになる。

心不全は年齢を重ねるごとに発症するリスクが上がるため、高齢化が進む日本においては年々発症者が増えている疾病でもある。今後もさらに患者数が増加することが予想されているので、注目すべき疾病であると言える。


原因

心不全の主な原因には、下記のような疾病が関与している。


症状

心不全には、下記のような代表的な症状が知られている。

  • 息切れ
  • 足のむくみ
  • 易疲労感(疲れやすさ)
  • 急激な体重増加
  • 夜間の咳こみ

検査・診断

心不全の診断は、下記のような検査の結果に基づいて実施される。

  • 血液検査:心不全の際に上昇するマーカー(BNP)を検査
  • 心電図:心筋梗塞や不整脈がないかを検査
  • レントゲン:心臓の拡大や肺水の有無を確認
  • 心エコー:心臓の形の異常、収縮・拡張の異常や弁膜症の有無をチェック

治療

心不全の治療は、主として薬物療法とカテーテル治療法がある。

心不全の薬物療法は、症状の改善と予後の改善を目指すものであり、下記のような薬剤が使用される。

  1. 利尿薬(ループ利尿薬)
  2. ACE阻害薬
  3. ARB
  4. β遮断薬
  5. ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
  6. ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
  7. HCNチャネル遮断薬
  8. sGC刺激薬
  9. SGLT2阻害薬

利尿薬は、体に溜まった水分やナトリウムを尿として体外へ出すことによって、うっ血を改善し、心不全の症状を軽くする作用がある。

ACE阻害薬ARBは、心臓を保護する働き(臓器保護作用)を有し、心不全で過剰に分泌されているホルモンのバランスを調節するのに役立つ。

交感神経が緊張した状態になっていたり、心臓が十分な血液量を拍出できないことを補うために心拍数が高くなっている状態において、β遮断薬は交感神経の緊張を和らげ、心臓を休ませる働きがある。

ARNIミネラルコルチコイド受容体拮抗薬には、心臓を保護する働きが期待できる。

HCNチャネル遮断薬は、心臓の心拍数を減少させることで、無理をしすぎている心臓を休ませる働きがある。

sGC刺激薬は、心臓や血管の働きを調節し、心不全の悪化を防ぐことが期待されている。

SGLT2阻害薬は、糖尿病治療薬であるが、心臓の保護作用もあるため、心不全の悪化による入院を防ぐことができるというエビデンス(証明)が示されている。


予防

心不全の予防には、下記のような生活習慣(食事や運動など)の見直しや管理しかなさそうである。

  • 禁煙
  • 過度な飲酒を避ける
  • 食事は塩分や脂質、糖質を控えめにする
  • 野菜・果物や良質なたんぱく質を多く含む食事を摂る
  • バランスの取れた食事を心がける
  • 定期的な運動

あとがき

心不全に少し似た用語に「心停止」というのがある。しかし、両者は異なる状態を指す医学用語である。

心不全は、心臓が血液ポンプとしての働きを失くし、血液を全身へ送達するという使命を果たせなくなった状態(機能不全)を指す。そのため、心不全になると血流量の減少や静脈または肺での血液の滞留(うっ血)、心臓の機能をさらに弱めたり、心臓を硬化させたりするなどの変化などを引き起こす。しかし、だからと言って、心不全は必ずしも心停止や死に直結するわけではない。

一方、心停止は、心臓が完全に動きを止めてしまった状態で、自力で生きていくことはできない、すなわち「死」の状態を指す。

心不全は、心臓の収縮や弛緩が不十分になることで発生するが、これらは心筋が弱ったり、硬くなったりすることが原因で起こる。心不全が進行すると、全身の臓器が十分な酸素や栄養を得られなくなり、さまざまな症状が現れるのも事実である。そして、心不全が重度に進行し、治療が効果を示さない場合には心停止や、あるいは他の重大な合併症を引き起こす可能性がある。

だからこそ、心不全患者は、生活習慣の改善と適切な治療によって進行を抑制しなければならない。そうすれば、心不全患者も長期間にわたり、良好なQOL(生活の質)を維持することができるようになる。これが心不全に対する正しい理解である。

冒頭にも書いたが、私たちは、心不全について学び、自分の頭で理解を深めることによってのみ、その不安を軽減することができるのだと私は確信している。勿論、これは「心不全」に限った話ではない。


【参考情報】

急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)(日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン)
不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)(日本循環器学会 /日本不整脈心電学会合同ガイドライン)
2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(日本マルフィン協会)
Medical Notes HP