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NASHとは何? 原因と症状は?治療法と予防策は?

はじめに

NASH(ナッシュ;非アルコール性脂肪性肝炎)は、あまり聞き慣れない病名ではあるが、近年、注目されて疾患である。

その理由は、肝臓がんの原因の大半は従来は肝炎ウイルスの感染によるものが占めていたが、近年では、肝炎ウイルス以外の肝臓がんが増加の傾向にあり、その中でもNASHから進行による肝臓がんの増加が注目されているからである。

NASHは、肥満症や糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病とも密接に関連しており、これらの生活習慣病が増加している現代社会において、NASHの予防と管理がますます重要になってきていることも注目の理由である。

NASHが進行すると、肝硬変や肝臓がんを発症して命に関わる可能性があるため、早期の発見と適切な治療が求められている。

NASHの早期発見や診断の精度を向上させるための新しい診断ツールが開発されていることで、NASHの管理がより効率的になり、その結果、NASHの予後が改善される可能性が高まっているのも事実である。

これらの理由から、NASHは現代医学における重要な課題となっており、その理解と対策が求められているのは当然の帰結かも知れない。

目次
はじめに
非アルコール性肝炎(NASH)とは
原因
症状
検査・診断
治療
治療薬の開発動向
予防
あとがき

非アルコール性肝炎(NASH)とは

NASHとは、Non-alcoholic steatohepatitisの略で、非アルコール性脂肪性肝炎という疾病名がついており、アルコール性肝障害などの疾患を除外した病態の呼称である。

NASHは、アルコール依存症のない患者に発生する症候群で、組織学的にはアルコール性肝炎と鑑別できない肝傷害が生じる。

NASHの病態は、肝臓に脂肪が蓄積することで起こる肝炎で、脂肪肝が進行した病態であり、原因不明の肝硬変肝がん(肝細胞癌)に進行するリスクが高まるという注意すべき怖い疾病である(下図参照)。

NASHから直接、肝がんに進行した事例もあるので、できることなら羅患したくはない。

NASHの怖さは、自覚症状がほとんどないので発覚しにくい点である。

健康診断などの定期検査によって発見されることに頼るしか方法がなく、検査で判明したときには手遅れ(深刻な状況)ということも十分にあり得る話である。

NASHは、予後良好の単純性脂肪肝と異なり、炎症や線維化を伴って慢性的に進行する。特に肝線維化は、肝硬変や肝がん、生命予後を規定する因子として重要である。

非アルコール性脂肪性肝疾患NAFLD)は世界中で増加の一途を辿っている慢性肝疾患である。NAFLD 患者の一部の患者は、予後不良な非アルコール性脂肪肝炎NASH)へと進展し、最終的には肝硬変や肝細胞がんの発症に至る。

米国でのNASH患者は人口の 8%程度と推定されており、 NASHはすでに米国での肝細胞がんによる肝移植の要因の第二位であり、近い将来には第一位になると予想されている。

日本でも増加傾向にあり、国内のNASH患者数は、約100万~200万人と推定されている。国内における肝がんの主要な原因は、従来はウイルス性肝炎であったが、NASH がこれに取って代わると推測されている。

NASHは、40~60歳の女性で最もよく診断されるが、あらゆる年齢層で起こりうる。

発症した患者の多くには、肥満症、2型糖尿病(耐糖能障害)、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどがみられる。


原因

NASHになる原因は、現在のところ明確には分かっていない。しかしながら、NASH発症のリスクファクターとして、糖尿病、肥満、加齢、性別、人種、そして特定の遺伝子の SNPsが知られており、患者の病態進展や自然歴に影響することから、NASH は多因子が関与するヘテロな疾患であるとされている。

インスリン抵抗性が関連しているとも言われている。危険因子(肥満、脂質異常症、耐糖能障害など)を少なくとも1つ有する患者で最も多く発生する。したがって、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの基礎疾患がある患者の場合にはNASHの併発リスクが高まる。

脂肪変性の機序は、超低比重リポタンパク質(VLDL)の合成低下と肝でのトリグリセリド合成の促進の可能性が考えられている。すなわち、脂肪酸酸化の減少または肝へ運ばれる遊離脂肪酸の増加によると考えられている。

炎症は、脂質過酸化反応による細胞膜損傷の結果と考えられる。これらの変化が肝星細胞を刺激し、線維化を引き起こす可能性がある。NASHがさらに進行すると、肝硬変や門脈圧亢進症を引き起こしうる。


症状

大部分の患者は無症状である。NASHによる肝硬変の患者では、無症状のこともあり、さらに慢性肝疾患で通常みられる徴候を欠くこともある。

しかしながら、一部の患者では疲労、倦怠感、右上腹部の不快感を生じることがある。約75%の患者で肝腫大が生じる。進行した肝線維化が存在する場合には、脾腫を生じることもあり、通常これは門脈圧亢進症の発生を示唆する最初の所見である。

NASHは、予後良好の単純性脂肪肝と異なり、炎症や線維化を伴って慢性に進行する。

特に肝線維化は、肝硬変や肝がん、生命予後を規定する因子として重要である。

組織学的には、脂肪肝、炎症、バルーニング、線維化を特徴とする。なかでも肝線維化の進展は、NASH 患者の予後を最も反映する組織学的指標と考えられている。

NAFLD患者を長期間フォローアップしたメタ解析において、線維化ステージが進んだ患者ほど全死亡率及び肝臓関連の死亡率が上昇することが明らかとなっている。


検査・診断

臨床検査所見には,アミノトランスフェラーゼ値の上昇などがある。診断を確定するには肝生検が必要である。治療には,原因および危険因子の除去が含まれる。

診断には、過度の飲酒がないことの確固たる証拠が必要であり、さらに血清学的検査でB型およびC型肝炎を除外する必要がある。

肝生検では、アルコール性肝炎に類似した損傷がみられ、通常は大きな脂肪滴(大滴性脂肪沈着)を認める。

生検の適応としては、糖尿病、肥満、または脂質異常症を有する患者において、原因不明の門脈圧亢進症の徴候と原因不明のアミノトランスフェラーゼ値上昇が6カ月以上持続する場合などが挙げられる。


治療

治療には、原因および危険因子の除去が含まれる。

多くの製薬会社がNASHの治療薬を開発中であるが、今のところまだ画期的な治療薬が開発できたとのニースは入ってきていない。

現在、NASHの治療は生活習慣の改善に取り組むことが基本となっており、肥満が原因の人は、食事療法運動療法で適正体重に戻すことが推奨されている。

糖尿病、脂質異常症や高血圧を併発している患者の場合は、それぞれの治療薬を使用する。こういった疾病がないNASHの患者の場合、ビタミンEが使用される。ビタミンEには脂肪がたまって幹細胞に酸化が起こるのを抑える働きがある。

チアゾリジン系薬剤とビタミンEがNASHにおける生化学的および組織学的異常の是正に役立つ可能性があるという予備的なエビデンスが得られている。


治療薬の開発動向

現時点で、NASHに対してFDAから承認された治療薬はなく、高いアンメットメディカルニーズがある。

肝線維化の進展を抑制、更には線維化を改善させることがNASH 患者の長期的な予後の改善につながると考えられ、この目的を達成するための治療薬が開発中である。

肝線維化は、NASHだけでなく、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害など、慢性的な肝臓への障害によって惹起される細胞外マトリックスの蓄積に特徴づけられる。

かつては肝線維化の進展は不可逆的と捉えられていたが、ウイルス性肝炎の患者において、抗ウイルス薬による治療により肝線維化の退縮や改善が起こることが臨床的に明らかとなっており、肝線維化は非常に動的なプロセスであると現在では理解されている。

肝線維化における細胞外マトリックスの主要な産生細胞であり、線維化進展のキープレイヤーとして広く知られているのが肝星細胞である。

現在、肝星細胞あるいは肝線維化を標的とした多くのNASH治療薬が臨床試験段階にあり、肝星細胞の活性化機序やその制御機構の解明は、新たな NASH 治療薬の開発に繋がる可能性がある。


薬剤作用機序肝星細胞への作用Phase
CenicrivirocCCR2/CCR5 アンタゴニスト肝星細胞の線維化促進作用や遊走能を阻害III
ElafibranorPPARα/δ アゴニスト肝星細胞の活性化を抑制III
Obeticholic acidFXR アゴニスト肝星細胞の活性化を抑制III
SelonsertibASK1 阻害薬III
GR-MD-02Galectin3 阻害薬TGFβによる肝星細胞の活性化を抑制II
ND-L02-s0201Vitamin-A-coupled lipid nanoparticle containing siRNA against HSP47肝星細胞でのコラーゲンの正常な折り畳みを阻害することで,肝星細 胞にアポトーシスを誘導I

予防

NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)の予防策としては、下記のような対策が有効であるとされ、推奨されている。

  • 食生活の見直し
    • 糖質の過剰摂取は避ける(脂肪肝になりやすいため)
    • 果糖を多く含む清涼飲料水や果物は控える
    • ラードやバターなど動物性の食用油の摂取は控える
    • 多価不飽和脂肪酸を含む青魚の過剰な摂取を控える
    • ビタミンEを含む緑黄色野菜を多く摂取する
  • 適度な運動
    • 有酸素運動で体内の脂肪を燃焼させる
    • 有酸素運動を週3〜4回、30分以上行う
      • ウォーキング
      • ジョギング
      • 水泳など
  • 適正な体重と腹囲の維持
    • BMI値を25未満にする
    • 腹囲を基準値以内に維持する
      • 男性の場合:85cm未満
      • 女性の場合:90cm未満
  • 定期的な検診
    • 肝臓の状態を定期的にチェック
      • 血液検査
      • 画像検査

これらの予防策は、NASHのリスクを低減するために重要であるが、これらの予防策が全てのNASHを防ぐわけではないことも理解しておく必要がある。


あとがき

NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)とは、アルコール以外の原因で肝臓に脂肪が蓄積し、その結果として肝臓に炎症が起きた状態を指す。そして、NASHは、生活習慣病とも深い関連があるらしいことも分かった。

生活習慣の乱れが原因の肥満は、NASHの発症リスク要因である。肥満症患者ではNASHの発症が増加して、肝臓がんの発症リスクを高めている。

糖尿病もNASHのリスク要因であり、肥満症糖尿病による脂肪肝(肝臓に脂肪が蓄積することで起こる病気)が肝臓がんの発症リスクを高めている。NASHが進行すると、肝硬変や肝臓がんを発症して命に関わるリスクが一気に増大する。

また、NASHの発症には、インスリン抵抗性が密接に関与しているとされる。インスリン抵抗性は、体がインスリンの効果に対して感受性が低下し、血糖値を適切に管理する能力が低下する状態を指す。このような状態では2型糖尿病を発症するリスクが非常に高まっていると言ってよい、

このようなことから、NASHは「生活習慣病の肝臓への反映像」とも呼ばれているらしい。実際、NASHの患者には、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を合併している人が非常に多い言われている。

生活習慣病の予防策としての生活習慣の改善は、NASHの予防にも役立つ可能性がある。ただし、生活習慣の乱れだけが全てのNASHの原因であるわけではない。だから生活習慣に問題がない人でもNASHを発症する可能性がある。そのことを私たちは理解しておく必要がある。


【参考資料】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
土田琢磨、非アルコール性脂肪肝炎の治療標的としての肝星細胞の活性化機序、日本薬理学雑誌(Folia Pharmacol. Jpn.)154(2019)203~209
J. Clin. Med. 4, (2015) 1977-1988

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