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新型コロナウイルス (COVID-19) による感染症の治療法と予防策

はじめに

2019年に中国で現れた重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)(通称、新型コロナウイルス)は瞬く間にCOVID-19としてパンデミックを引き起こし、世界中の人々の生命を奪い、健康被害を与えるだけでなく、経済、社会的な面で甚大な被害を及ぼし、世界経済にも大きな打撃を与えた。

ウイルスの起源については諸説があるが、特にウイルスに顕著な突然変異株の出現などが重なった結果、甚大な感染者数の拡大と医療の逼迫を招いたといえる。

一方で、このパンデミックを、偶然に起こった自然災厄と捉えるのは適切ではない。昨今の急激なグローバリゼーション、過剰なまでの市場原理の追求、経済活動に伴う自然破壊、貧富の格差社会などが複雑に交錯する人災的側面もパンデミックを生み出した原因に含まれているに違いない。ワクチンや治療薬等の開発が人々を救うことになったのは言うまでもない。

およそ2年間にも及びコロナ禍の中でwithコロナとかポストコロナと呼ばれる時代を生きていくための対策として、新型コロナウイルスについて、その実態を最近の研究で明らかになってきたことを中心に学習することにした。


概要

COVID-19は、新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2によって引き起こされ、ときに重症化する急性呼吸器疾患である。

COVID-19は、2019年後半に中国の武漢市で最初に報告された後、世界中に拡大した。



伝播

SARS-CoV-2は、主として感染者が咳やくしゃみをしたり、歌ったり、運動や会話をしたりしたときに生じる飛沫や小さな粒子(エアロゾル)を介してヒト同士の濃厚接触により伝播する。

このウイルスの伝播は、呼吸器分泌物で汚染された表面(媒介物)との接触を介して発生する可能性もあり、これは人が汚染された表面に触れた後に顔面(眼、鼻、口)の粘膜に触れた場合に起こる。

無症状感染者と症状がみられる感染者(患者)の両方がウイルスを伝播する可能性があることが知られており、この性質のために感染拡大の制御が困難になっている。

感染力は発症前後の数日間が最も高く、この時期には呼吸器分泌物中のウイルス量が最も多くなっている。


SARS-CoV-2はヒトからヒトへ容易に伝播する。伝播のリスクには、ウイルスに曝露した量が直接関連する。一般に、感染者とのやり取りしたときの距離が近いほど、またその時間が長いほど、ウイルス伝播のリスクが高くなる。


伝播のリスクに関与する因子を整理すると下記のようになる。

  • 感染者からの距離
  • 室内にいる感染者の数
  • 感染者と過ごした時間
  • 空間の大きさ
  • エアロゾルを発生させる活動(例:歌う、大声、運動)
  • 換気の有無
  • 気流の方向および速度、など

感染リスクが高い状況としては、集団生活施設(例:介護施設、長期療養施設、寄宿学校、刑務所、船舶)のほか、屋内での礼拝、スポーツジム、バー、ナイトクラブ、屋内のレストラン、食肉加工施設など、換気が不十分で混み合った環境が挙げられる。

このような状況では、人の密集度が高く、しばしば感染回避策の維持が困難となる。介護施設の居住者は、年齢が高く、基礎疾患があるという理由でも重症化のリスクが高いと言われている。


濃厚接触者および感染者の隔離

アウトブレイクの局所的、地域的、世界的な拡大を抑制するために、濃厚接触者と感染者に対する隔離が適用されている。

濃厚接触者隔離は、感染力のある感染者と「濃厚接触」があった個人を他者から分離し、移動を制限することで、感染を広げないようにすることを目的としている。

尚、「濃厚接触」とは、SARS-CoV-2感染者の周囲6フィート(約2m)以内に24時間の間に合計15分以上いた場合を指す。

感染者は、症状が出現する2日前から、また無症状の場合は検査で陽性判定が出る前から、感染を広げ始める可能性がある。

したがって、隔離は濃厚接触があった日から開始され、5日目まで隔離され、10日目までよくフィットするマスクを着用すべきである。隔離が不可能な場合は、10日目まで、他者の周りではよくフィットするマスクを常に着用すべきである。

感染者と濃厚接触があった下記に該当する個人は、隔離の必要はないものの、10日目までよくフィットするマスクを着用すべきであるとされている。

  • COVID-19のワクチン接種を予定通りに受けている
  • 曝露前90日以内にCOVID-19に感染(検査での陽性判定)

曝露した個人は、たとえ無症状であっても、ワクチンの接種状況にかかわらず、曝露の5~7日後にSARS-CoV-2のウイルス検査を受けるべきである。

症状が現れた場合は、検査で陰性と判定され、症状がCOVID-19に起因するものでないことが確認されるまで、曝露した個人を直ちに隔離すべきである。


感染者の隔離は、COVID-19の感染が確認されたか感染が疑われる個人を、COVID-19に感染していない人々から分離するものである。

隔離中の感染者は、自宅にとどまり、他者から離れて過ごすか、もしくは、自宅で他者と一緒にいる必要がある場合は、よくフィットするマスクを着用すべきである。

感染者の隔離は、発症日またはウイルス検査で陽性判定を受けた日から開始すべきであり、少なくとも5日目まで継続する。

無症状であるか、症状が消失しつつある場合は、6日目に隔離を終了することができる。ただし、10日目までは、他者の周りではよくフィットするマスクを着用すべきである。

抗原検査を受けられる状況であれば、隔離期間の5日目から検査を行ってよい。その検査で陽性と判定された場合は、隔離を10日目まで継続すべきである。陰性と判定され、臨床基準を満たしている場合は、隔離を終了してもよいが、10日目までは、自宅を含む全ての場所で、他者が周囲にいる間は、よくフィットするマスクを着用すべきである。

重症者は、少なくとも10日目までは隔離すべきである。


症状と徴候

COVID-19患者では、重症度や現れる症状が一様でない。症状がほとんどない場合や,全くない場合もあれば,重症化して死亡する患者もいある。症状としては以下がみられる:

  • 発熱
  • 咳嗽
  • 咽頭痛
  • 鼻閉または鼻漏
  • 息切れまたは呼吸困難
  • 悪寒または繰り返す悪寒戦慄
  • 嗅覚または味覚障害の出現
  • 疲労
  • 筋肉痛
  • 頭痛
  • 悪心または嘔吐
  • 下痢

潜伏期間(曝露から発症までの期間)は2~14日であり、オミクロン株では中央値がわずか2~4日と推定される。感染者の多く(最大80%)は無症状または軽症であり、これは変異株によって異なる。

COVID-19患者における重篤化および死亡のリスクは、年齢とともに上昇し、喫煙者とほかに重篤な疾患(癌、心疾患、肺疾患、腎疾患、肝疾患、糖尿病、易感染状態、鎌状赤血球症、肥満など)を有する患者で高くなる。

重症例では、呼吸困難、低酸素症、画像上での広範囲の肺浸潤影を特徴とする。進行して、機械的人工換気を要する呼吸不全、ショック、多臓器不全に陥り、死に至る可能性がある。


コロナウイルスに感染すると、再感染に対してある程度の免疫が獲得される可能性があるが、COVID-19感染後に得られる免疫の持続期間や効力は依然として不明である。

SARS-CoV-2感染後にはほとんどの患者で中和抗体が認められることが研究で報告されているが、抗体価は時間の経過とともに低下する。

遺伝的に異なる株のSARS-CoV-2による再感染が確認されている。再感染は初回感染から3カ月以上経過してから起こることが多いが、初回感染から45日後という早い段階で症状が再発した場合にも、再感染を考慮してよい。

オミクロン株は再感染の原因になる可能性が高いことを示したエビデンスも増えてきており、その理由として免疫回避や免疫の減弱が想定されている。再感染に伴う症状は、初感染での症状と同様か、それより軽度になる傾向がある。


症状の消失

ほとんどの患者で、症状は約1週間以内に消失する。しかしながら、一部の患者では、1週間ほど経過してから臨床状態が悪化し、重度の病態に進行する例も報告されている。

軽症患者でも、呼吸困難、咳嗽、倦怠感などの症状が消失せず、数週間から数カ月にわたって持続することがある。重症患者では罹病期間が長くなる頻度が高いとみられている。

PCR法によるウイルス検査では、症状にかかわらず、3カ月以上にわたり陽性が続く可能性がある。しかしながら、たとえ症状が持続している患者であっても、発症後10日目の上気道検体からウイルスが培養できることはまれであるため、一般にそのような患者に感染力はないと考えられている。

また、COVID-19では、急性期に続いて長期の後遺症がみられることがあり、症状が数カ月持続する可能性がある。主な後遺症としては、疲労、筋力低下、疼痛、筋肉痛、呼吸困難、および認知機能障害が最も多く報告されている。これらの後遺症は、米国の一部の調査では全患者の25~50%に影響を及ぼしていると推定されている。長期後遺症の危険因子として、高い重症度、高齢、女性、肺疾患の既往などがある。


検査・診断

COVID-19の検査および診断は、下記の方法で行う。

  • 上気道および下気道分泌物のRT-PCR検査(リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応検査)、または
  • その他の核酸増幅検査
  • 上気道分泌物の抗原検査

COVID-19の診断検査は、民間検査機関と公的検査施設で行えるほか、自宅での実施も可能である。

RT-PCR検査は、感度と特異度が最も高く、COVID-19の初期検査として好ましいとされており、COVID-19の徴候・症状がみられる患者やCOVID-19患者と濃厚接触があった個人では特に有用である。

その他の核酸増幅法による検査プラットフォームは、一般にRT-PCRよりわずかに感度が低くなっている。

ポイントオブケア検査または在宅での抗原検出検査は、核酸増幅検査より感度が低く、特にウイルス量が少ない可能性がある感染発生直後の時点ではその傾向が強くなる。そのため、一部の抗原検査では、結果(例:有症状者での陰性判定)の確定にRT-PCRやその他の核酸増幅検査が必要になることがある。

多くの抗原検査キットでは、感染を検出する可能性を高めるために、数日にわたって連続して検査を繰り返すことも推奨されている。一部の検査では、オミクロン株を検出できない場合がある。


抗体が検出可能になるのは発症後1~3週目以降である場合が最も多いため、急性期のCOVID-19を診断する目的で血清学的検査(すなわち抗体検査)を用いてはならない。

抗体検査には2つの種類がある。1つはSARS-CoV-2のヌクレオカプシド抗原を標的とする抗体を検出する検査であり、COVID-19の過去の感染を診断するために用いられる。

もう1つは,スパイク抗原に対する抗体を検出する検査で、COVID-19のワクチン接種に対する免疫応答を評価するために用いられる。


重症度の高い患者で決まってみられる臨床検査所見としては、リンパ球減少がある。やや特異度の低い所見として、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、AST)高値,乳酸脱水素酵素(LDH)高値、Dダイマー、フェリチン、炎症マーカー(C反応性タンパクなど)高値などがある。

胸部の画像所見は、軽症例では正常となる可能性もあるが、重症度が高まるにつれて増加してくる。典型的な所見はウイルス性肺炎と一致し、具体的には胸部X線または胸部CTでのすりガラス陰影や硬化像(consolidation)などがある。しかしながら、胸部画像検査は、COVID-19に対するルーチンのスクリーニング検査としては推奨されていない。


治療

COVID-19の治療法は、重症度と患者毎の重症化リスクに依存する。現時点での治療方法としては、下記のようなものがある。

  • 支持療法
  • 軽症から中等症の患者で重症化のリスクが高い場合は、ニルマトレルビルとリトナビルの併用、モルヌピラビル、中和モノクローナル抗体、レムデシビル(短期)
  • 重症例には、レムデシビル、デキサメタゾン、免疫調節薬

重症度の目安

軽症(mild)
COVID-19の徴候および症状(例:発熱、咳嗽、咽頭痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛)を認めるが、息切れ、呼吸困難、および胸部画像検査異常を認めない場合
中等症(moderate)
臨床的評価または画像検査で下気道疾患の所見を認め、かつ海面レベルの室内気で酸素飽和度(SpO2)が94%以上である場合
重症(severe)
呼吸数が30回/分を超えている、または海面レベルの室内気でSpO2が94%未満である(もしくは慢性低酸素血症のある患者ではベースラインから3%を超えて低下している)、または吸気酸素濃度に対する動脈血酸素分圧の比(PaO2/FiO2)が300mmHg未満である、または肺浸潤が50%を超えている場合
最重症(critical)
呼吸不全、敗血症性ショック、または多臓器不全を認める場合

重症化リスクが高い軽症から中等症患者に対する治療

治療法を決定する際には、その地域で流行している変異株に対する、特定の抗ウイルス薬およびモノクローナル抗体の有効性が考慮される。

治療選択肢は、現時点で入手可能なデータと流行しているSARS-CoV-2変異株に基づいて、優先度順に記載している。

治療法は、各薬剤の入手可能性、各薬剤を投与するためのインフラ、ならびに症状の持続期間、薬物相互作用の可能性、肝障害や腎障害などの患者固有の因子に基づいて選択すべきである。

利用可能な治療法との併用治療に関するデータはないため、1剤のみを投与すべきである。

供給の限界と投与の制限により、最大の便益(例:入院および死亡の予防)が得られる可能性が高い患者を優先することが臨床医に求められる場合もある。その対象には、曝露ではなく感染が確認された患者のうち、ワクチン接種を一度も受けていない患者、ワクチン接種を完了していない患者、ワクチン接種を受けたが易感染状態のために十分な免疫応答の上昇が期待できない患者が含まれる。


ニルマトレルビルは、リトナビルとの併用(Paxlovidと呼ばれる合剤)で投与される経口抗ウイルス薬であり、SARS-CoV-2の直接検査で陽性と判定され、入院や死亡を含む重症化のリスクが高いCOVID-19の成人および青年(12歳以上,体重40kg以上)の軽症から中等症のCOVID-19に対する治療薬として、FDAから緊急使用許可(EUA)を受けている。ニルマトレルビルとリトナビルの併用は、COVID-19と診断されてから可及的速やかに、かつ発症後5日以内に開始すべきである。

ニルマトレルビルは、SARS-CoV-2タンパク質を阻害してウイルスの複製を停止させる薬剤(プロテアーゼ阻害薬)であり、リトナビル(すでにHIV感染症の治療に使用されていた別のプロテアーゼ阻害薬)との併用で使用されるが、リトナビルはニルマトレルビルの代謝を遅らせ、ニルマトレルビルを高濃度で長期間体内にとどまらせる。

用法・用量としては、ニルマトレルビル150mg錠2錠とリトナビル100mg錠1錠を同時に、5日間にわたり1日2回服用させる。この薬物療法については、連続5日間を超える使用は許可されていない。

ニルマトレルビル/リトナビルの併用で起こりうる副作用としては、味覚障害、下痢、高血圧、筋肉痛などがある。ニルマトレルビル/リトナビルの併用は肝傷害を引き起こすことがあるため、既存の肝疾患、肝酵素異常、または肝炎がある患者では注意が必要である。重度の肝障害または腎障害を有する患者には、この薬剤は推奨されない。

ニルマトレルビル/リトナビルの合剤には、様々な重篤な薬物相互作用が知られていることから、治療を開始する前に、それらの薬物相互作用について併用薬をスクリーニングする必要がある。


重症患者に対する治療

酸素投与を必要とするが、追加の呼吸補助は必要としない患者に対する治療選択肢としては、以下のものがある:

  • レムデシビル単剤
  • デキサメタゾン単剤
  • レムデシビルとデキサメタゾンの併用

抗ウイルス薬のレムデシビルは、COVID-19のために入院を必要とする12歳以上かつ体重40kg以上の患者への使用がFDAにより承認されている。またレムデシビルは、入院中かつ体重3.5kg以上の小児患者に対しても、FDAのEUAの下で使用可能であるが、それ以外の使用は、年齢にかかわらず、承認されていない。


予防

発症を予防する最善の方法は、ウイルスへの曝露を回避することである。手順は以下の通りである:

  • ワクチン接種を受ける
  • 人混みや換気の悪い場所を避ける
  • ワクチン接種の状況にかかわらず、市中感染率が中程度以上の地域にある屋内の公共の場所にいるときは、口と鼻の両方を覆える、よくフィットするマスクを着用する
  • 頻繁に石鹸と水で手洗いをし、石鹸と水を使用できない場合は、60%以上のアルコールを含有する手指消毒剤を使用する
  • 頻繁に接触する表面を定期的に清掃して消毒する

オミクロン株からの保護を最大限に高め、このウイルスが他者に伝播するのを防ぐため、屋内で他者と一緒にいる間は、全ての人がよくフィットするマスクを着用すべきである。

マスクは種類によって予防効果のレベルが異なり,低い方から、多層布マスク、多層サージカルマスク、KF94、KN95、K95マスクなどがある。

マスクの着用は、ワクチン未接種者、免疫機能が低下している個人、および年齢または基礎疾患のために重症化リスクが高い個人では、さらに重要である。

また、マスクの着用は、家族の中に免疫機能が低下している者、重症化リスクが高い者、またはワクチン未接種者がいる場合にも重要である。重症化のリスクが高い場合や、家族にリスクの高い人がいる場合は、伝播の程度にかかわらず、マスクを着用する方がよい。


ワクチン接種

現在、複数のワクチンが世界中で使用されている。

COVID-19に対するmRNAワクチンには以下の2つがある:

  • BNT162b2(Pfizer-BioNTech製)
  • mRNA-1273(Moderna製)

COVID-19に対するアデノウイルスベクターワクチン:

  • Ad26.COV2.S(Janssen/Johnson & Johnson製)

  • 初回接種:使用するワクチンに応じて、1回の注射または3~4週間の間隔で2回の注射
  • 追加接種:使用するワクチンに応じて、初回接種から少なくとも2~5カ月後に追加の注射

COVID-19ワクチンは、宿主細胞へのウイルスの侵入に極めて重要な役割を果たしているウイルス特有のスパイクタンパク質を、様々な手法によって標的としている。


2つのmRNAワクチンは、ウイルス抗原を含有せず、標的抗原(スパイクタンパク質)をコードするmRNAの小さな合成断片を送達する。ワクチンに含まれるmRNAは、免疫系の細胞に取り込まれ、そこでウイルス抗原を産生するように細胞を刺激した後、分解される。すると、抗原が放出されて意図する免疫応答が惹起され、その後に実際のウイルスに曝露した際、感染の重症化が予防される。mRNAワクチンには以下のものがある。


アデノウイルスベクターワクチンには、SARS-CoV-2の特徴的な「スパイク」タンパク質を産生するために、その遺伝物質(DNA)の一部が組み込まれており、それにより意図された免疫応答が誘導される。

重篤な有害事象のリスクがあることから、ほとんどの状況で、初回接種と追加接種ともに、アデノウイルスベクターワクチンよりもmRNAワクチンが優先して選択される。アデノウイルスベクターワクチンと、まれにみられる重篤な有害事象である血小板減少を伴う血栓症(ワクチン起因性血栓症血小板減少症候群)との間には、妥当な因果関係が想定されている。


初回接種で得られる感染予防効果は、時間の経過とともに低下することが示されている。感染、重症化、および死亡に対する予防効果を最大限に高めるために、一連の初回接種が完了してから2~5カ月後に追加接種を受けることが推奨される。ワクチンの追加接種を受けることで、初回接種のみの場合と比較して、重症化が20分の1に減少し、死亡率が90%低下することが研究により示されている。対象者が追加接種を受けた場合、一連のワクチン接種を「完了した」とみなされる。


これらのワクチンに関するFDAの警告は以下の通りである:

  • ワクチン接種を行う施設では、即時型アレルギー反応を管理するための適切な内科的治療を直ちに行えるようにしておく必要がある。
  • 易感染状態にある個人(免疫抑制薬の投与を受けている者を含む)では、ワクチンに対する反応が減弱する可能性がある。
  • このワクチンは全てのワクチン接種者で感染を予防できるわけではない。
  • アデノウイルスベクターワクチンの使用後に、血小板減少を伴う血栓症が報告されている。それらの報告から、脳静脈洞やその他の部位(中心および内臓動静脈、ならびに下肢の動脈を含むが、これらに限定されない)に生じる血栓症のリスクが高く、また、血小板減少を伴い、症状の出現時期がワクチン接種の約1~2週間後であることが示唆されている。接種後に血小板減少を伴う血栓症が疑われる患者では,、ヘパリンの使用が有害となる可能性があり、別の治療が必要になる場合がある。血液専門医へのコンサルテーションが強く推奨される。
  • mRNAワクチンでは、心筋炎および心膜炎が2回目の接種後、特に2回目の接種から7日以内に報告されており、ワクチン接種後にこれらの事象のリスクが高まる可能性が示唆されている。そのリスクは12~17歳の男性で最も高い。ワクチン接種者は、接種後に胸痛や息切れが起きるか、心臓が速く鼓動したり、ふるえたり、強く脈打ったりするのを感じた場合、直ちに医療機関を受診する必要がある。一部の症例では集中治療による支援が必要となっているが、短期間のフォローアップにより得られたデータからは、症状は通常、保存的管理で軽快したことが示唆される。

3つのCOVID-19ワクチンには、下記のような類似の頻度の高い有害作用が報告されている。

  • 注射部位の疼痛、腫脹、および発赤
  • 疲労
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • 悪寒
  • 関節痛
  • 発熱
  • 悪心
  • 倦怠感
  • リンパ節腫脹

有害作用は典型的には数日間持続する。2回の初回接種が必要なワクチンでは、1回目の接種後よりも2回目の接種後の方が、より多くの接種者に有害作用がみられる。

臨床試験では重大な安全性上の懸念は明らかにならなかった。重度のアレルギー反応が起こる可能性は極めて低いが、それが起こる場合、通常はワクチン接種後数分から1時間以内にみられる。

ワクチンまたは注射薬に対する重度の(アナフィラキシー)反応の既往がある個人には、この潜在的なリスクについてカウンセリングを行い、アナフィラキシー反応に対応できる監督下の条件で接種すべきである。

FDAの承認を受けた3つのワクチンは、それぞれ臨床試験で同程度の有効性が示されており、入院や死亡などCOVID-19による重篤な合併症をほぼ完全に予防した。

ワクチン接種は、現在蔓延している変異株(デルタ株およびオミクロン株)のCOVID-19による重症化および死亡の予防において、現時点で最も効果的な戦略となっている。

米国での2021年秋の入院率は、ワクチン未接種者の方がワクチン接種者の8~10倍高かった。また、同じ時期において、ワクチン未接種者がCOVID-19により死亡する可能性は、ワクチン接種者と比べて20倍高くなっていた。


後遺症

海外の研究では、後遺症で働けない人が増えることへの懸念も出ていて、後遺症についての理解が求められる場面が増えると予測されている。

区分後遺症の症状
PS0倦怠感がなく平常の生活が可能
PS1通常の生活できるが、時々、倦怠感を感じる
PS2通常の生活できるが、全身倦怠のため、しばしば休息が必要
PS3全身倦怠のため、月に数日、社会生活できず、自宅にて休息必要
PS4全身倦怠のため、週に数日、社会生活できず、自宅にて休息必要
PS5通常の社会生活が困難、軽作業は可能。週のうち数日は自宅で休息
PS6調子の良い日は軽作業可能だが、週の50%以上は自宅で休息
PS7身の回りのことができ、介助は不要だが、通常の社会生活は不可能
PS8身の回りのことはある程度できるが、しばしば介助必要、日中の50%以上は就床。
PS9身の回りのことできず、常に介助必要。終日、就床が必要。
PS6の段階になると、一人で暮らすことが困難。

【参考情報】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版