はじめに
これらの情報は、日本のデジタル医療の現状と課題を理解する上で参考になるでしょう。デジタル医療の進展は、医療の質とアクセス性を向上させ、患者の生活の質を改善する可能性を秘めています。しかし、その実現にはまだ多くの課題が存在します。これらの課題を解決するためには、さまざまなステークホルダーが協力して、新たな技術の導入と既存システムの改善に取り組む必要があります
- 日本の医療システムについて教えてください。
- オンライン診療ができる場所を教えてください。
- どんなウェアラブルデバイスがありますか?
- 日本で実際に使われている医療AIを教えてください
デジタルヘルスとは
デジタルヘルスとは、人工知能(AI)、チャットボット、IoT、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析、仮想現実(VR)などの最新のデジタル技術を活用して、医療やヘルスケアの効果を向上させることを指す用語である。
デジタルヘルスの具体例としては、下記のような活用例が知られている。
- ウェアラブルデバイスから得られる心拍数データで不整脈を検出する
- 血糖値の変動を持続的にモニタリングすることで厳密な血糖コントロールを可能にする
- AIやチャットボットを使って、ちょっとした異変を気軽に相談できるようになる
- ICTを活用して、治療後のフォローやリハビリテーション、介護の効果を高める取り組みが行える
これらの技術は、医療の質とアクセス性を向上させ、患者の生活の質を改善する可能性を秘めている。しかし、その実現にはまだ多くの課題も存在する。これらの課題を解決するためには、さまざまなステークホルダーが協力し合って、新たな技術の導入と既存システムの改善に取り組む必要があると言われている。
デジタルヘルスのメリット
デジタルヘルスのメリットとしては、下記のようなものが知られている。
- アクセス向上
- アプリなどの診療予約システムにより、待ち時間が短縮
- 遠隔地に住んでいてもリモート診療を受けることが可能
- 病院に行けない歩行困難な人もリモート診療で受診可能
- 健康成果の向上
- 自身の健康データをスマートフォンなどで管理できる
- 心拍数などの自覚症状がなくても異常を検知できる
- 蓄積された健康データを病院の診療に活用できる
- 早期発見と予防
- ウェアラブルデバイスから得られるデータを解析
- 病気の早期発見や予防が可能になる
- 医療費の削減
- 病気の発症や重篤化を防ぐことで、医療費を削減
- 地域間格差の是正
- ロボットやVRを使った遠隔手術で医師不足に悩む地域でも高度な医療技術を利用することが可能になる
これらのメリットを活用することで、デジタルヘルスは医療の質とアクセス性を向上させ、患者の生活の質を改善する可能性を秘めている。しかし、その実現にはまだ多くの課題が存在すると言われている。
デジタルヘルスのリスク
デジタルヘルスには多くのメリットがあるが、同時にいくつかのリスクも存在する。下記のようなリスクが挙げられている。
- データの安全性
- 個人の健康情報が不適切に取り扱われるとプライバシーの侵害や個人情報の漏洩などに繋がる
- 信頼性
- デジタルヘルス技術の信頼性は、その普及の重要要素
- 日本では第三者が個人のヘルスケアデータを管理することに対して、諸外国と比べて信頼度が全般的に低いとされる
- デジタルデバイド
- 全ての人がデジタル技術にアクセスできるわけではない
- 特に高齢者や地方居住者はデジタル技術へのアクセスが限られている場合がある
- 医療機関の対応
- 医療機関ではインフォームドコンセントが浸透している
- 同意取得の手続きが複雑
- 各システム間で情報を連携できない縦割りの問題もある
- 容易に情報を共有できない現状が存在する
これらのリスクを理解し、適切な対策を講じることで、デジタルヘルスの利点を最大限に活用しつつ、そのリスクを最小限に抑えることが可能であると考えられている。
世界におけるデジタルヘルスの現状
世界におけるデジタルヘルスの進展の現状は、下記のようなものであることが知られている。
- デジタルヘルス市場の規模
- 世界のデジタルヘルス市場
- 2020年には1,202億米ドルの規模
- 予測期間(2021年~2027年)には21.4%のCAGR
- 2027年には4,801億米ドルに達すると予測
- 世界のデジタルヘルス市場
- デジタルヘルスの進展
- ヘルスケア分野のデジタルテクノロジーの進展は著しい
- 治療アプリの登場
- VRを活用したリハビリテーションの普及
- AI搭載医療機器の可能性拡大
- スマートフォンを活用したmHealthの進展
- ロボットやアバターを活用した治療の開発
- ゲームのヘルスケアへの応用
- Brain Machine Interfaceの研究活発化
- さらに多様なソリューションが登場しつつある
- ヘルスケア分野のデジタルテクノロジーの進展は著しい
- データの活用
- デジタルヘルスケアに欠かせない要素はデータである
- 開発者やサービス事業者が効果的なソリューションを構築し展開するためには、健康関連データが必要不可欠
- しかし、現在のところ、デジタルヘルスケアがもたらし得るメリットは十分に実現されておらず、それはデータの詰まりが大きな原因となっているとされる
デジタルヘルスの進展は、医療の質とアクセス性を向上させ、患者の生活の質を改善する可能性を秘めている。しかし、その実現にはまだ多くの課題が存在しているようだ。特に、個人情報とされる個々人の健康情報の収集と扱い方がポイントのようである。
日本におけるデジタルヘルスの現状
一方、日本におけるデジタルヘルスの現状は下記のようなものであるらしい。
- デジタルヘルスの利用率
- デジタルヘルスを利用した人の割合は37%
- グローバル平均の60%に比べて低い
- デジタル化の進展の差が表れ、日本は遅れている
- 「ミレニアル世代」と呼ばれる18~41歳のデジタルヘルスの利用意向は約98%で、利用経験者は40%以上
- ミレニアル世代以上(42歳以上)のデジタルヘルスの利用意向は約95%で、利用経験者は20%強に留まる
- 特にオンライン診療や電子健康記録、ウェアラブル技術の活用が遅れている
- 日本では健康管理にデジタル技術を使う機会が少ない
- 特にオンライン診療や電子健康記録、ウェアラブル技術の活用という点で諸外国と大きな差がある
- デジタルヘルスを利用した人の割合は37%
- データの安全性とプライバシー
- 第三者が個人のヘルスケアデータを管理することに対して、諸外国と比べて信頼度が全般的に低くなっている
- 一方、医師や病院に対しては20%以上の人が強く信頼している
- デジタルヘルスの事業機会
- ヘルスケアの伝統的命題は、質とコストとアクセスのバランスを高みに引き上げることである
- 限られたヘルスケア資源の再配分(ペイシェントエンゲージメントを含む)とファイナンスに対する答えを模索
- 日本では、2040年を見越して医療提供体制の改革が議論され、取組みが進められてきている
これらの課題を解決するための取り組みが進められており、デジタルヘルスの普及と発展に期待がかかる。
研究課題
デジタルヘルスは医療業界に変革をもたらすが、その進展にはいくつかの課題が存在する。日本においてデジタルヘルスを進展させるために解決しなければならない研究課題として、下記のようなものが挙げられている。
- 医療情報共有の困難さ
- 医療機関間での情報共有は、患者の診療にとって重要
- 現在の電子カルテシステムはベンダーごとに情報の入出力方式が異なり、情報共有が困難な状況にある
- 医療情報を容易に共有できない現状が存在する
- 医療機関ではインフォームドコンセントが浸透しているため同意取得の手続きが複雑
- 各システム間で情報を連携できない縦割りの問題も存在
- 日本では、医療情報のデジタル化の速度は、諸外国にくらべると相対的に遅延している状況である
- デジタル技術の利用率の低さ
- 日本では、デジタルヘルスの利用率がグローバル平均に比べて低い
- 特にオンライン診療や電子健康記録、ウェアラブル技術の活用が遅れている
- データの安全性とプライバシー
- デジタルヘルスの利用促進のためには、データの安全性やプライバシーへの信頼が必要
- しかし、日本ではデータ利用に対する抵抗感や不安が強い傾向がある
- 日本では第三者が個人のヘルスケアデータを管理することに対して、諸外国と比べて信頼度が全般的に低い
- 患者及び医療従事者のデジタルヘルスへの期待度
- 医療機関に対して患者が期待する要素としてサービスの質(効率的な診療・快適な診療室)とコストを挙げる比率が諸外国と比べて高いが、デジタルヘルスには期待はない
- 日本では、現状、医療従事者の多くがオンライン診療の質とコストに対して懐疑的である
これらの課題を解決するための取り組みが進められており、デジタルヘルスの普及と発展が期待される。しかし、その道のりは決して容易ではなさそうだ。
あとがき
デジタルヘルスのトレンドについて下記のような項目に分けて取り上げたいと思う。つまり夢を語ってみたい。
- オンライン診療の領域拡大
- リモート治験の普及
- 薬局のDX化(デジタルトランスフォーメーション)
- 治療用アプリの増加
- ウェアラブルデバイスの多様化
- AI医療機器(画像診断からAI診断へ)
オンライン診療の領域拡大は、2022年6月にオンライン診療の恒久化に関する議論の取りまとめが行われ、秋には指針が改定されたので、一歩進展した感がある。診療歴や処方歴などがマイナンバーカードに紐付くかたちになれば、デジタルヘルスが本格化していくだろうと考える。しかし、マイナンバーカードへの健康保険証の組み込みにも反対者がいるような状況では心もとない。
リモート治験については、オンライン診療が一般化されることが前提である。オンライン診療が発展して、通話画面だけではなく、患者の自宅にバイタル計測機器を持ちこんだり、患者が日常的に使用している医療デバイスを使うなりして、データを取りながら診療をするという環境が普遍化した場合には、治験の分野でもそれを活かせば「リモート治験」になる可能性が高い。
治験は、医師が病院などの医療機関(医療施設・治験施設)で検査をして、データをとって診察をしなければならない。これがオンライン診療の普及に伴って、リモートによる治験が拡大していく可能性が高い。被験者が医療機関(医療施設・治験施設)に行かなくてもよいので、広範囲に参加できるようになるだろう。通院のハードルがなくなることで脱落者も減り、参加者の健康状態をリアルタイムで確認することができるなどメリットも大きいはずである。脱落者が少なくなれば、治験のコストダウンにも繋がると思う。しかしながら、オンライン診療が進まない現状では、まだ先になるかも知れない。
一方、薬局のDX化に関しては、早期に進んでいくのではないかと思う。最近の薬局は、大規模なチェーン店が主導しているので、大手企業の経営による資本の原理も働くはずである。医療機関よりも先に薬局のほうがDX化が進むと考えられる。むしろ既に進んでいるのかも知れない。
尚、薬局のDX化とは、デジタル技術を日々の業務に取り入れて業務の効率化や自動化を行い、薬剤師が働きやすい環境づくりを実現することを指す。具体的な取り組みとしては下記のような業務改善が含まれている。
- 重複投薬や併用禁忌のチェックを自動化
- 薬剤師の手間を省くことができる
- 処方や調剤情報を把握し丁寧な服薬指導を実施
- ICTの活用による服薬指導の効率化にも注目
- オンライン服薬指導を実施し、服薬アドヒアランスを向上
- オンライン服薬指導も積極的に行われつつある
- データのクラウド管理を活用し、在宅訪問を効率化
- データのクラウド管理を行う
- どこにいても薬歴の閲覧や記入ができる
- 在宅訪問を効率化できる
- データのクラウド管理を行う
- 電子処方箋を活用し医療機関へのフィードバックを効率化
- 電子処方箋で薬の情報を一元的に管理できるようになる
- 医療機関へのフィードバックを効率良く行える
これらの取り組みは、薬局の業務効率化を図り、薬剤師の働きやすさを向上させるとともに、患者へのサービスの質を高めることを目指している。このように、DX化はIT化と混同されがちであるが、DX化はデジタル技術により、既存の業務工程そのものを見直すなど革新的な変化を目的としている。
日本で承認されている治療用アプリは次の2品目である。
- CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー
- 2021年に国内で初めて保険適用された治療用アプリ
- ニコチン依存症の治療を目的としている
- CureApp HT 高血圧治療補助アプリ
- 2022年に承認を取得し、同年9月に保険適用が開始
- 高血圧の治療を補助するためのアプリ
これらの治療アプリは、患者の行動変容を促すことで病状の改善を目指している。つまり、患者がアプリに体調などの情報を入力すると、アプリに搭載されたアルゴリズムが情報を解析し、最適なタイミングで患者一人ひとりにあった診療アドバイスを提供している。これらの治療アプリは、医療の質とアクセス性を向上させ、患者の生活の質を改善する可能性を秘めている。
治療用アプリのターゲット疾患は、生活習慣病であることが多いので、次に登場する治療アプリは糖尿病治療を支援するものであろうか。多分、最初に登場するのは食事療法支援アプリのようなものであるだろう。
ウェアラブルデバイスの多様化については、Apple Watchアプリの医療機器承認が大きくて、ヘルスケアデータをとるデバイスが医療機器になっていくという流れがある。
また、アボットジャパン株式会社による「FreeStyleリブレ」は、コイン大の針付きセンサーを腕に刺すことで(侵襲型システム)、場所時間を問わずに血中のグルコースをモニタリングできるシステムである。現在の技術では侵襲型ではあるが、技術進歩に伴い、いずれ非侵襲型への流れに向かって行くことであろう。
非侵襲型へのトレンドは、Apple Watchをはじめとするリストバンド型や眼鏡型などの形態も、機能もどんどん多様化していく局面を私たちは迎えている。さらには、治療アプリとウェアラブルデバイスの融合もあるかも知れない。非常に楽しみな時代である。
AI医療機器に関しては、これまではAIの活用は画像認識に関するものが多かったが、問診・診断支援系(AI診断)への活用がメインになっていくだろうと期待したい。こちらの進展は結構速いかも知れない。その理由は、解決すべき課題は技術的なものに限られるように思うからである。