はじめに
米国で治験を開始する際は、IND(Investigational New Drug)をFDAに提出する。INDはINDA(Investigational New Drug Application)とも呼ばれ、臨床試験実施申請資料又は新薬臨床試験開始届とも訳される。INDは、臨床試験を行う予定の新医薬品候補についての情報をまとめた書類一式である。
一方、日本で治験を開始するには治験計画届書(治験届)を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出する。治験計画届書は、英語でCTN(Clinical Trial Notification)という。
ここでINDとCTNに必要なCMC関連資料を比較してみると、INDにはIMPD(Investigational Medicinal Product Dossier)が添付資料として必要であるが、CTNにはIMPDが必要ではない。
原薬や製剤の情報は、治験薬概要書(IB; Investigator’s Burosure)に記載されているのみとなる。したがって、IBの記載には必要不可欠な情報を簡潔かつ正確に記す必要がある。
本稿では、IBに記載すべきCMC関連情報とCTNに添付が必要なCMC関連情報について記す。そして、CTNには必要ではないが、INDでは必要なIMPDについても言及する。
<目次> はじめに 治験薬概要書 (IB) IBの記載内容 IBの目次 IBに関する規制 英語版IBのみでの審査 治験計画届書の提出 治験計画届書 治験計画届書の添付資料(ア~ウの場合) 治験計画届書の添付資料(エの場合) IMPD Headings あとがき |
治験薬概要書 (IB)
治験薬概要書 (IB) は、治験の実施に関与する臨床医、治験責任医師、治験コーディネーターや看護師などの医療従事者に提供される。
IBは、臨床試験(治験)に使用する治験医薬品(治験薬)のCMC、非臨床および臨床データを要約した、包括的な単一の文書である。
IBには治験薬の用法用量、投与頻度、投与の方法、安全性のモニタリング手順などの治験参加者の臨床管理を支援する知見も含まれている。
IBは、治験依頼者が準備し、その配布も管理する。
IBの必要性は各国とも同様で、治験申請 (CTA) とともに承認を受けるため所轄官庁 (NCA) に提出される。
日本では、IBは治験計画届書(CTN)の添付資料の一つとしてPMDAに提出される。
IBの記載内容
IBに記載される情報は、簡潔、正確、客観的、公平、非宣伝的でなければならない。
その理由は、治験責任医師がこの文書を理解し、その情報に基づいて治験の妥当性について判断し、利点とリスクについて公平な評価が行えるようにするための重要な文書であるからだ。
IBの内容はデータを作成した研究者によって確認、承認される必要があり、少なくとも年に 1 回または重要な新しいデータが受領された際に、レビューおよび更新を行う必要がある。
IBには治験薬について、下記の内容(文言)も記載される。
- 治験依頼者名
- 薬剤に関する情報 (研究番号、一般名、商標)
- この文書が機密扱いであるという文言
- 治験責任医師のチーム、審査委員会、倫理委員会のメンバーのみが使用し、守秘義務があるという文言
- 治験薬の非臨床試験および臨床試験の結果をまとめたもの
- 治験薬の特性および履歴に関する背景情報
IBの目次
IB には下記のセクションが含まれる。
- まとめ
- 薬剤の開発段階に関連する重要な情報を強調した、治験責任医師へのガイドライン
- はじめに
- 背景情報
- 研究実施の根拠
- 治験薬中の活性物質の化学名
- 活性物質の一般名 (および該当する場合は商標)
- 予定されている適応
- 物理的、科学的、薬剤学的な特性および製剤設計
- 他の既知の化合物との類似性を含む、治験薬および賦形剤 (非活性成分) の関連する特性
- 製剤の保管および取扱いに関する指示
- 非臨床試験
- 薬理試験による結果の要約
- 毒性試験による結果の要約
- 薬物動態試験による結果の要約
- 代謝試験による結果の要約
- 用いられた方法論、結果、および所見の妥当性の説明
- 動物実験や検査室試験および用量についての情報
- この要約には、この化合物に関する所見の妥当性と、ヒトにおける望ましくないまたは意図しない潜在的効果についての議論も含める必要がある
- ヒトにおける効果
- 毒性に関する試験の結果
- 薬物動態に関する試験の結果
- 代謝に関する試験の結果
- 安全性に関する試験の結果
- 有効性に関する試験の結果
- 可能であれば各治験の要約
- 治験薬が承認済みの国や未承認の国を含む以前の市場経験による情報
- データの要約と治験責任医師向けのガイドライン
- 治験における薬物有害反応 (ADR)
- その他の問題を予測しやすくするための、非臨床および臨床データの全体的な説明
IBに関する規制
規制当局(欧州医薬品庁 (EMA) や各国の所轄官庁 (NCA) など) では、研究が行われるすべての医薬品について最新の IB を要求している。IB は治験申請 (CTA) とともに規制当局に提出し、規制当局が IB に対する更新もすべて審査して、その正確性、完全性、公平性を確認する。
治験薬が既に販売承認 (MA) を受けており、その薬効薬理が医師の間で広く理解されている場合などは、詳細な IB が不要になる場合もある。そのような場合は、製品概要 (SmPC) か、規制当局によって許可される場合は添付文書やラベル表示が、IB の適切な代替物として代わりに利用されることがある。
但し、その代替物には、治験責任医師にとって重要となりうる治験薬のあらゆる側面について、最新の包括的かつ詳細な情報が記載されていなければならない。
市販されている薬剤を新たな用途 (効能の追加) について研究する場合は、その新しい用途に固有の IB を準備する必要がある。
関連性のある新しい情報を入手した場合、治験責任医師および研究倫理委員会 (REC) には、可能であればその新しい情報を改定版 IB に含める前に、その情報を知らせる必要がある。
英語版IBのみでの審査
治験において、英語が原本とされる治験実施計画書、治験薬概要書などの、改訂の時の治験審査委員会開催時期についての質問です。当院治験審査委員会は全員日本人委員で、全委員が日本語の文書と近い理解力 で英語の文書を理解できない現状があります。そのため、委員会審査の精度にかけるため、英語の文書(原本)が提供されても、その後に提供される日本語版の文書の提供を待ってから治験審査委員会の審査としています。あるモニターより、英語版が原本なのに日本語版が出るまで審議を延ばすことを治験依頼者が認めているかのように見えるため、PMDA が好ましくないと判断しているということで、英語文書だけで治験審査委員会の審査が可能であるかを毎回尋ねてきます。日本語版はあくまでも補助資料ではありますが、日本語版を読まないとしっかり理解はできないのは明らかなのに日本語版が出るまで治験審査委員会の審査を延ばすことは悪いことなのでしょうか? 治験審査委員会委員の要件に「外国語に堪能」と言及されてもいませんが、今後どのように対応したらよいでしょうか? |
治験依頼者は、治験期間を通じて、治験審査委員会の審査の対象となる文書のうち、治験依頼者が提出すべき文書を最新のものにし、当該文書が追加、更新又は改訂された場合には、そのすべてを速やかに実施医療機関の長に提出しなければならない(GCP 第 31 条第 2 項ガイダンス 3)。一方、GCP では治験実施計画書及び治験薬概要書等を実施医療機関及び治験審査委員会に日本語で提出しなければならないとする規定はない。しかしながら、本邦においては、治験に関わる者が必ずしも英語に堪能であるとは限らないので、当該文書の原本が英語の場合には、治験依頼者は日本語版を予め用意するか、実施医療機関又は治験審査委員会の求めに応じ速やかに提出できるよう準備する必要がある。 昨今、国際共同試験の実施が増加しているが、当該試験で使用する文書の原本は英語である場合を鑑み、原本(英語)および改訂事項を明記した資料(日本語)を一体として治験審査委員会の審査資料とする等、柔軟な対応により速やかに審査ができるようにすることも一方法であると考える。当該文書の改訂内容によっては、被験者の安全性を確保するために行われる改訂等、早急に審査すべきものもあると思われ、日本語版の提出を待つことにより、当該文書の審査が著しく遅れることのないよう対応することが重要である。 |
治験計画届書の提出
1.治験の計画等の届出について
(1)治験の依頼をしようとする者が、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)第 80 条の2第2項及び第 80 条の3第4項並びに医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(規則)第268条の規定により、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)にその計画を届け出なければならない治験は、局長通知第8の3の(1)のアからカまでに示す被験薬に係る治験であること(ただし、イからカまでに示す被験薬について生物学的同等性試験を行う場合を除く)。
また、治験の計画等の届出は被験薬の数によらず、原則として治験実施計画書ごとに届け出ること。
用語 | 定義 |
---|---|
被験薬 | 治験の対象とされる薬物であり、当該治験の試験成績をもって当該薬物の製造販売承認申請を目的とするものを指す。主たる被験薬とは、治験計画届出時に被験薬が 1 つの場合にはその被験薬を指し、複数の被験薬がある場合には、治験依頼者が選択した 1 つの被験薬を指す。 治験計画届書に記載された薬物のうち、主たる被験薬の他、併用する薬物等であっても製造販売承認申請を要するものを含む。 |
治験使用薬 | 治験実施計画書において被験薬の有効性及び安全性の評価に使用することを規定された被験薬、対照薬、併用薬、レスキュー薬、前投与薬等を指す。なお、治験使用薬は、その有効成分の国内外での承認の有無は問わない。 |
治験計画届書
ア | 当該届出に係る治験の計画が30日調査の対象となるものについては、実施医療機関との予定契約締結日の少なくとも30日以上前に届け出ること。なお、当該届書をPMDAが受理した日から起算して 30日を経過した後でなければ治験の契約を締結してはならないこと。 |
イ | 当該届出に係る治験の計画がマイクロドーズ臨床試験に該当する場合においては、実施医療機関との予定契約締結日の少なくとも30日程度前を目安として届け出ることとし、当該被験薬物に係る治験についてマイクロドーズ臨床試験以降初めて届け出る治験の計画が30日調査の対象となること。 |
ウ | 日本薬局方に収められている医薬品及び既に製造販売承認を与えられている医薬品(既承認医薬品等)と有効成分及び投与経路が同一であるが、例えばナノ技術を応用すること等で徐放化等の薬剤学的な変更により用法等を異にすることを目的とした新たな剤形の薬物のうち、有効成分を内包する等の製剤設計により有効成分の体内分布や標的部位への移行性が大きく異なると想定される薬物を用いた治験を届け出る場合には、上記アと同様に治験の計画を届け出ること |
エ | 上記ア~ウ以外の治験計画届書については、実施医療機関との予定契約締結日の少なくとも2週間程度前を目安として届け出ること。ただし、当該届出に係る治験の計画が第Ⅰ相試験等に該当する場合においては、その届出時期についてあらかじめPMDAに相談することが望ましい。 |
治験計画届書の添付資料
(ア~ウの場合)
- 当該治験の依頼を科学的に正当と判断した理由を記した文書
- 治験実施計画書
- インフォームド・コンセントに用いられる説明文書及び同意文書
- 症例報告書の見本(治験実施計画書に明確に記載されている場合は提出不要)
- 最新の治験薬概要書
- 治験薬概要書を準備出来ない場合は、当該被験薬の最新の科学的知見を記載した文書(添付文書、インタビューフォーム、学術論文等)とすることで差し支えない。なお、学術論文等を提出する場合は、概略をまとめた文書もあわせて添付すること。
- 被験薬以外の治験使用薬に係る最新の科学的知見を記載した文書(添付文書、インタビューフォーム、学術論文等)。なお、学術論文等を提出する場合は、概略をまとめた文書もあわせて添付すること。
- 被験薬については、必要に応じて次の資料を添付すること。
- DNA 反応性(変異原性)不純物の評価及び管理に関する資料
- 株化された細胞を用いて製造されるタンパク質性医薬品等の品質に関する資料
治験計画届書の添付資料
(エの場合)
- 当該治験の依頼を科学的に正当と判断した理由を記した文書(前回届出以降の新たな試験結果及び情報の概要に関する記述を含むものであること)
- 治験実施計画書
- インフォームド・コンセントに用いられる説明文書及び同意文書
- 症例報告書の見本(治験実施計画書に明確に記載されている場合は、提出不要)
- 最新の治験薬概要書
- 治験薬概要書を準備出来ない場合は、当該被験薬の最新の科学的知見を記載した文書(添付文書、インタビューフォーム、学術論文等)。なお、学術論文等を提出する場合は、概略をまとめた文書もあわせて添付すること。
- 被験薬以外の治験使用薬に係る最新の科学的知見を記載した文書(添付文書、インタビューフォーム、学術論文等)。なお、学術論文等を提出する場合は、概略をまとめた文書もあわせて添付すること。
- 被験薬については、必要に応じて次の資料を添付すること。
- DNA 反応性(変異原性)不純物の評価及び管理に関する資料
IMPD Headings
The table of contents for a full IMPD follows the headings as given by the relevant guidelines. The IMPD headings are based on the assumption that detailed information will be provided by the Investigational Brochure. Only relevant information will have to be provided and several headings can in general remain empty.
2.1.S | DRUG SUBSTANCE |
2.1.S.1 | General Information |
2.1.S.1.1 | Nomenclature |
2.1.S.1.2 | Structure |
2.1.S.1.3 | General Properties |
2.1.S.2 | Manufacture: |
2.1.S.2.1 | Manufacturer(s) |
2.1.S.2.2 | Description of Manufacturing Process and Process |
2.1.S.2.3 | Control of Materials |
2.1.S.2.4 | Controls of Critical Steps and Intermediates |
2.1.S.2.5 | Process validation and/or Evaluation |
2.1.S.2.6 | Manufacturing Process Development |
2.1.S.3 | Characterisation: |
2.1.S.3.1 | Elucidation of Structure and Other Characteristics |
2.1.S.3.2 | Impurities |
2.1.S.4 | Control of Drug Substance: |
2.1.S.4.1 | Specification |
2.1.S.4.2 | Analytical Procedures |
2.1.S.4.3 | Validation of Analytical Procedures |
2.1.S.4.4 | Batch Analyses |
2.1.S.4.5 | Justification of specification |
2.1.S.5 | Reference Standards or Materials |
2.1.S.6 | Container Closure System |
2.1.S.7 | Stability |
2.1.P | Investigational Medicinal Product under Test (Drug Product) |
2.1.P.1 | Description and Composition of the Medicinal Product |
2.1.P.2 | Pharmaceutical Development: |
2.1.P.2.1 | Components of the Medicinal Product |
2.1.P.2.2 | Medicinal Product |
2.1.P.2.3 | Manufacturing Process Development |
2.1.P.2.4 | Container Closure System |
2.1.P.2.5 | Microbiological Attributes |
2.1.P.2.6 | Compatibility |
2.1.P.3 | Manufacture: |
2.1.P.3.1 | Manufacturer(s) |
2.1.P.3.2 | Batch Formula |
2.1.P.3.3 | Description of Manufacturing Process and Process Controls |
2.1.P.3.4 | Controls of Critical Steps and Intermediates |
2.1.P.3.5 | Process Validation and/or Evaluation |
2.1.P.4 | Control of Excipients: |
2.1.P.4.1 | Specifications |
2.1.P.4.2 | Analytical Procedures |
2.1.P.4.3 | Validation of Analytical Procedures |
2.1.P.4.4 | Justification of Specifications |
2.1.P.4.5 | Excipients of Human or Animal Origin |
2.1.P.4.6 | Novel Excipients |
2.1.P.5 | Control of Medicinal Product: |
2.1.P.5.1 | Specification(s) |
2.1.P.5.2 | Analytical Procedures |
2.1.P.5.3 | Validation of Analytical Procedures |
2.1.P.5.4 | Batch Analyses |
2.1.P.5.5 | Characterization on impurities |
2.1.P.5.6 | Justification of Specification(s) |
2.1.P.6 | Reference Standards or Materials: |
2.1.P.7 | Container Closure System: |
2.1.P.8 | Stability: |
2.1.A | APPENDICES |
2.1.A.1 | Facilities and Equipment |
2.1.A.2 | Adventitious Agents Safety Evaluation: |
2.1.A.3 | Novel Excipients: |
2.1.A.4 | Solvents for Reconstitution and Diluents: |
あとがき
IND(Investigational New Drug)とCTN(Clinical Trial Notification)は、それぞれ米国と日本の臨床試験申請に関する制度であり、それぞれ異なる要件がある。
IND申請では、IMPD(Investigational Medicinal Product Dossier)が必要とされる。これは、治験薬の品質、製造、および非臨床試験データを含む包括的な文書であり、治験薬の安全性と有効性を評価するための基礎となるものである。
一方、日本のCTNでは、IMPDは必須ではない。これは、日本の制度が米国の制度とは異なる要件を持っているためであるが、その異なる理由を探してみたが公には明らかにされていない。こればかりは、各国の規制当局の指示に従う他に術はない。
日本の治験計画届書に必要な資料は下記の文書類である。
- 治験計画書
- 下記事項を詳細に記述した文書
- 治験の目的
- デザイン
- 手順
- 統計的考察など
- 下記事項を詳細に記述した文書
- 治験薬概要書
- 下記内容をまとめた文書
- 治験薬の非臨床試験データ
- 製造方法
- 品質情報など
- 下記内容をまとめた文書
- インフォームド・コンセント文書
- 下記事項を説明し、その同意を得るための文書
- 被験者に治験の目的
- 手順
- リスク
- 利益など
- 下記事項を説明し、その同意を得るための文書
- 治験依頼者による治験の依頼を科学的に正当と判断した理由を記した文書
- 治験依頼者が治験の依頼を科学的に正当と判断した理由を記述した文書
CMC関連の文書としては、治験薬概要書(IB)に下記の内容を過不足なく適切に記載することである。
- 物理的、科学的、薬剤学的な特性および製剤設計
- 他の既知の化合物との類似性を含む、治験薬および賦形剤 (非活性成分) の関連する特性
- 製剤の保管および取扱いに関する指示
さらに、被験薬が低分子医薬品である場合には、「DNA 反応性(変異原性)不純物の評価及び管理に関する資料」を添付する必要があるので要注意である。