はじめに
創薬研究によって生み出された有効成分は、製剤研究によって製剤化されて「医薬品候補(治験薬)」となるが、「医薬品候補」の開発の最終段階では、健康な人や患者の協力によって、ヒトでの有効性と安全性を調べることになる。
ヒトにおける試験を一般に「臨床試験」というが、治験薬を用いて国の承認を得るための成績を集める臨床試験は、特に「治験」と呼ばれている。
「医薬品候補(治験薬)」の有効性と安全性をヒトで調べる治験は、科学的な方法で、参加される方の人権を最優先にして行われる。
治験は病院で実施される。治験を行うことができる病院は、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」という規則に定められた要件を満足する病院から選ばれる。
その要件とは下記のようなものである。
- 医療設備が充分に整っていること
- 責任を持って治験を実施する医師、看護師、薬剤師等がそろっていること
- 治験の内容を審査する委員会を利用できること
- 緊急の場合には直ちに必要な治療、処置が行えること
「医薬品候補(治験薬)」の有効性と安全性をヒトで調べる治験は、科学的な方法で、参加される方の人権を最優先にして行われる。
治験を行う製薬会社、病院、医師は薬機法という医薬品・医療機器に関する法律と、これに基づく「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令=GCP;Good Clinical Practice)」という治験を実施するためのルールを守らなければならない。この治験を実施するためのルールは国際的に認められている。
医薬品の開発のために実施される臨床試験で使用される治験薬の取り扱いは、GCPと呼ばれる基準と手順に準拠して行われることなっている。
法律および省令(=GCP)で定められているルールは具体的には下記にようなものである。
● 治験の内容を国に届け出ること
● 治験審査委員会で治験の内容をあらかじめ審査すること
● 同意が得られた患者さんのみを治験に参加させること
● 重大な副作用は国に報告すること
● 製薬会社は、治験が適正に行われていることを確認すること
製薬会社は、治験を担当する医師が合意した「治験実施計画書」(治験薬の用法用量、検査内容・時期などが記載された文書)を厚生労働省(実際にはPMDA)に届け出る。PMDAは、この内容を調査し、問題があれば変更等の指示を出す。
治験審査委員会では「治験実施計画書」が、治験に参加される患者さんの人権と福祉を守って治験薬の有効性を科学的に調べられる計画になっているか、治験を行う医師は適切か、参加される患者さんに治験の内容を正しく説明するようになっているかなどを審査する。治験審査委員会には、医療を専門としない者と病院と利害関係がない者が必ず参加する。製薬会社から治験を依頼された病院は、この委員会の審査を受けて、その指示に従わなければならない。
治験の目的、方法、期待される効果、予測される副作用などの不利益、治験に参加されない場合の治療法などを文書で説明し、文書による患者さんの同意を得なければならない。この「説明と同意」のことを「インフォームド・コンセント」という。
治験中に発生したこれまでに知られていない重大な副作用は治験を依頼した製薬会社から国に報告され、参加されている患者さんの安全を確保するため必要に応じて治験計画の見直しなどが行われる。
治験を依頼した製薬会社の担当者(モニター)は、治験の進行を調査して、「治験実施計画書」やGCPを守って適正に行われていることを確認する。
このようにして実施した治験から得られた成績は国が審査して、病気の治療に必要で、かつ安全に使っていけると確認されたものが「医薬品」として承認される。
上述のように治験の実施におけるルール、すなわちGCPに準拠するためには治験薬の供給体制と品質保証を担保することも重要となる。そのために治験依頼者が完備すべきSOP(Standard Operating Procedure)には何を記載すべきかについてGCPや治験薬GMPを参考にして考えてみた。
GCPと治験関連薬事規制
GCPとは?
医薬品や医療機器を製品として販売するには厚生労働大臣の製造販売承認を得る必要がある。この承認申請を行うにあたり、効果や安全性をヒトで確認するため、臨床試験「治験」を行う必要がある。そして「治験」の結果をもって国に審査され承認されたものだけが「新薬」として販売できる。
治験のデータは、科学的に評価できるデータとして倫理性・信頼性基準のもとで収集することが求められている。この基準がGCP(Good Clinical Practice)と呼ばれているガイドラインである。GCPは欧米諸国をはじめとした世界中で医薬品開発における国際的なルール(ICH-GCP)として認められている。
日本ではGCPは、薬機法(旧薬事法)下の厚生労働省令である「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(以下「GCP省令」)にその基準が定められ、医薬品等の臨床試験実施の際に、企業や医療機関が守るべき基準として厳密に運用されている。
GCP省令には、治験と製造販売後臨床試験に関する遵守事項が規定されている。その目的は被験者の人権、安全及び福祉の保護、臨床試験の科学的な質とデータの信頼性を確保することである。
GCPの歴史
1990年4月、治験データの相互に利用して、不必要な試験の繰り返しを防いで優れた新薬をより早く治療の場に届けることを目的に、日本、EU、米国の間で規制当局と製薬業界の専門家によって「医薬品規制調和国際会議(ICH、International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)」が創設された。
1996年、ICHによる治験の国際的な基準である「ICH-GCP」が最終合意された。
日本では、ICH-GCP の合意を受け、1996年に薬事法が改正され、1997年3月、厚生省(当時)から「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)」が発表された。
なお、それ以前(1989年10月通知)にも「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(GCP)が存在したが、あくまでも「通達」であり法的な拘束力がなかった。そこでこの通達と区別するために省令となったGCPを「省令GCP」または「新GCP」と呼ぶ場合がある。
日本のGCP省令
医薬品の治験を行う場合、GCP省令(H9.3.27省令28、H20.2.29改正省令24)を遵守する必要がある。
GCP省令に違反すると、違反した症例のデータが使えなくなったり、重大な場合には違反した症例だけでなく他の症例のデータも使用できなくなったり、治験依頼者や規制当局の立ち入り監査を受けることもある。
GCPの特徴
治験内容の届け出
治験を実施する際には、治験内容を国に届け出る必要がある。治験を行おうとする製薬会社は、治験を担当する医師が合意した「治験実施計画書」(「医薬品の候補薬剤」の服薬量、回数、検査内容・時期などが記載された文書)を厚生労働省に届け出る。厚生労働省は、この内容を調査し、問題があれば変更等の指示を出す。
IRBによる調査
治験を実施する前に、IRB(治験審査委員会)にて安全性・有効性・倫理性を調査する必要がある。
IRBは、製薬会社や開発に関わる研究者や医師などから独立した第三者機関であり、科学的な視点や倫理的な視点から、治験が正しく実施できるかを審査する委員会である。
具体的には、治験実施計画書が治験に参加する患者(被験者)の人権と福祉を守って候補薬剤の持つ効果を科学的に調べられる計画になっているか、治験を行う医師は適切か、被験者に治験の内容を正しく説明するようになっているか、医療機関が計画通りに実施できる内容であるか、被験者の治療に不利益になる内容ではないか、などを審査する。
なお、IRBは医学の専門知識を有する専門委員、医療の専門知識がない非専門委員、医療機関と利害関係がない外部委員の3種類の委員すべてを含む5人以上のメンバーで構成される。
IRBは治験を行う医療機関に設置されるが、治験を依頼する製薬会社でも通常社内IRBが設置される。
インフォームド・コンセントの厳格化
被験者は、文書による同意が得られている者のみとする必要がある(インフォームド・コンセントの厳格化)。
治験の目的、方法、期待される効果、予測される副作用などの不利益、治験に参加しない場合の治療法などを文書で説明し、文書による被験者の同意を得る(同意文書)。
治験に参加するかしないかは、誰からも強制されることはない。
同意文書の控えと説明文書は被験者に渡される。被験者のプライバシーは厳重に守られなければならない。
手順:
医師による説明 ⇒ 自由な質問 ⇒理解・納得 ⇒ 同意(署名)
重大な副作用が見つかった場合の報告義務
治験を実施したことで重大な副作用が見つかった場合は、国に報告する義務がある。
治験中に発生した重大な副作用は治験を依頼した製薬会社から国に報告し、必要な治療と適切な補償が行われ、被験者の安全を確保するため必要に応じて治験計画の見直しや治験の中止などが行われる。
管理システムの明確化
治験薬の管理
治験依頼者は、治験薬の容器または被包に特定の情報を記載しなければならず、治験薬の製造に関する記録、安定性等の品質に関する試験の記録、治験使用薬の交付・回収の記録及び治験使用薬の処分の記録を作成しなければならない。
治験薬の包装
治験薬は、輸送及び保存中に汚染や劣化を防止するために包装される。
治験薬の識別
盲検下の治験では、治験薬のコード化及び包装に際して、医療上の緊急時に当該治験薬がどの薬剤であるかを直ちに識別できるようにしなければならない。
治験薬の取扱い方法
治験依頼者は、治験薬の許容される保存条件、使用期限、溶解液及び溶解方法並びに注入器具等取扱い方法を説明した文書を作成し、これを治験責任医師、治験分担医師、治験協力者、治験薬管理者等に交付しなければならない。
治験薬の交付
治験依頼者は、適切な時期に治験使用薬が実施医療機関に交付されるようにすること。
治験チームにおける役割・責任の明確化
治験を依頼した製薬会社の担当者(モニター)は、治験の進行を調査して、治験実施計画書やGCPの規則を守って適正に行われていることを確認する。
この確認は治験中に何度か行う。また、この治験を承認したIRBも治験が適切に行われているかどうかを1年に1回以上審査する。
実施中には治験実施計画書に定められたスケジュールで定められた評価や検査を行い、これを症例報告書にまとめる。
「治験責任医師」の指導・監督のもとに「治験分担医師」や「治験協力者」は、治験業務を実施または支援する。
GCP違反
GCPの基本的な事項を遵守しない場合は、重大な違反となる。
GCP違反の例としては以下のものが挙げられる。
- 安全性の問題を隠すため、実際の検査値とは異なる値を報告した。
- 重篤な有害事象が発現した際に、発現状況を直ちに治験依頼者に伝えなかった。
- 被験者からの同意を、文書を用いずに口頭のみで得た。
治験コーディネータ(CRC)について
CRCとは Clinical Research Coordinator の略で、被験者・医師・治験依頼者(製薬会社)の間に立って、治験の実施を支援する。
主な業務内容として、被験者ケア(同意説明補助、来院時および電話での面接・相談対応、有害事象への対応)、医師の支援(スクリーニング補助、スケジュール管理、併用薬の確認、データ管理、症例報告書作成支援、その他報告書の作成支援)、治験依頼者への対応が挙げられる。
特別な資格はないが、日本臨床薬理学会や日本SMO協会、SoCRAなどの団体によるCRCの認定制度がある。
治験に従事する職務であるため、通常、薬剤師、看護師、臨床検査技師などが担当される場合が多い。
GCPに関連する法令、省令
① 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)
(略称法令名:医薬品医療機器等法,薬機法)
② 医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令
(略称法令名:医薬品GPSP省令)
③ 医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令
ヘルシンキ宣言とGCP
GCPの倫理的バックグランドとして「ヘルシンキ宣言」が重要です。
これは「ヒトを対象とした全ての医学研究においては、ヘルシンキ宣言を基に行わなければならない」という原則です。
一部を抜粋してご紹介します。
- 患者・被験者福利の優先:科学的・社会的利益よりも優先されなければならない
- 本人の自発的・自由意思〔自由な同意〕による参加
- インフォ-ムド・コンセント取得の必要:必要な重要情報を十分に提供され、理解した上での意思決定
- 倫理審査委員会による事前審査、監視の継続:実験開始に先立ち、実施計画書(プロトコール)を作成して倫理審査委員会に承認されなければならない。
- 研究は科学原則に従い、動物実験を経て行う:科学的文献の十分な知識、他の関連した情報源及び十分な実験並びに適切な場合には動物実験に基づかなければならない。
「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスにも「治験は、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則及び本基準を遵守して行うこと。」と説明されている。
治験における品質マネジメントに関する基本的考え方について(薬生薬審発0705第5号 令和元年7月5日)
医薬品の治験等の実施の基準に適合した治験等の円滑な実施に当たって参考となるガイダンス(以下「GCPガイダンス」という。)については、「「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて」(平成 24 年 12 月 28 日付薬食審査発 1228 第7号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)の別添として示している。
今般、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)の合意に基づき、ICH-E6(R2)ガイドラインが取りまとめられ、品質管理及び品質保証を包括する概念である「品質マネジメント」に係る記載が盛り込まれたこと等に伴い、GCPガイダンスを改正した(令和元年7月5日付け薬生薬審発 0705 第3号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)。
背景
モニタリング及び監査に代表される品質管理及び品質保証は、治験の品質を確保するに当たって重要な役割を担っている。そして、品質管理及び品質保証をより効果的に活用して治験の品質を担保するためには、適切な体制を構築し、これらを包括的なプロセスのもとで実施すること(品質マネジメント)が必要である。また、品質マネジメントにおいては、簡潔な治験実施計画書の作成、関係者への適切な教育訓練等により、治験の計画段階から品質の確保を行うことも重要である。
今般改定されたICH-E6(R2)ガイドラインにおいても、品質管理及び品質保証を包括する概念として品質マネジメントの考え方が整理され、治験依頼者及び自ら治験を実施する者における治験の計画段階からの効率的・革新的な品質確保への取組が奨励されている。
品質マネジメントの実施
品質マネジメントの前提として、以下の点に留意すること。
- 治験のあらゆる局面において実行可能であることを保証するとともに、不必要な複雑さ、手順及びデータ収集を回避すること
- 治験実施計画書、症例報告書の様式その他業務関連文書は、簡潔明瞭で一貫したものにすること
治験の品質マネジメントシステムでは、以下に記載するリスクに基づく取組を利用するものとする。
(1)重要なプロセス及びデータの特定
治験実施計画書の作成において、被験者保護及び治験結果の信頼性確保のために重要なプロセス及びデータを特定する。
(2)リスクの特定
治験の重要なプロセス及びデータに対するリスクを特定する。リスクは、システムレベル(標準業務手順書、電子データ処理システム、人員等)及び治験レベル(治験デザイン、データの収集、同意取得プロセス等)の両レベルで検討する。
(3)リスクの評価
以下の点を考慮して、既存のリスクコントロールを前提として、特定したリスクについての評価を行う。
- エラーが発生する可能性
- 当該エラーが検出される可能性
- 当該エラーが被験者の保護及び治験結果の信頼性に及ぼす影響
(4)リスクのコントロール
低減すべきリスク及び(又は)受入れ可能なリスクを決定する。受入れ可能なレベルまでリスクを低減するために実施する取組は、リスクの重要性に見合ったものとする。リスクの低減措置は、治験実施計画書のデザイン及び実施、モニタリング計画書、役割及び責務を規定する当事者間の合意、標準業務手順書の遵守を確保する体系的な措置並びにプロセス及び手順に関するトレーニングに組み込むことができる。
被験者の安全性及び治験結果の信頼性に影響を及ぼす可能性がある体系的な問題を特定するため、変数の医学的特性及び統計学的特性並びに治験の統計学的デザインを考慮し、品質許容限界を事前に規定する。規定された品質許容限界からの逸脱の検出は、低減措置の必要性を検討する契機となる。
(5)リスクコミュニケーション
品質マネジメント活動を文書化する。治験の実施期間中におけるリスクレビュー及び継続的な改善を促進するため、品質マネジメント活動に係る関係者及び当該活動により影響を受ける者に対し、品質マネジメント活動の内容を伝達する。
(6)リスクレビュー
履行した品質マネジメント活動の効果及び妥当性が維持されているか否かを確認するため、最新の知識及び経験を踏まえて、リスクコントロール手段を定期的にレビューする。
(7)リスク報告
総括報告書において、治験で履行した品質マネジメントの取組を説明し、事前に規定した品質許容限界からの重要な逸脱及び講じられた措置の要約を記載する(「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン」(平成8年5月1日付け薬審第 335 号厚生省薬務局審査課長通知)の「9.6データの品質保証」)。
組織及び体制
目的は治験の依頼及び管理に当たって、医薬品GCP省令に沿った業務を行うために適切にして十分な人材を有し、かつ、組織及び体制が確立していることを確認することである。
治験依頼者の組織(当該被験薬の開発組織を含む)と医薬品GCP省令に係わる組織との関係を明確にしておく。そのためには関係性を明確化した組織図を作成しておくとよい。
治験の依頼及び管理の業務に従事する者の氏名、履歴及び職務経験並びに治験の実施状況を記載した文書を残しておくこと。
治験の依頼及び管理に関する次の事項に係る適切な手順書を作成する。
(1)実施機関及び治験実施責任者の選定
(2)治験実施計画書の作成及び改訂
(3)治験の依頼及び管理に係る業務の一部委託
(4)治験の依頼及び契約
(5)治験使用薬の管理
(6)副作用情報等の収集
(7)モニタリング
(8)監査
(9)治験の中止又は中断等
(10)総括報告書の作成
(11)記録の保存
(12)被験動物の所有者への同意の取得
(13)その他
当該治験(中止、中断された治験を含む)について、被験薬に関する必要な情報を有していることが重要となる。
当該治験について、治験調整責任者又は治験調整委員会を置いた場合、その氏名、履歴及び当該業務に関する把握状況並びに委嘱業務の範囲、手順その他必要な事項を記載した文書を残す。
実施機関等の選定
目的は、当該治験について、実施機関及び治験実施責任者が手順書に従い適切に選定されていることを確認することである。
そのために、次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- 実施機関の名称及び当該実施機関の治験担当者の氏名及び履歴
- 実施機関の臨床実績及び治験の実施状況
- 治験実施責任者の氏名、履歴及び臨床経験
実施機関の要件
目的は、実施機関が医薬品GCP省令に沿った治験を適切に実施し得る人材、組織等を有していることを確認することである。
そのために以下の項目について確認し、記録を残しておく。
- 実施機関の組織と医薬品GCP省令に係る組織との関係
- 実施機関の組織を構成する職員の氏名及び履歴
- 実施機関の臨床実績及び治験の実施状況
- 治験実施責任者の氏名、履歴及び臨床経験
治験実施計画書
目的は、当該治験について、治験実施計画書が手順書に従い適切に作成及び改訂されていることを確認することである。
そのために次の事項について調べて記録に残しておくこと。
- 治験実施計画書の記載項目(医薬品GCP省令第7条第1項に規定する項目)
- 治験実施計画書の作成、改訂の手順と日付
- 治験計画届出書(変更届を含む)と治験実施計画書の整合性
治験の依頼及び契約
目的は、当該治験について、依頼及び契約が手順書に従い適切に行われていることを確認することである。
そのために次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- 治験の依頼書及び日付並びに提出された文書(医薬品GCP省令第8条に規定する文書)
- 治験契約書の記載項目
- 所有者に対する同意取得の要請
- 治験国内管理人に治験の依頼に係る手続きを行わせるための措置(外国製造医薬品の承認申請の場合)
- 治験使用薬により事故が発生した場合の補償のための措置
- 治験使用薬が残留していることにより人の健康を損なうおそれのある動物の肉、乳その他の生産物が食用に供されることを防ぐための措置
治験の業務の委託
目的は、当該治験について、治験の依頼及び管理に係る業務の一部を委託する場合、委託手続き及び委託された業務が医薬品GCP省令に従って行われていることを確認することである。
したがって、次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- 委託契約書の記載事項
- 委託された業務に係る記録及び文書
治験の実施に関する事務手続き
目的は、治験の実施に関する事務手続が適切に実施されていることを確認することである。
そのため以下の項目について確認し、記録に残しておく。
- 治験の実施に関する次の手順書が備えられているか
(1)治験使用薬の管理に関する手順(治験依頼者が作成した手順書以外に手順を定めた場合)
(2)治験中の副作用等報告
(3)治験の中止、中断又は終了
(4)症例報告書の作成及び訂正
(5)被験動物の所有者への同意の取得
(6)保存資料の管理
(7)その他 - 当該治験について、次の事項を調べる。
(1)治験が適正かつ円滑に行われるよう取られた措
(2)モニタリング及び監査に対する協力の状況
(3)治験依頼者からの副作用情報等の通知(医薬品GCP省令第19条第1項及び第2項)を治験実施責任者に通知した記録
(4)治験依頼者からの治験の中止等の通知(医薬品GCP省令第23条第2項及び第3項)を治験実施責任者に通知した記録
(5)治験実施責任者からの治験の中止等の報告(医薬品GCP省令第38条第2項)を治験依頼者に通知した文書の写し及びその理由
(6)治験実施責任者からの治験の終了の報告(医薬品GCP省令第38条第3項)を治験依頼者に通知した文書の写し及びその結果の概要
(7)治験実施責任者により作成された治験担当者の業務分担一覧表
(8)治験実施責任者から治験担当者への治験の内容についての説明の記録
(9)治験実施計画書からの逸脱時の処置及びその記録書から逸脱した旨、その理由を治験依頼者及び実施機関の長に提出した文書の写し
臨床試験の担い手として躍進する日本のCRO業界
協会について | 一般社団法人 日本CRO協会 (jcroa.or.jp)
治験薬の管理
治験依頼者は、治験薬の容器または被包に特定の情報を記載しなければならず、治験薬の製造に関する記録、安定性等の品質に関する試験の記録、治験使用薬の交付・回収の記録及び治験使用薬の処分の記録を作成しなければならない。
目的は、当該治験について、治験薬が適切に管理されていることを確認することである。
そのために、次の事項を調べて記録を残しておくこと。
- 治験の契約の日付と治験薬の交付の日付の整合性
- 治験薬、その容器及び直接の被包の表示(医薬品GCP省令第 16 条第1項に規定する記載事項)
- 被験薬の添付文書、その容器及び被包(内袋を含む)の表示(医薬品GCP省令第 16 条第2項に規定する記載禁止事項)
- 治験薬の輸送及び保存中の包装
- 治験使用薬に関する次に掲げる事項の記録
(1) 治験薬の製造及び試験に関する事項(医薬品GCP省令第 16 条第4項第1号)
(2)実施機関別の治験使用薬の交付又は回収の数量及びその年月日(医薬品GCP省令第 16 条第4項第2号)
(3)治験使用薬の処分の記録(医薬品GCP省令第 16 条第4項第3号) - 治験の契約書、治験使用薬の管理に関する手順書の作成日と実施機関の長への交付日の整合性
- 治験使用薬の交付方法(第三者を介して交付した場合は、その理由)
治験薬の品質保証
目的は、治験使用薬の管理が適正に実施されていることを確認することである。
そのための下記の項目について確認し、記録に残しておく。
- 治験使用薬の管理場所
- 当該治験について、次の事項を調べる。
(1)治験使用薬の管理に関する手順書の治験実施責任者への交付
(2)治験使用薬の管理に関する手順書(治験依頼者より交付されたもの)
(3)治験使用薬の受領、使用、返却又は処分の記録
治験薬管理者の責務
治験薬管理者は、GCP第39条に従い、治験依頼者から提供された治験使用薬に関する手順書に従って治験薬を適切に管理する責務を負っている。
この治験薬の管理業務の一部を治験薬管理者以外の者に従事させる必要がある場合には、従事させる者に治験使用薬に関する手順書を説明した上で、治験薬管理者の監督、責任のもと、治験薬が適切に管理されるのであれば問題ない。
実施医療機関の標準業務手順書などに、治験薬管理に従事させる者(職種での記載、従事させる者個人の指名方法の記載など)をあらかじめ定めておくことが望ましい。
治験薬管理表の記載範囲
GCP 第 39 条ガイダンス4において、実施医療機関の長又は治験薬管理者は、以下の事項に関して記録を作成し保存することと規定されています。 a) 実施医療機関に交付された治験使用薬の受領 b) 実施医療機関での在庫 c) 被験者ごとの使用状況 d) 未使用治験使用薬の治験依頼者への返却又はそれに代わる処分 a)に関しては治験使用薬搬入の際に治験使用薬納品書、受領書を交換す ることでよいのだと思います。C)及び d)に関しては、治験使用薬管理表を記入することにより記録されることになるのだと思います。 ここで質問なのですが、「b)実施医療機関での在庫」に関しては、治験 使用薬受領書と治験使用薬管理表をもれなく記載することでよしとするものなのでしょうか。それとも、これらとは別の出納簿のようなものを必ず作成し、その時の在庫がリアルタイムでわかるようにしなければならないのでしょうか。 また、GCP 第 39 条ガイダンス4の後段に、「これらの記録には、日付、数量、製造番号又は製造記号、使用期限(必要な場合)並びに治験薬及び被験者識別コードを含むこと。」とありますが、これらは、治験使用薬納品書・受領書、治験使用薬管理表について述べていると解釈してよいのでしょうか。それとも、もしも先の質問にて出納簿が必須だとすると、この出納簿にもこれらの事項は必ず記載がなければならないのでしょうか。効率を重視し、これらの細かい記録は納品書・受領書、治験使用薬管理表にあるのだから出納簿は作成するのであれば数量の差引がわかればよいという解釈ではだめでしょうか。 |
「実施医療機関での在庫」の記録は、治験依頼者から提供された治験使 用薬の管理に関する手順書に従い、治験薬管理者が適正管理した上で、第39 条ガイダンス4にある「実施医療機関に交付された治験使用薬の受領」「被験者ごとの使用状況」および「未使用治験使用薬の治験依頼者への返却又はそれに代わる処分」から、実施医療機関の在庫が把握できるのであれば、改めて出納簿のような記録を作成する必要はないと考えます。 また、治験使用薬納品書・受領書、治験使用薬管理表には、その記録を 作成する目的に沿って「日付、数量、製造番号又は製造記号、使用期限、治験薬及び被験者識別コード」を記入すればよく、治験使用薬納品書・受領書、治験使用薬管理表、治験使用薬返却書・回収書それぞれに上記全ての事項を記載する必要はありません。 |
治験薬管理表(写)の治験依頼者への提供
治験薬管理者による治験使用薬管理表などの提出についてですが、実施医療機関側はその治験が終了してからコピーを提出して確認をしてもらいたいのですが、治験依頼者から途中で確認ができるルールに変更されましたと言われ、まだ治験中の治験使用薬管理表などの提出を求められています、拒否可能ですか。 |
治験依頼者のモニターは、治験使用薬の保管・管理状況を確認する責務があり(GCP 第 21 条第1項ガイダンス9)、実施医療機関の長は治験依頼者が実施するモニタリングに協力し、全ての治験関連記録を直接閲覧に供することとされています(GCP 第 37 条第1項/第2項ガイダンス1)。したがいまして、治験中であっても治験使用薬管理表の確認(閲覧)にご協力いただきますようお願いいたします。 治験依頼者は治験使用薬の適正な取り扱いを保証するため、交付する治験使用薬の出荷、受領、処分、返却及び廃棄の記録を保存しなければなりません。また、実施医療機関ごとに実際に交付、使用及び回収、破棄した治験使用薬の数量を治験終了届書又は治験中止届書にて届け出る義務があります。治験使用薬管理表(写)を治験実施中から治験依頼者へ提供することは、「治験に係る文書又は記録について」(令和2年8月 31 日厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課 事務連絡)には規定されていますので、ご協力をお願いいたします。提供時期等は治験実施計画書や治験薬管理手順書であらかじめ定められていることと思われますので、その取り決めに従っていただくことになります。 もし取り決めがない場合は、あらためて治験依頼者と協議されることをお勧めします。なお、ICH-GCP では、治験依頼者は治験薬管理票(写)の提供を受けるものとして規定されています。 (参考) ICH-GCP 治験実施のための必須文書「 8.4.1 Investigational Product(s) Accountability at Site(治験実施施設での治験薬管理の記録):治験薬が治験実施計画書に従って使用されたことを示す。治験薬の治験実施施設での受領数、被験者への投薬数、被験者からの返却数並びに治験依頼者への返却数の最終的な数量を示す記録」 |
治験薬管理(担当)者が治験審査委員会審議・採決へ委員として参加することの可否
治験薬管理補助者が治験審査委員会(IRB)委員の場合、該当する治験の審議・採決への参加ができますか? GCP 第 29 条第1項運用通知1でいうところの「治験責任医師と関係のある委員」の「治験協力者」に該当すると考えられますか? 当院の SOP では「当該治験に関係のある委員はその審議及び採決に参加できない」とあります。 |
GCP 第 29 条第1項ガイダンス1の「治験責任医師と関係のある委員」とは、治験責任医師、治験分担医師及び治験協力者と解されます。治験薬管理者は概ね以下のような業務を行う者(GCP 第 39 条ガイダンス4)であり、治験薬管理補助者は治験薬管理者の業務を補助する者ですので、職制としましては治験薬管理者、治験薬管理補助者とも「治験責任医師と関係のある委員」と見なす必要はなく、当該治験の審議・採決に参加されても問題ないと考えます。 ● 治験依頼者より治験薬を受領 ● 治験薬の保管、管理 ● 被験者への治験薬の払出し ● 未使用治験薬の治験依頼者への返却 一方、治験薬の管理業務の範囲を超えて、治験分担医師又は治験協力者 が行うような業務(GCP 第2条ガイダンス8、第 43 条第1項ガイダンス1参照)の一部を担当されるのでしたら、該当する治験の審議・採決には参加できません。なお、貴院の SOP で規定されています「当該治験に関係のある委員はその審議及び採決に参加できない」の範囲につきましては、GCP 第 29 条に従うとともに、貴院にて追加すべきと判断される範囲・要件がございましたら、SOP に明記しておくことが望ましいと考えます。 (GCP 第2条ガイダンス8) 第 18 項の「治験協力者」とは、実施医療機関において治験を実施するチームのメンバーで、治験責任医師によって指導・監督され、専門的立場から治験責任医師及び治験分担医師の業務に協力する者である。 (GCP 第 43 条第1項ガイダンス1) 治験責任医師は、治験関連の重要な業務の一部を治験分担医師又は治験協力者に分担させる場合には・・・(中略)その了承を受けること。 |
(質問 1) 治験薬管理者は GCP 第 39 条ガイダンス 2 にあるように「実施医療機関ですべての治験薬を適正に管理させるため」に実施医療機関の長により選任された薬剤師であり、「治験責任医師と関係のない者」と考えられるため、治験薬管理者は治験審査委員となれるのではないか? (質問 2) 通常、delegate される薬剤師は、管理業務だけでなく、調剤業務も実施するが、調剤業務を実施している治験薬管理者は治験審査委員会の審議採決に参加できるか?それとも治験責任医師等が行うべき業務の一部 (治験薬管理業務以外)を治験薬管理者が担当する場合は、治験責任医師により指名される治験協力者であると考えるべきか? |
治験薬管理者は、実施医療機関ですべての治験薬を適正に管理させるために実施医療機関の長によって選任される(GCP 第 39 条ガイダンス 2)。一般的に治験薬管理者の業務は、GCP で規定された役割から考えると、当該治験において、被験者の観察・検査の実施、データの評価等に直接関わることが想定されないことから、「治験責任医師と関係のない者」と見なすことができる。したがって、治験審査委員会の委員 として当該治験に関する審議・採決に参加することは問題ないと考える。また、治験薬管理(補助)者は、治験責任医師等の処方に基づき治験薬を払い出し、調剤も行うが、このような業務も特殊な場合を除き、一般的な薬剤師の業務であるので、同様に審議・採決に参加することは問題ない。しかしながら、治験薬管理(補助)者が一般的な薬剤師の業務を超え、二重盲検下で薬剤割り付けに関わるような場合や治験薬管理に特殊な知識・技能が必要な場合等では、当該治験の実施に大きな影響を与える可能性があるため、治験審査委員会委員として当該治験の審議に加わることは適当でないと考える。 |
治験薬管理者、治験薬管理補助者以外の者による治験薬の取扱い
現在、当院の薬剤部では、治験薬の調剤、被験者からの残薬の回収及び それらに伴う治験薬管理表の記録を、治験薬管理者、治験薬管理補助者のみに限定して行っている。しかし、作業できる者を限定することで、業務に支障をきたすこともあり、法的な根拠と必要性がないのであれば、全薬剤師がこの作業を行っても良いことにしたい。GCP 第 39 条(治験使用薬の管理)において、治験薬管理者は治験使用薬の管 理・適正な記録の作成等をするよう定められていますが、そこまで細かくは規定されていない。治験薬管理者から取り扱い方法について十分周知し、治験薬管理表の記録は最終的には治験薬管理者が確認(署名や捺印をもって承認)を行えば、これらの業務を治験薬管理者、治験薬管理補助者以外の全薬剤師が行うことに問題ないか? |
治験薬管理者は、GCP 第 39 条に従い、治験依頼者から提供された治験使用薬に関する手順書に従って治験薬を適切に管理する責務を負っている。この治験薬の管理業務の一部を治験薬管理者以外の者に従事させる必要がある場合には、従事させる者に治験使用薬に関する手順書を説明した上で、治験薬管理者の監督、責任のもと、治験薬が適切に管理されるのであれば問題ない。なお、実施医療機関の標準業務手順書などに、治験薬管理に従事させる者(職種での記載、従事させる者個人の指名方法の記載など)をあらかじめ定めておくことを推奨する。 |
拡大治験における市場流通品転用時の表示
拡大治験における、市場流通品の治験への転用に関しての質問。 PMDA のパブリックコメントに対する回答(2016 年 06 月 10 日付、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の一部を改正する省令(仮称)案」(骨子案)に関する意見募集についてに対して寄せられたご意見等について)には、「治験用に転用して使用する医薬品の場合、治験薬管理者が「治験用」の表示をするとの理解でよいか」という質問に対し、「治験用に転用して使用する医薬品について、転用にあたって必要な表示は、治験依頼者又は自ら治験を実施する者が行う必要があります」とある。これは、治験薬管理者は表示に関する作業を行えないと読み取るべきでしょうか?それとも、治験依頼者が適切な手順を定めれば治験薬管理者が作業可能(言い換えると、治験薬管理者が作業を行うためには、作業手順を適切に定める必要がある)と読み取ることが可能でしょうか? また、治験薬管理者が表示に関する作業を行えない場合、モニターが実施することは妥当でしょうか。その場合、自社・外部(委託)で差はあるでしょうか? |
GCP 第 17 条第 1 項において、拡大治験を実施する場合は、実施医療機関の在庫の医薬品を治験用として使用できる旨規定していますが、同第 17 条第 2 項において、この治験薬については、適切な製造管理及び品質管理の方法が採られている場所において、治験依頼者が治験薬の容器又は被包に必要な事項を記載しなければならないとされております。 一方、「人道的見地から実施される治験の実施について(薬生審査発 0122 第 7号、平成 28 年 1 月 22 日)」において、「拡大治験の実施可能性を高める観点から、治験実施者の負担軽減を図るため GCP 省令等の改正も併せて行った」とあり、その趣旨も鑑みることができると思われます。これらを踏まえ、治験薬の表示に関する作業を行える者は、必ずしも治験依頼者に限定されるものではなく、適切な場所及び方法により適正な表示がなされ、治験薬 GMP を遵守して行うことが肝要であると考えます。求められる要件は、個々の状況や治験薬の特性等により異なると思いますので、治験依頼者内の関係者による検討及び必要に応じて規制当局へ確認されることをお勧めします。 |
社名や所在地の変更に伴う治験薬ラベルの変更
治験依頼者の社名や所在地が変更になった場合における治験薬ラベルの社名変更等の対応はどうすればよいか? 社名・所在地を読み替え対応することでよいか? 実施医療機関に既に納入したものまで対応が必要であるか? |
GCP 第 1 条ガイダンス 2(12)に示されているとおり、治験薬の製造、取扱い、保管及び管理は治験薬GMPを遵守して行う必要がある。したがって、治験薬表示の変更は治験薬 GMP に則り行う必要がある。 既に実施医療機関へ交付された治験薬については、治験薬 GMP に準拠した手順に従い、治験依頼者側担当者(例:モニター)が表示の変更作業を行うことで良い。 なお、治験依頼者の社名及び所在地の変更は、治験薬の適正な品質管理に影響しないと考えられることから、当該変更を示した文書を実施医療機関に提供し、治験薬とともに保管することでも差し支えない。 |
治験薬の表示および管理
治験薬の有効期間(期限)表示
GCP 省令第 16 条第 1 項第 5 号に、治験薬の容器又は被包に記載すべき事項として「貯蔵方法、有効期間等を定める必要があるものについては、その内容」と記載されていますが、有効期限等を定める必要があるものとは、どんなものなのでしょうか? また、定める必要がないものとは、どのようなものでしょうか?この点について、記載されている通知、Q&A 等があるでしょうか? 新規化合物などは、安定性試験で安定性が確認されている期間を踏まえて有効期限を表示することが必須であると考えるべきでしょうか? |
GCP 省令第 16 条第 1 項第 5 号で規定する「有効期間等を定める必要があるもの」とは、新規化合物であるか否かに拘わらず安定性試験で安定性が確認されている期間を踏まえた有効期間の表示を、一律に求めるものではありません。 また、「貯蔵方法、有効期間等を定める必要があるもの」もしくは「貯 蔵方法、有効期間等を定める必要がないもの」について、具体的なガイダンス(通知、Q&A 等)はありません。 当該事項は治験薬が適切に保管・使用されることを目的とした記載事項 ですが,有効期間など延長しうるものについて、治験薬の容器又は被包に記載するかどうかは、安定性試験の結果や当該治験薬を用いる治験の期間等を勘案して、治験依頼者が判断することになります。 |
対照薬、指定併用薬及び基礎治療薬の包装・表示
市販薬を市場から購入して「対照薬」として実施医療機関へ提供する場 合、市場から購入したままの包装・表示で提供することは可能でしょう か。また、「対照薬」を保管・出庫する治験依頼者側の事務所には、医薬品卸売販売業許可の取得が必要でしょうか。白箱に入れなくてはならない場合、購入した製品を市販の包装・表示のまま白箱に入れ、その白箱の表示は「無地」とすることで良いでしょうか(たとえば、後発医薬品を申請するための生物学的同等性試験を実施するために、先発医薬品を市場から購入する場合を想定しています)。また、白箱に入れるだけの場合、「他社(製造販売業者)が品質について責任を持って市場へ流通させたものを白箱に入れただけなので品質には影響を与えるはずがない」という考え方で品質保証をすることで良いのでしょうか。対照薬は治験薬である旨 GCP省令第 2 条で定義されており、また治験薬については GCP 省令第 16 条により治験薬としての表示が必要である旨規定されています。そのように考えると、市場から購入した市販薬を対照薬とする場合であっても治験薬であることに変わりはなく、市販薬の包装・表示のままでは GCP 違反になるでしょうし、市販薬を白箱に入れただけの場合であっても白箱には治験薬としての表示が必要であるとも解釈できると思います。生物学的同等性試験を行う時など、各社どのように対応なさっているのでしょうか。 |
ご質問のケースは、治験依頼者が市販薬を市場から購入して治験におけ る対照薬として使用する場合ですので、以下のケースは除外して見解を述べさせていただきます。 ● 日本製薬工業協会の「対照薬の提供及び授受に関する申し合わせ」に ある契約に基づいて対照薬を購入する場合 ● 製造販売後臨床試験における対照薬 GCP 第2条第6項及び第7項に規定されていますように、対照薬は治験 薬として取扱う必要があります。また、治験薬の表示及び管理は、GCP 第16 条に従って行う必要があります。 通常、市販品又はそれに添付されている文書には、製品名、効能・効 果、用法・用量が記載されています。一方、治験薬においては、被験薬の「予定される販売名」、「予定される効能又は効果」、「予定される用法又は用量」(以下、被験薬の予定される販売名等)が表示禁止事項となっており、さらに、この表示禁止事項は治験薬の外箱だけではなく、治験薬そのものや被包(内袋を含む)にも適用されます(GCP 第 16 条第 2 項)。したがいまして、対照薬の包装(市販品を白箱に入れるだけで可かどうか)につきましては、当該禁止事項に照らして、個々に治験依頼者が判断すべきと思われます。 市場から対照薬(医療用医薬品)を購入する場合には医薬品卸売販売業 許可が必要になります。また、当該薬剤の管理におきましても、医薬品卸売販売業許可で指定する場所での保管という原則を考慮して、実施可能な管理体制による保管方法を治験依頼者が判断すべきと考えます。 |
市販薬を市場から購入して「併用薬」や「基礎治療薬」として治験実施 施設へ提供する場合、市場から購入したままの包装・表示で提供品することは可能でしょうか。その場合、「併用薬」や「基礎治療薬」を保管・出庫する治験依頼者側の事務所には、医薬品卸売販売業許可の取得が必要でしょうか。白箱に入れなくてはならない場合、購入した製品を市販の包装・表示のまま白箱に入れ、その白箱の表示は「無地」とすることで良いでしょうか。 |
治験実施計画書で規定する治験使用薬のうち、治験薬に該当しないもの は、治験薬としての包装及び表示は不要です。当該医薬品の購入には医薬品卸売販売業許可が必要になります。また、当該薬剤の管理におきましても、医薬品卸売販売業許可で指定する場所での保管という原則を考慮して、実施可能な管理体制による保管方法を治験依頼者が判断すべきと考えます。 |
国内未承認薬の対象薬としての使用
【質問 1】 日本未承認薬の対照薬で行った治験結果を基に、治験薬の承認が日本 で行えるのでしょうか? 【質問 2】 実施医療機関として、対照薬の安全性情報を取得し被験者に伝える義 務は無いのでしょうか? |
【質問 1】 日本で未承認の医薬品を対照薬として試験を実施し、承認申請は行うことは可能です。厚生労働省は、ドラッグラグ解消のためには、国際共同治験の推進を図る必要があり、承認審査の観点から必要な国際共同治験実施に当たっての基本的考え方を明らかにする必要があることから、平成19 年 9 月 28 日に薬食審査発第 0928010 号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「国際共同治験に関する基本的考え方について」を公布しています。この通知におきまして「実薬が国際的に標準薬であることが諸外国等のガイドライン等の記載から客観的に説明できるのであれば、国内で未承認の医薬品であっても、治験における対照薬として試験を実施することは可能である」と記載されています。 【質問 2】 GCP 第 51 条第 1 項第 5 号におきまして、被験者への説明文書に記載すべき事項として「予測される治験薬による被験者の心身の健康に対する利益(当該利益が見込まれない場合はその旨)及び予測される被験者に対する不利益」があります。「治験薬」には対照薬も含まれますので、実施医療機関(治験責任医師等)は、治験依頼者より当該対照薬に関する安全性情報の提供を受け、GCP 第 51 条第 1 項(治験開始前の情報提供としての同意文書、説明文書の交付)及び第 54 条第 1 項(被験者の意思に影響を与える情報が得られた場合の情報提供)に基づき、被験者に当該安全性情報を伝える必要があります。 |
治験薬交付におけるCROによる運送業者の利用
治験依頼者からCROが治験薬の保管管理及び実施医療機関の発送を委託 された場合、CROが実施医療機関への発送を運送業者に委託し、CROと運送業者とで2者契約してもよいか? |
GCP 第 17 条ガイダンス 5 には「治験依頼者は、運搬業者等を用いて実施医療機関に治験薬を交付する場合には、治験薬の品質管理、運搬及び交付を確実に行うために、当該運搬業者等と契約を締結する等必要な措置を講じておくこと。」とあります。したがって、治験依頼者と CRO との委受託契約において、CRO が受託した業務を運搬業者に再委託することの合意が得られており、CRO と運搬業者との委受託契約及び業務手順書等により治験依頼者が CRO に委託した業務が確実に実施されることを治験依頼者が確認していれば、CRO と運送業者による 2 者契約でも差し支えないと思われます。 |
症例報告書
目的は、当該治験について、症例報告書が適切に作成されていることを確認することである。
そのため次の事項を調べて、記録に残しておくこと。
- 症例報告書に次の事項が適切に記載されているか。
(1)治験の目的及びその実施期間
(2)治験依頼者の氏名及びその住所
(3)実施機関の名称、所在地及び長の氏名
(4)治験実施施設の名称、所在地及び管理者の氏名
(5)治験実施責任者の氏名及びその他の治験関係者の氏名(6)治験薬のコード名、剤形、成分及びその含有量
(7)治験の方法等
(8)治験の成績及び考察
(9)治験実施責任者等の記名、押印又は署名
(10) 記載の変更、修正した日付及び治験実施責任者の押印又は署名 - 原資料と症例報告書の整合性
副作用情報等
目的は、当該治験について、治験使用薬の副作用等に関する情報の収集、実施機関の長又は治験実施責任者への提供が適切に行われていることを確認することである。
そのため、次の事項を調べて記録を残しておくこと。
- 治験使用薬の品質、有効性及び安全性に関する事項その他の治験を適正に行うために必要な情報の収集、検討及び実施機関の長への提供の実施状況
- 治験使用薬について重大な副作用等(法第 80 条の2第6項に規定する事項)を知った場合の治験実施責任者及び治験機関の長への通知の実施状況
- 治験使用薬の品質、有効性及び安全性に関する事項その他の治験を適正に行うために重要な情報を知った場合の必要に応じた治験実施計画書の改訂の実施状況
治験中の副作用等報告
目的は、当該治験について、治験中の副作用等報告が適切に行われていることを確認することである。
そのため次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- 実施機関の長への治験実施責任者からの治験実施状況の概要報告書
- 有害事象の実施機関の長への報告及び治験依頼者への通知並びに情報提供
モニタリング
目的は、当該治験について、モニタリングが手順書に従い適切に行われていることを確認することである。
そのために次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- モニタリングの方法
- モニタリング報告書の記載項目(医薬品GCP省令第第 21 条第2項)
- モニタリング報告書の治験依頼者への提出日
監査
目的は、当該治験について、監査が計画書及び手順書に従い適切に行われていることを確認することである。
そのため次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- 監査に関する計画書の作成日及びその内容
- 監査担当者の氏名、職名及び職務経験(監査担当者が、当該監査に係る被験薬の開発に従事する者及びモニタリングに従事する者でないこと)
- 監査報告書及び監査証明書並びにこれらが治験依頼者に提出されていること
治験の中止等
目的は、当該治験について、中止又は中断等が手順書に従い適切に行われていることを確認することである。
そのために次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- モニタリング、監査等により、実施機関が適正な治験に支障を及ぼしたと認める場合(治験実施責任者がやむ得ない理由により治験実施計画書に従わない場合を除く)の治験の契約の解除及び当該実施機関における治験の中止
- 実施機関の長への中止又は中断の通知書並びにその日付、理由及びその旨の記載
- 当該治験により収集された臨床試験の試験成績に関する資料を申請書に添付しないことを決定した場合の実施機関の長への通知文書並びにその日付、理由及びその旨
- 農林水産大臣の指示があった場合、本邦内に住所を有しない治験依頼者は、治験国内管理人にこれを従わせていること(外国製造医薬品の承認申請の場合)
治験実施機関での記録
目的は、当該治験について、中止、中断又は終了が手順書に従い適切に行われていることを確認することである。
そのため次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- 治験が中止、中断された場合の被験動物の所有者への通知及び講じた措置(医薬品GCP省令第38条第1項)
- 自ら治験を中止、中断した場合の実施機関の長への報告及びその理由(医薬品GCP省令第38条第2項)
- 治験を終了した場合の実施機関の長への報告書(医薬品GCP省令第38条第3項)
総括報告書
目的は、当該治験について、総括報告書の記載内容と治験実施計画書、症例報告書等との整合性を確認することである。
したがって、次の事項を調べて記録に残しておくこと。
- 各手順書、治験実施計画書、記録文書及び症例報告書等と総括報告書の整合性
- 治験依頼者の署名又は記名、なつ印及び作成日
- 業務の信頼性に悪影響を及ぼす疑いのある予期し得なかった事態及び治験実施計画書からの逸脱があった場合の報告書への記載
- 監査証明書の添付
記録の保存
目的は、治験に係る記録の保存が適正に実施されていることを確認することである。
(1)資料保存施設が完備されていること
(2)資料保存施設への出入りの管理方法がSOP化されている
(3)保存資料の管理方法がSOP化されていること
(4)完了した治験について、次の資料が保存されていることを調べて記録に残しておくこと。
- 治験実施計画書
- 契約関連書類(依頼書、治験契約書、終了報告書等)
- 治験使用薬の管理に係る記録
- 治験薬の品質試験記録
- モニタリング報告書
- 監査報告書
- 症例報告書
- 総括報告書
- 総括報告書の作成の基礎となった測定機器のチャート、写真等の生データ類
- その他本基準に定められた各種の記録
- 保存期間
外国製造医薬品の承認申請の場合は、治験国内管理人が医薬品GCP省令第 16 条第4項に規定する記録を第 26 条に定める期間適切に保存しなければならない
治験実施機関での記録の保存
目的は、実施機関の長により治験に係わる記録の保存が適正に実施されていることを確認することである。
そのため下記の項目について確認し、記録に残しておくこと。
- 資料保存場所
- 当該治験について、次の記録等が保存されていること
(1)原資料
(2)契約書その他この省令の規定により実施機関に従事する者が作成した文書又はその写し
(3)治験実施計画書その他医薬品GCP省令の規定により入手した文書
(4)治験使用薬の管理その他の治験に係る業務の記
(5)保存期間
被験動物の所有者等への同意の取得
目的は、当該治験について、被験動物の所有者又は所有者の代理人に対する同意取得が適切に行われていることを確認することである。そのために次の事項を調べて記録に残しておく。
- 同意に係わる記録又は文書
- 被験動物の所有者への説明事項(医薬品GCP省令第 40 条に規定する事項)
あとがき
治験を実施する場合、医薬品では「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(H9.3.27省令28)、医療機器では「医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令」(H17.3.23省令36)を遵守しなければならない。
これらの省令は、GCP省令と呼ばれ、治験を倫理的かつ科学的に実施し、その信頼性を確保するための基準として制定され、国際的な整合性に配慮されている。GCP省令は、治験を依頼する者、治験を自ら(医師主導治験)実施しようとする者に係る「治験の準備に関する基準」及び「治験の管理に関する基準」、治験を実施する医療機関が行うべき「治験を行う基準」などが定められている。
最近の改正(医薬品についてはH20.2.29改正省令24、医療機器についてはH21.3.31改正省令68)では、治験を行うことの適否等を審議する治験審査委員会の審議の透明化(他施設の治験審査委員会への審査の依頼が可能)や情報公開(委員名簿や会議の記録の概要の公開)が定められた。
承認申請において提出された添付資料は、承認審査にあたり治験を依頼した企業や治験を実施した医療機関に対し、医薬品医療機器総合機構(総合機構;PMDA)による信頼性調査としてGCP実地調査などの適合性調査が行われ、提出された資料が審査可能なデータであるか否かが判断される。
GCP(Good Clinical Practice)は、治験の実施に関する国際的な基準であり、被験者の人権、安全性、福祉の保護、そして臨床試験の科学的な質とデータの信頼性を確保することを目的としている。
GCPと治験関連薬事規制に準拠した治験薬の供給体制と品質保証体制は、被験者の安全を最優先にし、治験の科学的な質とデータの信頼性を確保することを目指している。
治験薬の供給体制と品質保証体制は、GCPと治験関連薬事規制に準拠して設計され、要約する次の4項目にまとめられる。
- 治験薬の管理
- 治験を行う製薬会社は、治験薬の製造、供給、保管、使用、廃棄等についての詳細な手順を定め、これらの手順が適切に実施されるように監督しなければならない。
- 品質保証
- 製薬会社は、治験薬の品質を確保するための品質保証システムを設ける。品質保証システムには、製造プロセスの検証、原材料の検査、製品の検査、製品の安定性試験などが含まれる。
- 治験の監視
- 製薬会社の担当者(モニター)は、治験の進行を調査し、治験実施計画書やGCPの規則が遵守されていることを確認する。
- 報告と記録
- 治験中に発生した重大な副作用は、製薬会社から国に報告され、参加されている患者さんの安全を確保するため必要に応じて治験計画の見直しなどが行われる。