はじめに
製剤の処方は有効成分(原薬)と医薬品添加物によって構成されるから、製剤開発においてはその医薬品添加物の選択がとても重要となる。
その医薬品添加物の選択においては、医薬品での使用前例があるかどうかなどその使用の安全性を十分に調査しなければならない。その際、使用前例の調査として参考にするのは医薬品添加物事典(薬事時報社)である。事典に収載されていないものについては残念ながら別途調査しなければならない。
そして医薬品添加物の前例調査でも不明な場合には、PMDA(機構)の対面助言(簡易相談)で個別に相談することになる。
通常、製剤開発においては使用前例のある医薬品添加物を優先的に使用して製剤処方を開発するよう努力する。
しかしながら、ときには医薬品添加物として使用前例のない成分を配合しなければならない場合も起き得る。その主な目的は、有効成分の有用性を高めるためであったり、新たな投与経路の開発のためであったりする。
1日使用最大量を超える剤型となった場合には新規添加物として承認申請のために安全性データが求められたりする。このような場合にはどのように対応すべきか?
そのような場合、品質、安全性等に関する資料を提出する必要がある。本稿では、そのような事態への対応策を解説したい。
<目次> はじめに 医薬品添加物 使用前例 新規添加物を配合する場合の取扱い 添加物に安全性データの入手方法 日本医薬品添加剤協会のサイト 添加剤メーカーからの情報提供 医薬品添加物ハンドブック TOXLINE 国立医薬品食品衛生研究所の関連サイト 新規添加物の規格設定 あとがき |
医薬品添加物
医薬品添加物とは、製剤に含まれる有効成分以外の物質のことである。医薬品添加物を使用する目的は、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、有用性を向上させることなどである。ほとんどすべての医薬品には医薬品添加物が添加されている。
医薬品添加物は、用途(使用目的あるいは添加物の機能)によって、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、安定化剤、コーティング剤、保存剤、緩衝剤、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤などと呼ばれることがある。
医薬品添加物はその製剤の投与量において薬理作用を示さず、無害でなくてはならない。また、医薬品添加物は有効成分の治療効果を妨げるものであってはならない。
使用前例
日本で使用される医薬品添加剤は、「医薬品添加物事典」に収載されているものについては、使用前例があり、その用途、使用量等が確認されたものとして取り扱われる。
医薬品添加物事典に個別の添加物ごとに記載されている「投与経路」、「最大使用量」の範囲であれば、特別なデータを提出することなく認められる。
医薬品添加物事典に収載されている医薬品添加物及びその投与経路、最大使用量は、厚生労働省が医薬品添加物の使用実態調査を行い、その結果から作成されたリストに基づいているものであり、公的に示されたものである。
通常、日本で使用できる医薬品添加剤は、「医薬品添加物事典」に収載されているもので、かつ当該事典に記載されている投与経路、最大使用量の範囲内のものである。
新規添加物を配合する場合の取扱い
既承認医薬品等の添加物としての使用前例がない添加物を配合する場合又は使用前例があっても投与経路が異なる若しくは前例を上回る量を使用する場合には、当該添加物の品質、安全性等に関する資料を併せて厚生労働省に提出してなければならない。そして審査を受けて承認を取得する必要がある。
使用前例のない添加剤を使用する場合に当局に提出すべき資料には下記のようなものがある。
① 起原又は発見の経緯及び外国における使用状況等に関する資料
- 起源又は発見の経緯
- 外国における使用状況
- 特性および他の医薬品との比較検討等
② 製造方法並びに規格及び試験方法等に関する資料
- 構造決定及び物理的科学的性質等
- 製造方法
- 規格及び試験方法
- 不純物に関する情報等
③ 安定性に関する資料
- 安定性試験データ(長期、加速、苛酷)
④ 毒性に関する資料
- 単回投与毒性
- 反復投与毒性
- 生殖発生毒性
- 遺伝毒性
⑤ 安全性に関する試験データ(必要に応じ、局所刺激に関する資料:皮膚一次、累積刺激、眼粘膜刺激、ヒトパッチテスト等)
上記のデータを厚生労働省に提出し、審査を受け承認を取得する必要がある。審査においては、当該添加物の品質及び安全性について確認し、申請製剤の特性も踏まえた上で、その添加物を使用することの可否が判断される。
添加物の安全性データの入手方法
日本医薬品添加剤協会のサイト
http://www.jpec.gr.jp/database/safety.html
このサイトでは、日本で医薬品への使用実態の多い医薬品添加剤についての安全性データの要約及びデータの出典が公開されている。各添加剤によって掲載されている項目は異なるが、次のような情報が掲載されている。
- 最大使用量
- JECFAの評価結果
- 単回投与毒性
- 反復投与毒性
- 遺伝毒性
- がん原生
- 生殖発生毒性
- ヒトに於ける知見
JECFA について
FAO/WHO 合同食品添加物専門家委員会(FAO/WHO Joint Expert Committee on Food Additives = JECFA)は、FAO と WHO が組織する国際食品規格委員会の諮問機関の一つとして 1955 年に設立され、食品添加物や食品香料の安全性評価を行い、一日摂取許容量(Accessible Daily Intake=ADI)を勧告している。
日本医薬品添加剤協会の安全性データの多くは、JECFA の評価結果を引用しているが、次のサイトにすべての評価結果がモノグラフとして掲載されている。
http://www.inchem.org/pages/jecfa.html
また、食品添加物を含め、すべての化学物質の安全性情報は、国際化学物質安全性計画(IPCS)の INCHEM のサイト(以下の URL)から調査でき、JECFA モノグラフもこのサイトから入ることができる。http://www.inchem.org/
添加剤メーカーからの情報提供
添加剤メーカーでは、自社が販売する添加剤の安全性データ(例えば、化学物質安全性データシート=MSDS、JECFA の評価結果及びその引用文献等)を保有しており、必要に応じてこれらのデータの提示を求めることにより、安全性情報を入手することができる。
医薬品添加物ハンドブック
米国薬学協会及び英国薬学協会の共同作業によって出版された医薬品添加剤のモノグラフで、日本でもその翻訳版が日本医薬品添加剤協会から出版されている。このモノグラフに収載されている医薬品添加物は、わが国でも汎用されており、かなりの医薬品添
加物をカバーしている。
当該ハンドブックには、安定性、配合変化、安全性、取扱上の注意をはじめ 22 項目の情報が掲載されている。安全性の項には、今までに報告されている起こりうる障害や副作用に関するデータ、安全性に関連した動物での毒性データおよびその引用文献リストが掲載されている。
TOXLINE
http://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/htmlgen?TOXLINE
米国の National Library of Medicine(NLM)が運用するTOXNET のサイトから、医薬品及びその添加剤を含め、あらゆる化学物質の安全性情報を検索することができる。
国立医薬品食品衛生研究所の関連サイト
国立医薬品食品衛生研究所のサイトには食品関連情報のページと、化学物質の安全性に関する情報のページにおいて、国内外の安全性情報サイトとのリンク先等に関する情報が掲示されている。
食品関連情報:Information on Food
化学物質安全性情報:化学物質安全性情報
新規添加物の規格設定
(1) 日本名
(2) 基原、成分の含量規格または表示規定
(3) 性状
(4) 確認試験
(5) 示性値
(6) 純度試験
(7) 乾燥減量、強熱残分、蒸発残分又は水分
(8) 定量法
(9)試薬及び試液
(10) 備考
あとがき
医薬品の添加物については、使用前例があるものとないもので対応が異なる。
使用前例がある添加物
- 使用前例がある添加物は、医薬品添加物事典に収載されているもので、その投与経路、最大使用量の範囲内であれば、特別なデータを提出することなく認められる。
使用前例がない添加物または使用量が使用前例を超える場合
- 新規の添加物、または既知の添加物でも投与経路が異なる、または使用前例を上回る量を使用する場合は、品質、安全性等に関する資料を提出する必要がある。
- これらの資料は、厚生労働省の審査を受け、認められる。
したがって、医薬品添加物の含有量が使用前例を越えた場合、その添加物の品質、安全性等に関する資料を提出し、厚生労働省の審査を受ける必要がある。
この審査を通過した後で初めて、その添加物の使用が認められる。このような対応は、医薬品の安全性と有効性を確保するための重要なプロセスとなる。