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低分子化合物医薬品の製造販売承認申請書の作成指針

はじめに

低分子化合物医薬品は、多くの場合、化学合成によって製造されるため、その製造販売承認申請書(以降、「承認申請書」と称す)には、製品の品質、有効性、安全性を確保するための詳細な情報が求められる。

最新の改訂は、医薬品の品質保証や安全性確保、さらには申請手続き全体の効率化と透明性向上を狙い、グローバルな規制調和(ICHガイドラインなど)や最新の製造技術・リスクマネジメントの考え方を反映する方向で進められている。

本稿では、承認申請書の作成指針における主要な要点とその背景について取り上げたい。

目次
はじめに
立法的背景とガイドラインの位置付け
承認申請書作成指針の主要構成要素
品質情報(Quality)
化学的特性と組成の記載
製造方法および工程の詳細
製造方法の記載内容
製造方法に関する一部変更承認申請/軽微変更届出の区別
NDA承認申請時の添付資料における製造規模の取扱い
分析法および試験方法
安定性試験
非臨床試験データ(Nonclinical Data)
薬理学的試験
安全性・毒性評価
臨床試験データ(Clinical Data)
臨床試験の概要と結果
患者集団の特性
リスク管理計画(RMP)の強化
製造販売の管理・行政面(Regulatory and Administrative Information)
申請書全体の構成説明
GMP適合性の証明
その他の補足説明資料
承認申請書作成のポイントと課題
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
ICHガイドラインとの整合性の確保
標準化と透明性の確保
データの網羅性と正確性
技術進歩への対応
リスク管理
製造方法等の変更時の取扱い
あとがき

立法的背景とガイドラインの位置付け

申請書作成指針は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)や厚生労働省が定める基準に基づき、申請者が提出すべき情報や書類の構成、記載内容の水準などを標準化するためのものである。

この指針は、申請書の記載内容が十分かつ正確であり、製品の品質、有効性、安全性が確保されていることを評価するための土台となる。

さらに、各国や地域で採用されるCTD(コモンテクニカルドキュメント)方式に基づくことが多く、製造プロセス、品質管理、非臨床および臨床試験データといった多数の情報を体系的に整理・提出する必要がある。


承認申請書作成指針の主要構成要素

承認申請書の作成指針は、主として、(1) 品質情報(Quality)、(2) 非臨床試験データ(Nonclinical Data)、(3) 臨床試験データ(Clinical Data)、および (4) 製造販売の管理・行政面(Regulatory and Administrative Information)で構成される。


品質情報(Quality)

化学的特性と組成の記載

低分子医薬品の場合、原薬(API)の化学構造、分子量、純度、及び特定の不純物の存在に関する情報が求められている。また、原材料の調達先やロット管理、バッチ間の一貫性についても詳述する必要がある。

製剤については、成分、分量、本質、貯蔵方法及び有効期間、規格及び試験方法等の情報を記載する必要がある。


製造方法および工程の詳細

製造方法欄には、原薬及び製剤の製造場所に関する事項並びに製造方法を記載することが求められている。製造工程の流れがわかる資料を作成し、承認申請時の参考資料として添付することが必要である。

製造プロセスのフローや、各工程における中間製品、最終製品の品質管理手法(IPCやプロセスバリデーションなど)の記載が求められる。これにより、製造工程の再現性や安定性、GMPへの準拠状況が確認されることになる。

製造工程の詳細な記述はもちろん必要であるが、さらに製造工程の各段階でのリスク評価や工程の最適化の取り組みが求められており、その結果を申請書内で適切に文書化する必要がある。

この最近の傾向は、ICH Q9で示される品質リスクマネジメント(QRM)の原則が大きく影響していると思う。ICH Q9は、リスクの特定、評価、及び管理の手法を体系的に定め、製造工程全体に潜む不確実性や潜在的リスクに対して、予防的かつ能動的な対応を促すものである。

このICH Q9に基づく継続的プロセス検証(Continuous Process Verification;CPV)の考え方が本指針にも取り入れられているためであると思う。

承認申請書内で製造工程の各段階におけるリスク評価や最適化の取り組みをきちんと文書化することは、ICH Q9で示されたリスクマネジメントの考え方を実践に移す一環であり、製造プロセスのCPVを通じて、製品の安定性・一貫性を保証するための重要な手段となっている。


製造方法の記載内容

  • 原材料から製剤の包装・表示工程までの全工程を工程に従い記載する。
  • 製造工程の流れに従い、原材料、仕込み量、調整液・溶媒、収量、中間製品、一次包装材料等を示すとともに操作条件を明記する。
  • 製造工程中の一連の操作手順の内、品質の恒常性確保に必要な事項を適切に選択し記述する。

① 原材料の量、重要工程、プロセス・パラメータ、装置、操作条件(速度、温度、圧力、pH、時間等)等を適切に記載する。特別な機能を有する装置に関しては機器の詳細を記載する。

② 操作条件等は目標値/設定値を記載しても良い。目標値/設定値を設定した場合には、参考値を『 』または《 》内に記載し、同時に製品標準書あるいは標準操作手順書に目標値/設定値の許容範囲を設定しなければならない。なお、仕込量に関しても目標値/設定値に準じて取り扱うことが出来るものとし、その場合には承認申請書には標準的仕込量を記載する。

③ 製造工程のうち①で示された重要工程において工程が管理されていることを保証するために実施される管理手法(プロセス管理値、判定基準、概略の試験方法など)を記載する。

④ 品質に重大な影響を与える原材料の規格及び試験方法を記載する。(規格及び試験方法欄に記載されるものは除く)

⑤ 中間製品の規格及び概略の試験方法。ただし、中間製品の規格が製品の出荷試験の一部として実施される場合は詳細な試験方法を記載する。

⑥ 製品の品質に影響を与える包装材料の材料名を記載する。必要に応じ、製品の品質に影響を与える包装材料の製造元及び型番または規格を記載する。

重要工程とは、製品が規格に適合することを保証するために事前に決定した限度値以内で管理される必要のある工程条件、試験、その他関連あるパラメータを含む工程をいう。

重要工程の例として以下のようなものがある。

  • 低含量固形製剤の混合工程、造粒工程、整粒工程、輸送工程及び打錠工程
  • 固形製剤の溶出特性を決める工程
  • 製造スケールが製品規格に影響を及ぼす工程。混合工程、造粒工程、薬液調製工程、ろ過工程、凍結乾燥工程、最終滅菌工程等
  • 無菌操作を用いる製造法における、バイオバーデンを決める原材料管理、プロセスフィルター管理等
  • 分解物が生じる可能性のある工程。固形製剤における造粒工程、乾燥工程、注射剤における薬液調製工程、最終滅菌工程等
  • 製品の安定性に影響を与える工程。乾燥工程などの製造工程、一次包装工程等

製造方法に関する一部変更承認申請/軽微変更届出の区別

医薬品等の承認審査においては、承認申請書の製造方法欄に記載されている申請者自らが設定した一部変更承認申請の対象事項と軽微変更届出の対象事項についても考慮することになっている。

そのため、承認申請書の製造方法欄の製造場所及び製造方法の記載には、予め製造方法の変更時における承認事項一部変更承認申請の対象事項と承認事項の軽微変更に係る届出(軽微変更届出)の対象事項とを申請者自らが区別して設定しておくことが求められている。

  • 製造方法欄に記載された事項の変更は、全て適切な変更管理が求められるものであり、一部変更承認申請あるいは軽微変更届出の対象である。
  • 一部変更承認申請対象とされた製造工程以外の事項に関する変更に関しては、最終製品の品質に影響を与えない場合には、軽微変更届出の対象とする。
  • 目標値/設定値とするプロセス・パラメータ又は標準的仕込量のうち、軽微変更届出対象事項は『 』内に、一部変更承認申請対象事項は《 》内に記載すること。また、目標値/設定値以外の軽微変更届出対象事項は“ ”内に記載し、それ以外については、一部変更承認申請対象事項とするものとする。

医薬品等の製造方法の変更については、品質への影響の大きさにかかわらず、一部変更承認申請又は軽微変更届出のいずれの変更においても適切なバリデーション、変更管理等が行われていることが前提である。すなわち、GMPに基づき実施した変更管理によって、品質に明らかな影響がないと判断する根拠が明確な場合にのみ変更が許可されることになっている。


NDA承認申請時の添付資料における製造規模の取扱い

(1) 製造方法欄、規格及び試験方法欄の設定及び記載を行うために承認申請の際に提出されるデータは、実生産を反映した規模の製造設備で収集されたものとする。但し、申請時には必ずしも実生産の製造設備で得られたデータであることを必要としない。

(2) 医薬品等の承認前に行われるGMP適合性調査前には、最終的な実生産の製造方法をプロセスパラメータ、重要工程及び重要中間体の管理基準/管理値等も含めて確立し、製造に係るデータとともに審査当局に提出する。また、GMP適合性調査の際には実生産の製造設備で得られたデータが必要となるので、GMP適合性調査の申請時期を考慮することが重要となる。


分析法および試験方法

原薬および製剤の確認試験、定量法、及び各種品質試験(含量、崩壊試験、溶出試験など)の詳細な方法や検証データの提出が求められている。

分析法の検証や校正の基準についても、より厳格な再現性や感度の評価が追加され、製品品質や一貫性の確保に向けた詳細なデータ提出が必須となっている。


安定性試験

長期保管条件および加速試験に基づく安定性データにより、製品の有効期限(使用期間)および保管条件が根拠付けられる。

長期安定性試験と加速試験の双方から得られるデータの解析方法に改善が加えられ、製品の有効期限の設定に対してより科学的根拠が求められるようになっている。これにより、安定性の評価が従来以上に体系的かつ透明に実施することが必要である。


非臨床試験データ(Nonclinical Data)

薬理学的試験

毒性試験、薬力学試験、安全薬性試験など、動物実験を通じた安全性評価や作用機序の解明に関する情報が含まれる。

安全性・毒性評価

急性毒性、反復投与毒性、遺伝毒性、発がん性、催奇形性など、各種毒性試験の結果および評価が詳細に記載される。


臨床試験データ(Clinical Data)

臨床試験の概要と結果

第I相から第III相試験における被験者の安全性、薬物動態(PK/PD)、有効性および副作用に関するデータが報告される。

患者集団の特性

各試験に参加した患者の背景、適応症、併用薬の影響など、ヒト特有の多様性を反映したデータが必要である。

リスク管理計画

市販後も含めたリスク管理や副作用のモニタリング計画が提出され、実際の使用環境における安全性の確保が図られる。


製造販売の管理・行政面

申請書全体の構成説明

CTDフォーマットに沿って、モジュール毎(行政情報、品質情報、非臨床情報、臨床情報、その他補遺)に内容を整理する必要がある。

CTDフォーマットに基づく文書全体の構造がさらに整理され、各セクションごとに必須となる情報の記載例や注意点が明示されるようになっている。これにより、申請書を評価する当局側も情報を迅速に把握でき、無駄な問い合わせや修正要求の削減に繋がっている。

GMP適合性の証明

製造施設、設備、工程の管理体制の整備状況、内部監査や外部評価結果など、適正製造基準の遵守状況を明記する必要がある。

その他の補足説明資料

参考文献、以前の治験データ、市販後のフィードバック情報など、申請評価の補完資料としての役割を果たす文書を添付する必要がある。


承認申請書作成のポイントと課題

デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

従来の紙ベースの提出から、電子申請システムへの移行が加速されている。これにより、データの一元管理や申請書類の整理・検索が迅速かつ正確に行えるようになり、審査プロセス全体の効率化が図られている。

ICHガイドラインとの整合性の確保

ICHガイドライン(Q8、Q9、Q10など)の最新動向を踏まえ、国内外の申請書のフォーマットや記載内容の調和がさらに進められている。これにより、海外展開を視野に入れた医薬品開発を行う際にも、国際的な審査基準に対応し易くなるメリットがある。

標準化と透明性の確保

申請書の各項目が明確に分かれ、誰が見ても同じ水準で情報が評価できるようフォーマットと記載方法が厳格に定められている。

これにより、製品の安全性や有効性のエビデンスが一貫して提出されることが求められる。

データの網羅性と正確性

品質データや安定性試験、動物実験および臨床試験の各種データは、申請段階で十分な再現性と信頼性が確認できる必要がある。

不備や矛盾があると承認プロセスに影響を及ぼすため、データの整理や解析、文書化が非常に重要である。

技術進歩への対応

製造技術、分析技術、及び評価手法は常に更新されており、その都度、最新の知見や方法論が指針に反映されることがある。

承認申請書作成にあたっては、最新のガイドラインや関係文書を把握し、それに準拠した内容であることが重要である。

リスク管理計画(RMP)の強化

特に副作用などの安全性情報に関しては、事前にリスクを評価し、万が一の事態に備えたリスク管理計画(RMP)の策定が求められ、承認申請書にもその具体策を明示する必要がある。

市販後調査(Post-Marketing Surveillance;PMS)や安全性情報の管理体制について、より明確なガイドラインが示されるようになった。改訂版では、特に申請段階でリスク評価を徹底し、万一の事態に備えるための対策が詳細に記述されることが求められている。これにより、臨床試験データや市販後情報との連携もしっかりと図られるようになっている。


製造方法等の変更時の取扱い

製造工程における変更は、製品の品質、有効性、安全性に直接影響を及ぼす可能性があるため、厳格な変更管理プロセスが求められる。

  1. 医薬品等の製造方法の変更については、品質への影響の大きさにかかわらず、一部変更承認申請又は軽微変更届出のいずれの変更においても適切なバリデーション、変更管理等が行われていることが前提であること。すなわち、GMPに基づき実施した変更管理により、品質に明らかな影響がないと判断する根拠に基づき、変更すること。
  2. 一部変更承認申請の対象事項に該当するか否かについては、あらかじめ設定された事項に照らし、申請者自らにより判断されるべきものであること。しかしながら、次の場合にあっては、対象品目に係る審査当局と相談できる
  • 変更に際して実施する評価プロトコールの妥当性
  • プロトコールに従って実施した試験結果から、品質に明らかに影響がないとする判断の適否
  • その他、製造方法欄の変更時において相談を要する事項

なお、軽微変更届出の対象事項と定めた工程について、変更管理手続きにおいて品質への影響が否定できない結果がでた場合など、品質に与える影響が設定時と異なると判断される場合は、当該変更の中止、再検討、一部変更承認申請、又は新規製品としての承認申請を行うこと。必要に応じ、当該製品に係る審査当局に相談すること。

  1. 軽微変更届出にあたっては、一部変更承認申請の場合と同様、変更内容を明らかにするための新旧対照表を参考資料として添付すること。また、軽微変更届出の内容は変更事項のみとし、申請者は適切なバリデーション、変更管理を実施した旨の宣誓書を提出すること。
  2. 軽微変更届出における変更の時点とは、当該変更を行った時点又は当該変更により製造された製品の出荷時と解するが、どちらを選択するかは、変更内容に応じて製造販売業者が判断すること。ただし、変更後に承認書の記載と異なるものが出荷されることがないよう、適切に対応すること。
  3. 軽微変更届出の対象事項を一部変更承認申請の対象事項に変更する場合にあっては、軽微変更届出を行うこと。
  4. 本来軽微変更では行うべきでない製造工程の変更等に関して、軽微変更届出を行ったことがGMP調査の際に判明した場合にあっては、当該軽微変更届出は無効となり、薬事法違反を問われる可能性があること。この場合、既に変更後の方法により製造された製品又は既に製造販売された製品については、当該変更のリスク等に鑑み、出荷停止、回収その他の必要な行政上の措置がとられることとなる。なお、GMP調査の際にGMP調査当局が一部変更承認申請対象事項か否かの疑義を持った場合は、GMP調査当局は当該品目に係る審査当局に連絡すること。
  5. 有効期間の延長については、承認審査時点で提出された安定性試験実施に関するコミットメントに従い、承認後に継続するものについては、軽微変更届出による変更ができるものとすること。
  6. 一部変更承認申請中の軽微変更届出は可能であること。ただし、この場合、一部変更承認申請書の差し替えにより、軽微変更届出に係る事項をすべて記載すること。

あとがき

低分子化合物医薬品の製造販売承認申請書は、製品の品質、有効性、安全性を裏付ける詳細な情報の提出が義務付けられており、その作成にあたっては各セクションの内容を十分に整理し、最新のガイドラインや国際基準に準拠することが求められる。

製造販売承認申請書の作成指針は、規制環境や医薬品開発の進展に伴い、定期的に更新されるため、常に最新の情報に目を通すことが不可欠である。

また、近年ではデジタル技術やビッグデータ解析、さらにAIを活用した製造プロセスの最適化・品質管理の向上が試みられることから、申請書の中にもこうした新技術の導入例や検証データが含まれるケースが増えている。

さらに、国際的な規制調和(ICHガイドラインなど)を踏まえた文書作成と提出が求められるため、国内外の動向を注視しながら、承認申請書の改善や最適化を進めることが今後の課題となる。

製造販売承認申請書の作成指針の改訂の具体的な内容や改訂時期、バージョン番号などの詳細情報は、PMDAや厚生労働省の公式サイト上の通知やガイドラインの最新版で確認することができる。実際の申請や開発プロジェクトに取り組む際は、必ず最新の公式文書やFAQ、関連セミナー等で情報をアップデートすることが求められる。

さらに、今後の改訂では、デジタル化の進展に伴い、データ提出の方法だけでなく、その解析手法やリスク評価の基準自体もさらなる精緻化がされる可能性がある。新しい技術や分析手法を取り入れた事例が増える中、承認申請書の作成の過程では柔軟性と最新技術への対応力がますます重要となってくると思われる。


【参考資料】

改正薬事法に基づく医薬品等の製造販売承認申請書記載事項に関する指針について(◆平成17年02月10日薬食審査発第210001号)