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加齢黄斑変性(AMD)とは?原因と症状は?診断・治療・予防は?

はじめに

加齢黄斑変性(AMD)は、網膜の中心部である黄斑が劣化することにより発生する疾患である。この黄斑に、加齢に伴う様々な原因によって障害が生じ、物が歪んで見える、視力が下がる等の症状が表れるという。

AMDの主な原因は加齢であり、その他の要因として喫煙、食生活の欧米化、緑黄色野菜不足の生活、肥満、高血圧、脂質異常症、紫外線、遺伝などが危険因子として加わるとされる。

症状としては、視界の中心部だけが歪んで見える(変視)、中心部が暗く見える(中心暗点)、色の識別ができなくなるなどがあるという。AMDの発症のリスクファクターが加齢であるということは、私たちシニア世代にとっては決して対岸の火事ではないということである。


<目次>
はじめに
加齢黄斑変性とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

加齢黄斑変性とは

加齢黄斑変性【かれいおうはんへんせい】(AMD;age-related macular degeneration)とは、加齢に伴い眼の網膜にある黄斑部が変性を起こす疾患で、失明の原因となり得る怖い病である。


原因

黄斑変性は、通常、高齢者に発生する。遺伝的要因と喫煙も起因となる。症状は網膜の黄斑の損傷によるものである。

2015年には、世界中で620万人が罹患したというデータがある。2013年には白内障、早産、緑内障に次いで4番目に最も多い失明の原因であった。

黄班変性は50歳以上の人に最も一般的に発生し、米国ではこの年齢層の視力喪失の最も一般的な原因である。

黄班変性は50〜60歳の人の約0.4%が患っており、60〜70歳の人の0.7%、70〜80歳の人の2.3%、80歳以上の人の約12%に発生すると言われている。


症状

症状は、かすみ目や視野の中心に視覚障害を生じるが、初期は自覚症状がない事がよくある。しかし、時間の経過とともに、片方または両方の目に段階的な視力の低下を経験する場合もある。完全な失明になる事は少ないが、中心視力が失われることにより、顔の認識、運転、読書、その他の日常生活の活動が困難になる。視覚的な幻覚が見える場合があるが、これらは精神疾患によるものではない。

初期症状としては変視症を訴える人が多く、それを切っ掛けに眼科受診をし、この疾患に気づく人が多い。その後病状の悪化ともに歪みが強くなり、眼底出血などにより視力低下、中心暗点がみられ、失明に至る場合もある。


検査・診断

AMDの検査には、視力検査、アムスラー検査(視界の歪みや視界の暗点を発見するための検査)、眼底検査、造影検査、光干渉断層計(OCTスキャン)などがある。診断は、これらの精密な眼検査による。

眼底、特に黄斑部に病変を認める。軟性ドルーゼン、網膜色素上皮剥離、黄斑下出血などを認め、黄斑変性に至る。

萎縮型の場合には、ドルーゼンを伴い、徐々に黄斑変性に至るケースが多いらしい。

重症度は、初期、中期、後期のタイプに分けられる。後期のタイプはさらに「萎縮型」と「滲出型」に分けられ、萎縮型が症例の90%を占める。

萎縮型

萎縮型は、非滲出型あるいはdry typeと称されることがある。

加齢に伴い黄斑部が変性を起こし、変性の範囲により急激な視力低下を認める。滲出型のような脈絡膜新生血管は認めない。現在、治療法として確立されたものはない。

滲出型

滲出型は、ウェット型(wet type)とも称されることがある。

脈絡膜から異常な脈絡膜新生血管を生じ、網膜面に進展する。新生血管は脆弱でありそのため出血、滲出物の貯留を認め、黄斑部の機能障害を来たし、偏視、視力低下などを齎す。最終的には黄斑部に不可逆的な変性を起こし著しい視力低下となる。


治療

予防法は、運動、バランスの取れた食事、禁煙などである。一旦失われた視力を取り戻す治療法はない。

滲出型は、眼への抗VEGF薬の注射により悪化を遅らせられる可能性がある。

滲出型黄班変性には主にVEGF阻害剤投与、なかでも、ラニビズマブ、アフリベルセプトの投与の有用性が注目される。欧米の多施設による試験では、光線力学的療法が視力低下を部分的にしか阻止しない一方、ラニビズマブでは視力回復が期待できると報告されている。

加齢黄斑変性の発生に際し血管新生およびVEGFが関与している場合は、血管新生阻害薬の投与により進行を防止・改善する可能性がある。

代表的薬剤としてラニビズマブ(商品名ルセンティス)がある。投与方法は硝子体内に注射。ラニビズマブは抗VEGF抗体のFab断片であり、2009年1月、ノバルティスファーマが製造販売承認を取得した。

アフリベルセプト(商品名 アイリーア)は、新しく保険適用となった薬剤で、VEGFR-1およびVEGFR-2の細胞外ドメインをもつ遺伝子組み換えたんぱく質であり、VEGFの作用を効率よく阻害するといわれる。

一方、萎縮型には有効な薬物治療はなく、禁煙や生活習慣病の治療によって、進行を遅らせることを目指すことになる。


iPS細胞による治療の試み

高橋政代氏を中心とする神戸理化学研究所網膜再生医療研究開発プロジェクトでは、2014年9月12日に自己由来のiPS細胞から作成した網膜を患者へ移植する臨床研究を世界で初めて実施された。この試みは加齢黄斑変性の治療を目的としたものである。

これまで動物実験でのみ行われてきた人工的に作成した網膜を生体に移植する研究を実際に人体に応用した最初の例である。約1年後、該当する患者の視力はほとんど下がらず、腫瘍の発生もないと報告されている。

2017年には、神戸市立医療センター中央市民病院、大阪大学大学院医学系研究科、京都大学iPS細胞研究所、理化学研究所の医師らが他人由来のiPS細胞の移植を滲出型加齢黄斑変性症の5人の患者に施す臨床試験が実施された。

そして、2019年4月18日、その臨床試験の結果が報告された。他人由来のiPS細胞を使った滲出型加齢黄斑変性の治療を受けた5人の患者の術後1年の経過は良好であり、安全性が確認され、視力低下も抑えられたという。

5人の患者とも移植細胞が定着しており、損なわれた目の構造が修復できたことも確認された。

しかしながら、VEGF阻害剤投与では視力の改善が一般に見られることから、現時点ではVEGF阻害剤投与の方が施術の容易さ、コスト、視力回復の成績など全ての面において「iPS細胞による治療」よりも優れていると考えられる。つまり、iPS細胞による治療の優位性は証明されていない


予防

加齢黄斑変性(AMD)の予防策としては、下記のような生活習慣の改善が推奨されている。

  • 禁煙
    • 喫煙はAMDの最大の危険因子
    • 禁煙は最も重要な予防策
  • 紫外線予防
    • 紫外線や高エネルギーのブルーライトの長期間暴露の蓄積とAMDの間に関連性があると示唆されている
    • サングラスを着用
      • 太陽からの紫外線を100%カットする
      • 可視光線であるブルーライトの相当量をカット
  • 栄養補助食品の摂取
    • 初期のAMD進行リスクを抑え、重症化(失明)を抑制
    • 総合ビタミン剤の摂取
      • ビタミンCやビタミンE、ベータカロチン
      • 亜鉛、銅、ルテイン、ゼアキサンチン
  • 健康的な食生活
    • 緑色の濃い葉物野菜を多く摂取
      • ケール、生のほうれん草、アブラナ科の野菜など
      • AMDの発症リスクが43%低減される
    • 魚を定期的に摂取する
    • フルーツやナッツを毎日食べる
  • アクティブな生活習慣の維持
    • アクティブな生活習慣は、発症率を70%も低減させる
  • コレステロール値のモニタリング
    • 血中コレステロールレベルをコントロールする
  • 血圧のモニタリング
    • 血圧管理も黄斑変性の予防において重要
  • 定期的な目の検査
    • 眼科で総合的な目の検査を定期的に受ける
    • 自覚症状がなくても早期発見・早期治療に繋がる

あとがき

加齢黄斑変性(AMD)は、「目の生活習慣病」とも呼ばれているらしい。つまりAMDの発症には、加齢だけでなく、喫煙、肥満、紫外線、食生活などの生活習慣が大きく影響しているということである。これらの要素は、生活習慣病の一般的な危険因子とも一致しています。したがって、生活習慣の改善がAMDの予防に重要となる。

私たちシニア世代は、生活習慣を改善し、生活習慣病だけでなく、AMDの発症リスクも低減させてたいものである。


【参考資料】
加齢黄斑変性とは——原因・症状・治療法を解説 | メディカルノート
加齢黄斑変性 | 目の病気・症状 | 千寿製薬 (senju.co.jp)