はじめに
添付文書の電子化とそれに伴う添付文書同梱廃止は、医薬品や医療機器の品質と安全性を保証するために必要な改革だと考える。
電子化された添付文書は、常に最新の情報を提供し、インターネットやスマートフォンなどの情報通信技術を利用して容易に閲覧できるようになる。これにより、医療従事者や患者は、より正確かつ迅速に医薬品や医療機器の使用方法や注意事項を確認できるようになるはずである。
添付文書の電子化にはデメリットもあるかも知れないが、電子化された添付文書は、国際的に調和されたガイドラインに準拠しており、日本の医薬品や医療機器の国際化にも貢献すると思う。
また、紙の添付文書の同梱廃止は、今日の課題である環境負荷の低減や製薬企業側のコスト削減(印刷代、用紙代、同梱作業、確認作業等が不要になる)にも寄与すると考えられている。
医薬品の添付文書とは
医薬品の添付文書は、医薬品に添付されている文書を指し、医薬品の品質、有効性、安全性に関する重要な情報を記載している。
添付文書は、医療従事者や使用者に対して、医薬品の適正な使用や注意事項を伝えるための公文書であり、医薬品の品質と安全性を保証するために必要な基準であり、医薬品のリスク管理にも関係する。
添付文書は、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づいて作成され、承認申請時に審査される文書である。また、製造販売後においても最新の情報が得られるたびに改訂される文書である。
添付文書の電子化の経緯
医薬品の添付文書が電子化されるようになった経緯は、下記のようなものである。
2019年12月に薬機法が改正されたのを機に、医療用医薬品や医療機器等の添付文書の電子化が措置されることになった。
薬機法の改正の目的は、医薬品等の適正な使用や安全性に関する情報を、最新の科学的知見に基づいて提供することであった。
これまでの紙の添付文書は、製品の在庫や改訂のタイミングによっては、最新の情報を反映できない場合があった。また、紙の添付文書の同梱は、紙資源の浪費やコストの増加に繋がっていたとう背景もあった。
そこで、紙の添付文書に代えて、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)のホームページで公表される電子的な添付文書による情報提供が基本となった。
また、医薬品等の箱に印字されたバーコードやQRコードを、スマートフォンやタブレットなどで読み取ることで、最新の添付文書にアクセスできるようにもなった。
この制度は、2021年8月1日から施行された。ただし、一般用医薬品等については、引き続き紙の添付文書が同梱される。
この施策には下記のような経過措置がある。
2021年8月1日から2023年7月31日までの2年間は、医療用医薬品の添付文書の電子化と紙の同梱の両方が可能となる。
また、医療用医薬品を初めて購入する場合や、注意事項等情報が変更された場合には、製造販売業者から紙の添付文書を医療関係者に提供することが義務付けられている。
さらに、医療関係者から紙の添付文書の提供を求められた場合には、製造販売業者は希望する方法で情報提供を行わなければならない。
このように電子化された添付文書への移行に際しては、医療現場の状況やニーズに配慮した経過措置が設けられているので、大きな混乱はないと期待したい。
電子化された添付文書の詳細は、こちらをご覧ください。また、電子化された添付文書を閲覧するためのアプリ「添文ナビ」については、こちらのページで紹介されている。
電子化による情報の入手方法
添付文書の電子化によって、医療従事者や患者が情報を入手する方法は大きく変わる。具体的には、次のような方法がある。
(1)PMDAのホームページから、医薬品等の商品名や一般名、製造販売業者名などで検索し、最新の添付文書や関連文書を閲覧する。
(2)医薬品等の外箱に印字されたバーコードやQRコードを、スマートフォンやタブレットなどの情報通信機器で読み取り、インターネットを経由して最新の添付文書や関連文書にアクセスする。
(3)添付文書ナビという専用のアプリケーションをダウンロードし、医薬品等の外箱に印字されたバーコードやQRコードを読み取り、最新の添付文書や関連文書を閲覧する。
これらの方法により、常に最新の医薬品等の注意事項や安全性情報を入手できるようになる。
あとがき
医薬品の添付文書は、薬機法に定められた重要な公文書であることは、「紙の添付文書」の時代から理解していたが、その「紙の添付文書」が有効活用されていたかというと私は懐疑的である。
紙の添付文書は、医薬品の外箱一箱毎に必ず同梱されており、それを保証するために製薬企業の包装工場では厳密な管理体制が採られているのが普通である。ところがその添付文書は、薬局において医療従事者に一読されるどころか開封時にすぐに廃棄されるのが常態化していた。添付文書が医療従事者にじっくりと読まれるのは医薬品の新発売時または新規導入時と、添付文書の改定時ぐらいと言ってよい。それ以外は薬局のゴミ箱へと直行であった。医療用医薬品の場合、添付文書が患者の手元に届くことはほとんどないと言ってよい。このように、私の偏見かも知れないが、紙の添付文書は重要な公文書でありながら不遇であったと言えよう。
それが「添付文書の電子化」によって、最新の添付文書に医療従事者は勿論、患者もアクセスできるようになる意義は大きいと私は思う。この思いは、私が製薬企業に入社したばかりの頃、研修の一環として包装工場を見学した際、添付文書の同梱作業も見学した矢先に、薬剤師の知人が働く薬局で添付文書を無造作に捨てられていく様子を見て以来、ずっと私の脳裏から離れなかったことの一つである。個人的な感想であるが、添付文書が電子化されて、同梱の必要がなくなったことは時代の要請とは言え、随分と時間を要したように思う。しかし、何はともあれ、良い改正であることに間違いはない。