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欧米先進国のジェネリック医薬品の普及状況と促進策から学ぶべき日本でのジェネリック医薬品の存在意義

はじめに

ジェネリック医薬品(後発医薬品)とは、新薬(先発医薬品)と同じ有効成分を使っており、基本的に品質、効き目、安全性が同等な医薬品とされるものである。

厳しい試験に合格し、厚生労働大臣の承認を受け、国の基準、法律に基づいて製造・販売している。新薬に比べ開発費がかからないために、新薬より低価格で販売できる医薬品である。そのためにジェネリック医薬品は医療費の抑制や患者の負担の軽減に貢献するとともに、医療用医薬品の安定供給にも重要な役割を果たしていると言える。

欧米先進国におけるジェネリック医薬品の普及状況は日本よりもはるかに進んでおり、そのために実施されている促進策から学ぶべき点も多い。一方、日本国政府も2023年度末までに80%以上のジェネリック医薬品を使用することを目指し、ジェネリック医薬品の信頼性や品質の向上に取り組んできた。

本稿では、欧米先進国と日本でのジェネリック医薬品の促進策の違いに着目し、ジェネリック医薬品の存在意義について考えてみたいと思う。


<目次>
はじめに
欧米先進国のジェネリック医薬品の普及状況と促進策
日本でのジェネリック医薬品の普及状況と促進策
日本でのジェネリック医薬品の存在意義
日本でのジェネリック医薬品普及の課題
ジェネリック医薬品の品質の信頼性
GE品質の信頼性回復のための対策
あとがき

欧米先進国のGEの普及状況と促進策

欧米先進国では、ジェネリック医薬品(GE)の使用が高く、医療費の抑制や患者負担の軽減に寄与している。

欧米先進国でGEの使用が高い理由は、欧米先進国がGEの普及促進策について積極的であることが挙げられる。

例えば、アメリカでは、GEの数量シェアは約92%と最も高い。GEの使用を促進するために、代替調剤制度オレンジブックの公開などの施策が行われているためと思われるが、医療保険会社の存在も大きいと推察する。

ドイツもGEの数量シェアは約85%と高い。ドイツではGEの使用促進のために、代替調剤ルール参照価格制度、さらには医薬品費の予算枠などの施策が行われている。

イギリスもGEの数量シェアは約75%と比較的高い。GEの使用促進のために、一般名処方や薬局における医薬品の償還制度や病院におけるGEの使用などの施策が行われている。

フランスもGEの数量シェアは約66%と比較的高い。GEの使用を促進するために、医師や薬剤師へのインセンティブや患者への情報提供や患者負担の差額制度などの施策が行われている。


日本でのGEの普及状況と促進策

日本国政府は、2023年度末までに80%以上のジェネリック医薬品(GE)を使用することを目指し、GEの信頼性や品質の向上に取り組んできた。その成果も数字に表れている。日本でのGEの数量シェアは、2020年9月末時点で79.4%となり、政府の目標である80%に既に近づいていたので、今年(2023年)の末にはGE普及率80%以上の目標をクリアしていると推察される。

日本政府が採用してきたGEの使用促進策には下記のようなものがある。

  • 診療報酬上の評価
  • 患者への情報提供
  • 処方せん様式の変更
  • 品質確保
  • 供給体制の強化

診療報酬上の評価とは、GEの処方や調剤に対して、先発医薬品よりも高い報酬を支払うことで、医師や薬剤師のインセンティブを高めることを指す施策である。

患者への情報提供とは、GEの安全性や有効性に関する情報を患者に分かりやすく伝えることで、GEの選択を促すことを指す施策である。

処方せん様式の変更とは、処方せんに「後発医薬品に差し替え可」の欄を設けることで、医師がGEの使用に同意する意思を明確にすることを指す施策である。

品質確保とは、GEの品質に関する基準や試験方法を見直すことで、GEの品質の信頼性を高めることを指す施策である。

供給体制の強化とは、GEの製造や流通に関する情報を収集し、公開することで、GEの供給不安を解消することを指す施策である。


日本でのジェネリック医薬品の存在意義

ジェネリック医薬品は、新薬(先発医薬品)の特許期間が切れた後に製造・販売される医薬品で、先発医薬品と同等の薬効と品質を有しながら、価格が大幅に低く設定されている。これにより、医療費の削減や医療の普及が可能となる。

欧米先進国では、ジェネリック医薬品の普及が進んでおり、その普及促進のために様々な政策が取られているが、医師や薬剤師に対する教育、患者への情報提供、価格競争の促進なども積極的に行われている。そこから学ぶべき日本でのジェネリック医薬品の存在意義は何かと考えた場合、下記のようにまとめられるのではなかろうか。

  1. 医療費の削減
  2. 医療の普及
  3. 医薬品産業の活性化

医療費の削減とは、ジェネリック医薬品は先発医薬品と比較して大幅に安価であるため、医療費の削減に寄与することを指す。高齢化社会を迎えている日本にとって特に重要な課題である。

医療の普及とは、ジェネリック医薬品の普及により、より多くの人々が必要な医療を受けられるようになることを指す。医療の公平性を高める上で重要であると考える。

医薬品産業の活性化とは、ジェネリック医薬品の市場は、新たなビジネスチャンスを生み出し、医薬品産業の活性化に寄与することを指す。バイオシミラーや「アドバンスドジェネリック」と呼ばれるようなジェネリック医薬品の登場も期待したい。

以上のように、ジェネリック医薬品は、医療費の削減、医療の普及、医薬品産業の活性化といった観点から、日本社会にとって大きな存在意義を持つと言える。

ただし、ジェネリック医薬品の品質保証大前提である。医療従事者や患者からの理解や信頼を確保するためには品質保証が第一義的に重要であり、最優先課題である。


日本でのジェネリック医薬品普及の課題

日本でジェネリック医薬品が十分に普及していない理由には下記のような課題があるためと推察する。

  1. 医療従事者の認識
  2. 患者の信頼
  3. 製造・供給の問題

医療従事者の認識とは、一部の医師や薬剤師は、ジェネリック医薬品の品質や効果に対して疑念を抱いていることを指す。ジェネリック医薬品の情報提供が進んでいないことが一因ではあるが、昨今のジェネリックメーカーの不祥事も多分に影響している。

患者の信頼とは、患者自身がジェネリック医薬品を信用していない場合を指す。

製造・供給の問題とは、ジェネリック医薬品の製造・供給に関する問題で、一部のジェネリック医薬品メーカーが品質管理に問題を抱えていたことが明らかになり、その結果、一時的に供給量が減少した。また、ジェネリック医薬品は多品種少量生産が一般的であり、特定の薬が不足しても急な増産に対応することが難しいという事情を指している。

これらの問題を解決するためには、医療従事者や患者への適切な情報提供、品質管理の強化、供給体制の改善などが必要となる。


ジェネリック医薬品の品質の信頼性

ジェネリック医薬品の品質や信頼性に大きな影響を与えるような不祥事が2020年末から立て続けに表面化しており、ジェネリック医薬品の品質への信頼性が揺らいでいる状況である。

2020年12月、小林化工において抗真菌薬に臨床用量を超える睡眠薬が混入していることが発覚したことが契機となり、その後、承認書と異なる方法で不正に医薬品を製造したり、承認申請資料に虚偽の記載を行ったりしていたことも判明した。小林化工は、2021年2月に過去最長となる116日間の業務停止命令を受け、その後、医薬品の製造販売から撤退し、事実上の廃業となった。

当時の後発品メーカー最大手の日医工は、2020年4月から2021年1月にかけて、75品目の医薬品を自主回収していたが、2021年3月に承認書と異なる方法で医薬品を製造していたことが発覚した。製造や品質管理に問題があるとして、富山県から32日間の医薬品製造の停止命令と、24日間の医薬品製造販売業としての業務停止命令を受けた。製品の品質試験で不正な処置を恒常的に行っていたのである。さらに、2023年7月には、258品目医薬品の販売中止を発表した。これらの医薬品は、国の承認を得ていない工程があったり、品質に問題があったりしたためであるとされる。

2021年10月には、ジェネリック業界の盟主と目されていた沢井製薬でも、胃炎・胃潰瘍向け医薬品で不正な品質試験を行っていたことが発覚した。沢井製薬は、2021年10月に業務改善命令を受けた。

同じく2021年10月、長生堂製薬では承認書と異なる方法で医薬品を製造していたことが発覚し、2021年10月に31日間の業務停止命令を受けた。

2021年11月には、今度は業界3番手の東和薬品でも承認書と異なる方法で医薬品を製造していたことが発覚し、2021年11月に業務改善命令を受けた。

以上のような日本の後発品メーカー大手の不祥事は、ジェネリック医薬品の品質や信頼性に大きな悪影響を与えると共に、医療現場や患者にも深刻な不安や不便をもたらした。

なかでも日医工は、国内最大手の後発品メーカーであり、日医工の製品は多くの医療機関や患者に利用されていた。そのため、日医工の不祥事はジェネリック医薬品業界全体の信頼を揺るがす事態となったと言える。

これらの不祥事を反省し、後発品メーカーは、品質管理体制の見直しや改善に努め、信頼の回復を目指してほしい。一方、厚生労働省にも監督官庁として薬事監視体制の強化や透明性の向上に取り組む必要があるだろう。


GE品質の信頼性回復のための対策

ジェネリック医薬品(GE)の品質の信頼性回復のための対策として既に提案されてるものには、下記のようなものがある。

  • 後発品メーカーは、製造管理や品質管理・品質保証の基準などを遵守し、製造販売承認書と製造実態の一致を確認する自主点検を定期的かつ継続的に実施する
  • 後発品メーカーは、コンプライアンス、ガバナンスやリスクマネジメントの体制を強化し、内部通報制度や公益通報制度などを充実させる
  • 後発品メーカーは、品質や安全性に関する情報を積極的に公開し、透明性を高める。
  • 厚生労働省は、GEの品質や安全性の確保に関する規制や監督を強化し、不正や違反が発覚した場合は厳正に対処する
  • 医療従事者にGEの品質や安全性に対する知識や理解を深めて貰うための研修や啓発活動を行う

以上のように、まずは後発品メーカーが自らの製品における品質の信頼性を回復させるための対策・自助努力に徹することが重要である。その上で、後発品メーカー、国と医療従事者の三者がそれぞれの役割を果たすことも必要となる。

そうでなければ、患者はGEに対して信頼することはなく、現在の日本の医療保険制度の元ではGEを積極的に使用したいというインセンティブが働かない。

政府はGE使用促進策の追加施策として、患者が先発医薬品を選択した場合には25%の負担増を発生するよう医療保険制度を改訂して、患者への負担増というインセンティブによってGE使用を促進したいようであるが、順番が間違っていると思う。

GEの品質への信頼が回復していないうちはその施策は成功しないだろう。患者からの反発があるだけである。GEの品質への信頼が回復こそがGE使用促進の要であることを理解していない。

GEの品質に対して信頼が回復したときは自ずとGEを使用するようになるに決まっている。先発品と全く同じ品質であるにも関わらず安いGEがある場合、GEを選択しない理由はないからである。

その証拠にオーソライズドジェネリック(AG:Authorized Generic)が登場した場合、医療従事者は患者にその使用を積極的に推薦するではないか。AGとは、先発品メーカーから許諾を得て、後発品メーカーが製造した医薬品のことである。そのため、AGは先発医薬品と原薬、添加物や製造方法などが全く同一のものを指す。だからAGと先発品の品質は全く同一であると考えてよい。しかも価格は他のGEと同じ薬価で、安い。AGがあれば、迷うことなくAGを選択するのが道理というか、合理的判断である。AGがあるにもかかわらず、先発品を選択する患者がいるのであれば、ブランド志向者であるので放ておけばよい。

GEが本来あるべき品質への信頼を回復したときには、AGはその存在意義を失い、やがて市場からフェードアウトしていくだろう。品質と信頼性において差別化できず、先発品メーカーへの許諾料が必要なAGはコスト高と見做されるようになるから当然の帰結である。

一方で、AGの存在がGEの品質向上と信頼性回復の動機を損なっている可能性があるという視点やAGに対する反対意見もある。確かに、そういう視点や反対意見にも耳を傾け、議論する必要はありそうだ。しかしながら、GEが本来の品質や品質への信頼性を確保していたなら、AGは登場しなかったはずである。AGの誕生は、GEの品質に対するユーザーの不信をビジネスチャンスと捉えた後発品メーカー自らが創り上げたものであるということを想い出してほしい。現在はGE使用促進の過渡期である。GEとAGが品質を競い合い、GEの品質が向上してくれることを期待したい。

GEは、医療費削減や患者負担軽減に貢献するものである。だからこそ、GEの品質保証とその品質への信頼性が最も重要であることを後発品メーカーと監督官庁の厚生労働省は再認識して頂きたい。

何が言いたいかというと、GE使用促進策は、GE品質の向上と品質への信頼性への回復が大前提ということである。その上で、医療従事者や患者に啓蒙活動を行えば、自ずとGE使用率は上昇していくはずである。異論があるかも知れないが、私はそう強く信じることにしたい。


あとがき

GEの品質への信頼性が揺らいでいる現状において、GE品質の向上と品質への信頼性への回復が最優先課題である。それ以外のGE使用促進策の執行は強権的であり、邪道と言わざるを得ないというのが私の考えであるが、如何であろうか。議論を深めるための一助にして頂ければ幸いである。

私は、かつて後発品メーカーは大規模な製造業者であるべきだと考えていた。その理由は、大規模な製造業者であれば、より多くのリソースを投入して、製品の品質と一貫性を確保することができると考えたからである。つまり、大規模な製造業者は、製造技術と品質管理・品質保証の面で一定の利点を持つ可能性があると考えたからである。

しかしながら、昨今の日医工・沢井製薬・東和薬品といった日本の大手後発品メーカーの不祥事を耳にして、後発品メーカーの規模の重要性を強調するような視点は片手落ちであることに気付かされてしまった。

特定のニーズに対応できる特殊な製品を提供する能力や、新しい技術や製造方法を迅速に採用する柔軟性を持っているならば、規模には関係なく、たとえ規模が小さな製造業者でも決して無視することはできない存在となる。

日本のGEの品質と品質への信頼性を高めるために、小規模な製造業者と大規模な製造業者が共存して、GE市場全体の健全性と革新性が保たれることを今は願っている。

GEの品質への信頼性が揺らいでいる現状においては、GE品質の向上と品質への信頼性への回復が最優先課題である。それ以外のGE使用促進策の執行は強権的であり、邪道と言わざるを得ないと私は思うが、如何であろうか。

GE使用促進についての議論が世間で深まれば良いと思う。


【参考資料】
運営委員会資料ジェネリック・ (kyoukaikenpo.or.jp)
ジェネリック医薬品の普及率と問題点
「ジェネリック(後発医薬品)利用実態」に関する調査結果 – NTTコム リサーチ 調査結果