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解離性同一性障害とは?原因は何?症状は?診断と治療法は?予防は?

はじめに

解離性障害(dissociative disorder)は、通常は統合されている意識、記憶、自己同一性などが混乱し、連続性がなくなったり、失われたりする精神疾患である。強いストレスや心的外傷が原因で発症すると考えられている。

強い葛藤に直面して圧倒されたり、それを認めることが困難な場合に、その体験に関する意識の統合が失われ、知覚や記憶、自分が誰であり、どこにいるのかという認識などが意識から切り離されてしまう。

解離性同一性障害」と呼ばれる精神障害も「解離性障害」の一つに数えられている。この病名は、身体的症状から転換した特徴的な症状を表現したもののようである。

解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder; DID)は、かつて多重人格障害(Multiple Personality Disorder; MPD)と呼ばれていたこともある精神障害である。


<目次>
はじめに
解離性同一性障害とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

解離性同一性障害とは

解離性同一性障害(DID)は、強いストレスやトラウマから自分を守ろうとした結果、一人の中に二つ以上の別人格が入れ替わり表れるようになり、自己同一性(自分はこういう存在であるという感覚)が損なわれてしまう精神障害であるとされる。

複数の人格状態が存在する多重人格と呼ばれる状態であるため、かつては「多重人格障害」や「二重人格」とも呼ばれていた。

複数のはっきりと区別される人格が一人のなかに存在し、それぞれの人格ごとに独立した行動を示す。通常、主人格(本来の人格)はそれ以外の人格による言動を直接には知らないが、主人格の言動は他の人格に知られている。主人格の側から見れば、自分の言動に記憶の空白が生じることになる。


原因

解離性同一症は、通常、小児期に圧倒的なストレスまたは心的外傷を経験した人々に発症すると言われている。

小児は生まれつき統合された人格の感覚をもっているわけではなく、それは多くの養育と経験によって発達する。圧倒的な体験(トラウマ、身体的、感情的、性的暴力、または感情的ストレスなどを指す)をした小児では、一体となるべき多くの部分がばらばらの状態でとどまるとされる。

解離性同一性障害の患者では、小児期の慢性的な重度の虐待(身体的、性的、または心理的)およびネグレクトがしばしば報告され、実際に確認できる(米国、カナダ、欧州では約90%の患者でみられる)。虐待はなくとも、重大な早期の喪失(親の死など)、重篤な身体疾患、他の圧倒的にストレスの強い出来事を経験している患者もいる。

自身および他者に関する統一性のある複雑な認識能力を獲得する大半の小児とは対照的に、重度の虐待を受けた小児は、人生経験の様々な知覚、記憶、および感情が切り離されたまま諸段階を経る可能性がある。時間とともに、このような小児は自身の心の中に、逃げ込む(過酷な物理的環境から自身を切り離す)または引きこもることで虐待から逃れる能力を形成することがある。別の人格を作り出すために、各発達段階または心理的に外傷的な体験が利用される場合がある。


症状

解離性同一性障害の症状は、一人の人物中に、全く異なる複数の人格(性格や性別・記憶・趣味嗜好を持つ)が交代して表れることである。人格が交代している間の記憶を本人が覚えていないことが多く、日常生活や仕事に影響が出ることもある。

解離性同一症に特徴的な症状(多重人格)がいくつかある。

憑依型
多重人格が家族や関係者に容易に気づかれる。患者は他の人物または存在に乗っ取られたかのように、普段と明らかに異なる話し方でしゃべり、普段と異なる行動をする。新たな人格は、他の人物(しばしば死亡した人物)である場合もあれば、超自然的な存在(しばしば悪魔または神)である場合もあり、過去の行為に対する罰を求めてくることがある。
非憑依型
別の人格が周囲の人間にとって明らかではないことが多い。代わりに、患者自身が離人感を体験する。患者は非現実の世界にいて、自己から切り離され、自分の身体と精神プロセスから遊離したように感じる。患者は自分が自身の人生の傍観者であり、自分のことをあたかも映画の登場人物のように観察しており、自分ではコントロールできないかのように感じていると述べる(個人的主体性の喪失)。患者は自分の体を別の誰かのもののように感じ、自分のものではないと考えることがある。自分のものではないように思える思考、衝動、感情が突然生じることがあり、それらは頭を混乱させる複数の思考の流れや声として現れる場合もある。周囲の人間に気づかれる症状もある。例えば、患者の態度、意見、好みが突然変化し、その後元に戻ることがある。

解離性同一症の患者は、人格の交代がある場合、またはある人格状態が別の人格状態の機能に干渉している場合、日常活動への侵入も経験する。例えば、職場において、怒りを覚えた人格が同僚や上司を突然怒鳴りつけることがある。

声が聞こえることに加え、解離性同一症患者では幻視、幻触、幻嗅、幻味がみられることがある。そのため、精神病性障害と誤診される場合もある。しかしながら、これらの幻覚症状は統合失調症などの精神病性障害に典型的な幻覚とは異なる。解離性同一症患者は、これらの症状を交代人格から生じるものとして体験する(例:他の誰かが、自分の眼を使って泣きたがっているように感じたり、自分を批判する交代人格の声を聞いているように感じたりする)。

人格の交代と健忘による人格間の障壁によって、しばしば生活が混沌とすることがある。一般に、患者は自分の症状や症状が他人に及ぼす影響を隠すか最小限に抑えようと試みる。


検査・診断

解離性同一症の診断は、精神科医が面談により、症状を丁寧に調べていく。診断は、DSM-5の次の基準に基づいて行う。

2つ以上のパーソナリティ状態または人格がみられ(人格の破綻)、自己感覚および主体性の感覚に相当の断絶がある
日常の出来事、重要な個人的情報、および外傷的出来事についての記憶(通常のもの忘れでは典型的には失われることのない情報)に空白がある
症状によって、著しい苦痛が生じているか、社会的または職業的機能が著しく損なわれている

診断には解離現象に関する知識および解離現象に関する具体的な質問が必要である。ときに長時間の面接、催眠法、または薬剤(バルビツール酸系またはベンゾジアゼピン系薬剤)を使用する面接法が用いられ、患者は来院間の日記をつけるよう指示されることもある。これらの方法ではいずれも、評価中に人格の交代を引き出すことを試みる。医師は時間をかけて複数の人格とそれらの関係を図に書き出すことを試みてもよい。

また、医師は患者が思い出せない行動または他の誰かが行ったように思える行動に関与した心の部分に話しかけるよう指示することにより、他の人格との直接の接触を試みることもできる。催眠法は、医師が患者の解離状態や他の人格にアクセスすること、また患者が解離状態間の移行をより良好にコントロールすることに役立つ可能性がある。


治療

治療方法には、カウンセリング、環境調整、薬物治療があり、症状に応じて、複数の治療を組み合わせて進めるという。

人格状態の統合が解離性同一症の治療の最も望ましい転帰である。薬剤は抑うつ、不安、衝動性、および物質乱用の症状管理を支援する目的で広く使用されているが、解離自体を緩和することはできない。

人格状態の統合を実現するための治療は、精神療法が中心となる。統合しようと努力ができない患者またはそうする意思がない患者に関しては、人格間での協調および協力を促すことと、症状を軽減することを治療目的とする。

精神療法の最優先事項は、患者を安定させ、安全を確保することであり、心理的に外傷的な体験の評価と問題のある人格や解離の理由の検索はその後に行う。一部の患者には入院が有益であり、その間に継続的な支持およびモニタリングを行いつつ、苦痛な記憶に対する対応を講じる。このような患者が再度被害を受けないよう補助するために、治療者は絶えず注意を払う必要がある。

催眠法は、個々の人格への接触を試み、人格間のコミュニケーションを促して、それらの安定化および解釈を進めるのに役立つことがある。人格状態の統合を促すために、解離した人格状態に直接関わって交流する治療者もいる。

解離の理由が対処され、克服されていくにつれて、治療は、患者内の交代する自己、それらの関連性、および社会的機能を再結合し、統合し、修復する方向に進む可能性がある。一部の統合は治療過程で自然に起こることがある。統合は、個々の人格と交渉して統一の準備を行うことによって、あるいは催眠法による暗示および誘導イメージ療法を用いることによって促すことができる。


予防

解離性障害の予防については、残念ながら確立された方法はないようだ。しかし、安全感、安心感を持てる環境を整えることが推奨されている。それは、家族や周囲の人が患者本人を理解し受け入れ、主治医とも信頼関係を築くことであるとされる。


あとがき

「解離性同一性障害」の病名を耳にしたとき、不謹慎であるにもかかわらず、私はすぐにロバート・ルイス・スティーヴンソン著の『ジキル博士とハイド氏』をイメージしてしまった。

『ジキル博士とハイド氏』は、「二重人格」を題材にした物語であり、「解離性同一性障害」の象徴的な表現としてこの作品名が用いられることも多い。何も知らないくせに、私も刷り込まれていたということである。

この物語では、ジキル博士が薬を飲むことによってハイドという裏の顔に変貌し、性格および容貌までも変化する。しかし、実際の解離性同一性障害は、非常な苦痛にさらされた人間が自衛のためにとることになってしまった精神障害である。フィクションである『ジキル博士とハイド氏』の二重人格と決して同一視してはいけない。実際の病状と異なる部分が多い。

日本での解離性同一性障害の患者数や有病率に関する確かなデータは存在しない。米国では、1年間の有病率は約1.5%と報告されているので、一定数の患者が存在するのは確かなようだ。


【参考資料】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
精神疾患の有病率一覧 – Enpedia (rxy.jp)