はじめに
日本における脂質異常症の有病率については、2019年の調査では、脂質異常症の患者数は約220万人と報告されている。一方、血清総コレステロール値が240mg/dL以上の者の割合は、男性は12.9%、女性は22.4%であったとの報告もある。
日本で最も多い慢性疾患のトップ3は、男性では高血圧症・糖尿病・歯の病気であるが、女性では高血圧症・脂質異常症・目の病気となっている。このことから、脂質異常症は女性に多い疾患であるように見受けられるが、それは加齢によるものである。
脂質異常症が女性に多い理由としては、主に女性ホルモンの影響と更年期の変化によるものと考えられている。
女性の体は、卵巣から分泌される女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンの影響を受けている。エストロゲンは、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を減らし、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やす働きがある。
ところが、更年期になるとエストロゲンの分泌量が減少してしまうため、それまで健康だった女性もコレステロール値が高くなりやすくなる。特に、女性の総コレステロール値およびLDLコレステロール値は50歳以前では男性と比較して低い値を示すが、50歳以降では急速に上昇して男性よりも高くなる傾向にある。
したがって、閉経後の女性では男性と同じように脂質異常症が動脈硬化のリスクファクターになると考えられている。シニア世代の仲間入りをした女性は健康面にも注意しないといけない。
<目次> はじめに 脂質異常症とは 原因 症状 検査・診断 治療 予防 あとがき |
脂質異常症とは
脂質異常症とは、血液中の悪玉の脂質であるLDLコレステロールや中性脂肪が多いか(高LDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症)、善玉の脂質であるHDLコレステロールが少ない(低HDLコレステロール血症)状態を指す。
脂質異常症の状態は動脈硬化を引き起こし、狭心症や脳梗塞などの病気を引き起こす可能性があると言われている。
原因
脂質異常症の原因は、多岐にわたると言われている。遺伝的な要素や生活習慣、特定の疾患や薬物などが影響を及ぼすことがあるとされる。原因は患者個々の状況により異なるが、主な原因として下記のような要素が知られている。
- 遺伝的要素
- 家族性高コレステロール血症(遺伝的要素が大きい)
- 生活習慣の乱れ
- 過食
- 飽和脂肪酸が多い食事
- LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が増加
- 運動不足
- 肥満
- 喫煙
- 過剰飲酒
- 特定の疾患
- 甲状腺機能低下症
- 特定の薬剤
- 一部の薬剤が脂質異常症を引き起こす可能性がある
症状
脂質異常症自体が症状を起こすことはまれで、一般的には主として動脈硬化が進行することで症状が現れる。
脂質異常症は、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの病気を引き起こす可能性があると指摘されており、より重篤な疾病の原因となるので注意を要する疾病であると言える。
検査・診断
血液検査を行い、LDLとHDLと呼ばれる2種類のコレステロールの値と、中性脂肪の値を測定する。
脂質異常症の診断は、空腹時の血液中に含まれる脂質の値によって行われる(下表参照)。
治療
脂質異常症の治療は、まずは食生活や運動などの生活習慣の改善から始める。生活習慣の改善で治療効果が認められない場合には追加で薬物療法が選択される。
薬物治療にはLDLコレステロールの値を下げる薬剤と中性脂肪の値を下げる薬剤の2種類がある。
LDLコレステロールの値を下げる薬剤の代表的なものとしては、スタチン系またはHMG-CoA還元酵素阻害薬と呼ばれる薬剤がある。日本で上市されているスタチン系薬剤としては下記のような治療薬が知られている。いずれも錠剤の経口剤である。
- プラバスタチン(メバロチン®)
- シンバスタチン(リポバス®)
- フルバスタチン(ローコール®)
- アトルバスタチン(リピトール®)
- ピタバスタチン(リバロ®)
- ロスバスタチン(クレストール®)
一方、中性脂肪の値を下げる薬剤の代表的なものとしては、フィブラート系と呼ばれる薬剤やエイコサペンタエン酸がある。
フィブラート系薬剤の中には、中性脂肪を低下させ、HDLコレステロールを増加させる効果もある。日本で上市されているフィブラート系薬剤としては下記のような治療薬が知られている。いずれも錠剤の経口剤である。
- ベザフィブラート(ベザトール®SR)
- クリノフィブラート(リポクリン®)
- フェノフィブラート(リピディル®、トライコア®)
- ペマフィブラート(パルモディア®)
予防
脂質異常症の予防策としては、下記のような生活習慣の改善が推奨されている。
- 適切なカロリー制限を行う
- 現代人の食事は、カロリー過多になりがち
- 脂質が少ない穀物類(米・小麦)の主食をきちんと食べる
- 栄養バランスを考えた食事の摂取
- 動物性脂肪を控えめにする
- 牛肉や豚肉を食べるときにはロースよりもヒレを食べる
- 鶏肉の場合には皮を食べないようにする
- 新鮮な青魚を多く食べる
- 脂肪の量だけでなく質にも注意する
- 青魚(サバ、イワシ、サンマなど)を積極的に食べる
- マグロの赤身やタイなども積極的に食べる
- 植物性タンパク質をたっぷりと摂る
- 植物性タンパク質には、血液中のコレステロールや中性脂肪を減らす働きがある
- 大豆類を積極的に摂取する
- 食物繊維をたっぷりと摂る
- 血中コレステロールを下げる働きのある食物繊維を摂る
- 食物繊維が多い野菜を積極的に摂取する
- 適度な運動を行う
- 運動は脂質の代謝を促進し、脂質異常症の予防に役立つ
- 高血圧対策
- 動脈硬化を進行させる高血圧予防のために塩分を控える
あとがき
生活習慣病の一つに数えられている脂質異常症は、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)などの脂質が一定の基準よりも多い状態を指す。この状態が長く続くと、動脈硬化を引き起こしやすくなり、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高くなると言われている。
動脈硬化は「血管の老化」と呼ばれ、元々はしなやかで弾力のあった血管が、硬く脆くなる病態である。動脈硬化が進行すると、脳梗塞や心筋梗塞などの命に関わるより重篤な病気へと発展する可能性がある。
脂質異常症は、高血圧と密接な関係にある。高血圧を発症していると、血管に強い圧力がかかり続けるため、血管の内壁が傷つきやすくなる。一方、脂質異常症を発症していると、血管の内側にコレステロールが溜まり、血管壁を傷つけ、硬くなる。硬くなった血管は血液を送り出すのが困難になるため、通常よりも強い圧力が必要になり、これが高血圧を引き起こす。
脂質異常症と高血圧は、どちらも動脈硬化を進行させる危険因子であり、両者は互いに影響を及ぼし合い、一方が悪化するともう一方も悪化しやすくなる。そのため、これらの病態を適切に管理することが重要となる。
高血圧も生活習慣病であることから、脂質異常症と高血圧を予防または改善するためには、私たちシニア世代は食事や運動、喫煙などの生活習慣を改善し、健康的な生活を日常的なものにする必要がある。シニア世代は、現役世代に比べて生活習慣の改善については取り組みやすい環境であると私は思っている。
【参考資料】
脂質異常症について | メディカルノート (medicalnote.jp) |
脂質異常症(高脂血症) – 基礎知識(症状・原因・治療など) |
脂質異常症は治るの?| シンクヘルス株式会社 (health2sync.com) |
脂質異常症(高脂血症) | 生活習慣病の調査・統計 | 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 (seikatsusyukanbyo.com) |