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低分子化合物医薬品やバイオ医薬品の使用期間の設定に必要な安定性試験データ

はじめに

低分子化合物医薬品とバイオ医薬品は、その製造方法と構造に大きな違いがある。

低分子化合物医薬品は、主に化学合成によって生産される医薬品で、比較的単純な構造をした小さな分子の有機化合物である。化学合成反応によって大量生産が可能なため、製造が比較的容易であり、製造価格も比較的安価にすることができるというメリットがある。

一方、バイオ医薬品は、遺伝子組換え、細胞融合、細胞培養などのバイオテクノロジーを利用して開発製造される医薬品で、生体分子(酵素、ホルモン、抗体など)を応用して作られる。バイオ医薬品は、分子が大きく構造が複雑で、製造と安定性の面でも難度が高いとされている。バイオ医薬品は、薬効が高く副作用も少なく、適用できる病気の利用範囲も広いが、バイオ医薬品の開発には、従来の低分子化合物の開発に比べて、より広範で高度な技術が必要とされている。また、化学合成反応による大量生産が出来ないため、製造が難しく製造価格も高いという課題がある。

低分子化合物医薬品やバイオ医薬品の使用期間を設定するためには、安定性試験が必要である。安定性試験は、医薬品が製造後一定期間経過した際の品質を確認するための試験であり、医薬品の使用期間を決定するために必須の要件となる。


<目次>
はじめに
医薬品の使用期間
医薬品の安定性試験
低分子医薬品の使用期間の設定
バイオ医薬品の使用期間の設定
あとがき

医薬品の使用期間

医薬品の使用期間は、その製品が安全で効果的であることを保証する期間を示している。使用期間を超えた医薬品は、その効果が低下したり、安全性が保証されない可能性がある。

医薬品の使用期間は製造者が安定性試験データを基に設定し、厳密な試験と規制に基づいているため、医薬品の使用期間を勝手に延長させる方法は基本的には存在せず、使用期間を超えた医薬品の使用は推奨されない。


医薬品の安定性試験

医薬品の安定性試験は、製造された医薬品の品質が一定期間保持されることを確認するための試験である。この安定性試験は、医薬品の貯蔵方法や有効期間を設定するために行われる。

安定性試験には下記の3種類がある:

  1. 長期保存試験(Long-term stability test)
    • 規定された試験条件下で医薬品を長期保存する試験
    • 申請する貯蔵方法において、物理的、化学的、生物学的及び微生物学的性質が申請する有効期間を通じて適正に保持されることを評価する
  2. 加速試験(Accelerated stability test)
    • 申請する貯蔵方法で長期間保存した場合の化学的変化を予測する試験
    • 特定の環境条件(例えば、高温や高湿度)下での医薬品の安定性を評価する
    • 医薬品の輸送中や使用者の手に渡った後など流通期間中に起こり得る貯蔵方法からの短期的な逸脱の影響を評価する
  3. 苛酷試験(Stress stability test)
    • 流通期間中に起こりうる、通常の保存条件からは逸脱した極端な条件下での薬剤の安定性について確認する試験
    • 医薬品の特性(特徴)を評価する試験でもある

これらの試験により、医薬品の化学的、物理的、生物学的及び微生物学的性質が評価される。また、これらの試験結果は、医薬品の貯蔵方法や有効期間の設定に必要な情報を提供する。

これらの安定性試験のうち、医薬品の使用期間設定に使用されるのは、長期保存試験加速試験の安定性試験データである。


低分子医薬品の使用期間の設定

低分子医薬品の使用期間設定に使用されるのは、長期保存試験加速試験の安定性試験データである。

例えば、使用期間を3年に設定するためには、下記の安定性試験データが必要である:

  • 長期保存試験
    • 25°C/60%RHで、12ヶ月以上の試験データ、または
    • 30°C/65%RHで、12ヶ月以上の試験データ
  • 加速試験
    • 40°C/75%RHで、6ヶ月間以上

加速試験において6ヶ月間以上の安定性が確認された場合には、長期保存においても3年以上安定であることが推定される。新薬承認後、長期保存試験は継続して実施し、12ヶ月以降のデータ(24ヶ月または36ヶ月)から、使用期間を36ヶ月へ延長することが可能である。

低分子医薬品は化学合成によって生産され、その分子構造は比較的単純で安定している。そのため、低分子医薬品の使用期間は、長期保存試験と加速試験の結果に基づいて設定され、しかも長期保存試験データの24ヶ月データがあれば使用期間36ヶ月へと延長できる。


バイオ医薬品の使用期間の設定

低分子医薬品の使用期間設定に使用されるのは、長期保存試験加速試験の安定性試験データである。

低分子医薬品の使用期間設定に使用されるのは、長期保存試験加速試験の安定性試験データである。

例えば、使用期間を2年に設定するためには、下記の安定性試験データが必要である:

  • 長期保存試験
    • 25°C/60%RHで、24ヶ月以上の試験データ
  • 加速試験
    • 40°C/75%RHで、6ヶ月間以上

もし、使用期間を3年に設定したいのであれば、下記の安定性試験データが必要である:

  • 長期保存試験
    • 25°C/60%RHで、36ヶ月以上の試験データ
  • 加速試験
    • 40°C/75%RHで、6ヶ月間以上

バイオ医薬品はバイオテクノロジーを用いて製造され、その分子構造は複雑で不安定なことが多い。そのため、バイオ医薬品の使用期間を設定する際には、使用期間と同じ期間だけの長期保存データが必要となる。


あとがき

バイオ医薬品は、その特性上、低分子医薬品と比較して分子構造が複雑で、不安定な高分子物質であるとされている。また、バイオ医薬品は生物を起源とするため、有効成分の含量のばらつきや製剤に対する免疫応答の惹起などの問題点を有する。

このようなバイオ医薬品の特性から、バイオ医薬品の安定性は製造工程や保存条件、時間の経過により大きく影響を受ける可能性があるといえる。そのためにバイオ医薬品の使用期間を設定する際には、その期間にわたって製品の品質が維持されることを確認する必要があると言わざるを得ない。この長期保存試験の安定性試験データにより、使用期間内における製品の有効性と安全性が保証されることになる。

このような理由から、バイオ医薬品の使用期間を設定するために同じ期間だけの長期保存データが必要となるのは致し方ない。

したがって、バイオ医薬品の使用期間の設定は、低分子医薬品とは異なるアプローチが必要とされている。しかしながら、将来、バイオ医薬品の長期安定性を推定できるような安定性試験方法が開発されたならば、低分子医薬品のように短期の安定性データで長期の使用期間を設定できるようになる日が来るかも知れない。


【参考資料】
安定性試験ガイドラインについて 000156805.pdf (pmda.go.jp)
医薬品の安定性試験の実施方法 000208425.pdf (pmda.go.jp)
医療機器の有効期間の設定と安定性試験に関する質疑応答集(Q&A)(◆平成21年08月05日事務連絡) (mhlw.go.jp)