はじめに
日本語では「治験薬概要要書」と呼ばれることがあるIMPDは、治験薬の品質、製造方法、安定性試験結果、その他安全性や有効性に関連する重要な情報を網羅した文書である。
このIMPDは、治験の実施および規制当局への提出書類(INDA;Investigational New Drug Application;治験新薬申請)の一部として位置付けられている。すなわち、治験開始前の申請(IND提出)において、治験薬が適切な品質管理の下で製造され、被験者の安全性が担保されているかどうかを判断するために利用される。
IMPDの記載内容は、国や地域ごとに定められた規制基準に沿って整備される。これにより、治験に参加する患者やボランティアの安全性が確保され、データの信頼性が維持される仕組みとなっている。
INDとCTNの違いは何か?
IND(Investigational New Drug)またはINDA(Investigational New Drug Application)は、日本語では「治験新薬申請」と呼ばれ、主に米国や大半の欧州で用いられる制度で、治験薬の品質、製造プロセス、安定性、非臨床試験データなどを網羅した詳細な書類であるIMPD(Investigational Medicinal Product Dossier)やIB(Investigator’s Brochure)を提出し、規制当局であるFDAが治験の安全性や有効性を厳しく評価する。
一方、CTN(Clinical Trial Notification)は、日本や一部の欧州で採用される通知制度であり、治験実施のための基本的な情報を簡潔に提出することで承認が得られる仕組みである。
INDとCTNは、いずれも臨床試験を開始するための規制手続きであるが、その性格や求められる書類の詳細に違いがある。CTNの場合は、INDに比べて提出書類が簡略化され、全体的な規制の負担が軽減されている制度と言える。
IBは、治験実施機関の治験責任医師らが治験薬に関する十分な情報(科学的根拠、安全性、効果、リスクなど)を把握するための重要な文書である。
IND制度では、詳細なIBの提出は原則として必須となっている。一方、CTN制度では、提出書類自体が簡略化されるため、法規制上はIBの提出は必ずしも求められないことになっているが、治験の安全管理や実施上の情報提供の観点から、実務上はIBが適切に整備され、治験実施者側に提供されることが望ましいとされる。
以上のことから、INDは厳格な申請制度であり、より詳細な情報提出が要求されるのでIMPDとIBの提出が必須となる。それに対して、CTNは通知方式で提出書類が簡略化された申請制度であるため、治験の運営や被験者の安全確保のための必要な情報としてIBが提出されるだけで実務上は十分とされる。
IMPDとは何か?
IMPD(Investigational Medicinal Product Dossier)は、日本語では「治験薬概要要書」と訳され、臨床試験で使用される治験薬に関する全ての重要な情報を体系的にまとめた文書である。
このIMPDは、対象となる治験薬の品質、製造プロセス、ロット管理、安定性試験の結果、理化学的特性、そして場合によっては非臨床(動物実験)や初期の臨床データなども含め、規制当局や倫理委員会が治験薬の安全性と品質、有効性を評価するための基盤資料として提供される。
IMPDは、IND(Investigational New Drug;治験新薬申請)の一部として求められることが多く、治験薬が臨床試験に適しているかどうか、適切に管理されているかどうかの判断材料になる。
国や地域によっては、CTN(Clinical Trial Notification)などの制度下でIMPDの提出義務がない場合もあるが、基本的には治験薬の品質管理と安全性の確保のために不可欠な文書である。
IMPDには、製造・包装・ラベリング、輸送・保管といった治験薬のライフサイクル全体に関する詳細な情報が含められている。そのため、製造工程における逸脱や品質問題が発生した際の原因究明、迅速な是正措置の実施が可能になるとともに、試験実施中に被験者の安全が守られる体制の確立にも寄与する。
このように、IMPDは臨床試験を安全かつ信頼性の高いものにするための重要なドキュメントである。各国の規制ガイドラインに基づいて、その内容や作成手順は細かく定義されており、試験薬の製造や品質管理、さらには試験の実施過程におけるリスク管理の基盤として機能している。
IMPDの記載内容(見出し)
IMPDの作成は、治験薬の品質、安全性、有効性を評価する上で極めて重要なプロセスである。IMPDは治験薬の全体像を統合的に示す文書であるので、文書作成の段階では更新や変更の管理が非常に重要である。試験期間中にも新たなデータが出た場合は、変更管理手順に則り内容を更新し、関係者に通知する仕組みが求められる。
IMPDに盛り込むべき主要セクションとしては、例えば、以下のような項目が挙げられる。
- 製品同定情報
- 成分、剤形、用量、製品の特徴など
- 製造工程及び管理
- 原材料、製造手順、ロット管理の方法、各工程の管理基準
- 品質管理情報
- 物理化学的試験、微生物試験、バリデーション結果、解析方法、検査データの根拠など
- 安定性試験と保存条件
- 安定性試験のデータ、試験プロトコル、更新計画および保存条件の根拠
- 科学的知見・安全性情報
- 非臨床試験データ、初期の臨床データ、リスク管理に関する情報など
国内外の規制(例えば、ICHガイドライン、GCP、GMPの指針など)を参照し、どの情報が必須かを確認する。そして、実務上での留意点としては、提出書類としての体裁を整え、文書の表題、目次、各セクションの見出し、文書化のルール(フォントやレイアウトなど)を統一すると良い。一般的には、完全なIMPDの目次は、関連ガイドラインで指定された見出しに従うことになる。
IMPDの見出しは、詳細な情報がIB(治験概要書)で提供されることを前提としている。そのため、関連する情報のみを記載し、一般的にいくつかの見出しは空白のままにすることができる。
さらに、作成中及び改定時の変更履歴を明記し、最新版であることが一目で分かるようにすると良い。
2.1.S | DRUG SUBSTANCE |
原薬 | |
2.1.S.1 | General Information |
一般情報 | |
2.1.S.1.1 | Nomenclature |
名称 | |
2.1.S.1.2 | Structure |
構造式 | |
2.1.S.1.3 | General Properties |
特性 | |
2.1.S.2 | Manufacture |
製造 | |
2.1.S.2.1 | Manufacturer(s) |
製造者 | |
2.1.S.2.2 | Description of Manufacturing Process and Process Controls |
製造工程と工程管理の説明 | |
2.1.S.2.3 | Control of Materials |
原材料の管理 | |
2.1.S.2.4 | Controls of Critical Steps and Intermediates |
重要工程及び中間体の管理 | |
2.1.S.2.5 | Process validation and/or Evaluation |
プロセスバリデーション及び/又は製造プロセスの評価 | |
2.1.S.2.6 | Manufacturing Process Development |
製造方法の開発 | |
2.1.S.3 | Characterisation |
特性評価 | |
2.1.S.3.1 | Elucidation of Structure and Other Characteristics |
構造やその他の特性の解明 | |
2.1.S.3.2 | Impurities |
不純物 | |
2.1.S.4 | Control of Drug Substance |
原薬の管理 | |
2.1.S.4.1 | Specification |
規格 | |
2.1.S.4.2 | Analytical Procedures |
分析方法 | |
2.1.S.4.3 | Validation of Analytical Procedures |
分析方法のバリデーション | |
2.1.S.4.4 | Batch Analyses |
ロット分析 | |
2.1.S.4.5 | Justification of specification |
規格設定の根拠 | |
2.1.S.5 | Reference Standards or Materials |
標準品または標準物質 | |
2.1.S.6 | Container Closure System |
容器及び施栓系 | |
2.1.S.7 | Stability |
安定性 |
2.1.P | Investigational Medicinal Product under Test (Drug Product) |
製剤 | |
2.1.P.1 | Description and Composition of the Medicinal Product |
製剤及び処方 | |
2.1.P.2 | Pharmaceutical Development |
製剤開発の経緯 | |
2.1.P.2.1 | Components of the Medicinal Product |
製剤の組成(成分) | |
2.1.P.2.2 | Medicinal Product |
製剤設計 | |
2.1.P.2.3 | Manufacturing Process Development |
製造工程の開発 | |
2.1.P.2.4 | Container Closure System |
容器及び施栓系 | |
2.1.P.2.5 | Microbiological Attributes |
微生物限度 | |
2.1.P.2.6 | Compatibility |
配合性評価 | |
2.1.P.3 | Manufacture |
製造 | |
2.1.P.3.1 | Manufacturer(s) |
製造者 | |
2.1.P.3.2 | Batch Formula |
製造処方 | |
2.1.P.3.3 | Description of Manufacturing Process and Process Controls |
製造工程と工程管理の説明 | |
2.1.P.3.4 | Controls of Critical Steps and Intermediates |
重要工程及び中間体の管理 | |
2.1.P.3.5 | Process Validation and/or Evaluation |
プロセスバリデーション及び/又は製造プロセスの評価 | |
2.1.P.4 | Control of Excipients |
添加剤の管理 | |
2.1.P.4.1 | Specifications |
規格 | |
2.1.P.4.2 | Analytical Procedures |
試験方法 | |
2.1.P.4.3 | Validation of Analytical Procedures |
試験方法のバリデーション | |
2.1.P.4.4 | Justification of Specifications |
規格設定の根拠 | |
2.1.P.4.5 | Excipients of Human or Animal Origin |
ヒトまたは動物由来の添加物 | |
2.1.P.4.6 | Novel Excipients |
新規添加物 | |
2.1.P.5 | Control of Medicinal Product |
製剤の管理 | |
2.1.P.5.1 | Specification(s) |
規格 | |
2.1.P.5.2 | Analytical Procedures |
分析方法 | |
2.1.P.5.3 | Validation of Analytical Procedures |
分析方法のバリデーション | |
2.1.P.5.4 | Batch Analyses |
ロット分析 | |
2.1.P.5.5 | Characterization on impurities |
不純物の特性評価 | |
2.1.P.5.6 | Justification of Specification(s) |
規格設定の根拠 | |
2.1.P.6 | Reference Standards or Materials |
標準品または標準物質 | |
2.1.P.7 | Container Closure System |
容器及び施栓系 | |
2.1.P.8 | Stability |
安定性 |
2.1.A | APPENDICES |
付録 | |
2.1.A.1 | Facilities and Equipment |
製造施設及び | |
2.1.A.2 | Adventitious Agents Safety Evaluation |
外来性感染性物質の安全性評価 | |
2.1.A.3 | Novel Excipients |
新規添加物 | |
2.1.A.4 | Solvents for Reconstitution and Diluents |
用時調製用および希釈用の溶媒 |
あとがき
IMPDは、治験薬の品質保証や被験者の安全確保に大きく寄与するほか、文書作成後の内部監査や、定期的な見直し、是正・予防措置との連携方法についても考慮する必要がある。
IMPDの内容が最新の規制要求(例えば、ICHやGCPのガイドラインなど)に準拠していることを保証するとともに、各関係部署が統一した基準に沿って情報を収集・記載することが重要である。
対象となる治験薬及びその製造管理や品質管理に関連するすべてのデータや試験結果について、IMPDの各セクションで必要とされる情報は何か、どのような試験結果を添付するかをよく考えることも大切である。さらには、参考文書や既存データの引用例などを示して、記載漏れがないようにチェックリスト形式で整理しておくと良いかも知れない。