はじめに
小児用製剤の剤形については、年齢や飲みやすさを考慮して選ぶことが大切である。一般的に、液体製剤(シロップや懸濁液)は飲みやすいし、味を調整できるから小児に好まれることが多いと言われている。また、チュアブル錠(噛んで飲む錠剤)や分包顆粒も小児用製剤の剤形に選ばれることもある。最近では、小児用製剤の剤形としてミニタブレットも選択肢に入ってきたと思う。
でも、用途やお薬の成分によって適切な剤形が異なるから
小児用製剤を選ぶ際には、服薬コンプライアンス(薬を正しく続けて飲んでもらえるかどうか)や安全性、さらに薬剤特性をしっかり考慮する必要があります。以下のような剤形が特に推奨されます。
<目次> はじめに 小児用製剤の剤形としての選択基準 剤形の物理的安全性 成分の安全性 正確な用量調整と柔軟性 薬効(有効性)の安定性 服薬受容性(服用のしやすさ) 服薬管理や服薬指導の容易さ 製剤の安定性と保管条件 年齢や発達段階に合わせた剤形の選択 小児用製剤として役立つ剤形の特徴 液体製剤(シロップ・懸濁液) 顆粒剤・分包剤 チュアブル錠 口腔内崩壊錠 あとがき |
小児用製剤の剤形としての選択基準
小児用製剤の剤形の選び方の基準は、多面的な視点から検討される必要がある。これらの基準は、小児の安全性と服薬アドヒアランスを最大限に高めるために考慮されるべきものである。薬剤(有効成分)の特性や個々の患者に合わせた最適な剤形を選択することが、効果的な治療に繋がる。
多角的な基準をもとに、各疾患や治療目的に応じた最適な剤形を選び、小児が安心して治療に臨める環境を整えることが小児用製剤の開発においては重要であると考える。
小児用製剤の製剤開発においては、小児が安全、かつ、ストレスなく服薬できるよう、下記のような選択基準によって最適な剤形が製剤設計時に選ばれている。
剤形の物理的安全性
小児の誤飲や窒息のリスクを低減させるために、経口固形製剤の場合にはサイズや形状に、さらには容器にも工夫が必要となる。
成分の安全性
小児では添加物や溶剤の影響が成人よりも大きいため、エタノールやベンジルアルコールなど、小児に有害とされる成分が含まれていないことが求められる。
正確な用量調整と柔軟性
小児の体重や年齢に応じた細かな投与量の調整が可能な剤形、例えば、液体製剤、顆粒剤や分包された剤形は小児用製剤の剤形としては有利である。
薬効(有効性)の安定性
製剤設計では、剤形変更によって有効成分の吸収速度や効果が変わらないように考慮することが重要となる。
服薬受容性(服用のしやすさ)
味や風味の工夫
小児用製剤では、一般的に苦味をマスキングするための味付け技術が取り入れられており、小児が嫌がらない味や香りが選択されることが多い。
簡便な服用方法
液体製剤であれば計量カップやシリンジ付き、チュアブル錠の場合はかみやすい硬さやサイズなど、小児の発達段階に応じた工夫を施すことが服薬アドヒアランスを向上させるために重要であると一般的には認識されている。
服薬管理や服薬指導の容易さ
家庭での実際の服薬管理が容易であるかどうか、計量ミスや誤投与を防ぐための工夫がされているかどうかも重要なチェックポイントとなる。
患者やその家族への情報提供が分かりやすいかどうか(服薬指導の説明や教育のしやすさ)も、服薬アドヒアランスの向上に影響すると言われている。複雑な服用方法は敬遠される傾向にある。
つまり、家庭での操作性に優れた剤形でない場合は、小児用製剤の剤形には適さないということである。
製剤の安定性と保管条件
長期にわたって医薬品としての品質が保たれるかどうかも大切な判断材料となる。つまり、有効期限や温湿度変化への耐性が品質保証の観点から考慮されなければならない。
また、製剤が安定で、常温保管が可能か、あるいは冷蔵保管が必要であるかによって、家庭での取り扱いやすさに違いが生じる。家庭での保管条件の適合性が小児用製剤の剤形には適さないという場合も十分にあり得るので製剤の安定性は考慮すべきポイントとなる。
さらに、液体製剤の場合には、微生物限度についても十分な配慮がなされるべきであろう。
年齢や発達段階に合わせた剤形の選択
乳幼児には液体製剤、あるいは溶解しやすい顆粒剤(シロップ剤)が適しており、年長の小児にはチュアブル錠などが好まれるというのが従来から一般的理解である。
つまり、個々の発達段階に合わせた剤形が必要であるということであるが、製薬会社が小児用製剤の開発に多額の開発費を捻出するケースは少ないのが現状である。通常は、できるだけ幅広い年齢層をカバーできる剤形が選択される。
さらに、小児用製剤の剤形の選択基準を複雑にしているのが、服薬経験の有無や嗜好の違いも考慮しなくてはならない点である。実際の服薬経験や小児自身の好みを取り入れ、投与時のストレスを減らす工夫がされているかも重要なポイントとなることは理解できても、実際に製剤開発に反映できるかというと疑問である。
小児用製剤として役立つ剤形の特徴
小児用製剤は、一般的にその年齢層や発達段階に合わせた特性を持つように工夫されており、投与量の調整、味の調整、安全性、そして服薬のしやすさが求められいる。
具体的な剤形とその剤形の特徴について以下で吟味してみたい。
液体製剤(シロップ・懸濁液)
乳幼児では、経口固形製剤の一般的な剤形(例えば、錠剤やカプセル剤)を飲み込むのが難しい場合が多いため、液体製剤が選択される場合がほとんどである。固形剤形に比べて誤嚥防止に繋がるので、安心して服用できる点が魅力的である。
また、液体製剤は、服薬量(投与量)の調整がしやすく、味付けや風味の調整で嫌悪感を抑えることが可能である。また、使用する添加物や防腐剤も小児に配慮されたものが選定されている。
シロップ剤の具体例としては、パラセタモールシロップが知られている。また、抗生物質の懸濁液としてはアモキシシリン懸濁液が知られている。
顆粒剤・分包剤
顆粒剤や分包剤は、一度に全量を服用するのではなく、服薬前に水や好みのジュースに溶解または分散させることができるため、液体製剤と同様に柔軟な服用方法が可能である。
用事調整後も味がマスキングされる工夫が施されており、家庭での服薬が容易である。また、用量調整がしやすいという長所もある。このように、錠剤よりも扱いやすい場合が多く、小児に適した味や溶解性が工夫されていることが多い。
具体例としては、分包されたアモキシシリン顆粒剤や胃腸薬の顆粒剤が知られている。
チュアブル錠
チュアブル錠は、噛んで服用できる錠剤であり、小児でも無理なく摂取できるように設計されている。噛み砕くことで薬剤が溶解しやすくなるため、吸収も促進される場合がある。風味も工夫され、甘みやフルーツ味などで服用しやすさが向上している。
しかしながら、チュアブル錠は一定の年齢以上の小児向けであることや、薬剤自体の安定性・吸収性の面から使用が限られる場合もあることに注意が必要である。
具体例としては、イブプロフェンのチュアブル錠やビタミン剤の咀嚼錠が知られている。
口腔内崩壊錠
口腔内崩壊錠は、口腔内で速やかに崩壊・溶解するように設計された剤形である。服薬時に水が必要なく、舌の上に置くだけで自然と崩れるため、嚥下しにくい小児や高齢者でも安全に服用できるとされる。
口腔内ですぐに溶け始めることで、薬剤(有効成分)が迅速に吸収されるケースもあり、急速な効果を期待できる場合がある。
錠剤をそのまま舌に乗せるため、苦味を抑えるための甘味料や香料が添加されていることが多く、服薬の際のストレスが軽減されるよう工夫する必要がある。
小児でも水がすぐに用意できない状況を考慮して、口腔内で速やかに崩壊する剤形が開発されている。このタイプの剤形は、特に外出先や給食時などにも利用しやすく、服薬アドヒアランスの向上に寄与するとされる。
あとがき
私が小児用製剤の有望な剤形として注目しているのは、口腔内崩壊錠と並んで、ミニタブレットである。
ミニタブレットは、小児用製剤として有望な選択肢の一つであると思う。尤もミニタブレットは万能ではないが、下記のような観点から、条件が整えば、推奨すべきアプローチとなり得ると私は確信している。
- 服薬アドヒアランスの向上
- 一回の投与量が少ない
- 複数個を服用しても用量の正確性が維持される
- 液体製剤のような味や保存性(安定性)の問題を回避できる点は大きな利点である
- 飲み込みやすさと安全性
- 小児は固形剤の飲み込みに不安を感じる場合が多いが、直径が非常に小さい(例えば2~3 mm程度)ので、噛まずに丸ごと飲み込む場合でも、喉を詰まらせるリスクを最小限に抑えられるように設計されている
- 年齢や発達状況を考慮した使用が基本
- 乳幼児期または個々の嚥下反射が十分に発達している小児に適しているとされている
- 用量調整の柔軟性
- 体重や年齢に応じた正確な投与量が複数個で調整可能
- 個々の患者に合わせた個別治療の観点からも魅力的
- 製剤としての安定性
- 固形剤であるため保存性や薬剤の安定性が高い
- 液体製剤のように防腐剤添加の必要性がない
- 味付けやコーティングによって効果的に苦味マスキングが容易に達成できるできる
このように、ミニタブレットは適切な設計や評価が行われれば、小児用製剤として十分推奨できる選択肢である。
ただし、使用する年齢層や臨床現場での服薬アドヒアランス、さらに親や医療従事者への正確な服用指導など、運用面での配慮は不可欠である。
基本的には、使用する薬剤の特性、対象となる年齢層、また具体的な治療目的に合わせて剤形を決定するのが望ましい。
そして、治療対象となる子どもの発達段階や嚥下能力、そして薬剤の物性に応じた設計を行い、実際の服薬試験などで安全性と受容性が確認された上で採用するのが望ましい。
私見ではあるが、技術的に製剤化が可能であるのならば、ミニタブレットと口腔内崩壊錠を併用すれば、服薬の選択肢を広げられると思っている。この2種類の剤形を小児用製剤の剤形として併用すれば、対象小児の年齢や発達段階の違いによる多様な小児のニーズに応じた個別化医療に十分に対応しながら、小児医療に貢献できるのではないかと思う。賛同して頂けるであろうか?