はじめに
分析法バリデーションは、定量分析法が一貫した精度と信頼性を発揮するために不可欠なプロセスである。
適切なワークフローを確立することで、規制要件を満たしつつ円滑なドキュメンテーションを実現できる。
本稿では、定量クロマトグラフィー分析法などの分析法バリデーションから文書化までのワークフローと各主要ステップの概要を取り上げてみたい。
<目次> はじめに ワークフロー全体像 各主要ステップの概要 1. 方法開発とリスク評価 2. バリデーション計画作成 3. バリデーション実験の実施 4. データ解析と受入判定 5. 確認試験(再現性・頑健性) 6. 文書化(報告書および関連書類) 7. 承認・トレーニング 8. 維持管理と変更制御 HPLC定量法の事例 あとがき |
ワークフロー全体像
まず、主要ステップの全体像を示すと以下のようになる。
- 方法開発とリスク評価
- バリデーション計画(VMP)作成
- バリデーション実験の実施
- データ解析と受入判定
- 確認試験(再現性・頑健性)
- 文書化(報告書および関連書類)
- 承認・トレーニング
- 維持管理と変更制御
各主要ステップの概要
1. 方法開発とリスク評価
- 文献調査で既存メソッドを把握
- 予備実験で主要因子(pH、温度、流速など)を特定
- FMEAなどでリスクを洗い出し、クリティカルポイントを整理
2. バリデーション計画作成
- バリデーションの目的と範囲を明確化
- 試験項目を列挙
- 精度
- 正確度
- 直線性
- LOD/LOQ
- 頑健性
- 特異性
- 試験手順、使用試料、受入基準、スケジュールを定義
3. バリデーション実験の実施
- 標準試料および試験サンプルによる複数回測定
- 精密度(同一条件内再現性)を評価
- 中間精密度(異日・異オペレータ)を評価
- 検出限界(LOD)、定量限界(LOQ)の算出
4. データ解析と受入判定
- 各指標を統計解析(RSD、回帰分析など)
- 受入基準に照らして合否を判定
- 不合格項目は原因追究後に再実験
5. 確認試験(再現性・頑健性)
- 室温変動や試薬ロット差を組み込んだ頑健性試験
- 他ラボまたは他オペレータによる再現性確認
- 結果をVMPに追記し、最終評価
6. 文書化(報告書および関連書類)
書類名 | 内容概要 |
---|---|
バリデーションマスタープラン | 実施計画、試験項目、受入基準 |
バリデーション報告書 | 実験結果、解析データ、判定結果 |
SOP(標準作業手順書) | 試験手順、データ処理方法、記録様式 |
変更管理記録 | バリデーション後の改訂・変更履歴 |
7. 承認・トレーニング
- 関係部署(品質保証、開発、製造)による報告書レビューと承認
- 新手法に関わるオペレータへのSOPトレーニング実施
8. 維持管理と変更制御
- 定期的なシステム適合性試験(SST)で性能モニタリング
- 手法変更時には影響評価と再バリデーションを実施
- ドキュメントのバージョン管理と改訂履歴を厳格に管理
HPLC定量法の事例
- 方法開発でpH 3.0の溶離液を選定
- VMPに精度(RSD ≤ 2%)、直線性(r² ≥ 0.999)などを設定
- 5濃度レンジで3日間×3オペレータの測定を実施
- LOD=0.05 μg/mL、LOQ=0.15 μg/mLを達成
- 再現性試験でRSD ≤ 1.5%を確認
- 報告書とSOPを作成し、試験開始前に承認
あとがき
分析法バリデーションから文書化までのワークフローを体系的に実施することで、規制要件を満たしつつ効率的な開発・品質保証が可能になる。次のステップとして、統計解析ツールの自動化や電子署名対応の導入を検討すると、さらなる効率化とトレーサビリティ強化が期待できる。
「SPEAK UP」HOMEに戻るにはこちらから
「薬剤製造塾ブログ」HOMEへはこちらから
【参考資料】
【関連記事】
「SPEAK UP」HOMEに戻るにはこちらから
「薬剤製造塾ブログ」HOMEへはこちらから