はじめに
CTD(Common Technical Document)は、ICH M4ガイドラインに基づき、5つのモジュールで構成されている。CTDは、新薬承認申請(NDA)に必要な資料を国際的に標準化した書式で、低分子医薬品・バイオ医薬品・再生医療等製品などに共通の枠組みが用いられている。
しかしながら、製品の性質の違いに応じて記載内容や重点項目は大きく異なるため、共通点と相違点を理解することはCTD作成において非常に重要となる。つまり、品質(CMC)、非臨床、臨床それぞれのセクションで求められる深度やデータの種類に大きな差異が生じるのは自明である。
特に再生医療等製品(細胞治療・遺伝子治療など)では、細胞・組織の由来、製造プロセスのばらつき、同等性評価、CQA(重要品質特性)の設定など、低分子医薬品とは異なるCMC的配慮が求められる。本稿では、共通点と相違点について取り上げたい。
| <目次> はじめに CTDの基本構成(M1〜M5)と共通の枠組み モジュール毎(M1〜M5)の主な相違点 Module 1:行政情報 Module 3:品質(CMC) Module 4:非臨床 Module 5:臨床 実務上のポイントと留意点 再生医療等製品に特有の記載項目 3.2.S.2.3の細胞由来原料 3.2.A.2の生物由来原料 あとがき |
CTDの基本構成と共通の枠組み
ICH M4ベースの5モジュール
- Module 1
- 行政府署、申請様式、カバーレターなど地域別要件
- Module 2
- 品質概要(2.3)
- 非臨床概要(2.4)
- 臨床概要(2.5)
- 要約レポート
- Module 3
- 品質情報(原料・中間体・最終製剤の製造・試験データ)
- Module 4
- 非臨床試験データ(毒性・薬効・薬物動態)
- Module 5
- 臨床試験データ(フェーズⅠ〜Ⅲの臨床成績)
これら5モジュールの構造自体は再生医療等製品と低分子医薬品で一致しており、申請者は同一のフォーマットで各データを整理し、提出することになる。
モジュール毎の主な相違点
Module 1:行政情報
- 再生医療等製品ではドナー情報、倫理委員会承認、細胞加工施設の認証書などが追加で必要
- 低分子医薬品では工場認定(GMP)や製造販売業許可の記載が中心
Module 3:品質(CMC)
モジュール3における比較を下表に示す。
| 項目 | 再生医療等製品 | 低分子医薬品 |
|---|---|---|
| 原料・中間体 | ドナー適格性、 細胞バンク、 ウイルス滅活プロセス等 | 化学合成原料の構造式、 合成経路 |
| 製造プロセス | 無菌操作、 プロセスバリデーション、 比較性試験 | 反応条件の最適化、 スケールアップ試験 |
| 特性評価 | 細胞表面マーカー、 機能アッセイ、 ゲノム安定性 | 純度、 不純物分析(HPLC、GC-MS) |
| 安定性試験 | 生物学的活性、 長期/中期/加速/冷凍保管条件 | 化学的安定性、 固形製剤の崩壊性 溶出試験 |
Module 4:非臨床
- 再生医療等製品は免疫原性試験、組織分布(biodistribution)、長期毒性試験が重視される
- 低分子医薬品では標的結合試験、毒性閾値の設定、安全域(MOE)評価が中心
Module 5:臨床
- 再生医療等製品は、ファーストインヒューマン(FIH)試験のデザイン、ドーズエスカレーション、免疫反応のモニタリングが必要
- 低分子医薬品は、PK/PD解析、多用量投与試験、プラセボ対照二重盲検試験のデータが主体
実務上のポイントと留意点
- ドキュメント管理
- 両者ともeCTDフォルダ構造を厳密に運用し、更新履歴・差分管理は必須である
- 品質リスクマネジメント
- 再生医療製品においてもプロセス変動が臨床アウトカムに直結するため、QbD(Quality by Design)アプローチが推奨される
- コミュニケーション
- 規制当局との事前相談でディスカッションペーパーを用意し、非臨床/製造プロセスの透明性を担保すると良い
- ガイドライン参照
- 再生医療等製品:
- ICH-S6(バイオ治療製品の安全性)
- ICH-Q5(バイオ製剤一般)
- ICH-Q12(ライフサイクル管理)
- 低分子医薬品:
- ICH-Q3A/B(不純物)
- ICH-Q11(原薬の出発原料)
- ICH-M7(変異原性不純物)
- 再生医療等製品:
再生医療等製品に特有の記載項目
再生医療等製品(細胞・遺伝子治療など)のCTD作成では、一般的な医薬品(低分子医薬)とは異なる特有の記載項目が求められる。
再生医療等製品に特有のCTD記載項目(主にM3:品質関連)を下表にまとめてみた。
| セクション | 特有の記載内容 |
|---|---|
| 3.2.S.2.3 (出発物質) | ・ラスミド、セルバンク、ウイルスベクターなどの詳細 ・遺伝子治療製品では特に重要 |
| 3.2.A.2 (生物由来原料) | ・生物由来原料基準への適合状況 ・安全性・感染症リスクの評価が必要 |
| 3.2.A.3 (副成分) | ・製品に含まれる補助成分の特性と安全性 ・保存液や培地なども対象 |
| QOS (品質概括資料) | ・製品の特性、造腫瘍性、性能評価などの考察 ・他モジュールとの関連性も記載する必要あり |
| 製造方法の 柔軟性 | ・製品形態に応じて記載項目を省略・調整可能 ・該当しない項目は「該当なし」と明記すること |
3.2.S.2.3の細胞由来原料
3.2.S.2.3「原材料の管理」は、特に再生医療等製品において重要なセクションであり、細胞由来原料を使用する場合には、通常の化学合成された医薬品とは異なる詳細な情報が求められる。
細胞由来原料の記載ポイント
1. 原料の由来と取得方法
- 使用する細胞の種類(例:ヒトiPS細胞、造血幹細胞など)
- ドナー情報(年齢、性別、健康状態など)と取得方法
- 倫理的配慮(インフォームド・コンセントの取得状況)
2. セルバンクの管理
- マスタセルバンク(MCB)とワーキングセルバンク(WCB)の構築と試験結果
- 無菌性、ウイルス不在、同定試験などの品質管理項目
- 保存条件と安定性のデータ
3. 生物由来原料基準への適合
- 厚労省の「生物由来原料基準」に基づく感染症リスク評価
- 原料のトレーサビリティ
- どこから来たか、どう管理されたか
4. 製造工程での使用目的と処理方法
- 細胞が最終製品に残留するかどうか
- 処理工程(例:精製、濃縮、活性化など)の詳細
- 工程中の品質管理試験(細胞数、活性、純度など)
記載のコツは、図やフローチャートを使って、細胞の取得から製品化までの流れを明示すると分かりやすくすることである。審査官にも理解されやすくなるので、照会事項になりにくい。
また、該当しない項目は「該当なし」と明記して、記載漏れと誤解を防ぐようにしよう!
なお、カルタヘナ法(遺伝子組換え生物等の使用規制)に関わる場合には、第一種使用等の承認取得状況、使用する遺伝子組換え生物の種類、封じ込め措置、環境影響評価の概要などを追加で記載する必要がある。
カルタヘナ法(正式名称:遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)は、遺伝子組換え生物の環境への影響を防ぐための法律である。 再生医療等製品でウイルスベクターや遺伝子導入細胞を使う場合は、第一種使用等承認や第二種使用等確認が必要になることがある。
3.2.A.2の生物由来原料
3.2.A.2「生物由来原料」は、再生医療等製品やバイオ医薬品などでヒトや動物由来の原料を使用する場合に必須のセクションである。感染症リスクや品質の確保に関する情報をしっかりと記載する必要がある。
生物由来原料の記載ポイント:
1. 原料の特定と由来の明示
- 使用した生物由来原料の名称
- 由来(ヒト・動物・微生物など)
- 採取国・地域、動物種、部位、年齢、健康状態などの情報
- 製造業者名や供給元の情報も明記
2. 感染症リスクの評価
- BSE(牛海綿状脳症)やウイルス感染のリスク評価
- 原料が生物由来原料基準(厚労省告示)に適合しているかどうかの確認
- 滅菌・ウイルス除去処理の有無とその妥当性
3. トレーサビリティの確保
- 原料のロット管理、保管条件、輸送記録など
- 原料の変更管理に関する方針や手順
4. 関連通知・基準への準拠
- 厚労省の「生物由来原料基準」に基づく記載が必要2
- 特にヒト由来原料(血清、臍帯血、骨髄など)を使用する場合は、倫理的配慮やドナー同意の取得状況も記載
記載のコツは、図表やフローチャートを使って、原料の流れや管理体制を示すと分かりやすくなる。また、該当しない場合でも「該当なし」と明記することで、記載漏れと誤解を防げる。
このセクションは、製品の安全性と信頼性を支える重要な部分だから、しっかり丁寧に記載することが求められる。
あとがき
CTDの基本構造は、再生医療等製品と低分子医薬品で共通しているものの、製品特性に応じて品質、非臨床、臨床それぞれの深度とデータ要件に大きな違いがある。
特に、再生医療等製品は生物学的複雑性に起因する評価軸が多岐にわたるため、プロセスマッピングとリスクアセスメントを早期から組み込むことが成功の鍵となる。
【参考資料】
| ICH-M4 CTD(コモン・テクニカル・ドキュメント) | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 |
| eCTD version 4 シリーズ | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 |
| M4Q(R2) CTD_品質に関する文書の作成要領に関するガイドライン |