はじめに
免疫グロブリンA腎症(IgAN)というあまり聞き慣れない疾病がある。免疫グロブリンA腎症(IgAN)は、腎臓の糸球体に免疫グロブリンA(IgA)という蛋白が沈着する病気で、多くは慢性の経過をたどる。IgANは、慢性的に進行し、数年から数十年で腎機能が低下し、透析や腎臓移植が必要となることもあるので厄介な病気である。
IgANの原因は、まだ明確には分かっておらず、腎臓に沈着するIgAは血液中に増加している異常なIgA(糖鎖異常IgA)に由来すると考えられている。一般的には遺伝しないが、一部に家族性のIgA腎症を認めることがあると言われている。
IgANは、子供から大人まで広い年齢層に発症し、慢性糸球体腎炎の中では最も多く、約30~40%を占めているとされる。発症率は10万人あたり年4人前後と推定されている。
免疫グロブリンA腎症(IgAN)とは
免疫グロブリンA腎症(IgAN;Immunoglobulin A Nephropathy)は、「IgA腎症」あるいは「ビュルガー病」とも呼ばれ、腎臓の糸球体に IgA(免疫グロブリンの一種、抗体としての働きがある)という蛋白が沈着する疾病であり、多くは慢性の経過をたどる。
IgA腎症は、腎炎症候群であり、糸球体へのIgA免疫複合体の沈着を特徴とする慢性糸球体腎炎の一病型である。世界的に最も頻度の高い病型の糸球体腎炎である。
IgA腎症は、主に慢性腎疾患(CKD)に分類されるが、病状によっては急性腎障害(AKI)のような症状も示すことがある。
日本では約33,000人の患者がいると推計されている。患者は、子供から大人まで幅広い年齢層にわたる。海外では、男性に多いと報告されているが、日本では明確な性差は報告されていない。
原因
発症原因は不明であるが、下記のような複数の機序が存在する可能性が示唆されている。
- IgA1産生の増加
- IgA1グリコシル化の欠陥によるメサンギウム細胞への結合の増加
- IgA1クリアランスの低下
- 粘膜免疫系の欠陥
- メサンギウム細胞の増殖を促進するサイトカインの過剰産生
家族内集積性もまた認められ(家族性IgA腎症)、少なくとも一部の症例における遺伝因子が示唆される。
症状
健康診断の機会に偶然的に蛋白尿や血尿を指摘されることが多く、初期は無症状である。進行すると腎機能が低下し、高血圧の合併や腎不全に伴う症状がでる。一部の患者では、急性扁桃炎などの上気道炎合併時に、コーラのような色の血尿(肉眼的血尿)を認めるが、通常は自然に改善する。
最も頻度の高い症状は、持続性もしくは再発性の肉眼的血尿または軽度のタンパク尿を伴う無症候性の顕微鏡的血尿である。側腹部痛および微熱が急性エピソードに伴うことがある。
高血圧などの合併症の有無や発見時の腎機能低下度にもよるが、ゆっくりと進行し、徐々に腎機能が低下していく患者がいる。
治療法にもよるが、合併症もなく蛋白尿や血尿の程度が軽い患者は、通常は腎機能の低下を認めず安定した状態を維持する。
検査・診断
検尿で血尿や蛋白尿を認める。腎臓の組織を一部採取し、顕微鏡で調べる検査(腎生検)で診断される。
診断は下記のいずれかにより判断される。
- 肉眼的血尿、特に発熱を伴う粘膜疾患から2日以内または側腹部痛を伴う場合
- 尿検査により偶然見つかった所見
- ときに、急速進行性糸球体腎炎
臨床像が中等度~重度である場合、診断は生検により確定する。
治療
治療は、腎機能や蛋白尿の程度によって異なる。
食事療法としては減塩を行う。腎機能低下を認める場合はたんぱく質制限が必要になることもある。禁煙や減量(肥満者に対して)が勧められる。運動制限は通常必要ない。
薬物治療では、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)が血圧およびタンパク尿を低下させ、糸球体線維症を軽減させるという仮定の下に使用されている。ACE遺伝子がDD遺伝子型を有する患者は疾患の進行リスクが高いと考えられるが、ACE阻害薬またはARBに反応する可能性も高いと考えられる。高血圧患者では、たとえ慢性腎臓病が比較的軽度であっても、ACE阻害薬またはARBが第1選択の降圧薬である。
患者によっては副腎皮質ステロイド薬、口蓋扁桃摘出術、免疫抑制薬、抗血小板薬、魚油などが用いられることがある。最近では新規治療薬の治験が進行中である。
予防
免疫グロブリンA腎症(IgAN)の予防策については、下記のような生活習慣の改善が推奨されている。
- 禁煙
- 喫煙は腎臓に悪影響を及ぼす
- 減塩食
- 塩分過多は高血圧を引き起こす
- 腎臓に負担をかける
- 適度な運動
- 適度な運動は全身の健康を維持するのに役立つ
- 肥満の改善
- 肥満は腎臓に負担をかける
- 体重管理
- 生活習慣病の治療
- 高血圧、貧血、脂質異常症や糖尿病など
- 腎機能が低下している場合がある
あとがき
免疫グロブリンA腎症(IgAN)は、免疫系の異常が関与する病気であり、生活習慣病には数えられていない。
しかしながら、IgANの進行や症状の管理には、生活習慣の改善が重要となるようだ。例えば、高血圧、貧血、脂質異常症、糖尿病、肥満といった生活習慣病の治療や、減塩食、禁煙などの生活習慣の改善は、腎機能の低下を防ぎ、IgANの進行を遅らせる可能性があるとされている。つまり、生活習慣の改善は予防策になるということである。私たちにできることはそれだけである。
【参考資料】
難病情報センターHP |
MSDマニュアル・プロフェッショナル版 |