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生活習慣病化した「歯周病」の 原因・症状・診断・治療・ 予防は?

はじめに

歯周病は、口腔内の細菌(歯垢)による炎症が起こり、歯を支える骨や歯肉が破壊されていく病気である。歯周病は、生活習慣病に数えられている。

歯垢は、食べかすではなく、細菌とその排泄物の塊で、食事をしなかったとしても口の中の細菌は増える。歯周病は、適切な口腔ケアが行われないと発症しやすく、特に歯と歯肉の境目や歯と歯肉のすきま(歯周ポケット)の歯垢が放置すると、細菌が増え、炎症が起こり、歯の支えが破壊されていく。したがって、毎日の適切な口腔ケアが歯周病の予防に重要となる。

歯周病は、全身の健康にも影響を及ぼす可能性があり、実際に糖尿病や動脈硬化などの病気とも関連があることが知られている。したがって、歯周病の予防と治療は、全身の健康を維持するためにも重要である。


<目次>
はじめに
歯周病とは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

歯周病とは

歯周組織は、歯肉(歯ぐき)、セメント質(歯の根の表面)、歯根膜(歯と骨を結ぶ薄い線維状の組織)および歯槽骨(歯を支える骨)の4つからなる。健康な歯周組織とは、この4つの組織に感染がない状態である。

歯の表面や歯と歯肉の溝(歯肉溝)に歯垢プラーク)がついていなければ歯肉は健康に保たれ、きれいなピンク色をしていて、歯磨き(ブラッシング)をしても出血しない。

起床後や就寝前、あるいは食事の後にブラッシングを行わないと、歯や歯肉溝にプラークが付着し、その結果、歯肉に炎症が起こる。この状態を歯肉炎と言う。

炎症が起こると歯肉は腫れ、赤くなり、血が出やすくなる。この時点で再び適切なブラッシングを行えば歯肉は健康な状態に戻る。しかし適切なブラッシングが行われない状態で長期間経過すると、歯肉に起こった感染・炎症が他の歯周組織に波及する。

感染・炎症が歯肉にとどまらず、他の歯周組織まで及んだ状態が歯周病(periodontitis)である(下図参照)。

図1
正常な歯周組織と歯周病の状態

歯周病に罹患すると歯を支えている歯槽骨が吸収されていき、歯の動揺が大きくなっていくことで、最終的には抜けてしまう。歯周病が原因による喪失歯が増えると、重要な口腔機能である咀嚼・発音・嚥下・呼吸に悪影響を及ぼす。

歯周炎は、プラーク中の細菌によって引き起こされる口腔の慢性炎症性疾患であり、歯周組織を進行性に破壊する。通常、歯肉炎の悪化した状態として発現し、無処置の場合、歯の動揺と喪失を引き起こす。


原因

歯周病の原因はプラーク(歯垢、バイオフィルム)である。歯周炎を引き起こす原因は口の中に存在する歯周病原細菌と呼ばれる細菌である。この細菌の塊であるプラークが長い時間、歯や歯肉溝に付着していると、う蝕歯周病を引き起こす。

また、プラークが長い時間付着しているところに、唾液などに含まれているカルシウム成分やリン成分が沈着した結果、固まったものが歯石である。このように歯周病の主な原因はプラークであるが、そのプラークによって引き起こされる炎症は、以下のような因子が重なることによってさらに歯を支えている骨の吸収が進行する。

歯に加わる異常な力
咬む力が全部の歯にバランスよく分散せず、一部の歯の負担が大きくなっている場合は歯周病が悪化しやすい。また歯ぎしりやくいしばり、舌で歯を押したり、口で呼吸をする癖のある人も、歯周病が悪化しやすくなる。
歯並び
歯並びが悪いとブラッシングがしづらくなり、結果としてプラークが常に付着しやすい状況を引き起こす。
全身疾患との関連
白血病、自己免疫疾患、糖尿病などは歯周組織の免疫力を低下させるため歯周病が悪化しやすくなるという報告もある。また歯周病による化学物質が、血管を介して全身に散らばり、様々な全身疾患と関連するという報告も多数ある。
薬剤
一部のてんかん薬や降圧剤、免疫抑制剤で、それらを服用している患者は、歯肉が増殖しやすいことがある。
喫煙
タバコに含まれているニコチンやタールのような化学物質は、歯肉の血液の循環障害を起こす。また歯周病があるにも関わらず、血流が悪いため逆に歯肉の赤みや腫れといった炎症症状をわかりにくくさせてしまうため、気がついたときには重症になっている場合が多くみられる。

症状

歯周病の代表的な症状は以下のようなものである。

歯肉の腫れ
歯肉からの出血・排膿
歯の動揺
咀嚼時の痛みや違和感
歯肉の掻痒感・違和感
知覚過敏 

検査・診断

視診、歯周探査、X線写真などに基づき総合して診断する。ポケット内の探査およびその深さの測定と歯および歯肉の視診を組み合わせて行えば、通常診断には十分である。4mm以上の深いポケットは歯周炎を示唆する。

歯周病のほとんどが慢性歯周炎(40~60代で発症する慢性的な経過をたどるタイプの歯周炎)である。特殊なタイプの歯周炎としては、比較的若い年代で発症し急速に悪化する侵襲性歯周炎や、薬剤の服用により症状が増悪する歯肉増殖症、妊婦でホルモンのバランスが崩れた時に起こりやすい妊娠性歯肉炎などがある。

慢性歯周炎
40~60代で発症し、慢性的な経過をたどるタイプの歯周炎で、歯周病の大半を占める
侵襲性歯周炎
比較的若い年代で発症し急速に悪化する
歯肉増殖症
一部の薬剤の服用により症状が増悪する場合がある
妊娠性歯肉炎
妊婦でホルモンのバランスが崩れた時に起こりやすい歯肉炎などがある

治療

歯周病治療は、歯周ポケットをできるだけ浅くして、歯周病原細菌が定着・増殖しにくい環境を構築し、適切なプラークコントロールを行うことで歯周炎を再発しにくい状態にする事である。

歯周炎の程度が比較的軽症であれば、プラークコントロールをしっかり行い、歯周基本治療もあわせて行うことで十分改善が見込める。しかし歯周病が重度で、深い歯周ポケットや歯槽骨の吸収が認められる状態になると、歯周基本治療に加えて歯周外科手術が必要になることがある。

患者自身によるプラークコントロール
歯周病治療の基本。口腔内のプラークや歯石(バイオフィルム)を徹底的に除去する。歯周病原細菌はプラークとして歯や歯肉に付着して発育するので、歯周病の予防だけではなく、治療をしていく上でもプラークコントロールは最も重要。そのため歯周病治療を始めるにあたっては患者自身による徹底したブラッシング習慣が必要。
歯科医師または歯科衛生士による歯周治療
歯周基本治療を呼ばれ、スケーリングやルートプレーニングという歯や歯周組織に付着しているプラークや歯石を除去する治療。歯石は歯肉より上の見えている部分の歯に付着するものもあれば、歯周ポケットと呼ばれる歯肉溝が深くなってしまった病的な隙間=ポケットの中に付着してしまうものもあり、これらはブラッシングだけで除去することができない。この治療は痛みを伴うことがあるため、必要であれば局所麻酔をして行う。
歯周外科手術
主に歯肉を切開して剥離し、歯根や歯槽骨が直接みえる状態にして、感染している部分を外科的に徹底的に除去する処置。入院などの必要はなく、歯科・口腔外科の外来で行える手術。もちろん全身状態によっては手術が行えない患者もいるので、体の状態や歯周病の状態など様々な要素を加味した上で手術をした方が良いと思われる場合に実施する。
抗菌薬の経口投与
深いポケットが持続する限局型侵襲性歯周炎では、歯周外科処置に加え抗菌薬の経口投与(例えば、アモキシシリンまたはメトロニダゾール)が必要である。

予防

歯周病の予防策としては、下記のような対策が知られている。これらの予防策は、歯周病の発症を抑えたり、症状の軽減に繋がると考えられ、推奨されている。ただし、これらの方法が全ての人に効果的であるとは言えないので、自分に合った方法にアジャストする必要がある。

  • 歯磨き
    • 毎日の歯磨きで歯垢をしっかりと取り除く
      • 歯と歯の間
      • 歯と歯ぐきの境目
      • かみ合せの部分
  • 歯間ブラシやフロスを使用
    • 歯と歯の間の汚れもきれいにする
  • 定期検診
    • 定期的に歯科医院で検診を受ける
    • 歯周病の早期発見と早期治療に努める
  • 間食を控える
    • 口の中が汚れている時間が短くなり、
    • 歯周病菌などの細菌類が繁殖しにくくなる
  • 生活習慣の見直し
    • タバコを吸わない(禁煙
    • ストレスを溜め込まない
    • 睡眠を十分にとる

あとがき

歯周病の原因菌(歯周病菌)が血流に入ると、全身の病気のきっかけになることが報告されている。歯周病は、例えば、糖尿病誤嚥性肺炎、動脈硬化、骨粗鬆症がんといった生活習慣病の引き金になることが知られている。

さらに歯周病は、メタボリックシンドロームとも関係があるという。その理由は、次のようなものである。歯周病によって噛む機能が低下すると、噛まずに飲み込むように食べるため肥満になりやすくなる。また、歯周病の原因菌(歯周病菌)が血管に入ると血糖値をコントロールするインスリンの働きが悪くなり、糖尿病を悪化させるらしい。そして、逆に肥満や糖尿病患者は歯周病を発症しやすく、しかも重症化しやすいという報告もある。

したがって、歯周病の予防・治療を行うことで、全身の様々な病気、特に生活習慣病の発症リスクを低減できるようである。


【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
日本臨床歯周病学会 | 歯周病が全身に及ぼす影響 (jacp.net)
歯周病 | 生活習慣病とその予防 | 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
歯周病 | 生活習慣病 | 特定非営利活動法人 日本成人病予防協会