はじめに
チックとは、本人の意思に関係なく、急に、瞬き【まばたき】や肩をすくめる、顔をしかめる、咳払いや奇声を上げるなどの動作を繰り返してしまう疾患を指す。
チック障害は、一般的には5〜6歳頃に運動チックが見られるようになり、数週間〜数か月の周期で症状がよくなったり悪くなったりを繰り返しながら、1年以内で自然に消失していくと言われている(一過性チック障害)。
しかし、慢性化して1年以上続く場合は、思春期の頃に最も症状が強くなる。つまりチック障害は思春期に症状が顕著になる傾向がある。それでも子供~成人になるにつれて改善あるいは症状の消失が見られる。しかしながら、成人になってからも症状が続いていくケースも知られている。
チック障害/トゥレット障害とは
突発的、急速、反復性、非律動性、常同的な運動あるいは発声をチックという。チックを主症状とする症候群がチック障害(tic disorder)であり、トゥレット障害(Tourette syndrome)はその一つである。
多様性の運動チックと1つ以上の音声チックを有して、何らかのチックを認める期間が1年以上に及ぶ場合に、トゥレット障害と診断される。
チックは、急に出現する運動や音声が、繰り返し、不随意に出現する疾患で、比較的よく見られる疾患である。原因は不明で、家族内の発症が多かったり、ADHD、強迫性障害と合併することが知られている。ストレスや疲労などで症状が出やすくなることがある。
就学前後の5〜6歳頃に単純運動チックで発症することが多い。症状は自然に強くなったり弱くなったりするが、大半は1年以内に症状が消失する(一過性チック障害)。慢性化した場合、思春期に症状が最も強くなるが、成人になるにつれて改善あるいは消失すると言われている。
原因
チックの原因は完全には明らかになっていない。かつては心理的なストレスなどが原因になるといわれていたが、近年(2017年時)の研究では遺伝要因や脳の機能障害が関与するとの報告もある。
症状と経過から、診断は比較的容易につくことが多いが、てんかん発作など他の疾患と紛らわしい症状がある場合もあり、検査が必要なこともある。
病状
チックの症状は、睡眠時には認められず、男児に多い傾向にある。症状の出現の前には、どうしてもその症状をしたい、という気持ちが強く高まり、症状が出現すると一時的にすっきりすることがある。ある程度、意識的に症状を抑えることも可能である。
チックの症状は、運動チックと音声チックに分類される。
チックの種類 | 症 状 |
---|---|
運動チック | 自分の意思とは関係なく筋肉の早い収縮が起こる。 これは瞬間的に起こり、不規則な間隔で反復する。 顔面・頚部・首・舌・四肢などの筋肉が収縮し、 首振り・瞬目・顔しかめなどの症状が多く認めらる。 |
音声チック | 咳払い、発声が自分の意思と関係なく起こる。 「あっ」・「へっ」といった発声や意味不明な発言、 汚言(暴言や性的な言葉など)、状況に合わない単語 の連用、他人の話した単語の反復などがみられる。 |
チックの症状は、運動チックと音声チックに分けられ、それらはさらに単純と複雑に分類することができる。
チックの種類 | 症 状 |
---|---|
単純運動チック | またばき、顔をしかめる、首をかしげる、肩をすくめる、など |
複雑運動チック | 蹴る動作、ジャンプする、倒れこむ、叩く、など |
単純音声チック | 「ん」、と声を出す、鼻を鳴らす、咳払いをする |
複雑音声チック | 他の人が言ったことを繰り返す、 その場ではふさわしくないことを言う |
チック障害は、症状や持続時間の違いによって、次のように分類できる。
チックの種類 | 症 状 | 持続時間 |
---|---|---|
一過性チック障害 | 18歳未満で発症。 10~20%の児童に生じる 比較的頻度の高い病態 | 4週間以上 1年未満 |
慢性運動性又は 音声チック障害 | 運動性あるいは音声チック症状。 運動性チックのみを認めるのが大半 | 1年以上 |
トゥレット症候群 | 多種類の運動性チックと一つ以上の音声チックが頻繁に生じる。強迫性障害やADHDを併発する場合あり。 | 1年以上 |
検査・診断
チックは、症状から診断を行う。トゥレット症候群の患者では脳波に異常を認めることが多い。脳波に異常をきたす頻度は文献にもよるが、40%弱~80%程度と報告されている。
治療
チックの症状に注意を向けると症状が悪化するため、気にしないことが何よりも大事である。家族の者もできるだけ無視することが推奨されている。多くの場合、チックは成長と共に改善する。
症状が軽い場合、特に小児期の一過性チックの場合は特に治療をせずに、経過を見ることが多い。本人や周囲の者がチックについて知り、学校など社会生活にうまく適応よう支援が必要である。
症状が強い場合には薬物療法が行われることがある。また、合併する発達障害や強迫症状が生活を困難にすることもあり、それらに対する対応も必要となる。
トゥレット障害は難治であり、ハロペリドールやリスペリドンなどの抗精神病薬で治療する。
また、日本でも脳深部刺激療法の有効性が報告されている。
予防
チック障害の発症メカニズムは、まだ完全に解明されていない。そのため、確立した予防方法はない。しかし、チック障害は緊張やストレス、疲れなどによって症状が強くなることが知られる。だからチック障害の症状を悪化させないためのストレス管理の観点から、次のような対策が有効と考えられている。
- 日常生活を整える
- 規則正しい生活リズムを保つ
- 体調を安定させる
- ストレスや疲れをためない
- ストレスを溜め込まない
- 適度な休息を取る
- 過度に緊張する場面を避ける
- 緊張を伴う場面は、可能な限り避ける
あとがき
シニア世代でもチック障害を発症する可能性はあるようだが、その確率は比較的低いと考えられている。それはシニア世代にとっては安心材料ではある。
思春期は自己意識が高まる時期であり、自分自身や他人からの評価に敏感になる世代である。チック障害の症状が自己評価や他者からの評価に影響を及ぼす可能性があると感じるのは当然かも知れない。また、チック障害はその症状が社会生活に影響を及ぼす可能性があるため、思春期の若者にとっては確かに重大な障害となるかも知れない。
しかしながら、適切な治療やサポートによって、チック障害の症状は管理可能であり、多くの場合、思春期を過ぎると症状は軽減すると言われている。つまり克服できるということだ。
【参考資料】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |
チック症・トゥレット症 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター |