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悪性腫瘍(がん) 疾病

悪性新生物/悪性腫瘍・がんの特徴と種類、発生部位

はじめに

日本人の死因で最も多いのは悪性新生物悪性腫瘍がん)で、2022年のデータによると、日本人の死因の24.6%(下図参照)を占めている。つまり、日本人の4人に1人ががんが原因で亡くなっているという。

がんが死因のトップになっている理由は、何故だろうか?

かつて心疾患や脳血管疾患で亡くなる人ががんよりも多い時代が長く続いたが、医療の発達のおかげで、がん以外の病気で死ぬことが少なくなった。そのため、かつてはがんが発症する前に別の疾病で亡くなっていたような人もがんと診断される機会が増え、その結果、がんによる死亡率が相対的に増加したと推察する。

がんが発生するのは細胞分裂の際に遺伝子の写し間違いが起こるためであるされる。日本は高齢化社会を迎えており、歳を重ねるほど、がんになる確率は上がると言われている。その理由は、長く生きれば生きるほど、細胞分裂の回数は増え、その分だけ遺伝子の写し間違いを起こす可能性も増え、がんになる確率が高まるからである。

目次
はじめに
悪性新生物/悪性腫瘍・がんとは
悪性腫瘍の特徴
悪性腫瘍の種類
悪性腫瘍が発生しやすい部位
発生部位の違いによる症状
治療法
あとがき

悪性新生物/悪性腫瘍・がんとは

悪性新生物とは悪性腫瘍がん)のことで、元々は正常な細胞が一部の遺伝子が傷つくことによって変異し、増殖を続けて周囲の正常な組織を破壊していく疾患である。

がん細胞は、健康な体の中でも頻繁に産生されているが、正常な免疫力のある人では免疫細胞がん細胞を撃退しているので発症しない。しかし、このバランスが何らかの原因で崩れた場合にはがん細胞が体内で増殖し、大きな細胞の塊となると「がんを発症した」状態になる。日本人の場合、2人に1人の確率で生涯で何らかの悪性腫瘍を発症すると言われている。

がん細胞は全身のさまざまな部位に発生する可能性があるため、がんは身体の中にある臓器だけでなく、骨、筋肉、皮膚、血液などに発生することも少なくない。がんは細胞分裂を繰り返してどんどん大きくなっていくが、周囲の臓器や血管などの組織を破壊しながら増殖していくのが特徴である。また、血管やリンパ管に入り込んだがん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って別の部位に移動し、そこで新たながんの塊を形成する転移を引き起こす。

医学の進歩に伴い、がんは早期発見・早期治療によって克服が可能な疾病となりつつあるが、がんの種類によっては急激なスピードで進行してしまうもの、自覚症状がほとんどないものもあるため早期発見が困難な場合も少なくない。

がんは進行すると発生部位の臓器などの機能を低下させるだけでなく、体内の栄養をどんどん奪って生育していくようになる。そのため体力が著しく低下する悪液質と呼ばれる状態になり、最終的には死に至る。


悪性腫瘍の特徴

悪性腫瘍には3つの特徴がある。それは「自己増殖」、「浸潤・転移」と「悪液質」である。

自己増殖
悪性腫瘍は、自律的に増殖する正常な新陳代謝とは関係なく増殖し続ける。増殖には多くのエネルギーが必要である。
浸潤や転移
浸潤とは、がん細胞が周囲にじわじわと広がっていくことをいう。一方、転移とは、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って体内の至るところに入り込み、新たな悪性腫瘍を作り出すことをいう。血流の多い肝臓や肺、脳などはがんの転移が起こりやすい部位である。
悪液質
正常な組織が摂取するはずの栄養をがん細胞が奪ってしまった結果、体が衰弱すること(体力低下、体重減少や食欲低下など)を悪液質と呼ぶ。悪液質に至ると、単に体力が落ちるだけでなく、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなるなどさまざまな症状を引き起こす。

良性腫瘍も自律的に増殖するが、浸潤・転移や悪液質は引き起こさない。このことが悪性腫瘍と異なる点である。また、悪性腫瘍に比べると増殖する速度が遅いし、手術で摘出すれば再発のリスクは低いとされている。


悪性腫瘍の種類

悪性腫瘍のは、腫瘍が体のどの部位にできたかによって3つに大別される。

造血器部分にできた悪性腫瘍
造血器とは、血液を作る臓器(骨髄やリンパ節)のことである。この造血器から発生する悪性腫瘍には白血病悪性リンパ腫骨髄腫などがある。
上皮細胞にできる悪性腫瘍癌腫
上皮を構成する細胞を上皮細胞といい、上皮細胞は胃や肺などの臓器を守る細胞層を形成している。

上皮細胞由来の悪性腫瘍をがん;cancer)と呼んでいる。内臓に発症する多くのがんが、この上皮部分に発生するものに含まれる。上皮細胞にできる悪性腫瘍のうち、がん細胞が上皮内にとどまっているものを、上皮内新生物(上皮内がん)と呼ぶ。上皮にどとまる悪性腫瘍なので基本的に転移はなく、手術でその部分を取り除けば治療は終わる。上皮内新生物が悪性化し、基底膜を越えて浸潤した場合に、一般的ながんになる。

上皮細胞から発生するがんには、肺がん乳がん胃がん大腸がん子宮がん卵巣がん頭頸部のがん喉頭こうとうがん、咽頭いんとうがん、ぜつがんなど)がある。
非上皮細胞に発生する悪性腫瘍肉腫
上皮細胞以外の細胞、骨や筋肉などの非上皮性細胞から発生する悪性腫瘍で、肉腫と呼ばれる。肉腫には骨肉腫軟骨肉腫横紋筋肉腫平滑筋肉腫線維肉腫脂肪肉腫血管肉腫がある。

悪性腫瘍が発生しやすい部位

悪性腫瘍(がん)が発生しやすい部位は、個々の人々の生活習慣や遺伝的要素により異なる。しかし、日本人の場合、がんが発生しやすい部位は次のようなランキングになっている。

順位男性女性
大腸
大腸
膵臓
膵臓乳房
肝臓
前立腺胆嚢
胆嚢肝臓
食道子宮
血液卵巣
10その他血液
がんの部位別統計 | 日本対がん協会 (jcancer.jp)

発生部位の違いによる症状

悪性腫瘍の症状は、どの部位にがんが生じたかによって大きく異なる。

肺がん
昼夜関係なく乾いた咳が出るようになり、進行すると血痰や呼吸苦を生じることもある。また、周辺の神経に侵食すると物の飲み込みが悪くなったり、声がかすれるなどの症状が現れる。
乳がん
がん自体には痛みがほとんどなく、しこりとして体表から触れる。しこりは可動性がなく、硬いのが特徴で進行すると徐々に大きくなっていく。乳頭付近にできるがんでは、乳頭から血が混じった分泌物が出ることがある。
肝臓がん(上皮細胞にできるがん
初期の頃は自覚症状がないことも多く、徐々に進行していくと黄疸や全身倦怠感、腹水などの症状が現れる。著しく肝機能が低下すると、出血しやすくなり、意識障害を生じることも少なくない。
胃がん
がんからジワジワと出血を生じることが多く、胃痛や胸焼け、吐き気などの症状と共に貧血がみられる。また、黒く粘性が高いタール便が見られるのが特徴で、進行すると体重の急激な減少が生じることもある。
食道がん
物を食べたり飲んだりしたときに、のどからみぞおちにかけての部位に痛みや灼熱感が生じる。胸焼けや胃もたれと感じることもあり、進行すると食べ物や飲み物の通過性が悪くなって嘔吐を生じる。その結果、食欲低下や体重減少が引き起こされるようになる。
膵臓がん
膵臓がんは進行するまで症状が現れないことが多く、発見時には他臓器への転移などが生じていることが少なくない。胆管に近い部位にがんが生じると、胆管が詰まって胆管炎を生じ、発熱や黄疸を生じる。進行すると、膵臓の機能が低下して血糖をコントロールするインスリンの分泌が低下し、二次的な糖尿病を発症する。
大腸がん
典型的には便に血が混じる血便が生じる。がんによる痛みはほとんどなく、がんによって大腸が狭くなると便が細くなったり、便秘を生じることがある。
子宮がん
初期症状はほとんどなく、進行すると不正出血やおりものの増加などが現れ、下腹部痛や腰痛を生じるようになる。がんが増大し、子宮が膀胱を圧迫すると頻尿や排尿障害を生じることもある。
前立腺がん
初期症状はほとんどない。がんの増大によって前立腺が大きくなると、頻尿などの症状が現れ、更に進行すると血尿や尿閉が生じる。

治療

悪性腫瘍の治療法についてはさまざまな方法が研究されているが、基本的には次のような治療を行う。

外科治療
手術によって直接病巣を切除する。転移がなければ、外科手術で完全に切除することが期待できる。切除する範囲を小さくしたり、手術方法を工夫することで体への負担も少なくなるが、患者の状態や手術の方法によって入院期間は大きく異なる。最近は外科的治療による入院期間が短くなる傾向にある。
薬物療法
薬物療法は、薬剤によってがん細胞を攻撃する。全身に作用するので、転移したがん細胞にも効果がある。使用する薬剤の種類によって、がん細胞への攻撃の仕方が異なり、「化学療法」、「内分泌療法」、「分子標的療法」に分類される。

細胞障害性抗がん薬(従来のがん細胞を死滅させる抗がん剤)を使う薬物治療のことを化学療法と呼ぶ。細胞障害性抗がん薬は、細胞の増殖の仕組みの一部を邪魔することでがん細胞を攻撃する薬剤である。がん以外の正常細胞にも影響を与えるので、副作用も出やすい。副作用は、薬の種類や量、抗がん薬の組み合わせなどによって異なる。どのような副作用がいつ頃出やすいのかも個人差がある。一般的に点滴静注で投与する。

内分泌療法薬ホルモン療法薬)を使用する薬物療法を内分泌療法と言う。内分泌療法薬は、ホルモンの分泌や働きを阻害し、ホルモンを利用して増殖するタイプのがんを攻撃する薬剤である。乳がん前立腺がんなどの特定タイプがんでのみ使われる。副作用として、ほてりや生殖器での症状、関節や骨・筋肉での症状などが出ることがある。経口投与や静脈注射で投与する。

分子標的薬を使用する薬物療法を分子標的療法と呼ぶ。分子標的薬はがん細胞だけが特異的にもつ分子を標的としてつくられた薬剤である。分子標的薬であるチロシンキナーゼ阻害薬マルチキナーゼ阻害薬mTOR阻害薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質を標的にして、細胞の中に入り込み、細胞を増やす信号が送られてきても受け取らないように阻害する薬剤である。これらの分子標的薬は小分子化合物であり、標的タンパク質だけでなく、それ以外のタンパク質にも影響を及ぼすことがあるため、皮膚の症状や薬剤性肺炎、下痢、肝機能障害、高血圧などの副作用が出ることがある。どのような副作用がいつ頃出やすいかは薬剤の種類によって異なる。これらの分子標的薬の多くは、経口投与できる。

分子標的薬には、抗体医薬もある。抗上皮成長因子受容体抗体抗HER2抗体薬などの抗体医薬は、がん細胞の表面にあらわれるタンパク質と結合して、がん細胞を直接攻撃する。副作用として治療の初期(多くは初回)にインフルエンザのような症状(高熱、関節痛、息苦しさなど)がみられることがある。これらの抗体医薬は、点滴静注投与する。
放射線治療
がん細胞に放射線を照射することによって、がん細胞の増殖を抑えます。がん細胞には放射線に対する抵抗力が弱いという特徴があり、これを利用した治療法です。放射線治療の利点は、手術で体に傷を付けることなく、がんを小さくする効果が期待できることです。患部に放射線を照射してがん細胞のみを攻撃するので身体への負担が少なく、通院しながら治療できるのも大きなメリットです。しかしながら、がんの種類によって放射線治療の効きやすさや治りやすさは大きく異なります。
免疫療法
免疫チェックポイント阻害薬を使う治療を免疫療法と呼びます。免疫チェックポイント阻害薬も抗体医薬の一つですが、がん細胞を直接攻撃するのではなく、がん細胞の周りの環境に働きかけて作用、特に免疫の働きを利用してがん細胞を撃退します。

体の中には、異物の侵入を防いだり、侵入してきた異物を排除したりして、体を守る抵抗力を備えた免疫細胞があります。がん細胞の中には、免疫細胞と結合することによって、免疫細胞にブレーキをかけ、その攻撃から逃れる仕組みをもっているものがあります。このような、がん細胞と免疫細胞の結合を「免疫チェックポイント」といいます。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞と免疫細胞が結合できないように邪魔をすることで、免疫細胞にかけられたブレーキを外して、自分の免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬剤です。

一度効果が得られると非常に長く持続する場合があり注目されていますが、一方でブレーキが外れた免疫が自分の正常な細胞を攻撃して、さまざまな臓器に症状が出る副作用を招く可能性もあります。そのため、がんとは関係ない思わぬところに副作用があらわれたり、点滴中や治療期間中だけでなく、治療終了から数カ月後にあらわれたりする場合もあります。

あとがき

悪性腫瘍(がん)と生活習慣病には密接な関連があるらしい。

食事や運動、睡眠、喫煙、飲酒などの生活習慣が乱れることで生活習慣病が引き起こされるが、この生活習慣は、がんの発生リスクにも影響を与えることが分かってきた。

例えば、喫煙飲酒は、肺がんや喉頭がん、大腸がんなど、多くのがんと関連している。喫煙者は、喫煙歴のない人に比べて、何らかのがんになるリスクが約1.5倍も高いらしい。

大腸がんの発生リスクは、飲酒を含む食生活に大きく影響され、日本人の食生活が欧米化するにつれて、大腸がんの死亡数は増加しているという疫学的調査も明らかにされている。

そして生活習慣病の予防策(禁煙・節酒・正しい食生活・身体活動・適正体重の維持)は、がんの発症予防に効果があるとされている。これは、悪性腫瘍(がん)が生活習慣病化していることの証左かも知れない。

また、悪性腫瘍(がん)の発生とストレスとの間にも密接な関連があるらしい。

私たちの身体はストレスを受けると、体内で活性酸素が増加すると言われている。活性酸素は細胞を傷つけ、その結果、細胞が変化して、やがてがん細胞へと変わる可能性が高まるとされる。

さらに、ストレスは体の免疫力を低下させ、がんの発症リスクを高めるらしい。それは免疫力が低下すると、体はがん細胞を攻撃する能力が弱まり、その結果としてがん細胞が増殖しやすくなるからである。

ストレスは自律神経にも影響を与え、これががんの進行に影響を与える可能性がある。ストレスがかかると、体内でホルモンの分泌量が増え、これらのホルモンはがん細胞の表面にある受容体に結合して、がん細胞が活発に動いて転移しやすくなることが実験で証明されているらしい。

以上のことからがんの発症リスクを低減させるためには、生活習慣ストレスの両観点からも考えていくべきであることが十分に理解できる。


【参考資料】
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターHP
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版
科学的根拠に基づくがん予防[国立がん研究センターがん情報サービス]
ストレスは癌になりやすい?癌の種類や症状、原因などについて解説!│健達ねっと (mcsg.co.jp)

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