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デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは? 原因・症状・診断・治療

はじめに

筋ジストロフィーとは、正常な筋肉の構造と機能のために必要な遺伝子の1つ以上に異常があるために、様々な重症度の筋力低下を引き起こす遺伝性筋疾患総称である。

筋ジストロフィーおいて、2番目に多くみられ、かつ、最も重症の病型であるのがデュシェンヌ型筋ジストロフィーであると言われている。


<目次>
はじめに
デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは
原因
症状
検査・診断
治療
あとがき

デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、骨格筋の壊死と再生を主な症状とする筋ジストロフィーの一つである。発症の原因は、X染色体上に存在するジストロフィン遺伝子の変異であるとされる。

ジストロフィンは、筋肉細胞の細胞膜に存在し、筋肉細胞が正常に機能するために必要なタンパク質であるが。デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、筋肉細胞の膜の安定化に関わるジストロフィンタンパクが欠損しているため、筋肉細胞が壊れやすくなり、筋肉量が減少し筋力低下の症状が現れるという。

そのため、下肢の筋力低下から始まり、徐々に全身の筋力低下を引き起こす。特に、体幹に近い筋肉に症状が現れ、経過とともに心筋や呼吸筋といった生命維持に不可欠な筋力の低下を引き起こす。症状は幼少期から現れ、歩き始めが遅いなどの発達の遅れから始まり、歩く、走る、飛び跳ねる、階段を上り下りするといった場面で下肢の運動機能の問題が顕在化する。

幼少期の男児で筋力低下といった特徴的な症状から疑われ、遺伝子検査や筋生検によって診断される。家族に筋ジストロフィーの男児がいたり、筋力低下の患者がいたりする場合には疑われる可能性が高くなる。

この病気には根本的な治療薬はなく、リハビリテーションや対症療法が中心となる。対症療法は、ステロイド薬による治療やエクソンスキッピング治療と呼ばれる薬物治療である。


原因

筋ジストロフィーは、筋肉の機能に関与している遺伝子の異常によって発生し、小児期や青年期に筋力低下を引き起こす。男児に発生する場合がほとんどである。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーを引き起こす遺伝子の異常は、劣性遺伝し、X染色体上に保有される。そのため、女性の場合は異常遺伝子を保有することはあるものの、片方のX染色体の遺伝子に異常があっても、もう一方にある遺伝子が正常であれば、異常が補われるため、発症することはない。 しかし、男性にはX染色体が1本しかないため、異常遺伝子を親から受け継ぐと発症する(X連鎖遺伝)。1000人当たり5人に発症すると言われる。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、ジストロフィン遺伝子(Xp21.2座に位置する、ヒトで既知の最大の遺伝子)の変異のために筋細胞膜のタンパク質の1つであるジストロフィンの重度の欠損(5%未満)がみられる。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児では、筋肉細胞の構造を維持するために重要なジストロフィンという筋肉タンパク質がほぼ存在しない。


症状

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの主な症状は筋力低下で、心筋や呼吸のための筋肉の筋力低下が含まれる。男児だけに症状が現れる。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、2~3歳で発症する。最初の症状は、発達の遅れ(特に歩き始めるのが遅れる)の他、歩く、走る、飛び上がる、階段を昇るといった動作の困難である。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児は転倒することが多く、しばしば腕や脚に骨折を負う走行、跳躍、階段昇降、および床からの起立が困難となる。頻回に転倒し,しばしば腕または下肢を骨折する(症例の約20%)。 患者はよたよたと歩き、つま先で歩くことがよくあり、床から立ち上がるのが困難である。

通常は、その後に肩の筋力低下がみられ、着実に悪化していく。筋力低下に伴って筋肉が大きくなるが、異常な筋肉組織は筋力が強くはない。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児では、心筋も徐々に大きくなり筋力が低下し、心拍に問題が起こる。心臓の合併症は、14歳までのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児で約3分の1に発生し、18歳以上の患者では全員に発生する。

しかし、患者は運動することができないため、心筋の筋力が低下しても、病気が進行するまで症状は起こらない。罹患男児の約3分の1では、主に言語能力に影響を及ぼす、進行しない軽度の知的障害がみられるという。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの男児は、通常は腕や脚の筋肉が関節の周囲で拘縮するため、肘や膝を十分に伸ばせなくなる。

最終的には脊椎が異常に曲がる(脊柱側弯症)。脂肪などの組織が、特定の大きくなった筋肉群に置き換わり、これは特にふくらはぎの筋肉でみられる。

この病気のほとんどの男児は、12歳までに車いすの使用が必要になる。

呼吸筋の筋力低下が進むと、肺炎などの病気にかかりやすくなり、ほとんどの患者が20歳までに死亡する。


検査・診断

診断は臨床的に示唆され、遺伝子検査または変異遺伝子のタンパク質産物(ジストロフィン)の分析によって確定される。

特徴的な症状(例えば、男子幼児で筋力低下やその進行がみられる)に基づいて筋ジストロフィーを疑い、特に男児に筋ジストロフィーの家族がいるか原因不明の筋力低下がみられる場合に疑われる。

末梢血リンパ球から採取したDNAの変異解析が第一の確定検査であり、ジストロフィン遺伝子の異常を同定することで確定する。

遺伝子検査により診断が確定されない場合は、筋生検検体の免疫染色を用いたジストロフィンの分析を行うべきである。デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者ではジストロフィンが検出されない。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの小児は、心臓の異常を検出するために心電図検査と心エコー検査を受けることを推奨されている。これらの検査は、男児に診断が下された時点か、6歳までに行われる。

患者の家族から、異常な遺伝子を検出するために血液のDNA検査を受けることがある。胎児に対する出生前検査を行えば、その子が罹患する可能性が高いかどうかの判断に役立つ。


治療

治療は、現時点では、残念ながら根治療法が存在しないため、理学療法ならびに装具および矯正器具の使用による機能維持が中心となる。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの5歳以上の患者で顕著な筋力低下がみられる場合には、コルチコステロイドの一種であるプレドニゾン(日本ではプレドニゾロン)か、デフラザコート(deflazacort)が投与されることがある。プレドニゾンやデフラザコートは経口で毎日投与される。

これらの薬を長期間使用すると、筋力が改善する、患者が歩ける期間が数年延長する、心臓や肺の機能が維持される、生存期間が5~15年延長するなど、多くの効果がある。しかし、これらの薬を長期間使用すると、体重の増加、顔面の痛み、脊椎や骨の問題のリスク上昇など、多くの副作用が生じる。

筋肉がジストロフィンを作れるようにすることで、筋力低下を改善しようとする遺伝子治療が研究されているが、まだ利用できる状況には至っていない。


あとがき

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの有病率についての最新統計データを入手できていないが、一説では人口10万人あたり1.9~3.4人とされていたり、男児において約3500~5000人に1人の割合で発生すると言われてる。

日本での患者数は約3000人から4000人と推定されているが、推定値であり、正確な統計は存在しない。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、遺伝によらない突然変異によって発症することもあるとされる。日本の患者の約4割は突然変異によるものであるとされる。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、厚生労働省によって「指定難病」に認定されている希少病である。根治療法の研究開発と臨床応用が待たれている疾患の一つである。


【参考情報】
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版