はじめに
ゴルフは、クラブと呼ばれる棒状の道具で、静止したボールを打ち、ホール(カップとも)と呼ばれる穴にいかに少ない打数で入れられるかを競う球技の一種である。ゴルフは基本的に個人で行う競技であり、対戦はスコアで比較される。スポーツとして広く親しまれている一方で、一般人によるプレイはレジャーとして位置付けられることが多い。近年の日本では、女性も気軽にできるスポーツとして、老若男女に親しまれるスポーツとなっている。
ところで、「ゴルフ肘」と呼ばれる疾患名をご存知だろうか?
ゴルフ肘は、ゴルフをしている人に起こりやすいために、このような疾患名が付いている、肘の内側に痛みを発生させる疾患である。正式名称は「上腕骨内側上顆炎」である。
肘の内側にある上腕骨の部分には、手首を手の平の方に曲げる筋肉がついている。この部位がゴルフのし過ぎや、スウィング時のダメージにより疲労が蓄積し、炎症を起こすと痛みとして意識に上ってくる。
ゴルフ肘は、筋肉の柔軟性が保たれていれば、ゴルフによるダメージを受け流すことができる。しかし、筋肉の柔軟性が低下した状態だと、ダメージを逃がすことができず身体の中へ蓄積してしまう。
ゴルフ肘はゴルフだけでなく、日常生活でも発生する可能性がある。例えば、物を持ち上げたり掴んだりする動きで、働いてくれる筋肉が硬くなり、内側上顆に伸長ストレスが加わることで起こりやすい。痛みが出る場所は内側上顆だけでなく、放っておくと肘から先にまで痛みが広がり、手術を必要とする場合もあると言われている。
<目次> はじめに ゴルフ肘とは 原因 症状 検査・診断 治療 予防 あとがき |
ゴルフ肘とは
ゴルフ肘とは、上腕骨内側上顆炎とも呼ばれ、手首を手のひらの向きに曲げる筋肉の腱の炎症で、肘や前腕の内側に痛みが生じる。 肘の内側(小指側)に痛みを生じ、テニス肘の反対のイメージの疾患である。
ゴルフとは必ずしも関係なく、テニス肘と同様に手首や肘に負担がかかるスポーツや仕事、加齢による肘関節内側の屈筋腱(手や指を曲げる筋肉、腱)の変性(加齢などによる衰え)も一因と考えられている。
原因
多くの場合、手首を手のひらの向きに繰り返し強く曲げる活動が原因で起こる。ゴルフとは必ずしも関係なく、テニス肘と同様に手首や肘に負担がかかるスポーツや仕事、加齢による肘関節内側の屈筋腱(手や指を曲げる筋肉、腱)の変性(加齢などによる衰え)も一因と考えられている。
ゴルフでボールの打ち方が悪い場合にもこの炎症が起きるため、ゴルフ肘という名前がついている。このけがは「トップからたたく」ときによく起こる。つまり、右利きのゴルファーなら、スイングするときに左腕と体を使ってクラブを引っ張るのではなく、主に右腕で強引に振り下ろすことで、右肘の屈筋に大きな負荷がかかり、けがをする。レンガ積み、金槌の使用、タイピングなど、運動以外の動作が上腕骨内側上顆炎の原因になることもある。
症状
主な症状は、肘関節の内側から前腕にかけての痛みで、肘を伸ばした状態で物を持ち上げる、タオルを絞る、などの動作で痛みを生じる。肘の内側には尺骨神経といって、薬指や小指の感覚を支配する神経もダメージを受けていることが多く、薬指や小指がしびれたりすることもある。
軽症の場合、安静にしているときの痛みはないが、進行すると安静時でも痛みを訴える患者もいる。
検査・診断
ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)の診断は、まず問診から始まり、その後、医師による痛みの誘発テストを行う。
問診では、日常生活やスポーツなどで痛みが発生する状況やその頻度、日常生活での困りごとをチェックする。また、肘の内側の痛みのあるところの骨のでっぱり(上腕骨内側上顆)を押さえて痛いかどうかを確認する。
痛みの誘発テストには次の2つがある。
- 手関節屈曲テスト
- 握りこぶしを作り、腕を前に伸ばす。
- こぶしを下に下げる。
- 反対の手で握りこぶしを押さえる
- こぶしを手前に返そうとする
- 反対の手はその動きを邪魔するように下に押さえつける
- 肘の内側に痛みが出たら「陽性」と判断する。
- フォアアームプロネーションテスト
- 握りこぶしを作り、腕を前に伸ばす
- こぶしを下に下げる
- 反対の手で握りこぶしを押さえる
- こぶしを内側に返そうとする
- 反対の手はその動きを邪魔するように外側に押し返す
- 肘の内側に痛みが出たら「陽性」と判断する
これらのテストにより、ゴルフ肘かどうかを判断する。さらに、レントゲンや超音波検査などの画像検査を行い、炎症や損傷の程度を調べることもある。
治療
局所安静、薬物療法、装具療法、理学療法などは基本的にテニス肘に対する治療とほぼ同様である。 安静、氷冷、鎮痛薬が痛みの緩和に役立つ。
最初の治療としては、手首を手のひらの向きに曲げて痛みが生じる活動を一切行わないようにする。痛みのある部位に氷をあてたり、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を使用したりすると、痛みの緩和に役立つ。痛みが少なくなったら、手首と肩の筋肉を強化する運動プログラムを開始する。
このような治療を行っても症状が改善せず、痛みが高度な場合には手術を行う。神経を保護しながら傷んだ腱膜を切除するが、内視鏡を用いて行うこともある。入院期間は3~7日程度である。
局所安静 |
原因となっている筋肉の負担を減らすことが大事。痛みが出る動作を避けたり、重量物を避けたりするような生活指導も行う。スポーツが原因と考えられるケースでは一時休止することが望ましい場合もある。 |
薬物療法 |
湿布や塗り薬、消炎鎮痛剤の内服を追加することもある。少量のステロイドコルチコステロイド)を局所麻酔剤とともに患部に注射することもある。この注射は有効なことが多いが、頻回に行うことにより、かえって筋肉、腱の瘢痕化(劣化)を引き起こすことがあり、短期間に複数回行うことは避ける。 |
装具療法 |
テニス肘用バンドや手首を安静にする装具を装用することで患部の筋腱の付着部にかかる力を減少させる |
理学療法 |
原因となっている筋肉のストレッチやマッサージなどを行ったり、痛い部位を温めたり、電気や超音波を当てたりすることがある |
手術療法 |
上記の治療を行っても症状が改善せず、痛みが高度な場合には手術を行う。内視鏡を用いて傷んだ腱膜を切除するが、傷を切開して行うこともある。滑膜ひだという組織が関節に挟まり込んで、痛みが出る場合には、それも同時に切除することがある。入院期間は3~7日程度。 |
予防
ゴルフ肘を予防するための対策としては、下記のような方法が知られている。これらの予防策を実践することで、ゴルフ肘の発症リスクが低減できるとして、その実践が推奨されている。
- 適切なスイングフォーム
- 肘に負担をかけるとゴルフ肘を引き起こす
- 無理なスイング
- 力みすぎたスイング
- 適切なスイングフォームを習得し、肘への負担を軽減
- 肘に負担をかけるとゴルフ肘を引き起こす
- 筋力トレーニング
- 肘への負荷に耐えられるような強い筋力をつける
- 適度な筋力トレーニング
- 腕立て伏せ
- 適度な筋力トレーニング
- 肘への負荷に耐えられるような強い筋力をつける
- ストレッチ
- 肘周辺の筋肉の血流を良くさせる
- 筋肉を柔らかくする
- 定期的なストレッチが有効
- 背中を真っ直ぐ伸ばして立ち、片腕を水平に伸ばし、反対の手で肘を抱え込むという方法が効果的である
- 適切な用具の使用
- 使用クラブが自身の身体に合っていない場合、肘への負担増加につながる
- 自身の身体に合ったクラブを使用する
- テーピング・サポーターの使用
- 肘が痛い場合は、サポーターを着用する
- 肘への負担を軽減し、肘の曲げ伸ばしの助けになる
あとがき
私もゴルフをやるが、ゴルフ肘になるほど頑張ってゴルフをしたことがないので、ゴルフ肘の痛みはよく分からない。ゴルフ愛好家と呼ばれる人達は、ゴルフ肘を経験していることだろう。
全く上達していない私が言うのも気が引けるが、ゴルフ練習場の「打ち放題コース」で300球以上スイングして、翌日に痛みと疲れがでるのは肘や肩ではなく、腰の方である。ゴルフのやり過ぎで心配なのは腰痛である。私がゴルフに夢中になれないのはスコアが伸びない(上達しない)こともあるが、腰への負担が大きいからでもある。もっとも一回の練習で300球以上スイングすること自体がナンセンスである。やり始めると限度を超えて夢中になってしまうのが私の悪い癖である。
【参考資料】
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |