はじめに
男性型脱毛症(AGA)と女性型脱毛症(FPHL)は、いずれも遺伝的要因とホルモン要因の組み合わせによって引き起こされる脱毛症である。しかし、その発症パターンや症状にはいくつかの違いがある。
男性型脱毛症(AGA)は、男性ホルモンが関与しており、特に前頭部や頭頂部の毛髪が影響を受けやすい。脱毛のタイプとしては前頭部型と頭頂部型が多くなるという特徴がある。
一方、女性型脱毛症(FPHL)は、女性の場合は前頭部型や頭頂部型ではなく、全体の毛髪量が減少する全頭型であることが多い。頭頂部を中心に比較的広い範囲にハリとコシが失われた細く柔らかい髪の毛が多く生えるようになるのが特徴的である。
女性型脱毛症とは
女性型脱毛症(FAGA、FPHL)は、男性の男性型脱毛症に対する女性に発症する薄毛のことを指す。
2010年に発行された「男性型型脱毛症診療ガイドライン」では、女性の脱毛症をFAGA(Female Androgenetic Alopecia)女性型男性型脱毛症と記していたが、女性の薄毛に関して研究が進むにつれてFAGA(女性型男性型脱毛症)だけでは病態の違いが説明できなくなってしまった。そのため、FPHL(Female Pattern Hair Loss)女性型脱毛症という新しい概念が生まれたという。
原因
女性型脱毛症の明確な発症メカニズムはまだ解明されていない。遺伝的要因とホルモン要因の組み合わせによって引き起こされることが多いとされる。
特に、更年期前に発症した女性型脱毛症は男性ホルモンによる影響が否定できず、男性ホルモンが過剰に産生される多嚢胞性卵巣症候群では女性型脱毛症が発症することがあるようだ。
また、更年期後の発症例では女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量の低下を含めて、さまざまな要因が発症に関与していると考えられている。
症状
女性型脱毛症の特徴は、細く柔らかい髪の毛が頭頂部を中心に多く見られるようになることであるとされる。
髪の毛の全体的なボリュームは少なくなって頭頂部の地肌が見えやすくなるが、男性型脱毛症とは異なり、髪の毛が完全に抜け落ちることはまずないとされる。
検査・診断
女性型脱毛症の診断自体には特別な検査は必要なない。しかしながら、なかには思わぬ病気が背景にあるケースも存在するので、これらの病気との鑑別を下すためにも下記のような検査を行う場合がある。
- 抜毛試験
- ダーモスコピー検査
- 血液検査
治療
現在、女性型脱毛症には次のような治療が知られている。
- 薬物療法
- 1%ミノキシジルの外用剤の使用
- 5%カルプロニウム塩化物外用薬の使用
- LED・低出力レーザー照射
- 自毛植毛
- ウイッグ・かつらの使用
予防
女性型脱毛症は、明確な発症メカニズムが解明されていないために確立した予防方法はない。
しかしながら、発症には女性ホルモンバランスの乱れが関与しているとの説もあるため、ストレスや疲れなどをためず、規則正しい生活を送ってホルモンバランスの乱れを防ぐことが発症予防につながると考えられている。
また、たんぱく質や亜鉛など髪の毛のもととなる栄養素をバランスよく摂る食生活を心がけることも大切であると考えられる。
あとがき
日本における女性型脱毛症の有病率についての統計データは限られているが、一部の報告によれば、約40%の女性が50歳までに脱毛を経験する傾向があるとされている。男性と異なり、女性は脱毛とは無縁であると思っていたので、意外な事実である。
尤も、これは一部の報告に基づくものであり、全体の有病率を正確に示すものではないので、実態は分からない。しかしながら、女性も男性と同様に髪のトラブルを抱えているということであり、むしろ女性の方が深刻にとらえている可能性が高い。
女性型脱毛症の発症メカニズムを明らかにし、画期的な治療薬が開発されることを期待したい。
【参考資料】
女性型脱毛症について | メディカルノート (medicalnote.jp) |
脱毛症の治療市場規模:2020年から2027年CAGR9.5%で成長予測 男性型脱毛症と円形脱毛症の有病率の上昇が市場を牽引 – 株式会社グローバルインフォメーションのプレスリリース (value-press.com) |