はじめに
定量分析法のバリデーションが完了しても、日常運用下での装置ドリフトや試薬ロット差異は避けられない。継続的モニタリングとトレンド管理を実践することで、品質リスクを早期に検知し、迅速な是正措置につなげられる。
本稿では、定量分析法継続的モニタリングとトレンド管理の具体的手法と運用のポイントを取り上げたいと思う。
継続的モニタリングの目的
- 分析装置や試薬の性能維持状況を定量的に把握する
- 日々の業務で生じる微小な変動を早期に検出する
- 分析結果の信頼性を長期にわたり担保する
- 異常発生時の原因を解析する
- CAPA(是正・予防措置)へ迅速に連携する
トレンド管理の基本概念
トレンド管理では管理図を中心に、定められたKPIを時系列でプロットする。正常範囲を超えるシフトやドリフトが起きていないかを視覚的に監視し、統計的に逸脱の有無を判断する。
実践ステップ
- メトリクス(KPI)の選定
- サンプリング頻度とデータ収集の設定
- 管理図(Shewhart図、CUSUM図など)の構築
- ルールによるアラート基準の定義
- 定期レビューと結果の報告
- 異常時の原因解析とCAPA実施
KPIと管理図の活用
KPI項目 | 単位 | 管理図の種類 | 管理限界設定例 |
---|---|---|---|
保持時間(RT) | 分(min) | Shewhart X–MR図 | ±3σ(検量線標準試料の平均) |
面積相対標準偏差(RSD) | % | Shewhart R図 | 上限2.0% |
理論段数(N) | plates | Shewhart X–MR図 | ≥2000 |
峰対称性(Tail Factor) | 無次元 | Shewhart X–MR図 | 0.9 ~ 1.5 |
バックグラウンドノイズ | S/N比 | Shewhart X–MR図 | ≥100:1 |
データ管理と自動化
- 分析機器とLIMS/DMSの連携でリアルタイム収集
- BIツール(Power BI、Tableau等)によるダッシュボード化
- 定常バッチ処理で管理図とアラートメールを自動生成
- クラウドストレージへのログ保管でトレンド分析の長期化
異常対応とCAPA連携
- 管理図ルール違反(シフト、トレンド、飛び値)発生時にアラート
- 初期対応:装置清掃、カラム交換、試薬ロット確認
- 根本原因解析:FMEAや5Why分析を活用
- 是正処置の実施とSOP更新
- 効果確認のためのフォローアップモニタリング
HPLC定量法のトレンド管理の事例
ある製造拠点で実施したHPLC定量法のトレンド管理の事例を示したい。週次で標準品を注入し、RTとRSDを管理図にプロットする。2ヶ月目に保持時間が下限を超えるドリフトを検知し、ポンプヘッドシールの劣化が判明した。交換後、数値は即時に復帰し、製造停止を回避できたという事例である。
あとがき
継続的モニタリングとトレンド管理は、定量分析法の信頼性を長期維持するための要となる。KPIの適切な選定と自動化、明確なアラート基準、確実なCAPAループを回すことで、品質リスクを最小化できる。
次稿では「クロマトグラフィー分析における機器ドリフト予測モデルの構築」を予定している。お楽しみに!