カテゴリー
レギュラトリーサイエンス レギュレーション

リアルタイム監視ツールの導入による定量分析法のシステム適合性試験の自動化

はじめに

定量分析法の品質保証において、システム適合性試験(System Suitability Test; SST)の実施は必須である。従来はオペレータが手動でSSTを実施して、その結果を判定していた。しかしながら、最近ではリアルタイム監視ツールを導入することで試験の自動化と効率化が可能になっているという。

本稿では、リアルタイム監視ツール導入のメリットや具体的なステップ、自動化運用のポイントを取り上げたい。

目次
はじめに
システム適合性試験の概要
リアルタイム監視ツール導入のメリット
リアルタイム監視ツールの導入ステップ
リアルタイム監視自動化のポイント
リアルタイム監視ツール導入事例
あとがき

システム適合性試験の概要

システム適合性試験(SST)は、クロマトグラフィー法や分光分析法などの定量分析法が安定して性能を発揮できるかを確認する試験である。主な試験項目は以下のとおりである。

  • ピーク対称性
  • 理論段数(Theoretical plates)
  • 保留時間再現性
  • 検出感度(応答値)

これらの指標が規定範囲内にあるかを判定し、分析システムの適合性を保証する。


リアルタイム監視ツール導入のメリット

  • 試験時間の短縮
    • 手動測定・計算から自動取得・解析へ移行
    • 工数を大幅に削減できる
  • ヒューマンエラーの低減
    • 手入力ミスや転記漏れを防ぐ
    • 一貫性のある評価が可能
  • データ可視化とトレンド分析
    • 試験結果をダッシュボードで即時確認できる
    • 装置ドリフトや異常傾向を早期に発見できる
  • コンプライアンス強化
    • 試験データや判定結果を自動記録
    • 監査対応時の証跡として利用可能

リアルタイム監視ツールの導入ステップ

  1. 要件定義
    • 管理対象の分析装置と試験項目をリストアップ
    • データ取得頻度やアラート条件を決定
  2. ツール選定
    • 装置ベンダー提供のリアルタイム監視機能
    • LIMSやDCSとの連携可否
  3. 接続・設定
    • 分析装置からのデータストリームをツールへ接続
    • 試験判定ロジック、許容範囲をシステムに実装
  4. 検証テスト
    • テストサンプルによるSST実行と結果比較
    • 判定精度やアラート通知の動作確認
  5. 運用開始
    • オペレータ研修とマニュアル整備
    • 定期メンテナンス計画の策定

リアルタイム監視自動化のポイント

ポイント手動実施時の課題自動化後の改善点
データ取得手動ログ収集・転記が必要自動収集でリアルタイム取得可能
判定処理Excel計算や目視判定に依存内蔵ロジックで即時自動判定
エラー検知異常時に気づきにくいアラート通知・メール送信で早期に発見できる
記録・証跡管理紙や分散ファイルの保管が煩雑中央DB保存で一元管理、トレーサビリティ強化

リアルタイム監視ツール導入事例

装置Aへの導入例

  1. 管理項目:理論段数、保持時間再現性
  2. データ取得間隔:5分
  3. 導入後の効果
    • SST実施時間
      • 従来30分 → 自動化後5分
    • 異常検出率
      • 運用開始2週間で3件の初期ドリフトを早期補正

あとがき

リアルタイム監視ツールを用いたSST自動化は、定量分析の品質と生産性を同時に向上させることができる。機器ドリフト予測モデルとの連携や、多拠点間での一元管理体制の構築を検討するとさらなる効率化が期待できるかも知れない。

「SPEAK UP」HOMEに戻るにはこちらから

「薬剤製造塾ブログ」HOMEへはこちらから


【参考資料】

ICH-Q2(R1) VALIDATION OF ANALYTICAL PROCEDURES: TEXT AND METHODOLOGY
分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)について
ICH-Q2(R2) VALIDATION OF ANALYTICAL PROCEDURES
ICH Quality Guidelines
VALIDATION OF ANALYTICAL PROCEDURES Q2(R2)
Final Version (Adopted on 1 November 2023)
ICH Q2(R2) 分析法バリデーション ガイドライン(案)
医薬品開発のためのHPLC分析法バリデーション完全ガイド:ICH Q2(R1)に基づく基本から実践まで|Pharma Insight Lab
分析法バリデーションについてー改訂ICH-Q2, Q14の動向ー
ICH-Q14 分析法の開発

【関連記事】

医薬品の分析法の開発における分析法バリデーション
規格試験としての溶出試験の位置づけと試験法の開発
製剤開発途中の変更管理に役立つSUPAC及び日本の生物学的同等性ガイドライン
低分子医薬の原薬の分析法開発での原薬標準物質及び類縁物質標準品の規格設定
バイオ医薬品(抗体医薬)の標準物質の規格設定での設定方法およびその特殊性
定量分析法の開発におけるシステム適合性の位置づけ
定量分析法バリデーションの頑健性試験設計と最適化
定量分析法継続的モニタリングとトレンド管理の実践
定量的クロマトグラフィー分析法における測定機器のドリフト予測モデルの構築
分析法バリデーションにおけるLOD/LOQの設定及び頑健性解析の具体的手法
不純物の構造同定のための質量分析/NMRテクニック
不純物定量における安定同位体標識法と内部標準法
低分子医薬の原薬標準物質における安定同位体標識標準品の設計とその活用方法
分析法バリデーションから文書化までのワークフロー

「SPEAK UP」HOMEに戻るにはこちらから

「薬剤製造塾ブログ」HOMEへはこちらから