はじめに
医薬品の品質保証において欠かせないのが「定量試験」である。原薬(Drug Substance)や製剤(Drug Product)含まれる有効成分の量を正確に測定することで、安全性と有効性を保証することができる。
本稿では、定量試験で使用される代表的な分析技術と、その特徴や適用例を取り上げたいと思う。
<目次> はじめに 定量試験の意義 クロマトグラフィー法 HPLC/UHPLC GC 分光光度法 紫外可視(UV–Vis)分光法 質量分析を用いる定量法 LC–MS/MS GC–MS NMRによる定量法 電気化学的・滴定法 技術選定のポイント あとがき |
定量試験の意義
定量試験とは、医薬品に含まれる有効成分の濃度や量を数値で測定する試験のことを指す。ラベル通りの成分量が含まれているかを確認することで、過剰投与や効果不足を防ぐことができる。
- 有効成分の含量を規定値内に維持し、安全性と有効性を担保
- 製造バッチ間の均一性を検証
- 安定性試験や保存条件評価で分解や含量低下を定量
医薬品の定量試験に用いられる代表的な分析技術を以下に紹介する。
クロマトグラフィー法
クロマトグラフィー法とは、混合物の成分を分離・定量・同定するための分析技術である。医薬品、食品、環境分析など幅広い分野で使われている分析技術である。
クロマトグラフィーの基本原理は、試料を移動相に乗せて流し、固定相との相互作用の違いによって成分を分離する技術である。
- 固定相に強く引き寄せられる成分 → ゆっくり移動
- 弱く引き寄せられる成分 → 早く移動
この「移動速度の差」を利用して、混合物の中の成分を分ける。
特にHPLCは、創薬から品質管理まで、医薬品開発のあらゆる段階で使われている。
HPLC/UHPLC
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、最も広く使われている分析法である。原薬や製剤中の成分を分離し、濃度を高精度で測定できる。不純物の検出にもその高い分析能力を発揮する。
- 逆相カラムを用いて化合物を高精度に分離
- UV検出器やDADで快速定量
- MSカップリングで高感度測定も可能
- API分析から不純物プロファイル解析まで幅広く活用
GC
GC(Gas Chromatography:ガスクロマトグラフィー)は、揮発性化合物を分離・定量するための分析技術である。医薬品の原薬や製剤に含まれる微量成分や不純物の検出では、特に活躍することが多い。
- 揮発性有機成分の定量に最適
- FID検出器で高感度、GC–MSで同時に構造同定も可能
- 残存溶媒試験や揮発性分解生成物のモニタリングに利用
技術 | 分離媒体 | 検出器 | 定量感度 |
---|---|---|---|
HPLC | 液体(逆相) | UV/DAD, MS | ppm~ppb |
UHPLC | 高分離能カラム | UV/DAD, MS | ppb~ppt |
GC | 気体(キャピラリー) | FID, MS | ppb~ppt |
但し、GCの注意点としては、以下のようなものがある。
- 揮発性がある成分しか分析できない
- 試料の前処理が必要な場合もある
- 温度管理やカラム選定が分析結果に大きく影響する
分光光度法
分光光度法は、物質が光を吸収・反射・透過する特性を利用して、その構造や性質を調べる分析技術である。
紫外可視(UV–Vis)分光法
紫外可視分光法(UV-Vis)は、成分が光を吸収する性質を利用して、濃度を測定する方法である。測定法はシンプルで迅速、コストも比較的低めである。
- 共役二重結合や芳香環などの吸収特性を利用して定量
- 試料前処理が簡易でハイスループット検査向き
- マトリックス干渉を抑えるため、適切なブランクとバリデーションが必須
質量分析を用いる定量法
質量分析法(MS)は、物質をイオン化して質量電荷比(m/z)を基準に分離・解析する分析技術である。
LC–MS/MS
質量分析(MS)は、成分の分子量や構造情報まで取得可能である。複雑な混合物の中でも、微量成分を正確に測定できる。
- HPLC分離後にタンデム質量分析で特定イオンを選択・定量
- 高感度(pptオーダー)かつ高選択性で、複雑マトリックスにも対応
- バイオアッセイやトレース不純物分析に多用
GC–MS
GCと質量分析(MS)を組み合わせたGC-MSは、成分の構造解析や高感度な定量に強い。GC-MS/MSになると、さらに選択性と精度が向上する。
- 揮発性成分の定量と同時に構造同定が可能
- 残存溶媒や揮発性不純物のトレーサビリティを確保
NMRによる定量
核磁気共鳴分光法(NMR)は、原子核のスピンが強い磁場中でエネルギー遷移を起こす性質を利用した分析技術である。分子構造解析に非常に有効な分析法であるため、不純物の構造解明やAPIの同定(確認試験)に活用されることが多い。
- 内部標準物質を用いた絶対定量が可能
- 構造情報と含量データを同一スペクトルで取得
- 感度は低め(ppmオーダー)だが、不純物の同定にも強い
- 装置は高価
電気化学的・滴定法
電気化学的・滴定法は、化学反応によって生成する電気的な変化を利用して物質を定量する分析手法である。電気化学的・滴定法は、簡便かつ正確で、特に医薬品や食品の品質試験に欠かせない重要な分析技術である。
- 酸塩基滴定法
- 酸と塩基の中和反応を利用し、pH変化を指標にする
- 簡便で幅広い物質に適用可能
- 指示薬やpHメーターを使い、終点を特定
- APIの純度確認や中間体の評価
- 酸化還元滴定法
- 酸化剤と還元剤の電子授受反応に基づく定量
- KMnO₄やI₂などの酸化剤がよく使われる
- クラスICAL滴定やヨウ化滴定で定量
- 電位差を用いて終点を検出
- ビタミンCや過酸化物の評価
- カルマン滴定法
- 試料中の水分と化学反応させ、生成する電気量を測定
- 水分量の極めて高感度な定量が可能
- 医薬品や食品の水分管理で必須
- APIや製剤、乾燥剤の水分量測定
- 水分量や酸価の定量に活用
- 電位滴定法
- 電極で測定する電位変化を基に反応終点を決定
- 視覚的指示薬を使わず、電位計のみで測定
- 高精度な滴定が可能
- 複雑な混合物の成分分析
- 導電率滴定法
- 化学反応によるイオン濃度変化に伴う導電率変化を利用
- 電解質溶液の分析に向いている
- 迅速かつ正確な測定が可能
- 電解質の濃度測定や水質管理
- 装置がシンプルでコストが低い
- 適用範囲は限定的
技術選定のポイント
- 試料性状
- 固体か液体か?
- 試料が酸性・塩基性かを考慮
- 揮発性成分を含むか(揮発性)を考慮
- 要求感度
- ppm〜pptレベルの検出限界
- マトリックス干渉
- 複雑製剤中の背景ノイズ対策
- 再現性・精度
- RSDや直線性の評価
- ppmレベルの精密測定が必要な場合→適切な手法
- 運用コスト
- 装置費用
- メンテナンス要件
- 装置の有無や分析スキルに応じた選択
複数手法のオルソゴナル分析により、定量結果の信頼性を高めることが望まれる。
あとがき
医薬品の原薬および製剤の定量試験では、クロマトグラフィー、分光光度、質量分析、NMR、滴定法など多彩な技術が利用される。
分析技術は使うだけではなく、分析法バリデーションによって採用した試験法の妥当性を確認することが非常に重要である。これは、試験法が正確・再現性・特異性を持っているかを確認するプロセスで、通常、PMDAやICHのガイドラインに沿って行われるものである。
試料特性や分析目的に応じて最適な試験手法を選択し、バリデーションを徹底することで、高品質な医薬品の開発や製造のための品質試験に活用したい。
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