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海外製造医薬品を日本国内で承認後に販売するには?薬事規制の完全ガイド

はじめに

グローバル製造が進む医薬品業界では、海外施設で製造された医薬品を日本国内で販売するケースが増えている。しかし、日本市場に製品を流通させるには、薬機法に基づく厳格な承認・認定・管理体制をクリアする必要がある。

本稿では、承認取得後に求められる薬事対応、特に製造販売承認GMP適合性調査外国製造業者認定などの日本での販売に必要な薬事対応を、専門的な視点で簡潔に解説したいと思う。

目次
はじめに
1. 製造販売のための基本要件
2. 外国製造業者の認定とGMP適合性調査
3. 製造販売業者の役割と責任
4. 出荷判定と品質試験の実施
品質試験の実施要件
試験実施者と試験場所の要件
出荷判定に必要な記録類(例)
5. 承認後の変更管理と安定供給
あとがき

1. 製造販売のための基本要件

海外製造医薬品を日本で販売するには、以下のような許可・承認が必要である:

要件内容
製造販売業の許可日本国内で販売するための事業者許可
製造業(包装・表示・保管等)の許可日本国内で最終工程を行う場合に必要
製造販売承認品目ごとの品質・有効性・安全性に関する審査を通過する必要あり
外国製造業者認定海外製造所が日本向けに供給するための認定制度(製造所単位)
GMP適合性調査製造所の品質管理体制を厚労省・PMDAが確認
GQP体制品質保証の社内体制整備が必須
GVP体制安全管理の社内体制整備が必須

2. 外国製造業者の認定とGMP適合性調査

海外製造所で製造された医薬品を日本で販売するには、当該海外施設が外国製造業者認定を受ける必要がある。これは厚生労働省が実施する制度で、製造所がGMP(適正製造基準)に適合していることを証明(確認)するための調査が含まれる。

📘 認定申請に必要な資料

  • 製造工程・品質管理体制の詳細
  • GMP適合性証明書
  • 製造所の所在地・責任者情報
  • 製品ごとの製造記録・試験成績

PMDAによる実地調査や書面審査を経て、認定が付与される。


3. 製造販売業者の役割と責任

日本国内で販売するには、製造販売業者の選任が必須である。この業者は、製品の品質保証(GQP)と安全管理(GVP)を担い、製造から市販後までの責任を負う。

業務領域担当部門業務内容
品質保証GQP部門製品の出荷判定
品質記録の管理
安全管理GVP部門副作用情報の収集
副作用情報の報告
リスク管理
市場出荷判定製造販売業者が実施最終出荷判定
(委託可)

4. 出荷判定と品質試験の実施

出荷判定とは、製造販売業者が医薬品を市場に出荷する前に、その製品が承認内容および品質基準に適合しているかを確認し、市場への出荷の可否を決定するプロセスである。

出荷判定は、GQP(Good Quality Practice)省令の第9条に基づき、製造販売業者の責任で実施されることが義務付けられている。

出荷判定は、単なる「出荷OK」のハンコではなく、製品の品質と安全性を保証する最終チェックポイントである。特に海外製造医薬品では、輸送中の品質変化や試験データの信頼性も考慮し、国内での再試験や厳格な記録管理が求められる。

GQP体制の整備と、試験・記録の確実な運用が、信頼される医薬品供給の鍵であることを忘れてはならない。


品質試験の実施要件

原則:日本国内での品質試験が必要

  • 日本国内で実施した品質試験の結果に基づいて出荷判定を実施するのが原則である(GQP省令)
  • 海外で品質試験を実施している輸入医薬品であっても、原則として日本国内で品質試験を実施し、その結果に基づいて出荷判定を行う必要がある
  • 試験項目は、承認書に記載された規格及び試験方法に準拠していなければならない

例外:海外試験結果の活用

  • 海外製造所での試験結果を用いる場合は、日本国内での同等性確認試験分析法バリデーションが必要である
  • ただし、PMDAによる承認審査時に「試験省略の妥当性」が認められた場合に限り、海外試験結果を出荷判定に使用できることがある

海外試験結果を活用する上での実務上のハードル

  • 輸入計画の初期段階から、製造所のGMP体制・文書整備・試験体制を確認し、日本の薬事要件に適合させる準備が重要
  • 中国で製造された医薬品を日本で販売するには、EUやUS製造品と比べて、より慎重なGMP調査対応と品質試験の実施体制が求められることが多い
  • 特に、出荷判定に必要な品質試験は、日本国内での再試験や同等性確認が実務上のハードルになることがある

中国製造品のEU・US製造品との比較:

項目中国製造所EU製造所US製造所
GMP証明
の信頼性
比較的低い
実地調査率高め
高い
書面調査中心
中程度
FDA査察履歴が参考に
品質試験
の再実施
原則必要
信頼性確認が必要
バリデーション済みなら省略可の可能性あり中程度
FDA査察履歴が参考に
品質協定
の整合性
中国独自様式
との調整が必要
PIC/S準拠で
整合しやすい
米国ガイドラインに基づく調整が必要

試験実施者と試験場所の要件

単なる保管業者や製造業許可のない施設では、試験や出荷判定は行えない。

 要 件  内 容
試験実施者製造業許可(試験区分)を有する国内製造所または試験受託機関
試験場所原則として日本国内(GMP適合製造所)
出荷判定者製造販売業者の品質保証責任者(GQP省令第8条)

出荷判定に必要な記録類(例)

下記ような記録類は、5年間以上の保存義務があり、PMDAや都道府県の査察対象にもなる。

  • 市場出荷判定記録(ロットごと)
  • 試験成績書(原本または写し)
  • GMP適合確認書類
  • 製造記録・逸脱報告・変更管理記録
  • 品質保証責任者の判定署名

5. 承認後の変更管理と安定供給

製造方法や製造所の変更がある場合は、変更管理手続きが必要である。日本では、ICH Q12に基づく変更分類が導入されており、変更の内容に応じて事前承認・届出・報告が求められる。

⚠️ 注意点

  • 日本の変更手続きは欧米よりも時間がかかる傾向あり
  • 承認前の製品を出荷するには、旧製品の在庫確保が必要
  • GMP調査は変更時にも再実施される場合あり

あとがき

海外製造医薬品を日本で販売するには、日本独自の薬事規制に準拠した手続きと体制整備が不可欠である。そして、承認取得後も継続的な薬事対応が不可欠である。

製造販売業者の選任、外国製造業者認定、GMP調査、製造販売業者の体制整備、変更管理など、各ステップを確実にクリアすることで、安全かつ信頼性の高い医薬品供給が可能となり、円滑な市場展開も可能になる。

グローバル製造 × 日本品質管理の融合で、信頼される世界水準の医薬品を日本の患者へ届けるシステムを構築して頂きたい。


【参考資料】

医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令(◆平成16年09月22日厚生労働省令第136号)
GQP省令/奈良県公式ホームページ
GQP省令について/京都府ホームページ
医薬品・部外品・化粧品のGVP・GQPについて/大阪府ホームページ
GQP省令について(基礎から学ぶGQP省令~GQPを運用するためのポイント~)
医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令
医薬品_GQP省令_逐条解説_事例集対比表 2022_08_08.pdf

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