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ドラッグリポジショニング

ドラッグリポジショニングを守り活かす鉾と盾:用途特許の取り方と活かし方

はじめに

ドラッグリポジショニング(Drug Repositioning:DR)は、既存薬に新たな価値を見出す革新的なアプローチである。 しかしながら、「すでにある薬」だからこそ直面するのが、知的財産権の壁である。 特許が切れていたり、物質特許の保護期間が残りわずかだったりすると、企業が開発に投資するインセンティブが生まれにくいのが現実である。

そこで登場するのが、「用途特許」である。 これは、リポジショニングの成果を守る“”であり、活かす“”でもある。

目次
はじめに
用途特許とは?
用途特許を“鉾”として活かす戦略
用途特許の限界と注意点
用途特許取得の成功ポイント

あとがき

用途特許とは?

リポジショニングを守る“盾”

用途特許(use patent)は、既存の化合物に対して新たな用途(適応症)を見出した場合に取得できる特許である。たとえば:

  • シルデナフィル(バイアグラ)
    • 元々は狭心症の治療薬として開発 → 勃起不全への効果が発見され、新用途として再承認&特許取得
  • サリドマイド
    • 催奇形性で市場撤退 → 多発性骨髄腫やハンセン病への新用途で再評価・再承認

用途特許のメリット:

  • 新たな適応症に対する独占的販売権を一定期間確保できる
  • 製薬企業にとっての投資回収の道筋をつくる
  • ライセンス契約や共同開発の交渉材料として活用可能

用途特許を“鉾”として活かす戦略

用途特許は、単なる防御策ではなく、リポジショニングの成果を市場で活かすための攻めの武器にもなる。

活かすためのポイント:

  1. 新規性と進歩性の明確化
    • 単なる臨床観察では不十分
    • 科学的根拠や作用機序の提示が求められる
  2. 早期の知財戦略立案
    • リポジショニングの仮説段階から、特許性の検討と出願準備を並行して進めることが重要
  3. パートナーシップとの連動
    • 用途特許を武器に、製薬企業・アカデミア・ベンチャーとの連携を加速できる
  4. 規制戦略との統合
    • 特許と承認のタイミングを調整し、市場独占期間を最大化する戦略設計がカギ

用途特許の限界と注意点

  • 医師による適応外使用は制限できない
    • 他社が同じ薬を別の適応で販売し、医師が新用途で使用する場合、用途特許の侵害を立証するのは困難
  • 物質特許に比べて権利行使が難しい
    • 特許の文言や請求項の設計が極めて重要。
  • ジェネリックとの競合リスク
    • 用途特許だけでは、ジェネリックの流通を完全に防げない場合もある

用途特許の取得プロセス

日本・米国共通の基本構造

① アイデアの創出:新たな用途の発見

  • 既存薬が別の疾患に効果を示す可能性を、臨床観察・前臨床研究・データ解析などから発見
    • 例:抗うつ薬が慢性疼痛に効果あり?
    • 例:抗菌薬が神経保護作用を持つ?

この段階での科学的根拠(メカニズム・作用経路・実験データ)が、後の特許性に直結する!

② 特許性の検討:新規性・進歩性・産業上の利用可能性

  • 新規性
    • その用途がこれまでに公知・公用でなかったかを調査(文献・特許データベースなど)
  • 進歩性
    • 審査官が見て「当然思いつく」レベルではないかを評価
  • 産業上の利用可能性
    • 実際に医薬品として使える見込みがあるか

ここで特許事務所や知財部門と連携して、出願戦略を練るのが重要!

③ 特許出願書類の作成と提出

  • 請求項(クレーム)
    • 例:「化合物Xを用いた疾患Yの治療方法」など、用途を明確に記述
  • 明細書
    • 作用機序、実験データ、疾患との関連性などを論理的かつ詳細に記述
  • 図面(必要に応じて)
    • 薬理試験結果や構造式など。

日本では特許庁(JPO)、米国ではUSPTO、欧州ではEPOに出願する。

④ 審査請求と審査対応

  • 出願後、所定期間内に審査請求を行う必要あり(日本では3年以内)
  • 審査官からの拒絶理由通知(オフィスアクション)に対して、意見書や補正書で対応

用途特許は「既知の物質」なので、進歩性や記載要件で突っ込まれやすい!ここが勝負どころである!

⑤ 登録・権利化

  • 審査を通過すると、特許査定 → 登録料納付 → 特許権発生
  • 日本では出願日から最長20年間の保護(用途特許も同様)

用途特許取得の成功ポイント

  • 科学的根拠の明確化
    • メカニズム・実験データ・疾患との関連性を丁寧に記述
  • 請求項の工夫
    • 「治療方法」「予防方法」「疾患のサブタイプ」など、戦略的に範囲を設計
  • 先行技術調査の徹底
    • 類似用途や既知の知見がないかを事前にチェック
  • 早期出願とグローバル戦略
    • 米国・欧州・アジアなど、市場性のある国での出願を視野に

日本・米国・EUの特許制度比較

医薬品の用途特許を中心に、日本(JPO)・米国(USPTO)・欧州(EPO)の特許制度の違いや特徴を以下にわかりやすく比較してみた。

用途特許の保護

日本 明確に認められている(医薬用途含む)
米国明確に認められている(方法クレームが中心)
医師の診療行為は特許侵害とならないため、用途特許の実効性には限界も。
欧州“二次医薬用途”として認められる(特定の形式が必要)
物質特許がある場合でも、新たな医薬用途に対して“二次医薬用途特許”が認められる。

請求項の形式

日本 「化合物Xを疾患Yの治療に用いる医薬」など
米国「方法クレーム(method of treating)」が主流(中心)。
例:「A method of treating disease Y with compound X」
欧州EPC 2000形式(医薬製剤の製造用途)が主流。「Swiss-typeクレーム」は現在では非推奨。
例:「化合物Xの疾患Y治療用の医薬製剤の製造方法」など

特許期間

日本出願日から20年(延長制度あり)
米国出願日から20年(延長制度あり)
欧州出願日から20年(SPC制度あり)

特許延長制度

日本医薬品等の承認に伴う最大5年の延長可
米国最大5年の延長(Patent Term Extension)
欧州補足的保護証明(SPC)により最大5年延長可

進歩性の基準

日本やや厳格(予測困難性が重視される)
用途特許は比較的取得しやすいが、進歩性の審査が厳格。
米国比較的柔軟(“obvious to try”基準)
欧州厳格な進歩性判断(EPOガイドラインに基づく)

審査請求制度

日本出願から3年以内に審査請求が必要
米国出願と同時に審査開始
欧州出願から6か月以内に審査請求が必要

公報公開時期

日本出願から18か月後
米国出願から18か月後
欧州出願から18か月後

特許言語

日本日本語(英語併記可)
米国英語
欧州英語、ドイツ語、フランス語(審査は英語が主流)

あとがき

波の高さは国によって違う!

用途特許は各国で制度や審査基準が異なるため、グローバル戦略では“国ごとの波のクセ”を見極めることが重要である!

特に、請求項の形式や進歩性の判断基準、延長制度の活用方法は、成功のカギを握る。

用途特許は“再発見”を守る知の盾

用途特許の取得は、科学・法務・戦略の三位一体で進める知的冒険! しっかり準備すれば、リポジショニングの成果を社会に届けるための強力な武器になる。

知財戦略こそ、リポジショニング成功の波を導く

ドラッグリポジショニングは、医療の可能性を広げる“再発見の科学”。 しかし、その成果を社会実装するには、知財という“盾と鉾”を巧みに使いこなす戦略眼が不可欠である。

用途特許は、リポジショニングの価値を守り、未来へと突き進むための知恵の武器である。 科学と法、そして戦略の波を乗りこなすことで、既存薬は新たな命を得るといえるだろう。