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悪性腫瘍(がん) 疾病

肝臓がんは自覚症状がないまま“静か”に進行――危険な変化は肝硬変から始まる

はじめに

肝臓は、私たちの健康を維持するために重要な役割を果たしているが、「沈黙の臓器」とも呼ばれるように、機能上の問題が起きても自覚症状が現れにくいという特徴を有する臓器である。

だから肝臓がんが発症していても初期段階では自覚症状がほとんどないため、気付かない場合が多い。肝臓がんが進行してはじめて、全身の倦怠感黄疸下肢のむくみ腹水肝性脳症右季肋部痛などが現れる。しかし、そのときにはかなりステージが進行している場合である。したがって、定期的な検診で早期発見に努めなければ予後が悪くなるのが常である。これが肝がんの恐さでもある。

一般的に、肝がんは他のがんに比べて治療が難しく、早期発見と適切な治療が必要とされる。肝がんが初期で、肝臓に限局した小さな腫瘍であれば、アブレーション治療で症状を緩和でき、外科的切除または肝移植によって治癒が得られることもある。しかし、肝がんが進行している(進行肝がん)場合や肝機能が低下している場合には、治療の選択肢は限られる。肝細胞がんの末期の5年生存率はわずか約10%以下とされており、予後は不良と言わざるを得ない。

したがって、肝がんを発症させないよう予防に最大限の努力を払うのは合理的なことである。

目次
はじめに
肝臓がんとは
原因
症状
検査・診断
治療
予防
あとがき

肝臓がんとは

肝臓に発生する悪性腫瘍には、肝臓の細胞が癌化してできる原発性肝がんと、他の臓器から癌細胞が移ってきて肝臓で発育してできる転移性肝がんがある。

原発性肝がんは、肝細胞に由来する肝細胞がんと胆管上皮に由来する胆管細胞がんに分類される。両者で治療法も異なる 。

肝細胞がん原発性肝癌の90%以上を占めているため、一般に肝臓がんと言えば肝細胞がん(Hepatocellular carcinoma)を意味する。

肝臓癌

肝臓は、人体中最大の臓器で、体内環境の維持のために多くの機能(代謝解毒貯蔵胆汁分泌)を持っている。肝臓は摂取した栄養分を代謝してエネルギーに加工し全身に送るが、余った分は肝臓に貯蔵して、必要に応じてそれを分解してエネルギーに変換する。肝臓は体内の有害な物質を分解して無毒化し、体外に排出する。肝臓は小腸から吸収されたブドウ糖をグリコーゲンの形で蓄え、ブドウ糖不足に陥ると、それを使って脳に供給する。肝臓は胆汁を作り出し、十二指腸に分泌する。胆汁は脂肪や油を分解するために必要な消化酵素で、脂質の消化吸収を助ける。したがって、肝臓が正常に働かないと、私たちは健康的な生活ができない。

原発性肝がん(肝細胞がん)は、肝臓内に再発するが、肺やリンパ節、副腎、脳、骨などに転移することもある。

一方、転移性肝がんは、 原発性肝がんとは区別され、治療は転移をする前の原発部位に準じて行う。


肝臓がんの原因

通常、肝細胞がんは肝硬変の合併症である。

B型肝炎ウイルス(HBV)の存在は、HBVキャリアにおける肝細胞癌の発生リスクを100倍以上に高めている。HBV-DNAが宿主のゲノムに組み込まれると、たとえ慢性肝炎や肝硬変がなくとも,悪性化が進行する可能性がある。肝細胞癌を引き起こすその他の疾患としては,C型肝炎ウイルス(HCV)の感染による慢性C型肝炎の悪化による肝硬変,ヘモクロマトーシス、アルコール性肝硬変などがある。他の病態による肝硬変の患者でもリスクが高い。

日本国内の肝細胞がんは、慢性のB型・C型肝炎ウィルスが原因となったものが90%ほどを占めている。

他には、アルコール性肝障害も原因となる。また、メタボリック症候群と関連の深い非アルコール性脂肪性肝炎NASH)から発生する肝細胞がんも注目されている。


肝臓がんの症状

肝臓は、「沈黙の臓器」と呼ばれ、炎症やがんがあっても初期には自覚症状がほとんどない。定期検診やほかの病気の検査のときなどに、たまたま肝細胞がんが発見されることも少なくない。健康診断などで肝機能の異常や肝炎ウイルスの感染などを指摘された際には、肝臓がんを疑い、受診するようにした方が早期発見に繋がる。

最も一般的には、それまで安定していた肝硬変患者が腹痛、体重減少、右上腹部腫瘤、原因不明の健康状態の悪化などを訴えて受診する。肝細胞がんが進行した場合は、腹部のしこり・圧迫感、痛みなどを訴える患者もいる。


肝臓がんの検査・診断

肝細胞がんの検査は、超音波(エコー)検査やCT検査、MRI検査の画像検査と、腫瘍マーカー検査を組み合わせて行う。また、肝細胞がんとその他のがん、悪性か良性かの区別をするために針生検を行う。治療方針の検討には、血液検査で肝機能を調べたり、肝硬変の程度を評価するために内視鏡検査を行うこともある。

超音波(エコー)検査
がんの大きさや個数、がんと血管の位置、がんの広がり、肝臓の形や状態、腹水の有無を調べる。ただし、がんの存在部位によっては検査が困難な場合や、皮下脂肪が厚い場合は十分な検査ができないことがある。患者の状態や、がんのある部位によっては、造影剤を注射して検査を行うこともある(造影超音波検査)。
CT検査
治療前に、がんの性質や分布、転移や周囲の臓器への広がりを調べる。肝細胞がんを調べる場合は、造影剤を用いながらCT検査を行うのが一般的である。より詳しく調べるため、造影剤を注射したあと、何回かタイミングをずらして撮影することがある。
MRI検査
治療前に、がんの性質や分布、転移や周囲の臓器への広がりを調べる。 MRI検査でも、造影剤を使用することがある。
腫瘍マーカー検査
肝細胞がんの腫瘍マーカーは、AFP(アルファ・フェトプロテイン)やPIVKA-Ⅱ(ピブカ・ツー)、AFP-L3分画(AFPレクチン分画)である。腫瘍が小さい場合の診断では、2種類以上の腫瘍マーカーを測定することが推奨されている。ただし、がんであってもこれらのマーカーがいずれも陰性のことがある。また、がんではないが肝炎や肝硬変がある場合、あるいは肝細胞がん以外のがんがある場合で陽性になることもあるため、画像診断も同時に行う。

肝臓がんの治療

治療方針は、がんの進行の程度や体の状態などから検討し、決定する。がんの進行の程度は、病期(ステージ)として分類する。


肝臓がんの病期(ステージ)

肝細胞がんの病期は、がんの大きさ、個数、がんが肝臓内にとどまっているか、ほかの臓器まで広がっているか(転移)によって決まる。病期の分類にはいくつかの種類があり、通常、日本の「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約(日本肝癌研究会編)」(表1参照)、もしくは、国際的に使われている「TNM悪性腫瘍の分類(UICC)」(表2参照)を用いてステージを決めるが、分類法によって同じステージでも内容が異なることもあるため、注意が必要である。

表1 肝細胞がんの病期分類(日本肝癌研究会)の図
表1 肝細胞がんの病期分類(日本肝癌研究会)
日本肝癌研究会編「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」(金原出版)より
肝細胞がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

表2 肝細胞がんの病期分類(UICC第8版)の図
表2 肝細胞がんの病期分類(UICC第8版)
UICC日本委員会TNM委員会訳「TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版(2017年)」(金原出版)より作成
肝細胞がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

肝障害度、Child-Pugh分類

治療法を選択する際は、肝臓の障害の程度(肝予備能:肝臓の機能がどのくらい保たれているか)も確認する。肝障害度は、肝機能の状態によって、A、B、Cの3段階に分けられる(表3参照)。また、肝硬変の程度を把握するために、Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類が用いられることもある(表4参照)。どちらの分類方法でも、AからCへと進むにつれて、肝障害の程度は強まる。

表3 肝障害度の図
表3 肝障害度
日本肝癌研究会編「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」(金原出版)より
肝細胞がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)
表4 Child-Pugh分類の図
表4 Child-Pugh分類
日本肝癌研究会編「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版(2015年)」(金原出版)より作成
肝細胞がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

肝細胞がんの治療の選択

肝細胞がんの治療は、肝切除ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が中心である。また、肝臓の状態やがんの進行具合によっては、分子標的薬による薬物療法や肝移植を選択する。

腫瘍が大きい(5cmを超える)場合、多発性の場合、門脈浸潤がある場合、または転移性(III期以上)の場合には、予後がはるかに不良となる(5年生存率は約5%又はそれ以下)。放射線療法は、通常無効である。ソラフェニブは転帰を改善するようである。

肝細胞がんの患者の多くは、がんと慢性肝疾患という2つの病気を抱えているため、がんの病期(ステージ)だけでなく、肝臓の障害の程度(Child-Pugh分類による評価)も考慮して治療方法を選択する(下図参照)。

図2 肝細胞がんの状態・肝障害度と治療の図
肝細胞がんの状態・肝障害度と治療
日本肝臓学会編「肝癌診療ガイドライン2017年版」(金原出版),P.68より作成
肝細胞がん 治療:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ] (ganjoho.jp)

手術(外科治療)
手術を行うかどうかは、Child-Pugh分類がAまたはBで、肝障害度に基づく肝機能の評価がよい場合、切除後に肝臓の量をどれだけ残せるかによって判断する。また、肝硬変の程度がChild-Pugh分類Cでは肝移植が推奨される。
穿刺局所療法
体の外から針を刺し、局所的に治療を行う方法で、手術に比べて体への負担の少ないことが特徴。Child-Pugh分類のAまたはBのうち、がんの大きさが3cm以下、かつ、3個以下の場合に行われる。肝細胞がんの穿刺局所療法として推奨されているのは、ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation; RFA)である。RFAは、体の外から特殊な針をがんに直接刺し、通電してその針の先端部分に高熱を発生させることで、局所的にがんを焼いて死滅させる治療法である。治療の際は、腹部の局所での麻酔に加えて、焼灼で生じる痛みに対して鎮痛剤を使用したり、静脈からの麻酔を行う。焼灼時間は10〜20分程度。発熱、腹痛、出血、腸管損傷、肝機能障害などの合併症が起こることもある。また、針を刺した場所に痛みややけどが起こることがある。治療後は、数時間程度の安静が必要。 RFAは、肝臓がんの治療法としては外科的手術に次いで高い局所制御率が得られることが証明されている。
マイクロ波アブレーション(MWA)
マイクロ波を利用してがん細胞を熱で焼灼する。マイクロ波が水分子を回転させることによって摩擦熱が発生する。2017年7月に日本でも使用可能となった次世代MWAでは、一定の波長のマイクロ波を発振し続けることが可能となり、安定した球形の大きい焼灼範囲を得ることができる。また、RFAでは大きい焼灼範囲を得るために、病巣に電極を複数回穿刺する必要があるが、次世代MWAでは、焼灼時間を長くとればとるほど大きく焼灼することが可能になり、1回の穿刺で大きい焼灼範囲を得ることが可能となった。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)
がんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさいで、がんを兵糧攻めにする治療法。血管造影に用いたカテーテルの先端を肝動脈まで進め、細胞障害性抗がん剤と、肝細胞がんに取り込まれやすい造影剤を混ぜて注入し、その後に塞栓物質を注入する治療法。肝動脈を詰まらせることでがんへの血流を減らし、抗がん剤によりがん細胞の増殖を抑える。
肝動脈塞栓療法(TAE)
TACEと同様に、がんに栄養を運んでいる血管を人工的にふさいで、がんを兵糧攻めにする治療法。TAEでは、血管造影に用いたカテーテルから塞栓物質のみを注入する。肝動脈を詰まらせることでがんへの血流を減らす。
肝動注化学療法(TAI)
血管造影に用いたカテーテルから抗がん剤のみを注入する治療法。
薬物療法
肝細胞がんの薬物療法では、分子標的薬による治療が標準治療である。肝切除や肝移植、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)が行えない進行性の肝細胞がんで、パフォーマンスステータスと肝臓の機能がともに良好な場合に分子標的治療を行う。
分子標的薬としてソラフェニブレンバチニブレゴラフェニブなどを用いる。
放射線治療
肝細胞がんの標準治療としては確立されていない。骨に転移したときの疼痛緩和や脳への転移に対する治療、血管(門脈、静脈)に広がったがんに対する治療を目的に行うことがある。
緩和ケア
QOLを維持するために、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対する症状を和らげ、自分らしく過ごせるようにする治療法。がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われ、希望に応じて幅広い対応をする。
リハビリテーション
がんそのものや治療に伴う後遺症や副作用などから、患者が受けるさまざまな身体的・心理的な症状・障害の緩和や、機能の回復・維持を目的に行われる。

肝臓がんの予防

肝がんの予防には次のような対策が有効とされている。

  • 健康的な生活習慣
    • 禁煙
    • 節度ある飲酒
    • バランスの良い食事
    • 適度な運動
    • 適正な体形の維持
  • 感染予防
    • ワクチン接種でB型肝炎ウイルスの感染を予防
    • C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスに感染の有無を検査
  • 定期的な検診
    • 40歳以上は肝炎ウイルスの検査受診
    • 慢性肝炎の発症者は3~6カ月間隔で定期的検査

これらの予防策は、肝がんのリスクを低減するために重要ではあるが、これらの予防策が全ての肝がんを防ぐわけではないことも理解しておくべきである。


あとがき

肝臓がんの発症には、生活習慣病が大きく関与しているらしい。

過度のアルコール摂取(多量飲酒)は、肝臓に負担をかけ、肝臓の細胞が炎症と再生を繰り返し、これが長期間繰り返されることによって遺伝子の突然変異が起こり、がん化する可能性があるとされる。

肥満は、肝臓がんのリスク要因であり、特に非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が増加しており、肝細胞がんの要因になっていると考えられている。

糖尿病も肝臓がんのリスク要因となるという。肥満や糖尿病などによる脂肪肝も肝臓がんの発症リスク要因となるようだ。

これらの要素は、生活習慣病の予防や管理によって改善可能なものが多いため、生活習慣の改善が肝臓がんの予防につながる可能性があると言える。ただし、これらの要素が全ての肝臓がんの原因ではないこと、またこれらの要素がない人でも肝臓がんを発症する可能性があることを理解しておく必要がある。

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【参考資料】
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターHP
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版

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