はじめに
胆嚢がんの発症には加齢が関与しているらしい。胆嚢がんの発症は、50歳以上の人に起こりやすく、特に70〜80歳代の高齢者に最も多く見られるという。
その理由は、加齢により肝臓の機能が衰え、胆汁の生成量や流量が減少するので胆石が形成されやすくなる。胆石は、胆管内で炎症を引き起こす可能性があり、その慢性的な炎症が胆嚢細胞に変化をもたらし、がん化するリスクを高めると考えられている。
ただし、全ての胆石保有者が胆嚢がんを発症するわけではなく、個々人の健康状態や生活習慣なども影響するため、適切な生活習慣の維持と、定期的な健康診断が重要であると考えられている。
胆嚢がんとは
胆嚢がん(Gallbladder cancer)は、胆管がんと共に胆道がんの一つである。胆道がんそのものがまれながんである(100,000人当たり2.5人)。
胆道は、肝臓でつくられる胆汁を小腸に送る働きをしている。胆嚢に一時的にためられて濃縮された胆汁が、胆嚢管、総胆管を通って十二指腸に送り出され、小腸での脂肪の消化を助ける。胆汁にはビリルビンという黄色の色素が含まれ、これが便に混じって排泄されるので便の色は茶褐色になる。肝外胆管の途中から胆嚢が枝分かれしている。
胆嚢がんは、早期に発見された場合は治癒の可能性があるが、発見が遅れたときの 生存期間の中央値は3カ月である。
男性では胆管がん、女性では胆嚢がんが多いとされ、60~70歳代が好発年齢である。
原因
大きな胆石(3cm以上)のある患者,慢性胆嚢炎により胆嚢に広範な石灰化を来した患者で,より多く発症するのがみられる。ほぼ全ての患者(70~90%)では胆石もみられる。
原因不明の肝外胆道閉塞又は腹部腫瘤がみられる場合は,がんを疑うべきかも知れない。
症状
胆嚢がんは,胆石症による胆道痛を緩和するために施行された胆嚢摘出術で偶然発見されるものから,持続性の疼痛,体重減少,腹部腫瘤,閉塞性黄疸などを伴う進行例まで多岐にわたる。
胆嚢がんは、 早期には症状がないことが多いが、進行した時の最初の症状としては腹痛や腹部違和感、全身倦怠感などが見られる。腫瘍が胆管を閉塞して黄疸を来たすようであれば、皮膚のかゆみ、灰色~白色の便、褐色尿が出現する。同時に感染が起きると、発熱や腹痛が認めらる。
黄疸は、胆管の内部ががんによって狭窄したりつまったりして、黄色の色素であるビリルビンを含む胆汁が血液の中に流れ込むことにより起こる。皮膚や白目が黄色くなったり、尿の色が茶色っぽく濃くなったりするほか、皮膚にかゆみが出ることもある。一方、十二指腸に排出されるビリルビンの量が減るため、便の色が白っぽくなることもある。
検査・診断
胆道がんの診断のためには、まず血液検査と腹部超音波(エコー)検査を行う。胆管の内部が狭窄したり、胆汁がたまった部分が拡張したりしている場合には、CT検査やMRI検査などを行い、がんがあるかどうかやその広がりを調べる。さらに詳しく調べる必要がある場合には、内視鏡を使った検査や生検、細胞診を行うことがある。(図1参照)
胆嚢がんの深達度診断には腹部超音波や超音波内視鏡を用いる。またCT検査、MRI検査、血管造影を行い病変の位置のほか、肝への直接浸潤や肝内転移、肝門部や十二指腸/結腸への浸潤、リンパ節/遠隔転移、腹水の有無を確認する。切除可能と判断されれば腫瘍の進展様式にあわせて術式を決定する。
血液検査 |
血液中のビリルビン(胆汁の色素)やALP、γ-GTP(胆道や肝臓の機能を示す酵素)の量が増加していないかを調べる。胆管の内部が狭窄して胆汁の流れが悪くなるとこれらの数値が上昇する。 |
腫瘍マーカー検査 |
使用する 腫瘍マーカーは、CA19-9やCEAで、血液検査で測定する。この検査だけでがんの有無を確定できるものではなく、がんがあっても腫瘍マーカーの値が上昇しないこともありますし、逆にがんがなくても上昇することもある。 |
腹部超音波(エコー)検査 |
臓器の形や状態、がんの位置や形、周辺の血流の様子などを確認するための検査。胆管の狭窄や胆汁がたまった部分の拡張を確認する。 |
CT検査 |
がんの有無や広がり、胆管が拡張している場所やその程度、リンパ節や他の臓器への転移を確認するための検査。より詳しく調べる場合には、造影剤を使用する。 |
MRI検査 |
がんの有無や広がり、他の臓器への転移を確認するための検査。磁気を使用して体の内部を映し出し、さまざまな角度からの断面を画像にする。がんと正常な組織を区別してはっきりと確認できる。より詳しく調べるために造影剤を使う場合もある。 MRIの技術を使って胆管や胆のうの状態を調べる、磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP:Magnetic Resonance Cholangiopancreatography)という検査を行うことがある。 |
上部消化管内視鏡検査 |
いわゆる胃カメラと呼ばれる検査。十二指腸乳頭に病変がある場合には、内視鏡を口から十二指腸下降部まで入れて観察する。がんが疑われる場合は組織を採取して、生検を行う。 |
超音波内視鏡検査(Endoscopic Ultrasonography ;EUS ) |
腫瘍のある位置やがんかどうか、がんの広がりの範囲を診断するための検査。先端に超音波プローブを付けた内視鏡を口から入れ、胃や十二指腸など体の内側からがんやその周囲の状態を調べる。病変を近い位置から観察できるので、体の表面から行う超音波検査よりも鮮明な画像が得られる。 |
内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査 (Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography; ERCP) |
胆管の狭窄ががんによるものかどうかや、胆管内部のがんの広がり、胆のう管や総肝管への浸潤(がんが周囲に染み出るように広がっていくこと)などを調べる検査。内視鏡を口から入れ、十二指腸乳頭からカテーテルを通し、胆管内に造影剤を注入してX線で撮影する。 |
管腔内超音波検査(Intraductal Ultrasonography; IDUS) |
胆管壁内のがんの深さや広がりを調べる検査。胆管内に細い超音波プローブを通して、胆管内の様子を観察する。ERCPに引き続いて行う。 |
経口胆道鏡検査(Peroral Cholangioscopy; POCS) |
口から胆管内に細い内視鏡カメラを入れて、胆管内でのがんの広がりを直接観察したり、組織を採取して生検を行い正確に診断したりする検査。ERCPと同じ経路を使って行う。 |
PET・PET/CT検査 |
進行がんでの他の臓器への転移などについて確認するための検査。放射性フッ素を付加したブドウ糖(FDG)を注射し、がん細胞に取り込まれるブドウ糖の分布を画像にする。CT検査やMRI検査など他の検査では診断がはっきりしない場合に追加で行われる。PET/CT検査では、PET検査の画像とCT検査の画像を重ね合わせることにより、がん細胞の有無や位置を診断する。 |
生検・細胞診 |
がんかどうか、どのような種類のがんかについての診断をはっきりと決めるために行う検査。がんが疑われる部位から組織や細胞を採取して顕微鏡で調べる。画像検査では判断できない場合や、がんが広がっている範囲を把握するために行う。胆管がんでは、ほとんどの場合、ERCPやPOCSなどの内視鏡を使った検査や胆道ドレナージ(胆管がつまることによってたまった胆汁を通す処置)の際に一緒に行う。また、手術中に行うこともある。 |
治療
胆道がんの治療法には、手術、薬物療法、放射線治療がある。胆道がんでは、がんを取り除くには手術が最も有効と考えられているため、手術ができるかどうかを検討し、手術ができない場合は薬物療法を中心とした治療を行う。胆嚢がんは多くの場合,対症的に治療する。
胆嚢がんの病期(ステージ)
治療法は、がんの進行の程度や体の状態などから検討する。がんの進行の程度は、病期(ステージ)として分類する。病期は、胆嚢がんでは早期から進行するにつれて0期〜Ⅳ期まである(表1参照)。病期は、TNMの3種のカテゴリー(TNM分類)の組み合わせで決める。
Tカテゴリー:がんの大きさや周囲への広がりの程度(図2参照)
Nカテゴリー:領域リンパ節への転移の有無
Mカテゴリー:がんができた場所から離れた臓器やリンパ節への転移の有無
胆嚢がんの治療の選択
治療法は、がんの進行の程度に応じた標準治療を基本とし、患者の体の状態、年齢、患者本人の希望なども含めて総合的に検討し、決定する。 標準治療が図3に示されている。
(1)手術ができるかどうかについて
胆道がんでは、手術ができるかを判断するとき、一般的に次のような点を考慮する。
- 手術に耐えられる体の状態であること
- 遠隔転移がないこと
- 肝臓の切除が必要な場合は、手術後の肝臓の機能が十分あると予測できること
遠隔転移がなくても、最初にがんができた場所や周囲への広がりなどの状態によっては、手術で切除することが技術的に難しいこともある。このような場合、手術ができるかどうかの判断が、施設ごと、医師ごとに異なることもある。診断や治療選択などについて、違う医療機関の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞いてみることも必要かも知れない。
胆嚢がんに対する手術術式は、進行度によって大きく異なる。 がんが胆嚢内部にとどまっている場合には、胆嚢の摘出手術を行う(図4参照)。がんが胆嚢の周囲まで広がっている場合には、その広がりに応じて、肝臓、胆管、膵臓、大腸、十二指腸、リンパ節など周りの臓器の切除が必要になる。腫瘍の主座や肝浸潤、胆管浸潤の形式によって肝切除や肝外胆管切除、リンパ節郭清を追加することが必要となる。進行胆嚢がんにおいて、多く施行される術式は拡大胆嚢摘出術であり、これは胆嚢を含めて隣接する肝臓の一部とリンパ節を一緒に切除する方法である。胆嚢がんが肝臓に広範囲に浸潤している場合は、肝臓の右葉を切除する必要が生じ、また総胆管にがん浸潤が認められる場合は、肝外胆管切除が必要となる場合もある。膵頭部や十二指腸に強い浸潤を認める場合は、膵頭十二指腸切除が施行される場合もある。
(2)手術ができない場合の治療
手術ができない場合には薬物療法を行う。遠隔転移がない場合には放射線治療を検討することもある。痛みや症状の緩和などを目的として、薬物療法や放射線治療を行う場合もある。
手術(外科治療) |
がんの広がりや大きさに応じて、安全で、できるだけ完全にがんを取りきることのできる方法を検討する。胆道がんの手術は、ごく早期の場合を除いて切除範囲が大きくなることが多く、体への負担も大きくなりがちである。手術を検討する場合には、その手術でどのようなメリットがあり、どの程度のリスクがあるのか、担当医によく確認することが重要となる。 |
薬物療法 |
がんの進行をできるだけ抑えることを目的として、薬物療法を行うことがある。体内に入った薬は全身をめぐるので、転移したがんや、画像検査では確認できない小さながんに対する効果も期待できる。 |
放射線治療 |
胆道がんの手術では、肉眼的には取りきれていても、顕微鏡で確認するとがん細胞が残っていたり、完全に取りきれているように見えても同じ場所から再発したりしてしまうことがある。このため、切除面にがん細胞が残っていたり、リンパ節への転移があったりした場合には、手術の後に、放射線治療や放射線治療と薬物療法を併用した化学放射線療法を補助療法として行うこともある。しかし、その効果は現時点では十分に証明されておらず、標準治療ではない。また、手術ができないがんで、遠隔転移がない場合には、がんの進行を遅らせたり、内ろう(胆道ステント)がふさがってしまうのを防いだり、痛みを和らげたりすることなどを目的として放射線治療を行う場合がある。しかし、この効果も現時点では十分に証明されておらず、いずれの場合も標準治療ではない。 |
緩和ケア/支持療法 |
緩和ケアは、がんに伴う心と体、社会的なつらさを和らげる。がんと診断されたときから始まり、がんの治療とともに、つらさを感じるときはいつでも受けることができる。支持療法とは、がんそのものによる症状やがんの治療に伴う副作用・合併症・後遺症を軽くするための予防、治療およびケアのことを指す。 |
リハビリテーション |
一般的に、治療中や治療終了後は体を動かす機会が減り、身体機能が低下する。そこで、医師の指示の下、筋力トレーニングや有酸素運動、日常の身体活動などをリハビリテーションとして行うことが大切だと考えられている。 |
薬物療法に用いる治療薬
手術によってがんを取りきることが難しい場合や、がんが再発した場合に、薬物療法を行う。薬物療法だけでがんを完全に治すことは困難であるが、がんの進行を抑えることにより、生存期間を延長したり、症状を和らげたりできることがわかっている。
GC療法 |
ゲムシタビン(ジェムザール®) とシスプラチンを併用 |
GS療法 |
ゲムシタビン(ジェムザール®) と テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS1®)を併用 |
GCS療法 |
ゲムシタビン(ジェムザール®)、シスプラチン、 テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS1®)を併用 |
予防
胆嚢がんの予防策としては、下記のような対策が知られている。これらの対策を実践することで、胆嚢がんのリスクを低減させることができるとされ、推奨されている。
- 肝炎ウィルスの感染予防
- B型肝炎ウィルスに対するワクチンの接種
- 生活習慣病の予防
- 肥満
- 糖尿病
- 脂肪肝
- 生活習慣の改善
- 禁煙
- 節度のある飲酒
- バランスの良い食事
- 適切な運動
- 適正な体重の維持
- 感染症の予防
- 定期的な健康診断
- 胆石の有無
- 胆のうに異常
- がんの発症の有無
あとがき
胆嚢がんは、生活習慣病には数えられていないが、生活習慣の乱れが胆嚢がんの発症に影響を及ぼす可能性が指摘されている。例えば、肥満や糖尿病などの生活習慣病や運動不足などの生活習慣は、胆嚢がんのリスクを高める可能性がある。したがって、健康的な生活習慣の維持は、胆嚢がんの予防に役立つと考えてよい。
【参考資料】
国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターHP |
KOMPAS 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト |
MSDマニュアル 家庭版・プロフェッショナル版 |